第6節 海洋法に関する国際連合条約
1.概況
82年4月に採択された国連海洋法条約の原署名国となるための署名開放期限は84年12月9日到来した。国連の発表によれば,同期限満了時の署名数(地域及び国際機関を含む)は159である。しかし,同条約の規定する深海底鉱物資源の開発制度には問題があるとして条約に参加しないとの態度をかねてより明らかにしている米国に加えて,英国,西独という主要国もこの期限内には条約に署名しないとの決定を行った。署名開放期間中に署名しなかったこれらの国々が条約に参加する場合は,加入手続きによることとなる。
条約の発効に備えて,83年春以降,準備作業を進めている「国際海底機構及び国際海洋法裁判所のための準備委員会」は,84年春の第2会期から実質的事項についての審議を開始し,国際海底機構の総会の手続規則,国際海洋法裁判所の規則,先行投資保護決議に基づく鉱区の登録手続規則につき審議した。我が国としては,準備委員会におけるこれらの問題の審議を通じて,条約が先進国を含む国際社会全体に受け入れられるものとなるよう今後とも一層の努力を行っていく必要がある。
なお,条約は60番目の批准書または加入書が寄託された後1年で発効することになっているところ,85年3月末現在の批准数は15である。我が国は,83年2月に条約に署名したが,批准については,先進国,開発途上国双方を含む他の諸国及び準備委員会の動向等を見極めつつ最終的立場を決定することとしている。
2.準備委員会の活動
準備委員会第2会期は3月19日から4月13日までキングストン(ジャマイカ)で,また,非公式会合(夏会期)が8月13日から9月5日までジュネーヴで各々開催された。本会議では,国際海底機構の総会の手続規則,先行投資保護決議の実施に関連ある先行投資者の鉱区の登録手続規則が審議され,また,4つの特別委員会では,陸上生産国問題,エンタープライズの設立問題,深海底開発規則,国際海洋法裁判所規則が各々審議された。このうち,特に,先行投資保護決議を実施するために必要となる鉱区の登録手続規則の作成過程において,鉱区の重複がある場合には,実際問題として登録が不可能であることから,鉱区の重複の有無を確認すること及び重複がある場合にはこれを調整しておくことの必要性が痛感された。このため84年夏の準備委員会においてワリオバ準備委員会議長(タンザニアの法務大臣)は条約に署名し,かつ準備委員会に鉱区登録申請を行った日本,フランス,ソ連,インドの4か国を含む関係当事国を中心に協議を行った。この結果,(1)84年12月17日に鉱区座標の交換を行い,その結果,鉱区の重複がある場合には,85年3月4日までにその調整交渉を終了させる,及び(2)その結果を85年3月8日までに準備委員会議長に報告することを骨子とする了解が成立した。
この了解に基づき,日本,フランス,ソ連,インドの4か国は84年12月ジュネーヴで,鉱区座標を交換した。この結果,日ソ間及び仏ソ間で鉱区の重複が判明したため,日仏ソ3か国はパリ(85年1月11日~16日),東京(同2月1日~6日),及びモスクワ(同2月22日~28日)において,鉱区の重複解決を目的とする交渉をした。同交渉の結果,日ソ間の重複は暫定的に解決を見たものの,仏ソ間の重複については,重複が大きく,公正な分割によって重複を解決するとそれぞれの鉱区が商業的に成り立たなくなるとして解決できず,その旨準備委員会議長に報告された。85年3月11日からジャマイカで開催された準備委員会第3会期において上記報告に基づきワリオバ準備委員会議長を中心にその善後策の検討が開始された。
3.その他
84年8月3日これまで先行投資活動を行ってきた8か国(条約署名国たる日本,フランス,オランダ,ベルギー,イタリア及び非署名国たる米国,英国,西独)の間で「深海底問題に関する暫定的了解」が署名された。この暫定的了解は,署名8か国の6つの民間事業主体が83年12月に行った鉱区の重複の調整結果を政府間で担保することを目的とする取極である。この取極は我が国にとっては先行投資保護決議を実施する上で必要な鉱区調整の一環をなすものである。我が国はこれをうけて,84年8月準備委員会に鉱区の登録申請を行った。