(17)INF交渉に関するプラウダ紙の質問に対するアンドロポフ=ソ連共産党書記長の回答

(83年10月26日,モスクワ)

問―ジュネーヴのソ米欧州核兵器制限・削減交渉の現状はどうなっているか?交渉では何らかの進展が見られるのか?

答―残念ながら交渉では合意の方向で進展は見られない。交渉では行き詰まり状態が続いている。なぜそうなっているかは,米国の最も忠実な同盟諸国にさえいまや明らかであり,ブロックとしての忠誠心だけがこのことを公然と認めるのを妨げているのだと思う。

交渉の2年間にソ連は,欧州から核の危険を取り除き,欧州大陸及び全世界の安全を強化するために大胆な解決策を受け入れる用意のあることを納得のいく形で示してきた。我々の打ち出した提案は広い範囲の可能な対策を規定している。それは中距離核兵器の抜本的削減から,欧州における戦術,中距離兵器の双方の全面的廃棄にまで及んでいる。ソ連提案は,互いに受け入れられる合意のためのあらゆる要素を含んでおり,それはソ連とその同盟諸国の利益も,米国と西欧諸国の利益をも損なうものではない。

最近ワシントンは,米国も合意に賛成であり,交渉において一層の柔軟性を発揮してきているとの数多くの言明を行っている。我々はこれらすべての言明およびジュネーヴ交渉における米国代表団の発言を綿密に分析した。現実には,米国のいう柔軟性は言葉以上のものではない。米国の方針の本質には変化がない。それは米新型ミサイルの欧州配備によってソ連に対する著しい軍事的優位を確保することである。

ソ連は自らの中距離核兵器を削減すべきであり,一方米国とNATO同盟諸国はそれを増強できるという,非現実的で一方的な立場を米国が固守している限り,交渉での進展を期待することはむろん不可能である。

問―合意成立のすべての可能性は尽きているのか?

答―それは第1に米国次第であり,米国が実務的話合いに移る用意があるかどうかにかかっている。ソ連は,米国が自らの行動によってそれを不可能にするまで,合意の探求を断念しない。

我々は一つの,しかし絶対的な要求,つまり欧州における中距離核兵器の戦力のバランスは破られてはならないとの要求を守った上で,具体的解決策の探求に柔軟性を示してきたし・いまも示している。双方のこの兵器のレベルは,大幅に低減することができるし,するべきであるが,それは双方の戦力比率に変化がないものでなくてはならない。

これは第1に,欧州に米新型ミサイルが配備されるべきでないということを意味している。なぜならばそれはNATOに有利な形で軍事戦略状況全体を大幅に変えてしまうからである。第2に,双方では例外なくすべての対応する射程距離の核兵器が考慮されなければならない。

この正当な要求から我々は後退するつもりはない。しかし,この原則的アプローチの枠内において我々は,繰り返すが,柔軟性と建設的態度を発揮している。

この点について幾つかの補足的措置を私は今述べることができる。

第1に,ソ連は周知のとおり,欧州中距離核兵器を運搬手段(ミサイルと航空機)と弾頭について双方等しいレベルまで削減することについて取り決める用意があることを表明した。ある人々はこうたずねるかも知れない―ソ連の保有するミサイル弾頭および英仏のそれの均衡を確保するために,ソ連がNATOのすでに保有するものより少ないミサイル発射台をもつことになったら,ソ連はどうするのか,と。

「よかろう,我々はそれに応ずる用意がある。このようなアプローチによって,現在の英仏のミサイル弾頭数を考慮に入れた場合,ソ連か欧州でおよそ140基のSS―20ミサイル発射台を,すなわち英仏の保有する中距離ミサイルの発射台よりもはるかに少ない発射台を持つことになったとしても,我々は困惑したりはしない。」

第2に,最近我々が言明したように,欧州への米国ミサイル配備の断念を含め,互いに受諾できる用意が達成されるならば,ソ連は東部への移転のかわりに欧州地域で削減されるすべてのミサイルを廃棄する。そこで再び質問する者がいるだろう―ソ連欧州部でのミサイル廃棄と平行してソ連東部地域ではそのようなミサイルの増強が行われるのではないか,そして後日これは東部から西部へ移転できるのではないか,と。

