(6)北大西洋条約機構(NATO)首脳会議共同宣言(仮訳)
(1982年6月10日,ボン)
1.我々,北大西洋同盟16か国の代表は,汎大西洋パートナーシップの依拠する共通の価値観と理想への我々の献身を再確認する。
2.議会制民主主義への平和的移行を行ったスペインの北大西洋条約への加盟は,平和と自由の勢力としての同盟の活力の証左でもある。
3.同盟は3分の1世紀もの間,平和を維持してきた。同盟は国連憲章により認められた集団的自衛と相互安全保障によって安全を確保しようとする自由諸国の集合体である。同盟は依然として強力な防衛力による侵略の抑止と建設的な対話による平和の強化のための不可欠な機構である。我々の連帯においては各加盟国が自国の政策と国内発展を自由に選択する権利を有し,高度の多様性が認められている。そこに同盟の強みが存する。相互尊重の精神に基づき,我々は常時自由かつ緊密な協議を通じて我々の目的と利益を調整する用意がある。これらは日々の同盟間の協力の中心であり,更に適切な形で強化されるであろう。我々は対等のパートナーの関係にあり,支配者も,被支配者もいない。
4.他方,ソ連は厳格かつ上意下達の組織を維持するため,同盟国にブロックとして行動するよう要求している。
さらに,我々の経験は,ソ連が最終的に自国の国境を越えての武力の行使又は武力による威嚇を意図していることを示している。アフガニスタン及びポーランド危機に関するソ連の態度はこのことを如実に示している。ソ連は過去10年以上にわたって自国の資源の大部分を巨大な軍事力の建設に振り向けたが,これは自衛に必要な範囲をはるかに越えたものであり,世界的規模での軍事力の展開を支援している。かかる規模での脅威を生み出す一方で,ワルシャワ条約加盟国政府は西側の防衛努力は侵略的であると非難している。
これら諸国は自国内における一方的軍縮運動を禁止する一方で,西側における一方的軍縮要求を支援している。
5.世界の安定と平和のためにはソ連側のより一層の自制と責任が必要である。我々は同盟の原則と目的を再確認しつつ,以下の「自由の下での平和のためのプログラム」を提示する。
(1)我々の目的は民主主義を擁護しつつ,戦争を防止し,永続的な平和の基礎を築くことにある。我々は,攻撃に対する防衛以外に武器を使用しない。我々はすべての国の主権,平等,独立,領土保全を尊重する。この目的を成就するため,我々は適切な軍事力と政治的連帯を維持し,これを基礎に,ソ連がこれを可能にするよう行動するならば,対話,交渉及び互恵的協力を通じ,より建設的な東西関係の構築のための努力を継続する。
(2)我々の目的は侵略と威嚇を抑止するに足る通常戦力と核戦力によって北大西洋地域の安全を確保することである。そのためには軍事的優位を求めることなく防衛態勢と軍事力の改善に向けての全加盟国による継続した努力を必要とする。我々はこの目標を達成するために必要な資源を有している。欧州における北米軍のプレゼンスと米国の戦略核コミットメントは同盟の安全に不可欠な要素である。欧州同盟諸国による防衛力の維持と継続的改善が同様に重要である。我々は,実際的協力開発分野の可能性に妥当な考慮を払いつつ,国家資源の防衛分野への使用をより一層効果的に行う必要がある。この意味で,関係同盟国は技術的・経済的両側面より最新技術を最大限に活用する方法を早急に検討する。同時にワルシャワ条約機構(WP)諸国への西側の軍事関連技術の移転を制限するため,適当なフォーラムで措置がとられる。
(3)我々の目的は,可能な限り低い水準で安定的な力の均衡を達成し,世界の平和と安全を強化することにある。
