(23)レーガン米大統領一般教書(要旨)
(84年1月25日,ワシントン)
1.序:アメリカはよみがえる
(1)私は,ここに米国が確実に回復してきており,今後も引き続き回復を続けていきそうであることを報告する。考えの違いはあっても,超党派の協力により,我が国の精神をむしばみ,富を侵食してきた長い衰退を止めることが出来た。アメリカはよみがえったのである。
(2)「大きな政府」は,アメリカ人の夢の一つではない。1970年代は問題が多く不信の時代であった。政府に対する不信感が存在し,インフレや重税が勤労,節約,及びリスク負担に対する対価を減ぜしめた。さらに法や規則による規制がその上に追加された。国際的にみると,我々は友人や敵からの尊敬を勝ちえていないとの感じをいだくようになっており,一部の者は,我々が平和と自由を守る意志を有しているかにつき疑問を呈した。
(3)しかし,アメリカは小さな夢を追うにはあまりにも偉大である。我々はともに国内においても,海外においても自信をもって将来を目ざそうではないか。不公平税の増加やインフレの進行に悩む何百万という若い世帯や老人層にとり今夜希望が生れた。インフレは克服され12.4%から3.2%となった。プライム・レートも約半分になり,我々はさらに引下げの努力をせねばならない。
(4)我々はともにケネディー政権下の減税以来初めての減税法案を通過させた。現在年収25,000ドルの家庭の購買力は1980年に比べて1,100ドル上昇した。課税後の収入は前年に比べ5%上昇した。
また,運輸業の如き基幹産業に対する経済面での規制解除はコストを下げ,安全を守りつつ消費者により選択のチャンスを与え,企業家にも新しいチャンスを与えてきている。
(5)企業家精神は,今脚光をあびているハイテク産業ばかりでなく,大きな構想をもつ小企業主の人々によって発揮されている。例えばゲットーから這い上り,広告業で億万長者となったバーバラ・プロクター,わずか27ドルでスタートし輸入業者として成功したキューバ難民のカルロス・ペレス等の名が挙げられる。
1983年にはこれらの英雄達が400万の米国人に仕事を与えたのである。また同年は,管理職や技術職の分野の新しく創り出された仕事の内の73%を婦人が占めたのである。アメリカは健全である。我々は信義,家族,労働,隣人,平和及び自由の根本的な価値へ再び貢献したい。
(6)議会は,我が軍隊の誇りと信頼の回復に寄与した。あなた方は私と同様に自由を守るため身を挺している若き男女の兵士達を誇りにしていると信ずる。人々はどこにいても平和とより良き生活を求めている。民主主義のための闘いは決して否定されない。アメリカは平和,民主主義,個人の尊厳を第1に擁護する国家である。F.ルーズヴェルト大統領は50年前のこの月に次の如く語っている。文明はあともどりは出来ない。立ち止まるととも出来ない。我々は,新しい手段に着手した。必要なときに完成し,改善し,変更する。しかし,いかなる場合でも前進するのが我々の役割なのである。
2.自由への歩み,四つの目標
米国を自由で安全そして平和な80年代とするため次の4大目標の下に団結しよう。
(1)安定的経済成長の確保
(2)新しいフロンティアの開拓
(3)伝統的価値の強化
(4)意味のある平和の構築
(1)安定的経済成長の確保
ダイナミックな10年への鍵は活力ある経済成長であり,これは第1の目標である。我々は,歳入以上の政府支出を行うべきでないといった共通の意識から始めなければならない。我々は,連邦財政支出を削減しなければならない。我々はブッシュ副大統領のリーダーシップの下に政府規制緩和,政府のペーパーワークの削減等節約に努めており,これらを通じて今後10年間に1,500億ドル以上の公費を節約することになろう。またグレース委員会は無駄な支出を削減するため2,500の勧告を行っている。
さらに歳出伸率が80年度の17.4%から現在はそれが半分以下におさえられた他,我々は82~86年の間に3,000億ドル以上の予算節約を達成することになろう。しかし,政府の支出は,まだあまりにも大きな比率を占めている。
ある人々は,予算節約は国防費比率の削減を通して行うべきであると主張している。しかし,これは,国家の防衛は専ら連邦政府の責任であるといった事実を無視したものである。まだ国防予算は全体予算の3分の1以下である。ケネディ政権及びそれ以前には,国防費は全体予算のほぼ半分であった。我々は,在来及び戦略兵器の近代化を通じ現在及び将来の安全確保のための能力を回復しつつある。我々は,米国を自由で安全かつ平和なものとする責任からのがれるべきではない。
