(4)第22回OECD閣僚理事会共同声明

(83年5月10日,パリ)

1.経済協力開発機構(OECD)の閣僚理事会は,5月9,10日に開催された会合において,既に進行中の経済回復を持続し,拡大するための中期的アプローチにつき合意した。閣僚は,現下の非常に高水準にある失業を減少させるために,今やOECD加盟諸国における持続的インフレなき成長の拡大を目指すべきであることにつき合意した。

2.閣僚は,各国間及び各地域間には強力な経済的連関(リンケージ)があるため,国際的な貿易,通貨,金融体制を強化するための政策形成においては,共同責任を有していることを認識した。

3.従って加盟国政府は,以下を行う意図を有する。

(1)雇用創出と,より高水準の雇用の促進をはかるために,現在OECD地域の重要な部分において現出しつつある成長への余地を活用すること。

(2)引き続き,インフレを抑制し,経済活動の改善に対する構造的障害を克服すること。

(3)経済回復がもたらした好条件を,保護主義的傾向を覆すために,各国別に及び共同して,活用する。

(4)債務国の回復,及び調整の進展にともない,国際的な債務問題を貿易拡大的な方法で解決するために努力すること。

(5)より貧しい開発途上国に対する一層効果的な支援を提供すること。

4.会議では,コレット・フレッシュ=ルクセンブルグ副首相兼外務対外貿易・協力大臣兼経済・中産階級大臣が議長を務めた。副議長は安倍晋太郎日本国外務大臣及びタルト・フルダラー=スイス経済大臣が務めた。閣僚は,加盟各国の経済政策及び貿易関係の見直しに加え,開発途上国の困難な状況及び経済回復の恩恵を享受する為に必要とされる諸政策について検討した。閣僚は,開発途上国との対話,特に第6回UNCTADにむけての準備について討議した。閣僚は,東西経済関係についても見直しを行った。

5.最後に,閣僚は,1983年5月8日に開催された国際エネルギー機関閣僚理事会の結論について,ウィリアム・パーチ=ニュージーランド・エネルギー大臣より報告を聴取した。閣僚は,事務局が準備したエネルギーの必要量及び安全保障研究とこれに関する討議を留意し,この結論を承認した。

持続的成長への移行

6.閣僚は,一層のインフレ抑制の達成を歓迎した。しかしながら,閣僚は,高率で未だ上昇しつつある失業水準に重大な懸念を有している。従って,幾つかのOECD加盟国経済に,今日好転の兆候が現出し始めていることに勇気付けられるものである。不確実性と危険性は残っているが,閣僚は,持続的回復への展望は過去数年に比べ改善されていること,及びインフレなき持続的成長とより高水準の雇用への移行を確実なものとすることが,政策の中心的課題であることにつき合意した。

共通の政策諸原則

7.閣僚は,全ての加盟国に関し,以下の政策諸原則につき合意した。

(1)諸政策は,政策意図の一貫性を明確にするために,中期的枠組の中で確固たるものとして設定される必要がある。このことは,必然的に,状況が要請する場合には,諸政策の施行にあたって柔軟性を要求するものである。

(2)広範な経済的諸連関(リンケージ)は,個々の国の国内政策目標達成能力が,他国の政策及び活動に大きく依存していることを意味する。加盟各国は,政策の整合性を確保するために加盟各国がとった政策の総合的な国際的影響を考慮に入れることが重要である。

(3)為替相場の一層の安定を達成することは,為替相場の硬直性を意味するものではないが,これは追求さるべき主要な目的及びコミットメントの一つである。この関連で,閣僚は,1983年4月29日にワシントンにおいて発表された7加盟国の大蔵大臣による合意において設定された諸原則に留意し,それを歓迎する。

(4)経済活動の改善及びより高い雇用の為には,マクロ経済政策と構造政策とがバランスよく用いられることが必要である。インフレが鎮静化し,供給サイドが敏感に反応するようになるにつれて,成長の余地は増大する。この目標のために,

(i) マクロ経済政策はインフレ抑制と着実な実質的成長という中期的目標と合致したものであるべきである。幾つかの国は,この点に関し,名目所得の目標の設定を有益とみている。

(ii) 雇用創出的な生産的投資の収益性を高めるような諸政策が要請される。

(iii) 団体交渉においては,投資を促進し,インフレなきより高い雇用水準への見通しを最大化する必要性が考慮に入れられるべきである。

(iv) 積極的調整政策は,競争及び市場の柔軟性を増進し,また資源の配分を改善するために必要である。

(v) 労働市場の諸政策は,失業という負担,特に若年層における失業を軽減するために重要である。訓練を含む目標をたてた計画は,構造的失業問題に対処するために役立ち得る。

