(21)キト宣言(ラ米諸国経済会議において採択)

(84年1月13日,キト)

ラ米諸国の元首並びに首相,又は右のそれぞれの代理は,1984年1月12日,13日にキト市に会合し,同地域各国政府の賛同と熱烈な支持のもとにオスバルド・ウルタード=エクアドル大統領のイニシアティヴにより招集されたラ米経済会議において,ラ米地域に深刻な影響を投げかけている経済危機に対する同地域の対応ぶりを決定するためにサント・ドミンゴ宣言に盛られた事項に従って,次のとおり合意する。

キト宣言

1.我々は,我々国民の兄弟としての絆及び連帯を再確認するとともに,民主主義の原則の枠内で生きることを再確認する。我々は,経済的差別措置,又は政治的理由による抑圧的措置を拒否し,更に,外国からの抑圧,脅威,攻撃のない環境の中での人権尊重の履行並びに発展による利益を全ての人民に施すことを保証しつつ,我々は各国それぞれの多様性の中での統一及び平和で自由な,また,外国からの如何なる干渉もない情況の中で,経済,社会,政治分野にわたって各国がそれぞれの道を歩むことを可能ならしめるラ米諸国各国の主権に対する尊重を主張する。

2.国際紛争の解決に際して,武力による脅迫,又はその行使に訴えることを断固として排除するという我々のコミットメントを繰り返す。

我々の軍縮の呼びかけをここで強調する。

軍縮によって,軍拡及び軍備に費消されていた資源を全世界の国民の発展を強化する目的のために使用することが可能となる。

平和の問題と発展の問題は本質的に結びついている。なぜならば,平和なくして発展はあり得ず,又,発展のないもとでの平和には常に不安定性が伴う。

3.国際関係を支配し,すでに地球上の多くの地域を巻き込んでいる緊張の再燃,それは世界平和に対する深刻な脅威となっており,これに対する我々の憂慮の念を表明する。

我々は,ラ米地域は平和地域であることを確信しつつ,ラ米諸国が自身に関係のない対立の場になることを拒否し,ラ米地域の問題はラ米地域内で解決されるべき,また,解決し得るものであると確信する。

4.我々はラ米域地において最近劇的に示されている干渉主義を拒否し,中米問題の交渉による解決を見い出す必要性を確信する。中米問題の起源は,広く同地域に存在する経済,社会,政治条件にあり,その解決のために,我々すべては,コンタドーラ・グループに対し全面的に政治的支援を行う。

更に,我々は,中米諸国は,現在ラ米諸国を襲っている経済問題の影響を特に深刻に蒙っていると認識している。従って,我々は,中米諸国民の主要問題を解決するために資金調達等を目的として最近SELA内に創設されたラ米の地域機関である中米経済・社会開発支援行動委員会(CADESCA)に対する支持を表明する。

5.ラ米諸国は,現在,今世紀における最大かつ深刻な経済・社会危機に直面しており,これは特殊かつ前例のないものである。

6.この危機がもたらしている近年の経済的・社会的後退に直面し,我々は国際世論に対し,ラ米地域の発展と安定を著しく損う国際経済の現況に対する我々の深い憂慮の念を表明する。

7.現在の危機は地域協力と共通の立場をベースとし,地域の対応能力強化を目的とする共同行動を通じ緊急に解決する必要がある。その際現在の危機に対処するにあたっては,現在の経済危機下にあって発展のための国際協力を一層強化し,かつより効果的なものとしつつ,目前の最も差し迫った危機状況に緊急に対処すると共に,危機の構造的原因にも対処すべく中・長期的展望に立って取りくまなければならない。

8.この危機の原因には内的外的な要因があるが,大部分は外的要因に基づくもので我々のコントロールが及ばず,また選択の余地がはなはだ限られているものである。いくつかの先進国の経済政策は,発展途上国の経済の脆弱性と対外依存性並びに国際経済関係への深いかかわりにより,これら諸国,特にラ米諸国に大きな影響を与えた。これらの政策は継続的な交易条件の悪化,貿易の減少,過度な金利の上昇,急激な資本の逃避を招いた。その意味で対外債務の問題は特に重大である。

9.かかる情勢が社会的な面に及ぼす悪影響は歴史上に例をみない失業の増加,個人の実収入の実質的減少,国民の生活水準の著しい悪化に表れておりラ米諸国民の政治的・社会的安定にとって重大な結果をもたらしている。

10.ラ米地域の一層の自立を達成するために,我々は地域的機構の行動を助成かつ調整しつつ,我々に影響を与えている危機を前に共通の対応を行うべくラ米諸国が保有する人的・物的資源を動員する用意がある。