過去10年間に国内歳出は文字通りコントロールできない状態となった。このような支出過剰のパターンは以前からのものである。我々は,現在財政赤字が心配の種となっていることを知っている。財政問題に関し,増税を行うべきか,歳出削減を行うべきか等意思の相違がみられる。政府の借入増や増税は民間部門からの資金をそれだけ吸収するものであり,また,消費支出に苦しんでいる一般家庭に対し増税すべきではない。問題の根は,政府支出の割合が我々が堪えられるもの以上に大きくなっていることである。
我々は,経済成長の持続を確保するため財政赤字を削減させなければならない。私は2月1日の予算教書において今後5年間にわたる財政赤字削減措置を勧告する。
私は,今日,オニール下院議長とベーカー上院院内総務に対し,行政府とともに超党派の財政赤字削減計画の合意を求めていくため,議会の代表者を指名するよう求めた。そして,私は,まず当面の赤字縮小を目的とするいわば「頭金(DOWN-PAYMENT)」対策での合意を提案した。私は,そのような合意のための基礎はできており,今後3カ年間に約1,000億ドルの財政赤字幅の削減が可能であると信じる。我々は,また財政赤字幅削減のため,税の抜け穴の防止策及びグレース委員会提言に基づく歳出削減策をとることもできよう。しかし,「頭金(DOWN-PAYMENT)」対策だけでは十分ではなく,歳出増削減のための構造的な改革を行うよう提案する。現在50州のうち43州までが州知事に対し,歳出法案中の個別項目に対する拒否権を認めている。私は,かつて,カリフォルニア州知事として,この個別項目の拒否権発動は,無駄で過度な支出を抑える上で有力な道具となることを知った。
かかる拒否権を認めるための憲法修正は,歳出削減のため最も有効なものとなろう。大多数の米国民は,財政均衡のための憲法修正案とともに本件修正案を支持している。
増税によって現在の状況に対処しようとするのは一時しのぎの対策にすぎず,また景気回復を阻害するものである。税の公正化,簡素化をはかり,また景気を刺激するため歴史的な税改革を行おう。私は,財務長官に対し,税コード全般の簡素化をはかるとともに全ての納税者がより公平に扱われるようにするための計画を命じている。かかる措置は地下経済の摘発,課税標準の拡大による所得税率の軽減を目的とするものとなろうし,同長官に対し,84年12月までに本件計画についての勧告を行うよう求めている。
(2)新しいフロンティアの開発
(イ)アメリカの偉大な目標の第2は,開拓者魂を発揮して,次のフロンティアを開拓することである。そして,それは宇宙空間にほかならない。知識の新しい分野に踏み込み,未知の世界の深奥に達することで,人間の可能性と就業の機会は増大する。宇宙開発の分野では,政府,産業界,学界が一つとなって,アメリカが最も秀れている。今夕,私はNASAに人が常住する宇宙基地を10年以内に開発するよう指示する。宇宙基地は,科学,通信及び宇宙空間でのみ合成可能な金属,救命薬の分野に飛躍的発展をもたらすであろう。アメリカは友好国でこの挑戦に助力をし,利益を分ち合うことを欲し,NASAはこの計画に参加する国を招致することとなる。
運輸省は,宇宙船を打ち上げて宇宙空間の商業航行を目指す私企業を,各種優遇措置,諸規制緩和,NASAとの共同による投資促進により援助する。
(ロ)地球の資源保存
宇宙のフロンティア開拓と同時に,地球の資源保存の責任を忘れてはならない。財政逼迫の中で私は,EPA(環境保護庁)のために,どの政府機関よりも大幅な予算の増額を要求した。チェサピーク湾の浄化,有害廃棄物対策費の5,000万ドル追加(本年度予算1億4,000万ドル),1985年に失効するスーパーファンド法の延長,酸性雨対策費の倍増と新技術の開発等が主なものである。
政府は,1985年を初年度とし,新しい公園及び環境保護地区取得のため1億5,700万ドルを議会に要請することとなろう。また,内務省は,アメリカ沿岸200マイルの経済水域において,慎重に選択の上資源の開発を奨励するが,環境保護法令及び州,一般市民の関与を尊重する。
(3)伝統的価値の強化
アメリカ人,特に子弟が,アメリカ社会共通の価値観を強化しつつ,明日(のアメリカ)を築き上げて行くことを助ける一これがアメリカの偉大な目標の第3である。
1960年から80年にかけて連邦政府の教育関係支出が6倍となったが,アチーブメント・テスト(SAT)の得点は低下を続けた。子供の能力を引出すのは,政府の仕事ではなく各家庭および近隣の学校に始まるのであり,すなわち,両親と教師の責任であり,また子供にとっては権利である。
