(5)第9回主要国首脳会議(ウィリアムズバーグ・サミット)関連文書
(83年5月29日~30日,ウィリアムズバーグ)
(イ)中曽根内閣総理大臣冒頭発言
レーガン大統領閣下の御招待でここに集まり,特に従来例がなかった首脳だけの自由な討議でこの会議を始めることができることは喜ばしい。
このイニシアティヴをとられた大統領閣下に感謝する。
我々は,今次サミットを世界経済回復への転機となし,もって,世界に向けて明るい展望を示さんがために集まっている。
失業,保護主義などに対する闘いは我々自身の力強い政治的リーダーシップなくては解決は覚つかない。
今日,世界経済が直面する諸困難の解決を図るためには,我々最高責任を担う者は自ら代表する国家の利益のみを追求することは許されない。今日,国際社会には,深い相互依存関係が存在し,その国際社会はサミット7か国の経済,社会の健全さに大きく依存している。
したがって,我々は,かかる大局的見地から忌憚なく話合い,それぞれの問題に対する理解を深めてこそはじめて実効性あるまた信頼できる問題解決の方法を示し得るといえる。
我々は,サミットにおいて,世界経済の先行きについて明るい,しかも信頼できる展望を世界に示さなければならない。かくしてこそ自由民主主義体制と市場経済の優位に対する信認を不動のものとなしうることになろう。また,それは南側に対して将来への希望を強めることとなろう。
さらに今次サミットの機会の政治協議において政治,経済,安全保障分野における我々の共通の基本的立場が確認されれば,我々の世界への呼びかけはさらに有効なものとなろう。我々は西側の固い団結の下に西側の安全を図りつつ,緊張緩和への道を開かなければならない。
これから討議を進めるに当っては私は次の諸項目を共同行動の指針として臨めば先行き不透明感を払拭し,世界の期待に積極的に応え得ると信ずる。
(1)第1に我々西側先進諸国が連帯と協調による一枚岩の結束を世界に示すことである。
(2)第2に世界経済インフレなき持続的成長のため,各国は,(あ)内外にバランスのとれた経済運営を図り,(い)幅広い構造調整を推進し,(う)自由貿易体制を堅持し,保護貿易措置の撤廃を進め,ガットの強化を図るということである。
(3)第3に南北問題については,「南の繁栄なくして,北の繁栄なし」という認識の下に,南北間の対話を促進し,南側の自助努力に対する支援政策を推進するということである。この関連で我々は第6回UNCTAD総会についても,建設的な南北関係の構築に向けて努力しなければならない。
(4)なお東西経済関係についてはOECD,IEAでの成果を踏まえ,協調的行動をとるため今後とも各種の協議を更に進めることが適当と考える。
(ロ)ウィリアムズバーグにおけるステートメント(政治声明)
1.サミット参加7か国の指導者として,我々の民主主義の基盤となっている自由と正義を守ることが,我々の第1の任務である。この目的のために,我々は,いかなる攻撃をも抑止し,いかなる脅威にも対抗し,更に平和を確保するために十分な軍事力を維持する。
我々の軍備は侵略に対抗する以外には決して使用されないであろう。
2.我々は真剣な軍備管理交渉を通じ軍備のより低い水準を達成したいと考える。この声明をもって我々は平和の探求と意味のある軍備削減とに対する我々の決意を再確認するものである。我々は,この目的のために,ソ連と共に努力する用意があり,ソ連に対し,我々と共に努力するよう呼びかけるものである。
3.実効ある軍備管理取極めは,平等の原則に基づき,かつ検証可能なものでなくてはならない。
我々は種々の国際交渉において積極的な成果を達成するために戦略兵器(START交渉),中距離核ミサイル(INF交渉),化学兵器,中欧における兵力削減(MBFR)及び欧州軍縮会議(CDE)等について諸提案を行ってきている。
4.我々は,これらの交渉を,はずみと緊急性をもって引続き推進しなければならないと信ずる。
特に中距離核戦力(INF)の分野において,我々はソ連に対し,交渉の成功のために建設的に貢献するよう呼びかけるものである。
フランスや英国のような第三国の抑止力を算入することを提案することにより,西側の分断を図ろうとする試みは失敗するであろ先これらの兵器体系はINF交渉においていかなる考慮の対象ともされるべきではない。
5.サミット参加国は,均衡のとれたINF合意が近く達成されるよう強い希望を表明する。これが実現される場合には,配備の水準は交渉によって決められることになろう。もしこれが実現されない場合には,良く知られている通り関係諸国は当該米国兵器体系の欧州配備を計画通り1983年末には実施するであろう。
6.サミット参加国は,軍備削減に向けての努力において結束しており,引続き徹底した緊密な協議を続けるであろう。我々サミット参加国の安全は不可分であり,グローバルな観点から取り組まなければならない。