(vi) より強固な社会的合意を促進することは,多数の国において,諸政策問に必要なバランスを達成する上で重要な役割を果し得るものである。

8.これらの政策諸原則はすべての加盟国にとって共通のものである一方,閣僚は,各国が異なった状況下にあることも認識した。すべての国が,経済活動回復のための前提条件の確立にあたって,一様に成功しているわけではない。したがって,重点をおくべき適切な政策は国により異なる。

国内諸政策

9.OECDのGNPの約70パーセントを占める幾つかの国においては,インフレ率は,1960年代の水準に近づいている。民間のコンフィデンスが強化され,構造的不均衡への対策面で進展がみられ,そしてこれまで微弱であった経済活動が今や回復を開始している。実質金利の一層の低下を目指すべきである。このような国々について,閣僚は,既に現出している生産及び雇用の改善の余地を活用することの重要性につき合意した。特に,

(1)金融政策に関しては,通貨供給の総量は,インフレを継続的に抑制し,同時に金利の持続的低下を容認しつつ,中期的に持続的な成長を許容するものであるべきである。現在とられている金融政策は,全般的にみてこのアプローチに合致したものである。通貨供給総量の目標値は,石油価格の下落に合わせて引き下げられるべきではない。同様に,金融政策は,インフレを誘発するような賃金,及びその他の所得の要求の再発を許容すべきではない。

(2)財政政策は,持続的インフレなき成長,より高い投資と雇用と合致したものであるべきである。成長及び雇用をささえるのに必要な投資の余地を作るために,構造的財政赤字が削減される必要がある。将来における構造的赤字増大が懸念される国々においては,このような大規模な財政赤字を現実化させず,またこれによる金利低下を許容するため,直ちに行動することが重要である。金利が国際的に強く波及するものであることを考えれば,このような行動は世界経済の回復を促進することになろう。構造的赤字の削減は,経済回復を阻害しないようになされなければならず,また,多数の国における同時的行動による累積効果も考慮に入れなければならない。このような施策を支えるための措置の導入が検討される場合は,投資の促進を目指すように計画されるべきだ。

10.OECDのGNPの約20パーセントを占めるその他の幾つかの諸国においては,インフレ抑制面での一層の前進が要請されており,また,景気回復に対する構造的障害が一層深刻である。その結果,短期的には成長の余地はより少ない。これら諸国に関しては,閣僚は,引き続き抑制的金融政策の継続が要請されること,そして,一貫した中期的アプローチの一部として構造的財政赤字が一層削減されなければならないことにつき合意した。また,特に,構造的障害の削減に向け一層の努力が払われることが重要である。

11.残りの加盟国においては,国際的不況と慢性的構造問題が,懸命の努力にもかかわらず,高い失業率と不完全就業率をもたらすなかで,インフレ率はいまだ非常に高水準にある。これら諸国においては,市場の柔軟性の限界,構造的不均衡及び金融・財政運用上の諸困難が中心的課題であり,閣僚は,これらの問題の根幹に取組まなくてはならないことにつき合意した。OHCD地域の持続的回復と,より低い金利,及びより改善された貿易環境は,これらの国々における経済活動の改善を一層容易ならしめようが,第一義的にはこれら諸国の国内政策の課題である。

貿易,債務及び調整

12.閣僚は,現在債権国と債務国の間に作用している。成長,貿易及び債務相互間の強力な連関(リンケージ)につき討議を行った。閣僚は,マクロ経済,貿易及び金融政策の形成に当たり,これらの連関を可能な限り全面的に考慮に入れることの重要性につき合意し,またこれに関連した諸問題の解明を助けるためにOECDが行っている作業を歓迎した。閣僚はまた,世界不況が,対処する必要のある構造的な問題を露呈させたことを認識した。

13.閣僚は,厳しくかつ根深い経済・社会的困難の時期に,世界貿易体制が基本的には維持され得たことに留意した。しかし,閣僚は,不況の衝撃や構造変化から脆弱な産業や企業を保護するための保護主義的貿易ないし国内的助成措置が維持されているばかりでなく,拡大さえしていることを認識した。このような措置は,より大きな潜在的成長力や雇用創出力を有する分野への資源の移動を阻害してきた。持続的成長への復帰のためには,一層の積極的調整政策,市場機能への依存の強化及び一層の生産的な投資が必要である。

14.閣僚は,全般的な経済面での協力の枠組の中で,開放的かつ多角的貿易体制の強化が,回復と持続的成長への移行を支える上で不可欠であることにつき合意した。

したがって閣僚は,経済回復は,その進行につれ好条件を提供するが,加盟国はこのような条件を,保護主義的傾向を覆し,貿易に対する規制措置や貿易歪曲的な国内措置,特に最近の低成長期に導入された諸措置を漸進的に緩和・撤廃するために各国別に及び共同して,活用すべきであることにつき合意した。閣僚は,適当なフォローアップの為の手続きを事務総長に提案するよう要請した。同時に,閣僚は,ガットとOECDにおいて貿易体制とその機能を向上させるために現在行われている作業計画は,積極的に推進されるべきであることにつき合意した。

