(8)INF問題に関する「ソ連政府声明」
(83年5月28日,モスクワ)
1.(1)83年末に計画されている米INFの欧州配備は,米政権の軍事的優位を獲得せんとする努力の構成部分である。ソ連領土の深奥にある目標を攻撃する能力を有するこれらのミサイルは米の戦略核兵器庫への直接的追加となり,現存する地域的,世界的均衡を西側に有利に変えるためのものである。上記ミサイルの配備は欧州情勢の深刻な変化を招き,核の対立を激化さ世,戦争発生の危険性を増大させるであろう。
(2)軍備競争の停止と直接,間接に関係する全ての交渉において,米政権は非建設的妨害者的路線をとっている。右は,ジュネーヴ,ウィーン,マドリッドでの交渉,その他の国際会議での米の行動に当てはまる。
2.(1)STARTにおける米の立場は,誠実な合意ではなく一方的な軍事的優位の達成に完全に向けられている。ソ連の最も近代的な兵器の削減,しかも米側より著しく大きな量の削減を提案しつつ,ワシントンは自国の核兵器庫の基礎,全ての配備形式の巡航ミサイルを含む最新戦略兵器の配備に関する大規模な計画は実際上触れないままにしておくとの意図を隠していない。STARTにおける米提案は戦略兵器の軍拡競争の停止ではなく,この競争を米が自国にとって有利と考える方向へと一層激化させることに向けられている。
(2)地・海・空配備の米新戦略兵器の開発,生産及び戦闘体制への導入の結果としてソ連邦及びその同盟国の安全保障に対する脅威が増大したことに鑑み,ソ連邦は対応する新戦略システムの展開を含め自己の防衛力を強化する対抗措置をとる必要性に迫られている。ソ連邦のこのような行動は,現実に形成されつつある状況によって規定されるものであり,かつ,米の行動に対する答である。その唯一の目的は,形成された勢力の均衡を破ることを許さないことにある。
(3)これ等の止むを得ない行動をとるに当ってソ連邦は,戦略核兵器の制限問題に対する原則的な立場に変更がないことを確認する。ソ連邦は,平等及び同等の安全の原則を厳格に守りながら一般的軍事戦略上の安定度を向上させるため,核戦略兵器をその総体において大幅に削減することに賛成である。
(4)ジュネーヴでソ連邦によって提案された戦略運搬手段及びその上の核弾頭の相互的削減に関する遠大な提案はこのことについて好ましい基礎を与えている。
3.(1)ソ連邦は,欧州INF制限問題についても同様に建設的な立場をとっている。
周知のように,ソ連邦も英仏よりも中距離ミサイル及びその上の弾頭を多く持たないよう右兵器の削減を実施することを提案している。このことはソ連のミサイル近代化が開始される以前の1976年よりも欧州におけるソ連の運搬手段及び弾頭は大幅に減少することとなろう。ソ連邦の中距離航空機1機,航空核弾頭1個たりともNATO諸国が所有しているものよりも多く所有するよう主張してはいない。
(2)しかし米は,如何なる場合においても現存する米FBSに追加して83年末に米新型ミサイルの西欧配備を開始することとなるような解決を執ように主張し続けている。ソ連は米ミサイルの西欧配備を承認し,更には自国の中距離ミサイル兵器を一方的に削減し,しかも欧露部のみならずソ連東部と国境を接する地域に相当量配備された米の類似の兵器を無視してアジア部の中距離ミサイルをも一方的に削減せねばならぬことになる。
(3)このような提案がもとより受入れ難いことは全く明らかであり,米によるこれ等の提案の要求は唯一のこと,即ち同等の安全の原則の基礎に立った相互に受入れ可能な解決を模索する意志が米側に全く無いことを証明している。
(4)ソ連は次のことを正常に明確に警告することが必要であると考える。即ち米新型ミサイルの欧州配備を排除するINF合意が達成されず,その結果ソ連及びその同盟国の安全に対する追加的脅威が発生する場合には,この分野においても適時かつ効果的な対抗措置がソ連によってとられるであろう。
(5)米INFの欧州配備を開始するとの米,NATOの決定が実施されるならば,ソ連は欧露部において,中距離兵器の一層の配備を一方的に停止するとの昨年の決定を再考することを余儀なくされよう。更にWP諸国との合意に従って,増加する欧州における米FBS及び他のNATO諸国の核兵器に対する不可欠な均衡を作り出すための追加的兵器の配備に関する他の措置を実施する必要性が生じよう。また,ソ側が一再ならず警告したとおり,米自体の領土を念頭においた必要な対抗措置をもとらざるを得なくなろう。
(6)ジュネーヴ交渉で公正な合意に達する可能性は存在する。米及びNATOが米新ミサイルの西欧配備を現実に中止することがこの目的に疑いなくかなうであろう。
(7)ソ連邦は状況の危険な悪化を止めることはまだ遅すぎない旨声明している。ソ連邦は米及びNATO同盟諸国が,米新ミサイルの西欧配備計画の実現が不可避的にもたらす結果を注意深く考慮しソ連邦の建設的な提案に反応することを希望する。
(8)欧州及び戦略核兵器削減についての合意達成の前に最も実施が簡単で,かつ,効果的な第一歩として,ソ連邦はこれ等の武器を量的に凍結し,その質的な近代化を最大限に抑制することを再び提案する。
(9)全ての国の義務は,核をはじめとする軍備制限・削減という緊急な課題の解決を見出し,政治的・軍事的な緊張緩和の道にもどることにある。地理的な位置,社会経済的条件,政治集団への帰属如何にかかわらず,全ての国家及び国民の利益はこのことを求めている。