我々の国内世論に影響を与えることによって真剣な交渉を回避しようとする試みは,失敗するであろう。
7.我々は,戦争の脅威を減少せしめるために,我々の持てる政治的資源の全てをささげることを確約する。
我々は,全人類が戦争の影から解放された世界をヴィジョンとして描いており,我々は,このヴィジョンを追求する決意である。
(ハ)経済回復に関するウィリアムズバーグ宣言
我々の諸国は,民主主義,個人の自由,創造性,道徳的志向,人間の尊重及び人格・文化の発展に自らをゆだねているという意味において結ばれている。我々の繁栄はこれら共通の価値を守り,持続させ,かつこれを広めていくためにこそ重要である。
我々の社会は,景気後退という厳しい試煉にさらされながらも,これに対する強靱性を示してきた。これまでのところ,インフレの抑制及び金利の低下の面で大きな成功が達成されてきている。生産性も向上してきており,我々は,今や経済回復の明瞭な兆しを目の当りにしている。
にもかかわらず,先進民主主義諸国は,10年間にわたるインフレの昂進を逆進し,失業を低減させるために,景気回復の実現とその持続を確保するという困難な課題を引続き担っている。我々すべては低いインフレ率を達成,維持し,かつ現在の余りにも高い水準にある金利を低下させることに努力を集中しなければならない。我々は,特に歳出の伸びを抑えることによって,構造的財政赤字を削減していくという誓約をここに改めて確認する。
我々は,共に行動しなければならないことを認識するとともに,先進国,開発途上国双方のすべての国々に景気回復が及ぶよう,成長,貿易及び金融の相互間の関係を勘案し,かつこれを利用した均衡のとれた一連の政策を進めていかなければならないことも認識している。
これらの目標を追及するために,我々は,次のとうり合意した。
(1)我々の政府は,低いインフレ率,金利の低下,生産的投資のより高い水準,及び特に若年層に対する雇用機会の増大をもたらすような適切な金融・財政政策を進めていく。
(2)ヴェルサイユで開始された協議プロセスは,我々諸国の経済情勢の調和と為替相場の一層の安定を促進するため,この宣言の付属文書に示された方向に沿って,強化される。
我々は,為替市場に影響を与える諸政策,及び市場の状況に関し,一層緊密な協議を進めることに合意する。又,我々各国が個別に行動する自由を保持しつつ,為替市場に対する協調介入が有益であろうと合意された場合には,すすんでそのような介入を行なう用意がある。
(3)我々は,保護主義に歯止めをかけること,及び景気回復の進行に伴い,貿易障壁を撤廃していくことにより保護主義を巻き返すことを約束する。我々は,この約束を実施し,監視する方法につき適切な既存の場において協議していく意向である。
我々は,今日の貿易上の諸問題の解決を促進していくものとする。我々は,サービス貿易及び高度技術製品の貿易を含め,GATT(関税と貿易に関する一般協定)及びOECD(経済協力開発機構)における現在の作業計画を積極的に進めて行く。
我々は,開発途上国との,又,開発途上国相互間の貿易の拡大に特に力点を置きつつ,GATTにおける一層の貿易自由化交渉を実現するため努力していくべきである。我々は,GATTにおける新しい交渉ラウンドへ向けての諸提案につき協議を続けていくことに合意した。
(4)我々は,国際金融情勢,なかんずく多くの開発途上国の債務の重荷につき,憂慮の念を有している。我々は,債務国側における効果的な調整及び開発政策,十分な民間及び公的融資,より開放された市場,並びに世界的経済回復に基づく戦略に合意する。
我々は,IMF(国際通貨基金)及びGAB(一般借入れ取極め)の増資についての早期承認が得られるよう努力する。
我々,諸国間及び特にIMF(国際通貨基金),IBRD(国際復興開発銀行),GATT等の国際機関の間のより緊密な協力及び時宜を得た情報交換を慫慂する。
(5)我々は,各々の大蔵大臣に対し,IMF専務理事と協議しつつ,国際通貨制度改善のための条件を明らかにするとともに,この作業を進めていくにあたり,ハイレベルの国際通貨会議がいずれ果たすことのありうる役割を検討するよう求めた。
(6)景気後退のもたらす負担は,開発途上国に非常に重くかかってきており,我々は,これらの国々の景気回復につき憂慮している。我々の市場を開かれたものとしつつ,健全な経済成長を回復することが緊要である。
2国間及び適当な国際機関を通ずる資金の流れ,特に政府開発援助で貧困国に対するもの,並びに食糧生産とエネルギー生産のための特別な関心が払われるであろう。我々は,IDA(国際開発協会)に対し合意されたレベルでの出資を行なうとの約束を再確認する。
