(10)米国の中東和平新提案に関するレーガン米大統領演説(要旨)

(1982年9月1日,ワシントン)

1.本1日,PLOのベイルート撤退が完了した。米海兵隊派遣部隊も2週間内に撤退しよう。しかし,レバノン情勢は中東紛争の一部にすぎないのであり,それゆえ,米国は過去2週間秘密裏に中東におけるより包括的な和平の基礎を築くための努力を行ってきた。レバノンでの合意が成立した現在,より広範な和平努力の機会がもたらされた。米国はこれまで中東地域に平和をもたらすべく努めてきたが,それは,米国にとって道義的義務である。

2.中東においては,ソ連の脅威の存在とアラブ・イスラエル紛争という二つの主要な問題があるが,米国は,アラブ・イスラエル紛争についてはキャンプ・デービッド合意の枠組みを唯一の解決の方法と考えてきた。その第1の目標はイスラエル・エジプト平和条約の実施であった。これがイスラエルのシナイ撤退により完了し,和平過程の次の段階である自治交渉に進もうとしたところレバノン紛争が発生したため,ベイルートを巡る交渉のかたわら中東政策の見直しを行ってきた。我々は,レバノンの再建を図るための援助を行う必要がある一方,アラブ・イスラエル紛争の根本原因解決に取り組む必要がある。

3.レバノンでの戦争の結果,(イ)PLOは軍事的に敗北したが,パレスチナ人の公正な解決への希念は減じていないこと,及び(ロ)イスラエルの軍事力の卓越さが証明されたが,それだけでは公正かつ恒久的和平はもたらされてないこと,の2点が明確となった。問題はイスラエルの安全保障とパレスチナ人の正当な権利をいかに調和させるかであるが,全当事者が妥協することが必要である。

4.自分は「新たな出発」を呼び掛ける。直接関心あるすべての当事者が実際的な平和の基礎に参加すべき時である。CDAは引き続き米の政策の基礎である。イスラエルに対しては,真の平和によってこそ自らの安全保障が達成されることを明らかにすること,パレスチナ人に対しては自らの政治的念願はイスラエルの安全に対する権利と結び付いていることを認めること,またアラブ諸国に対してはイスラエルの存在という現実を受け入れること,を求める。

今こそ「イスラエル」という国家が既成の事実であることを認めるという新しい現実主義が中東において必要である。

他方レバノンにおける戦争で明らかになったもう一つの現実は,ベイルート退去によりパレスチナ人が郷土を有していないことである。パレスチナ人の問題は単なる難民問題ではない。この点はCDAも認めている。

平和が恒久的であるためには,紛争の影響を受けた者すべてが関与する必要がある,和平過程の参加者がより広範囲となること,特にまずはジョルダン及びパレスチナ人が参加することによってイスラエルとしてもその安全が隣国すべてに尊重されると確信できるようになるのである。

5.上記は一般的目標であるが,米国として新たに次のとおり具体的な立場を明らかにする。米国はこれまで交渉の仲介者として主要問題に対するコメントを公にすることは避けてきたが,和平過程への幅広い支持を得るために米国の立場をより明らかにする必要があると考える。

(1)CDAの規定にあるとおり西岸・ガザのパレスチナ人が完全な自治を享受する期間が必要である。

米国は,この過渡期間中に新たな入植が行われることに反対である。さらに,イスラエルが入植の凍結を直ちに行うことは,和平過程により広範な参加を得る必要な信頼を醸成しよう。

(2)過渡期後の西岸・ガザの地位については,パレスチナ独立国家の設立によってもイスラエルの併合・恒久的支配によっても平和は達成されないことは明らかであり,米国は,いずれも支持しない。

この地の最終的地位は交渉によって決められるべきはもとよりなるも,米国としてはジョルダンとの連携の下でパレスチナ人の自治こそが恒久的・公正・永続的な平和への最善の途と考える。

(3)米国としてはアラブ・イスラエル紛争解決のためには領土を手放す代わりに平和を手に入れることが必要と考えており,かかる構想は安保理決議242に規定され,CDAもこれを包含している。

米国は決議242の撤退条項は西岸・ガザを含むすべての戦線に適用されるとの立場である。

イスラエル・ジョルダンの国境を巡る交渉については,イスラエルがどの程度領土を手放すべきかはその見返りとして提供されるべき真の平和,関係正常化及び安全保障上の措置の程度によることとなろう。

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