(10)アンドロポフ=ソ連共産党書記長のプラウダ紙への回答

(INF及び中ソ関係)

(83年8月26口,モスクワ)

(問1)INF交渉の次期ラウンド開始をひかえ,西側において伝えられている如く,右交渉の前期ラウンドにおいて米側が交渉進展の期待をいだかせる何らかの柔軟な提案を行ったというのは事実か否かうかがいたい。

(答1)真実ではない。現在まで交渉において何らの進展もなく,遺憾ながら米側立場が現在のままである限り交渉進展の見込みはない。

米側立場の「柔軟性」の総ては以下のことにつきる。

当初米側は,ソ連が欧露部のみならずソ連東部(これはジュネーヴにおける交渉の議題とは完全に無関係である)にあるINFをゼロまで削減,即ち廃棄し,他方NATO側にあっては何ら一基のミサイルもあるいは一機の飛行機も廃棄されない。即ち数字で言えばNATO側の削減をまさにゼロとするとの提案を行った。これが米の「ゼロ・オプション」の本質であり,即ちソ連にとりミサイル数ゼロ,NATOにとり削減ゼロというものである。

そして今や,米はソ連が一定数のINFを維持すること,しかしその場合にも米は一基たりともINFを削減しないのみならず,既に存在する英仏ミサイルに加え,維持されるソ連ミサイルと同数の新型ミサイルを欧州に配備する「権利」を得ることに同意するという。換言すれば,我々は一方的にINFを削減するのみならず,我々と我々の同盟国に向けられた新型米ミサイルの配備を祝福すべきであるという。

これを柔軟性と称するのは常識に対する嘲笑としか言いようがない。

真の建設的意味での柔軟性を語るのであれば交渉の全期間を通じかかる柔軟性を示してきたのはソ連であって米では決してない。

まさに,ソ連こそがごまかしでない欧州にとっての真のゼロ・オプション,即ちあらゆるINF及び戦術核の双方の破壊を提案したのである。しかしながら米はこのことにつき語ろうともしない。

我々がその用意があるにもかかわらず,西側がかかる根本的解決への用意がない以上,我々は根本的という面では劣るものの,しかし同様に広範な提案を行った。

その内容は欧州において如何なる新型INFの配備も差しひかえると同時に現存INFを約2分の1に削減し,ソ連及びNATOが当面の間それぞれ300のINFを残存させるというものである。

許容された300基の範囲内においてソ連はNATO側に存在するよりも多くのミサイルを保有できるのであるからそのような解決方法は不公正であるとの西側での主張に関しては,我々は削減後欧露部に英仏が保有するのと全く同数の中距離ミサイルを残す用意があると表明した。同様に双方には同数の中距離核運搬航空機が残ることになろう。

すると一部の者はお好みの新しい主張を持ち出し,同数のミサイルではソ連はSS-20の弾頭総数において優位を占めることになると述べ始めた。しかしソ連が運搬手段(ミサイル及び航空機)に関してもそれらに搭載される弾頭に関しても平等とすることに同意を表明したため,この主張も長く行っていることはできなかった。

その結果としてソ連が欧州部で有する中距離ミサイル数,その弾頭数共に全ての発たんであるとNATOの主張するSS-20を全く保有しなかった76年以前に比しその数はいちじるしく減少することになる。

かかる我々の立場の何が不公平であり,受入れ不可能というのであろうか。それは誠実かつ一貫した同時に双方の平等と同一の安全という原則に基づく柔軟な立場である。

米及びそのNATO同盟国に平等の条件の下で実際に合意せんとの希望がわずかでも生じれば,ジュネーヴ交渉の事態は全く別の道を歩み始め合意も先の話ではなくなるであろう。

(問2)貴下によって言及された米・NATOによる言いのがれ以外にも,西側においてソ連が欧露部でのINF数削減を合意するに当り,ソ連は右INFの東方地域への移転を考えているにすぎない旨しばしば主張される。本件に関し貴見如何。

(答2)かかる主張は周知の虚偽である。ここにはいかなる好策もない。我々は,欧州におけるINF削減の主たる手段はその解体,廃棄とすべきであるとの提案を大分以前に行った。交渉の場で我々は米側に対し,双方より何が如何にして廃棄されるべきかにつき合意をしょうと直言した。彼らはこれからも逃げている。