以上のような考えから,私は超党派の全米教育改良委員会を設置し,既に多くの地区で同委員会の勧告が実行に移されており,数学及び読解力が良くなったとの報告が寄せられている。しかし,教育の原点に戻るためには,新しい基礎課程を普及し,教師の努力に報いる待遇で臨み,教科内容の高度化を実施し,親が責任を持つようにすべきである。
授業料控除を広げるため教育税を支払い,かつ,私立学校の授業料をも払っている人の負担を軽減する方針であり,低・中所得層を目標としている。
アメリカは,神を信ずる人々によっ建国されてたにも拘わらず,全国の学校が神を認める自由を持たないのは何故であろうか。
私の施政の3カ年にわたり,胎児を保護する法を復興すべく超党派で努力してきた。胎児が人間でないという証明がなされない限り,また,そういう証明はあり得ないが,堕胎の悲劇をなくす努力をしなければならない。
本年,政府は,アメリカの家庭が気にかけている犯罪のうちでも,性犯罪および家庭内暴力対策に努力を傾注する。1982年には,犯罪率が4.3%低下したが,これは1972年以来最大の低下率である。
すべてのアメリカ人に機会均等がもたらされるには,公平に住居を求めうること,職場における女性の権利を保証すること,社会保障で衡平に扱われること,児童保護が容易なこと,経済的に逼迫している親に補助することについて一歩前進することにより,事態はもっと良くなるだろう。
エンタープライズ・ゾーン援助計画は,2年間棚ざらしとなっているが,失業率の高い地域に職をもたらし,地域の連帯を回復させるものであるので,是非成立させて欲しい。
(4)意味のある平和の構築
(イ)永続的な意味のある平和こそ,我々の第4の目標であり,最高の抱負である。米国民はそうしなければならない時だけ力に頼るが,侵略者になったことはなかった。我々は常に自由と民主主義を守るために闘っていた。
我々には領土的野心はなく,他国を占拠するようなこともない。国民を閉じとめる壁も築かない。米国民は未来を築く。(世界中の)農民や商人そして働く人々のより良い生活に対する我々のヴィジョンは,未来は銃弾によってではなく,投票によって決まるという単純な前提に基づいている。
(民主主義の価値に言及の後)米国が強力で,自由で,かつ平和であり続けるには,共和党も民主党もない。愛国的米国民あるのみである。
我々は,平和のために,以下の通りのアジェンダを推進することができる。
(a)平和は対ソ関係に向けての,より安定した基盤づくり
(b)同盟関係の強化
(c)核兵器の現実的かつ公平な削減
(d)中東,中米及び南部アフリカにおける和平努力推進
(e)開発途上国(特に西半球)に対する援助
(f)世界中での民主制度の発展に対する支援
(ロ)スコークロフト委員会では,超党派協力の英知が示されたが,同様の精神で,中米に関する超党派委員会の勧告(ジャクソン・プラン)の実施を促すものである。
(ハ)レバノンの多国籍軍駐留に関する議会決議は,平和の希求に貢献している。
米国の努力は実りつつある。多国籍軍と我が海兵隊は,絶望のくり返しを打ち破る上で,レバノンの人々に手を貸している。自由で,独立した主権国家が生まれる望みがある。平和に機会を与える勇気が必要ででる。国家の支援を受けたテロに屈してはならない。(ベイルート,クウェイト,ラングーンのテロに言及の上)自分は,近くテロとの戦いについて法案を提出するつもりである。
また,すべての同盟国に対し,協調して行動するための支持を要請する。
(ニ)NATOとの同盟関係は強固である。1983年は,政治的勇気にとって特筆すべき年であった。我々は,また極東とのパートナーシップと友好関係を強化した。我々は,対話,抑止力及び繁栄の推進をコミットしている。我々は,貿易相手諸国とともに,より自由な世界貿易,一層の競争,そしてさらに自由な市場を実現するための新ラウンド交渉を目ざす方針である。
(ホ)超党派的協力,経済成長,軍事抑止力及び米国民間の,また同盟国との結束強化により,84年の米国は,これまで以上に安全かつ強固である。今や我々は平和の機会をつかむことができる。
(ヘ)ソ連国民に呼びかけたい。両国政府間に深刻な相違があるのは事実だが,両国民が戦火を交えたことはない。核戦争に勝者はなく,核戦争は,絶対に行ってはならない。使用しないがために核兵器を保有するより,すべてをなくすべきではないか。
米国民は,平和な人々である。貴国(ソ連)の政府が平和を望みさえすれば,平和は実現する。我々の子孫のため相携えてより安全で,より良い世界を目ざすことも可能である。
3.米国の英雄達
(以下「米国の英雄-米国のヴィジョンの項で,グレナダ上陸の際負傷者救出に当たった衛生兵等の勇気を称讃の後)我々は,暗やみに明りを,冷所に暖かさを,病いに良薬を,飢餓に食糧を,そして流血に平和をもたらした善良な人々の伝統を遂行していくつもりである。