(6)レーガン米大統領の国防演説(要旨)

-大陸間弾道ミサイル防御システムの開発構想を中心に-

(83年3月23日,ワシントン)

(1)国防力の再建

○平和を守り,また平和を強化することは,大統領と国民が分ち合う最も基本的な義務である。

○1984会計年度国防予算案は,私自身の最善の判断に基づくものであり,安全の限界まで切りつめられている。従って安全を危くすることなく同国防予算を大幅に削減するととは不可能である。

○国防予算はパーセンテージや数字に基づいて議論すべきではなく,平和の維持のために何をなすべきか,脅威とほ何か,これに如何に対応すべきかということを論じるべきである。

○米国の国防政策は自ら戦争を起こさない,侵略者には決してならないという明白な前提に立っており,侵略に対する抑止力が重要である。

○米国は,核時代において強力な抑止力の維持と真の意味での軍備管理の追求により戦争の危険を減らすことに努めてきた。弱さは侵略を招くのみであり,米国は力により平和を維持する。

○抑止の戦略は依然として有効である。ソ連が戦争を計画しているとも,また,戦争が不可避であるとも考えないが,ソ連の核ミサイルの増強という状況の変化を認識した上で抑止力の維持の方策を考えなければならない。

(2)ソ連の軍事力増強

○ソ連は自衛上の必要を遥かに越えた巨大な軍事力を擁しており,なおその増強を続けている。

具体例として,

(イ)ICBM・SLBM及び戦略爆撃機の戦略核戦力三本柱のいずれについても,米国は,長年にわたり新型への更新を一切行っていない(ICBM,爆撃機),あるいはわずかしか行っていないが(SLBM),その間に,ソ連は種類及び数量において多くの新型を配備してきていること,

(ロ)INFについては1978年来,それまでに配備されていた600基のIRBMに加えSS-20の配備を開始し,1979年の時点で既にソ連のブレジネフは(米ソ間に)「今やバランスが存在する」とし,また1982年にはSS-20配備を凍結すると誓約したが,依然毎週1基の割合で配備を続けており,ソ連のいうパリティの実態は1,300対ゼロ(弾頭数)といったものでしかないこと,これに対しNATOとしてSS-20に対抗しソ連が軍備管理に真剣になるように仕向けるため今年から新兵器(GLCMとパーシングIIミサイル)を配備すべく決定すると共に(INF交渉においては)ゼロ・ゼロ方式を提案していること,

(ハ)通常戦力については,戦術用航空機,攻撃型潜水艦,戦車等装甲車,大砲,ロケット砲のいずれについても1974年来のソ連の生産量は圧倒的に米国のそれを上回っていること,

が挙げられる。

また,ソ連は兵器保有量で優位にあるのみならず最近では質についても米国の水準と同等のものとなりつつある。

○ソ連は軍備の増強に呼応してその勢力の拡大を図っており,その例証としてキューバ,ニカラグァ及びグレナダなど中米カリブ海地域が挙げられる。また,エティオピア及びアンゴラにおけるキューバ兵の存在,エティオピア及び南イエメンにおけるソ連軍基地の存在,更にソ連軍によるカムラン湾の使用等がある。

○ソ連はその強力な軍備力を実際に行使することがあり得るかとの疑問があるが,この点については,アフガニスタンやポーランドの例を想起すべきである。

○ソ連の軍事力の性格につき,ICBMについては抑止力として必要な水準を遥かに超えており,また通常戦力も防衛というよりは電撃的な奇襲作戦のために訓練・装備されており,ソ連の戦力は攻撃的なものとしか考えようがない。

(3)国防予算

○大統領に就任した2年前の米国の国防力は弱体であったことから,国防力近代化計画は必須の要請であった。

○核凍結は,却って戦争の危険性を増大させるとともに,軍備削減を阻害することになろう。

○国民及び議会の支持を得て努力した結果,戦略核戦力及び陸・海・空軍戦力の強化が着実に実施され,米国の国防力は顕著に改善されており,即応態勢も目覚ましい向上を示しているが,このような努力は今後とも継続する必要がある。

○米国が途中で立止まることは,戦争を抑止して,真の軍備削減を実現する能力を阻害するとともに,同盟国及び敵対国に誤ったメッセージを伝えることになり,今年度の予算において国防力再建努力を続行する以外の代替案はない。

(4)大陸間弾道ミサイル防御システム構想

○歴代の米国大統領は,ソ連の脅威に対応するに当って,米国による報復の確実性によって抑止を達成することに努めてきたが,攻撃的脅威を通じて安全を求めるこのアプローチは,過去30年間戦争の発生を防止し得た。

しかし,相手国国民の生存を脅やかすことにより対処するよりも,人間としての英知をもって緊張緩和と安定のためにやるべきことがあると感じるに至った。

○その一つの方法は軍備の水準を下げることであり,米国はソ連との間でいくつかの軍備相互削減交渉を行っているが,これについては3月31日,私自身の考えを明らかにしたい。

ソ連が大幅な軍備削減に応じてくれば話は別であるが,現状においては報復の可能性,即ち相互の脅威に頼らねばならない。

○以上を踏まえた上で,米国は防衛的な方策によってソ連のミサイルの脅威に対処する計画に着手するが,もし自由な国民が自らの安全はソ連に対する報復の脅威に依拠するものではないと感じて生き得るようになれば素晴らしいことである。

○但し,本計画は技術的には極めて困難な作業であり今世紀末までには達成されないかもしれないがそれまでの間は,核抑止力と柔軟反応能力を維持せねばならない。更に,その間,米国は戦略兵器の近代化によってのみ達成される力の立場を通じて核兵器の真の削減努力を続けるとともに,非核兵器能力の改善を図り通常戦争が核戦争にエスカレートする危険を減らさねばならない。また,米国が上記の如き防御的技術の開発に努めている間,同盟国が米国の戦略的攻撃能力による抑止力に依存せねばならない状態が続くとの認識の下に,米国は同盟国に対するコミットメント遵守の決意を再確認する。

○私は,防御システムには限界があり,また種々の問題と不明確性をもたらすことは充分に認識している。もしこれが攻撃用兵器体系と組み合わされれば,攻勢的政策を推進していると受けとられるかもしれないが,そのようなことを望んでいる訳ではない。

○核兵器を無力かつ時代遅れなものとするために科学者に対し努力して欲しい。

具体的には,ABM条約の義務に背馳することなく,また同盟国との協議の必要性を認識しつつ重要な第一歩を踏み出すこととし,戦略核ミサイルによる脅威を除去するとの究極的目標を達成するために長期的研究開発計画の策定のための包括的かつ精力的な作業を指示する。

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