本日,私は我々が更に主要な一歩を進める用意があることを通報することができる。

米による新型ミサイルの欧州配備の放棄を含む相互に受入れ可能な合意が達成される場合,ソ連は欧露部にある中距離ミサイルを英仏核ミサイルと同数にまで削減するに当り,削減される総てのミサイルを廃棄するであろう。その際,西側においてSS-20との呼称で知られる最も近代的なミサイルの相当数も廃棄されるであろう。

このソ連の善意の新たな現れの著しい重要性を強調する必要があろうか。

第1にこれは,ソ連は実のところ削減対象となるSS-20を単に欧州から東方に移転しこれを維持せんとしているとのNATO諸国の流布する主張のあらゆる基礎をうばうものである。

第2にかかる移転の可能性に関し,中国及び日本により現在表明されている懸念についてもその根拠が失われる。

以上のことから,偏見を有しない総ての人にとり次のことは明白なはずである。

即ちINF交渉の打開のため,また欧州における核軍拡の次のしかも極めて危険な一段階を防止する相互に受入れ可能な合意達成のため,ソ連はなしうること総てを行ってきたし今も行っている。

かかる合意が可能か否かは米並びにNATO全体に懸っている。9月6日開始のINF交渉次回ラウンドはこの意味で決定的となろう。

ソ連は交渉の全期間を通じ,建設的かつ柔軟なアプローチを示していることを改めて強調したい。更にもう1つのことも強調したい。

即ち我々の柔軟性にも限界がある。その限界とはソ連国家並びに同盟国の安全の利益により規定される。

もし交渉における米の立場が従来通り非建設的かつ一方的であり,また米の「パーシング」と巡航ミサイルの欧州における実際の配備という事態に至るならば,当然ながら我々は地域的,ヨーロッパ的レベルにおいても,またグローバルなレベルにおいてもその勢力のバランス維持のための適当な対抗措置を余ぎなくされよう。この点につきだれにとっても如何なる不明瞭さもあってはならない。

(問3)欧州におげる核軍備問題の脈絡の中で中国に言及されたこととの関連で,核軍備制限及び軍縮一般の問題に関する中国の立場如何。

(答3)周知のとおり中国は自国の核戦力を保有している。これが漸次増大している。中国は現在までのところ,核軍備制限削限交渉には如何なる参加も行っていない。現在我々の理解するところでは,中国指導部は国連及びジュネーブ軍縮委で討議されている核及び他の軍備に関するいくつかの問題に対し関心を示しつつあるかのようである。もしこの傾向が発展してゆくならば,核戦争の防止と核軍拡競争の停止に関する問題の解決に中国が少なからぬ貢献をなし得ることに疑いはない。

(問4)ソ中関係についての貴見如何。

(答4)我々はこの20年間のソ中関係の状態を正常でないと考えてきたし,現在もそう考えている。最近ソ中関係にはいくつかの肯定的傾向が認められた。両国間で特別代表レベルの政治協議が行われている。次回のラウンドは10月6日より北京で開始される。貿易量ものびており,他の一連の分野における接触も漸次発展している。しかし二国間関係の現在のレベルは,ソ連と中国のような大きなしかも隣国たる強国間にあるべきであると我々が確信しているレベルからは程遠い。貿易の一層の拡大,経済,科学技術協力の調整の分野,文化'スポーツそり他の交流の分野において多くのことをなすことが可能である。ソ中国境地域における信頼醸成措置の共同策定及び実施は両国関係における雰囲気の改善をいちじるしく促進するであろう。我々は世界の発展の諸問題,とりわけ平和の強化と世界の安全の諸問題につき中国と政治対話を行う用意がある。もちろん,我々と中国との間には若干の重要な国際問題,一定の国々との関係へのアプローチにおいて少なからぬ相違があるが,我々はソ中関係は第三国を害しない形で構築されねばならないとの点に強く立脚しており,中国側にもこれを期待している。ソ中関係の健全化は,現在の緊張した国際情勢下において特別の重要性と緊急性を帯びている。我々は,客観的にソ中両国民の利益は戦争の危険の除去及び平和の強化に係る問題と対立するものではないと確信している。平和は社会主義の理想であることはいうまでもないが,我々両国には大規模な長期経済諸課題があり,この首尾良い解決のためには良好な国際環境が不可欠である。かくて,ソ中関係の肯定的な発展により,我々両国は利益を得ることとなり,これはまた国際情勢全体に対しても疑いなく利益をもたらすであろう。

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