我々は,軍事的に意味があり,公平でかつ検証可能な軍備管理・軍縮協定に関し包括的な一連の提案を行った。我々は,米ソ間の戦略核兵器の実質的削減交渉(START),及び米ソ双方が最大の関心を有する地上配備の中距離ミサイルの全廃を初めとする,中距離核兵器の厳格かつ効果的な制限のための交渉(INF)に向けての米国の努力を全面的に支持する。我々は欧州における東西双方の通常戦力の実質的な削減を求め,全欧州における信頼を醸成し,安全を強化する措置に関し合意を達成するための努力を継続する。このため,我々の中で,ウィーンにおけるMBFR交渉に参加している同盟諸国は,同交渉に新たな刺激を与えるために新提案を行うことに合意した。
また,我々は,より広範な国際的な軍備管理・軍縮交渉に積極的な役割を演じる。ニューヨークで開会したばかりの第2回国連軍縮特別総会では,我々は軍縮交渉に新たな動きを与えるよう努力する。
(4)我々の目的は,真のデタント(GENUINE DETENTE)を目標とする実質的かつ均衡のとれた東西関係を発展させることである。このためには,どこに位置している国であろうともすべての国の主権が尊重され,人権が国益の犠牲にならず,一方的プロパガンダに代え思想の自由な交流が行われ,自由なる人的交流が可能となり,安定性及び公開性に特徴づけられた軍事関係の樹立への努力がなされねばならない。さらに,一般的にヘルシンキ最終文書の原則と規定が全体として適用されるべきである。我々としてはかかる精神の下何時でも交渉に応ずる用意があり,このような態度が相互的なものであるとの確実な証左を求めている。
(5)我々の目的は,全世界の平和的発展に貢献することである。我々は,外部からの干渉を助長する低開発や緊張といった不安定要因を除去するため努力する。我々は飢えと貧困との闘いにおいて自己の役割を今後とも引き続き果たす。真の非同盟を尊重することは,世界の安定にとって重要である。我々はすべて,世界の他の地域における平和と安全に関心を有している。我々はこれらの地域の出来事で我々の安全保障に影響を及ぼすものについては同盟の共通の目的を考慮しつつ適宜協議する。我々の中でそうすることのできる立場にある者は,安全と独立が脅かされている主権国家からの援助要請にこたえるよう努力する。
(6)我々の目的は,同盟の安全を保障する全体としての能力を強化し,同盟諸国の経済的,社会的安定を確保することである。各国の政策の他国への影響に留意しつつ,インフレの抑制及び安定成長並びに高い雇用水準の回復を最重要視している。WP諸国との経済関係が安定的東西関係の進展に果たす重要性に留意しつつ,我々は政治上及び安全保障上の利益に合致するような形で慎重かつ多様な方法で東西経済関係に取り組む。東西経済関係は双方にとっての利益が均衡するような形で行われるべきである。
我々は,WP諸国との金融関係を,輸出信用供与における商業上の慎重さをも含むような健全な経済基盤に基づいて取り進めるよう努める。我々は,しかるべきフォーラムにおいて,WP諸国との経済,商業及び金融上の関係のあらゆる側面について情報を交換することに合意する。
6.同盟に共通な基本的価値へのコミットメントはドイツとベルリンの状況に関してほどはっきりと現れたことはない。我々はベルリンの安全と自由に対するコミットメントを維持し,ベルリン市内外の平穏な状態を維持する努力を継続する。両独間の関係改善に向けてのドイツ連邦共和国の努力が引き続き成功を収めていることは欧州における平和の確保にとって重要である。我々は,ベルリン及び全独に関する4か国の権利と責任は不変であり,独国民が自由な状況で民族自決を通じ再統一を獲得できるよう欧州に平和状況を作り出すことを目指し努力するというドイツ連邦共和国の政治的目的を支持する旨再確認する。
7.我々はすべての国際テロリズム行為を非難する。それらの行為は人間の尊厳と人権に対する明白な侵害であり,正常な国際関係の運営に脅威となっている。国内法に従って,我々はテロを防止制圧できる最も効果的な協力の必要性を強調する。
8.我々は,ソ連に対し,国際的に受け入れられた行動規範を遵守し―それなしには安定的な国際関係が展望できない一建設的な関係,軍縮及び世界平和の探求に今こそ我々と参加するよう求める。