第4節 国際連合の諸活動に対する協力
1. 今日の国際連合(国連)
国連は,国際の平和と安全の維持及び諸国民の経済的・社会的・文化的・人道的発展を目的とする国際協力促進を図るための最も普遍的な機関である。
国連は1945年に51か国を原加盟国として発足したが,創立40周年を85年に控えた現在,加盟国数は158に膨らみ(第39回国連総会でブルネイが159か国目の加盟国となる),その機能も,その歴史の中で起こった国際政治経済情勢の変化に伴い当初の意図とは異なった形の発展をとげている。例え
ば,国連憲章が予定した強制的紛争解決手段は機能し得ないのが現在の世界政治の現実であるため,代わっていわゆる「平和維持機能」が発達した。また経済・社会分野では,数多くの新興独立国の加盟を反映して「南北問題」の比重が増大し,「新国際経済秩序」の構築の要求などを中心に,国連の機能強化への開発途上諸国の声が高まっている。
国連のこうした変遷は,国連が国際情勢の現実を端的に反映する場であることの証左にほかならない。すなわち,現在の世界が主権国家をその基本単位として構成されているのと同様,国連においても,それが何をなし得るかは,全面的に加盟各国の意思に左右されると言うべきであろう。
ただし,このことは,加盟国の普遍性,取り扱う問題分野の包括性という国連の現実の存在意義を何ら損うものではない。加盟各国間・各問題間での相互依存の程度がいずれも増大しつつある今日,国連の果たし得る役割は,むしろますます増大しつつあると言えよう。
2. 我が国と国際連合
(1) 我が国の基本的態度
我が国は,1956年の国連加盟以来,上記1.に述べた国連の意義を認識して,その目的に対し積極的な支持を与えてきている。近年は我が国の国際的地位の向上に伴い,同時に国際的責任も増大しており,このため,諸活動に一層積極的に参加・協力・支援を行ってきている。これは例えば,我が国が現在までに通算5回安全保障理事会非常任理事国を務めている(ブラジルと並び最多数選出)ことや,国連機構諸機関の活動に対して大きな財政的支援を行っている(分担金,任意拠出金ともに82年には米国に次いで世界第2位)こと等に現れている。
国際社会に対して,我が国が国連を通じたこのような協力・支援を行うに際して,その基盤を形成してきたのは,国民の幅広い層から得られた国連の目的と諸活動とに対する強い期待と支持である。国連が国連に対する内外の期待にこたえる能力を一層高めるべく,他の加盟国と共に努力を続けると同時に,国連の活動に関する国民的理解と支援とを引き続き強固なものとしていくことは,共に我が外交の基本政策の一つと言わなければならない。
(2) 国連における我が国の83年の活動
このような基本政策に基づいて,83年にも我が国は活発な国連外交を展開した。その主要なものは以下のとおりである。
(イ) 我が国は現在安保理事国ではないが,9月に起きた大韓航空機撃墜事件の際には独自の立場から安保理の開催を要請,安保理審議では米国を通じてソ連機と地上との交信テープを安保理の場で公表するなどソ連を非難し,その責任を追求する国際世論の糾合に貢献した。また,その直後の国際民間航空機関(ICAO)理事会特別会合でも,本件事件に関するICAO調査団の派遣等を内容とする決議を採択せしめた。83年10月のイラン・イラク紛争に関する安保理審議においては安保理事国とイランとの間の意思疎通に独自の立場から貢献した。
(ロ) 83年の第38回国連総会では安倍外務大臣が,9月28日に一般討論演説(資料編参照)を行い,「平和と繁栄」を主題として我が国の積極的外交努力を強調した。同大臣は演説の冒頭で大韓航空機撃墜事件を取り上げ,我が国の明確な態度を表明した上,軍縮への熱意及び南北問題への積極的取組みを表明した。さらに同大臣は主要な国際問題に対する我が国の立場を明らかにしたが,特にイラン・イラク紛争については,我が国独自の立場からその早期かつ平和的解決を訴えた。また従来と同様,北方領土問題についての我が国の立場を明らかにした。またこの機会を利用して,同大臣はペレス・デ・クエヤル事務総長と会談したほか,20か国の首脳及び外相と会い意見交換を行った。
このほか,我が国は同総会で,カンボディア,ラングーン・テロ事件,中東,アフガニスタン,南部アフリカ,フォークランド問題等に関する審議に積極的に参加した。
(ハ) 83年の国連やジュネーヴ軍縮委員会(84年から軍縮会議と名称変更)における軍縮問題の審議・交渉は,中距離核戦力(INF)交渉に象徴される東西間の立場の相違の影響もあり,全体として顕著な進展は見られなかった。
このような状況下,我が国は,軍縮は,そもそも忍耐強い交渉を必要とするものであるとの考えに立ち,地道ながらも可能な範囲で一つ一つ具体的な貢献をしていくとの方針で臨んだ。この観点から,米ソ間核軍縮交渉の進展を訴えるとともに,核実験全面禁止,核不拡散条約体制の維持強化,化学兵器禁止等を優先課題とし,国連総会,ジュネーヴ軍縮委員会等において積極的努力を行った。
(ニ) 我が国は,経済問題についても,国連を中心とする活動に積極的に参加した。国連加盟国の大半を開発途上国が占めていることもあり,国連で扱われる経済問題は,ほぼ南北問題と呼ばれる分野に属するものであり,国連総会,国連貿易開発会議(UNCTAD),国連開発計画(UNDP),国連工業開発機関(UNIDO),国連アジア・太平洋経済社会委員会(ESCAP)等の場においては,引き続き南北問題の解決への努力が払われた。