11.生産,雇用,生活水準に悪影響を与え続ける調整措置は我々の追求する目的と一致しない。従って地域諸国が再び発展するための条件を至急回復し得るような一致した行動を国際社会に求めるものである。

12.現在の危機にラ米諸国が対応するにあたっては,各国の努力及び地域的協力・統合の強化を通じ,これまで地域レベルで行われてきた努力を更に補完する必要がある。

13.我々の対応は,更に各国のあらゆるセクターの国民の断固とした参加を必要としている。そしてその恩恵が発展のプロセスに組み入れるべき農村部及び都市部の貧民層にも人間らしい生活を与えるべく十分かつ効果的に均霑される場合にのみ,その目的が達成されたといえる。その意味で地域の食糧確保・維持のための行動を支援することは何にもまして緊要である点を確認する。

14.しかしながら地域のみの努力では危機を乗り切るために不十分である。外からの重要な支援,特に通商,金融分野での支援によって補完・強化されることが不可欠である。

15.対外貿易と国際金融の間には緊密かつ不可分の関係が存在している。これら二つの要素がうまく運営された場合にのみ各国の対外債務支払能力が高められ,対外債務問題に対する積極的な解決に資することになろう。

16.ラ米諸国の各政府は,その義務を認め,これをになうにあたり,債権国政府,国際金融機関及び外国民間銀行団に対し,その政治的,社会的影響をも考慮し,対外債務問題を解決する上での共同責任の姿勢を示すことを要請する。従って,償還期間,据置期間及び利子率等について経済成長の回復と両立しうる柔軟かつ現実的な債務繰延基準を要請する。かくすることによってのみ,債務返済の履行を継続することが確保される。

17.ラ米諸国が資本の輸出国となり,その結果不安定な経済情勢が更に悪化している状況は究極的には工業国及び全世界の利益に反する結果となるものであり,よってそれは正しいことでもなく合理的なことでもないと我々は考える。

18.また,工業国の中には,その財政政策と金融政策の間に不調整があり,その不調整が原因となってインフレが抑制されたにもかかわらず,利子率が上昇し,状況が深刻に悪化していることを,指摘する。それ故このゆがみの原因を除去する調整を国際社会が推進することを要請する。

19.国際通貨及び金融制度の改革を目ざした諸措置をとることが緊急に必要であることを重ねて強調する。

20.国際金融情勢の悪化とともに,世界貿易の水準は,低滞し,後退さえしており世界貿易は経済成長を刺激する役割を果たさなくなり,その開発途上国の外貨準備への貢献度は急激に減少した。経済危機に起因する開発途上国の輸入の縮小は貿易水準を更に押し下げ,その経済の縮小を引き起こすこととなった。

21.我々は先進工業国の保護貿易主義的行動が強化されていることを憂慮する。先進工業国は,ラ米諸国からの輸出量が先進工業国の市場において問題を引き起こしていないのに,ラ米諸国からの輸出に対してその門戸を大きく閉ざした。我々は,先進工業国が新たな保護貿易障壁を設けることなく,現存の障壁を撤廃することが緊急に必要であることを強調する。

22.我々は,卒業(中南米局注:GSPの卒業のことと思われる),割当,相互主義の要求等の制限的,差別的基準を適用することによって,市場への接近を制限すること,またGSPの範囲を限定することを目ざした行動は撤回すべきである旨主張する。

23.一次輸出産品の価格は,極めて低い水準に下がり,域内諸国にとって交易条件の継続的悪化を惹起している。この意味で,価格安定のため必要な多角的な行動を採択,推進し,輸出による収入の増加を確保することを提案する。

24.我々は,先進工業国の指導者に対し,ラ米地域における経済情勢が重大な局面にきていること,その社会的代価は高いものであること及びこの危機に対処する措置に各国政府及び国際機関が緊急に参画することが必要であることを正式に呼びかける。

25.エネルギー部門は,我々ラ米国民の経済的,社会的発展への支柱として特別の意味を持つ。ラ米地域は,自らの技術でエネルギーの高い自給度を達成し維持するため努力を増大する。この意味で,その目的を達成し,ラ米・エネルギー協力計画を実施するよう,ラ米・エネルギー機構を支援することの重要性が認識される。

26.我々は,もしラ米が経済発展の道を回復するならば,ラ米は世界経済の必要かつ健全な再活性化の中で再びダイナミックな要素となるであろうとの確信を国際社会に対し明らかにする。

27.最後に,我々は,ブエノス・アイレス綱領の精神に従って開発途上国の統一を強化し,世界経済の再活性化と発展の全体的戦術を進めんとするつもりであることを明らかにする。

我々は,今回の会議は我々の発展の基本的要件である地域的統一をあらゆる障碍を乗り越えて維持せんとするラ米の常に変わらぬ意思を示すものと考える。

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