我々は,最近のニューデリーにおける非同盟会議,及びブエノス・アイレスにおける77か国会議において開発途上国が対話を行なっていこうとの姿勢を示したことを歓迎するとともに,来たるべきUNCTAD(国際貿易開発会議)のベオグラード会合に理解と協調をもって参加するとの決意をこれら諸国と共にするものである。
(7)我々は,高度技術の開発を促進し,高度技術が成長,雇用,貿易の促進のために果す役割を社会一般が受け入れていくことを慫慂することの必要性につき,意見の一致を見ている。我々は,昨ヴェルサイユにおいて設置された「技術,成長及び雇用に関する作業部会」報告書に賛意をもって留意し,本報告書において取りあげられた18の協力プロジェクトにつき,これまでに見られた進歩を高く評価する。我々は,これらのプロジェクトに関する作業の実施及び調整を引続き行ない,我々の次回会合において,更に報告を受けることを期待する。
(8)我々すべては,石油価格がより予測可能で,無秩序に変動しないようにしていくことが,世界経済の先行きにとって有益であろうという点で見解を共にする。我々は,石油価格の下落がエネルギーの節約,経済的な代替エネルギー源の開発,産消間接触の維持及び可能な場合におげるその改善,並びに現在不足している開発途上国の国内エネルギー生産の増大の奨励に向かっての努力の重要性及び緊急性を何等減ずるものではないということにつき,意見を同じくするものである。
(9)東西経済関係は,我々の安全保障上の利益に合致したものであるべきである。
我々は,最近何か月にわたり,東西経済関係の主要な側面に関し,分析を行ない,結論を引出してきた諸国際機関の作業を賛意をもって留意する。我々は,これら諸機関が適宜作業を継続することを勧奨する。
(10)我々は,環境保全,天然資源のより有効な利用及び健康に関する研究についての協力を強化していくことに合意した。
ここウィリアムズバーグにおける我々の討議は,景気回復の先行きにつき,新たな自信を与えるものである。我々は,健全にして,持続的な景気回復を促進するため,引続き存在する諸問題に協力して対処し,もって自国の国民と世界の人々に対し,新たな雇用とより良き生活をもたらしていくとの決意を一層強くした。
我々は,明年再び会合することに合意し,英国におけるこの会合の開催についての英国首相の招待を受諾した。
付属文書
成長と安定のための経済協力面での協力の強化(仮訳)
1.昨年,ヴェルサイユで合意された約束において,世界経済の均衡のとれた成長と発展に資するよう一層の通貨安定を確保するための手続きが概説されているが,我々は,我々の経験に照らしこの手続きを検討した。
2.我々は,所得及び雇用のインフレなき拡大を達成し,また,この方向で経済情勢の一層の調和をもたらすような政策を通じ,為替市場の安定を促進するとの目的を再確認する。
3.我々は,ヴェルサイユで合意した手続に従い,次のアプローチによりIMF(国際通貨基金)の監視作業に関し,IMFとの多角的協力を強化しつつある。
A.我々は,中期的な経済条件の調和をもたらす短期的な政策行動に焦点をあてている。短期的な政策における新たな措置が不調和をもたらさないようにし,企業及び金融市場に安心感を与えるためには全般的中期的展望が今後とも不可欠である。
B.ヴェルサイユで行った合意に沿って我々は,通貨及び金融財政面の問題につき,他分野の政策との相互作用を含め,焦点を当てている。
我々は,我々自身の政策決定の国際的影響を十分考慮に入れる。今後検討に付される政策及び目標は次のものを含む。
(1)金融政策今後のインフレ再燃と金利反騰を防止し,もって持続的成長のための余地を与える通貨供給量の規律あるインフレなき伸び及び適切な金利。
(2)財政政策我々は,望ましくは,政府支出に対する規律を通じて,構造的財政赤字を減少させることを目指すと共に,財政政策の金利と成長に与える影響を念頭に置く。
(3)為替政策我々は,「為替市場介入の研究」の結論を念頭に置きつつ,為替市場の安定に資するため協議,政策調和及び国際協力を改善する。
(4)生産性及び雇用のための政策我々は,効率的な経済的決定の指針として市場の指標に依存する一方で,特に若年失業者問題に関心を払いつつ我々の労働力の訓練及び移動を改善し,引続き構造調整を推進する。
特に,
……各国経済及び金融市場の弾力性及び開放性を高める。
……研究・開発,収益性及び生産的投資を奨励する。
……構造調整措置(地域,部門,エネルギー政策等)について各国が継続的な努力を払い,また,適切な場合には国際協力の改善を図る。
4.我々は,我々が達成している進展をこの枠組の中で,引続き定期的に共に評価し,随時必要となる是正措置を検討し,また,重要な変化に対し迅速に対応する。