15.閣僚は,国際通貨基金(IMF),国際決済銀行(BIS),債権・債務国政府,及び商業銀行による国際金融体制の有効な機能を保持するための協力的努力を歓迎した。また,閣僚は,多数の債務国が,インフレのより低い世界に調整するために現在行いつつある断固たる努力を認識した。

16.かくして,回復の進展について,貿易を拡大しながら債務問題を解決するための中期的アプローチを展開するための基礎が固められた。ここでの目的は,資金が生産的に使用され得る国々に対し,国際的な資本市場を通じ,資金の流れを維持するための基礎を保持することにある。このようなアプローチの一つの要素は,貸し手と借り手との間の通常の規律を維持することである。今一つの要素は,対外借入が国際市場で競争力を持ち,また現実の競争に参加できるような効率的経済を開発するために使用される場合に,国際的貸付けは借り手,貸し手双方の利益に対し,最大の貢献をなすこととなるという点である。

17.この目的のために,閣僚は,以下の方向で,債権国及び債務国の双方が一層大きな努力を払うことの必要性につき合意した。すなわち,

(1)断固とした国内調整政策を支持するため,債務国に対し,不可欠な輸入につき十分な水準を維持,ないし回復するのに充分な資金の供給を維持すること。

(2)より予想可能性が高く,かつ透明性の高い貿易制度を確立し,貿易障壁を削減し,更により市場主導型の国内的構造政策を遂行するために,既存の国際合意の枠組の中で相互補強的な行動に向けた努力を払うこと。

開発協力,対話そしてUNCTADVI

18.閣僚は,最も最近ではブエノス・アイレス宣言の中で開発途上国が,世界経済の相互依存及び対話とコンセンサスに重要性を付していることを歓迎し,これと認識を共有した。閣僚は,来月のUNCTADVIにおいて,開発途上国及び他の参加国と共に,現下の世界経済の問題に関し,共通の理解に達するべく理解と協力の精神に基づき,検討を行う用意があることを再確認した。特に,閣僚は,以下の目的で先進国及び開発途上国が建設的な対話と協力を一層進展させるために成し得る貢献につき討議を行うことを期待した。

(1)既に始まっている経済回復から全ての国が利益を得,経済及び社会的発展が途上国世界において加速化されることを確保すること。

(2)低開発及び貧困の根本的問題に取り組むため,開発協力政策に関し今後とも共同して努力すること。

19.閣僚は,世界経済の低迷が,特により貧困な開発途上国の多くに対し,厳しい困難をもたらしていることを認識した。このような挑戦に立ち向かうためには,これら諸国には困難かつ果敢な政策が必要とされよう。経済が回復するに従い,これらの諸国は輸出に対する需要の増加とより高い一次産品価格から利益を得るであろう。

しかしながら,閣僚は,外部からの支援が,これら諸国のより長期的開発を再び始めることを容易にする上で決定的な重要性を持ち続けることを認識した。従って閣僚は以下につき合意した。

(1)国際的援助目的に対するコミットメント,特により貧しい開発途上国向けのものの実現に向け,援助を維持し,できる限り増加させること。

(2)適当な国際機関と共同し,より貧困な開発途上国が,調整を行い,開発の進展を再開する上で必要な,困難な政策的改革を実施する際に支援を行うこと。

(3)多角的な開発機構,特に国際開発協会(IDA)に対する全ての出資者から充分な資金を確保すること。

20.閣僚は,開発途上国の対外借り入れ先を多様化し,特に,直接投資を誘引する潜在的可能性をより十分に活用することが望ましい点につき合意した。

21.閣僚は,経済回復の当面の必要性を越えて,開発協力政策を推進していくことに対する政府のコミットメントを強調した。閣僚は特に,開発途上国の輸出収入を強化し,より大きな安定を達成するために,彼らと共同して対応することの重要性を認識した。閣僚はまた,技術協力の重要性を認識するとともに,資金を一本化した強力な国連の技術協力制度へのコミットメントを再確認した。

東西経済関係

22.昨年の閣僚による決定を受け,OECDは,ソビエト連邦及びその他の東欧諸国との貿易及び金融上の関係の進展につき徹底的な経済分析を行ってきた。閣僚は,これらの関係の発展は,幾つかの例外はあるが,より市場志向型経済との関係に比し,動態的ではなく,初期の期待に沿うものではなかったことに留意した。

23.このような純粋に経済的な分析は,東西間の貿易及び信用の流れは,市場動向によって導かれるべきことを示している。これらの動向に鑑み,政府は金融面で節度ある対応をなすべきであり,優遇的待遇を与えるべきではない。さらに,閣僚は,中央計画経済の国家貿易体制に関わる諸慣行については,OECDにおいて厳密に検討する必要のある問題を生ぜしめ得ることを認識した。より一般的には,閣僚は,状況の変化に照らし,OECDが東西経済関係の見直しを継続すべきであることにつき合意した。

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