そのような懸念には全く根拠がない。しかしこの点についてのあらゆる疑問をすべて取り払うために断言するが,東部から西部へのソ連ミサイルの再配備は行われない。そして欧州核兵器制限の合意が成立し,それが発効すれば,その時点からSS―20ミサイルのソ連東部地域への配備も停止される。

そして我々は,アジア地域における戦略状況に大幅な変化が起こらないとの条件の下で,この立場を堅持していく。これは第1に,米国がソ連東部地域に到達できる地域に新型中距離核兵器を配備しないことを意味している。

第3に,削減後に双方に300基以上の中距離核運搬手段を残すべきではないとの我々の提案は,対応する航続距離の米航空システムを過度に削減することになる,といわれている。

我々は米国を傷つけることを目的としていない。しかし公正を期すために指摘しておくが,ソ連の中距離航空機はそこから米国領土に到達することのできる外国には配備されていない。

だがここでも,我々は柔軟性を追加する用意がある。つまり,我々の以前の提案と根本的に異なるものとはいえ,ソ連とNATOに対して中距離運搬航空機の等しい全体的レベルを互いに受け入れられる数量の範囲内で確立することである。このレベルの具体的意味は合意することができるし,また制限される運搬航空機の構成も正確化することができる。

ジュネーヴ交渉の行き詰まりを打開する道はある。それを活かすことだけが必要なのである。米国が互いに受け入れられる合意達成の本当の熱意を示すならば,協定策定には多くの時間はいらない。

問―西側では,善意を示すためにソ連がいますぐにも欧州における自らのミサイルの一方的な削減を行うべきだとの意味の発言が行われている。これについてはどう思うか?

答―確かにそのような主張を我々は知っている。時としてそれは,欧州平和の維持に実際に憂慮している人々からも発せられている。

我々は善意について欠けるところはない。我が国は一方的なものも含め,交渉の成功達成のために最大限好適な状況を造り出すことを目的とした措置について欠けていなかった。

想起しておくが,半年前,ソ連は欧州部への中距離核兵器の配備を凍結した。そしてあらゆる中傷にもかかわらず,この凍結は無条件に遵守されている。西欧諸国に到達することのできるウラル以東地域へのミサイルの追加配備も停止されている。

それどころか,交渉が行われている期間に,ソ連は数十基の欧州中距離ミサイルを廃棄した。欧州地域に以前配備されていたSS―5ミサイル(これはSS―20よりも射程距離は短いが,弾頭の威力はずっと大きいものである)は現在までに完全に実戦配備から外された。

ソ連に対し中距離ミサイル数の一方的削減を呼びかけている者は,我々が事実上それをすでに行っていることをおそらく知らないのであろう。しかし米国政府も他のNATO諸国政府も実状に無論よく通じている。それなのにこれら政府は真相を国民から隠し,彼らを欺いている。

一方,ワシントンは,近くパーシングや巡航ミサイルの西欧配備開始を執ように追求している。ソ連が自らのミサイルを一方的に削減し続けても,米国がその展開を断念する用意があることを物語るものは全くない。その反対に,すべては逆のことを物語っている。それゆえ,自らの安全と同盟諸国の安全を危険にさらすことをソ連は無論できないし,そうしないであろう。

米国が発表された期限内のミサイル欧州配備を断念し,そのことによって交渉継続と互いに受容できる解決策探求の可能性を与えるならば,それは別問題である。

そうなれば我々はいますでに我が国のSS―4ミサイル(我々はこれを200基以上保有している)の削減に着手し,1984~85年にその廃棄を完了することができよう。

そして再三我々が述べてきたように,公正な基盤に立ってジュネーヴで協定の締結に成功するならば,むろん,現在保有されているSS―20ミサイルのかなりの部分も廃棄されることになろう。

問―西側の首都では,米ミサイルの配備開始に伴って交渉が新たな刺激を受け,もっと建設的にかるだろうとの発言がなされている。このような言明をどう判断するか?

答―それは米核ミサイルの欧州への出現に反対する西欧諸国民のたたかいの激化を抑えることを目的とした全くの欺まんである。

ここですべてをはっきりさせておかねばならないが,米新型ミサイルの西欧への出現はジュネーヴ交渉の継続を不可能にするであろう。言いかえれば,米国がミサイルの配備を実際に開始しないならば,ジュネーヴ交渉の継続は可能である。

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