第6節 諸外国との相互理解の増進
戦後40年間で日本を巡る内外の情勢は大きく変化している。我が国は,戦後の急速な経済復興を経て今や自由民主主義諸国の中で米国に次ぐ経済規模を有するに至り,国際政治経済分野で我が国の動向が与える影響,そしてそれに伴って我が国の果たすべき責任は近年格段に大きくなってきている。このような状況を背景として,諸外国の我が国に対する期待と関心もかつてないほどの高まりを見せている。
しかし,他方でいまだ相互理解の不足に基づく誤解や相互不信が国際社会において,たとえば欧米との経済摩擦に見られる如く国家間の摩擦を生じていることも否定し得ないところであり,我が国としても諸外国との相互理解を増進するために文化交流や広報活動を従来にも増して一層積極的に推進していく必要がある。
1.文化交流
まず文化交流の分野で戦後40年を回顧して見ると,最も重要なできごとは国際交流基金の発足であろう。60年代から70年代初めにかけての我が国経済の急速な発展と日本製品の世界への進出は一方において日本の文化や社会的背景に対する関心を高めたが,他方においては我が国に対する批判を生んだ。このような事態を背景として,外務省は政府ベースの文化交流の質を高め,量を飛躍的に増大すべく,「我が国に対する諸外国の理解を深め,国際文化交流事業を効率的に行うこと」等を目的とし,72年に外務省所管の特殊法人として国際交流基金を設立した。
同基金への政府出資金は現在約484億円に達しており,事業規模は85年度で約51億円に上っている。同基金は人物交流,海外への日本文化紹介,日本研究助成,日本語普及など多彩な事業を行っているが,中でも近年特に注目されるのは,81年から82年にかけてロンドンで開催された「江戸大美術展」をはじめとする海外での大型の日本総合紹介行事の主催及び協力,並びに日本語学習熱の高まりに対応する日本語普及事業の拡充である。
また,我が国には現在アジア諸国をはじめ全世界から約1万2,000人の留学生が学んでいる。これらの留学生が我が国とそれぞれの母国との友好関係強化のためのかけ橋になるとの観点から,受け入れ規模を21世紀初頭までに欧米諸国並みの10万人にすることを目標に諸方策が関係各庁により検討されている。一般青年の交流も,官民各レベルで近年活発化してきており,外務省は,欧州,アジア,中南米各地域より青少年を招へいしているほか,米国との交流プログラムに対しても援助を与えている。
開発途上諸国との文化交流については,これらの国々の文化の発展のために協力するという文化協力の形をとって行われることが多い。外務省はこのための重要な政策手段として75年から文化財・遺跡の保存,文化,芸術,スポーツ等の振興,教育の普及などを目的とする資機材供与のための資金を贈与する文化無償協力を行っているが,この予算は年々増加し,84年度には18億円に達している。
このほか,文化交流を推進する法的枠組を整備するため,53年の日仏文化協定の締結をはじめとし,84年の日・ペルー文化協定まで33か国との間に文化協定及び文化取極を締結した。更に,これらの協定等に基づき,文化混合委員会・文化協議を,米国との間の日米文化教育交流会議を含め,現在までに16か国との間で行っている。
国際相互理解の維持・増進が,我が国の存在と繁栄にとり不可欠の条件であり,また海外での対日関心が増大していることにかんがみれば,今後文化交流を一層推進する必要がある。なかでも,近年,民間及び地方自治体の行う文化交流活動が増加している折から,これらとの連携を強化して我が国全体としての文化交流活動を拡充することが今後の重要な課題の一つである。
2.広報活動
他方内外の広報活動についても,文化交流と同様,戦後40年間で日本の国際的な役割が大きなものになったことに伴い,その重要性はますます高まっている。
諸外国との良好な関係を促進し,世界の平和と繁栄に寄与することを国是とする我が国にとって,今や世界の動きを正しく認識するため正確な情報を得ることのみならず,我が国の実情及び外交政策を諸外国に正しく伝えることにより我が国に対する理解を一層深めることの重要性が飛躍的に高まってきていることは論をまたない。このような認識の下,外務省としては,民間・地方自治体とも協力しつつ,各種手段による海外広報活動を通じて,諸外国の我が国に関する正しい認識を増進し,相互理解を一層深める努力を重ねている。
外務省は,海外広報活動を推進するに当たり,昨今の欧米諸国との経済摩擦に十分留意し,我が国の対外経済政策その背景にある我が国経済社会の実情などを諸外国の世論指導者層,マスコミ関係者を主たる対象に機会をとらえて,かつ,講演会,シンポジウム,日本招へい等々各種手段を通じて説明,説得することに努めている。また,一方では,主に一般の人々を中心に,各種広報資料,広報映画会などを通じ現代の日本及び日本人をバランスよく理解してもらう努力を払っている。
さらに,戦後40年間で日本自身の国際化も著しく進んだと言えよう。例えば,海外渡航者数は,56年の2.5万人から約465万人へ,外国人入国者は,51年の2.4万人から約203万人へ,また,55年に初めて結ばれた姉妹都市提携も今日では520組を超えるに至っている。これらが如実に示しているように国際化の波はまさに日常生活の隅々にまで及んでおり,国民一人一人が国際社会との言わば接点となっていると言っても過言ではない。
このような状況の下では国民が日本の置かれた地位を正しく認識することが一層大切になってきているが,そのためにも外務省として国際情勢並びに我が国の外交政策に対する幅広い国民の理解の増進を目指すとともに,民間,地方自治体と密接に連携し,国民レベルで行われる国際交流活動に対して積極的な協力・支援を行う国内広報活動はますます重要になってきている。