第1節 総論
我が国は前述(第1部第3章第4節「経済協力活動」参照)のとおり,経済協力は我が国の国際的責務であると同時に我が国の国益に資するものであるとの基本的考え方に立って,開発途上国の経済,社会開発,民生の安定,福祉の向上のための自助努力を支援してきており,84年においても,経済協力の積極的拡充に努めた。
1.政府開発援助(ODA)
(1)84年ODA実績概観
84年のODA実績は43億1,900万ドルで対前年比14.8%増となり,83年(対82年比24.4%増)に引続いて順調な増加を記録した。また,円ベースでも前年の8,933億円から1兆258億円に増加し,初めて1兆円の大台に達した。この結果,対GNP比も83年の0.32%から0.35%と過去最高の水準に達し(これまでは80年及び83年の0.32%が最高),DAC諸国平均(84年0.36%)に近づいた。また,DAC17か国中のODA量の順位もフランスを抜いて第2位に上昇した。
(2)協力形態別実績
(イ)国際機関への出資・拠出など国際機関向けODAについては,83年の13億3,600万ドルから18億9,100万ドルとなり.対前年比41.6%の大幅な増加を記録した。二国間ODAが対前年比0.1%増とほぼ横ばいであったため,ODAに占める国際機関向けODAのシェアーも83年の35.5%から43.8%に拡大し,過去最高を記録した。この内訳を見ると,国連諸機関及びその他の国際機関に対する贈与が対前年比15.7%減の2億5,700万ドルとなったのに対し,国際開発金融機関への出資・拠出は国際開発協会(IDA)への出資の大幅増(83年の1,541億円から84年は2,655億円に増加)もあって,前年の10億3,500万ドルから16億3,800万ドルに増加し,58.3%の伸びとなった。
(ロ)二国間ODAの中では.技術協力が83年の4億5,800万ドルから84年には5億2,100万ドルと13.6%の増加を記録したのに対し,無償資金協力は5億4,300万円で対前年比1.5%の増加に留まり,また,二国間ODAの2分の1強を占める二国間貸付は,米の延払い輸出が我が国余剰米処理計画の終了に伴い83年度をもって終了したこともあって,13億6,300万ドルと4.8%の減少となった。
(3)ODAの質
84年におけるODA約束額の贈与比率および統合グラント・エレメントは,同年中のODA約束額のうちで国際機関向けODAが減少したこと等のため,83年の55.2%及び79.5%からそれぞれ46.2%及び74.2%へと低下した。
(4)地域別実績
二国間ODAの地理的配分については,84年にはアジア地域65.7%(83年66.5%),中近東地域10.3%(同8.3%),アフリカ地域8.7%(同10.8%),中南米地域9.4%(同9.9%)となり,二国間ODAの約7割がアジア地域に,残りが他の3地域に概ね均等に供与されるとの近年の傾向に大きな変動は見られなかった。
(5)85年度ODA予算
85年度予算については,一般歳出が前年度比横ばい(0.0%減)という厳しい財政事情にもかかわらず,中期目標の下で特段の配慮が払われ,一般会計分では対前年度比10.0%増の5,810億円の予算が認められた。この結果,中期目標達成のための手段の一つであるODA一般会計予算の倍増については,目標額(81~85年度の累計で2兆4,888億円)に対し5年間の累計が2兆4,307億円となり,達成率は98%とほぼ目標を達成することができた。
85年度における外務省所管のODA一般会計予算は前年度の2,512億円に比し9.5%増の2,751億円が計上され,ODAの質及び量の全般的拡充に加えて,(イ)基礎生活援助及び人造り援助の拡充,(ロ)貧困国,特に後発開発途上国(LLDC)に対する援助の強化,及び(ハ)民間との連携強化を含む経済協力実施体制の強化等を中心に経済協力の拡充を図ることとなった。
(6)対アフリカ援助
我が国は,アフリカ諸国の深刻な食糧不足とこの問題に対する世界的及び国内的な関心の高まりを踏まえ,10月末までに約1億1,500万ドルの食糧関係援助の供与を決定した。さらに,11月の安倍外務大臣のアフリカ諸国訪問の際には,総額5,000万ドルの追加的な食糧・農業関係援助の供与を表明し,85年3月までにその実施を決定した。
また,85年度においても,我が国は緊急性の高い食糧援助及び食糧の貯蔵・輸送に対する援助に加え,アフリカの農業開発,食糧増産体制確立に資する協力を実施するため,二国間贈与(無償資金協力と技術協力)として対前年度比80億円増の総額約600億円を目指し,また,円借款についても1億ドルを目途に弾力的に対応することとした。
(7)効果的・効率的援助の推進
我が国の経済協力は総合的に見れば,それぞれ所期の目的に沿って実施され,開発途上国から高い評価を得ているが,現下の厳しい財政事情の下で経済協力の拡充を図るに当たっては一層効果的・効率的な実施が求められており,特に84年度にはアフリカの飢餓を契機として援助に対する国民的関心が盛り上がったことを背景に,国会,政党,経済団体,マス・メディア等において,効果的・効率的援助の実施を中心に経済協力に関わる諸問題が頻繁に取り上げられた。
効果的・効率的援助の実施には,まず相手国の真のニーズ(必要性)を把握するとともに優良な案件を選定することが重要であり,このため,我が国は年次協議等を通ずる開発途上国との「政策対話」の強化,各種事前調査の拡充等に努めているまた,先進国との間でも援助に関する情報と経験を交換するため,世銀,DAC等マルチの場での協議に加え,二国間での政策対話を進めており,84年度においては西独,英国,EC委員会との間で援助政策に関する協議を開催した(米国との間では85年4月に開催)。
さらに,我が国は援助の実施後,援助が当初の目的に照らして効果を挙げているかを確認し,必要があれば改善措置をとるとともに,得られた教訓を将来の援助に活用していくことを目的として援助評価を実施しており,外務省においては,85年3月,83及び84年に続いて「経済協力評価報告書」を公表した。このほか,民間において援助に従事している非政府団体(NGO)については,草の根にまで達するきめの細かい協力を行い得るなどの特質があるところがら,我が国としてもNGOとの連携・協力の強化に努めているなお,外務省においては,ODAの効果的・効率的実施をはじめとしてODAに係る諸問題の検討の参考とするため.外務大臣のもとに各界有識者から成る「ODA実施効率化研究会(略称ODA研究会)」を85年4月に発足させた。
2.その他政府資金及び民間資金の流れ
83年のその他政府資金及び民間資金の流れは,合計(非営利団体による贈与を含む)で49億200万ドルと82年の58億6,500万ドルから16.4%の減少となった。
これを形態別に見ると,輸出信用は82年の9億1,300万ドルの受取超から15億9,700万ドルの受取超となり,また直接投資等は24億5.800万ドルから18億7,400万ドルヘと減少した。市中銀行による対外貸付は24億500万ドルから17億3,300万ドルに,証券投資は3億9.400万ドルから6億600万ドルになり,国際機関に対する融資等は14億9,800万ドルから22億5,600万ドルに増加した。