第6節 法律問題

国家の財産,公文書及び債務に関する国家承継ウィーン条約

1.「国家及び政府の承継」は,1949年の国際法委員会(ILC: International Law Commission,国際法の漸進的発展と法典化を目的として47年に国連総会決議により設立)第1会期以来,ILCの研究課題の一つとされてきた。ILCは,74年に「条約に関する国家承継条約草案」を採択し,同草案は78年にウィーンでの全権会議において審議され,条約として採択された。

続いて81年にILCは,「国家の財産,公文書及び債務に関する国家承継条約草案」を採択し,第36回(81年)及び第37回(82年)国連総会決議(36/113及び37/11)に基づいて,83年3月1日から4月8日まで,ウィーンにおいて,ILC草案の審議,採択のための全権会議が開催された。右会議には我が国を含む90か国が参加し,4月8日,「国家の財産,公文書及び債務に関する国家承継ウィーン条約」が採択された。

2.同条約は,原則としてこの条約の発効後に生ずる国家の承継について,先行国と承継国との間又は承継国間における国家の財産,公文書及び債務の分配に関し,国家承継の類型(領域の一部の移転,新独立国,結合,領域の一部の分離,分裂)別に規定するものであり,主な規定としては,(i)新独立国の場合,国家の財産及び公文書は,所在地,承継される領域との関連,財産形成への貢献等の基準に従って移転されるが,債務は原則として移転されない(第15条,28条,38条),(ii)領域の部の分離の場合,国家の財産,公文書及び債務は,特段の合意がない限り,所在地,承継される領域との関連,衡平等の基準に従って移転される(第17条,30条,40条)等がある。

3.ウィーンの全権会議での同条約の採択(賛成54,反対11,棄権11)に当たっては,開発途上諸国及び東欧諸国が賛成投票を行い,他方,西側諸国は,不明確な文言の多用,不十分な紛争解決手続,一部開発途上諸国の天然資源に対する恒久主権原則の解釈,交渉と妥協を受け入れない上記全権会議での開発途上諸国の交渉の行い方等が妥当でないとの見地から,一致して棄権若しくは反対した。我が国は,主として,承継についての第三国の立場を保護するとの観点から本件会議に対処し,この面での問題の解決にはかなりの成果を収めたが,他の西側諸国と同様の理由により,条約全体の採択に当たっては棄権し,同時に本条約は条約締約国以外のいかなる国をも拘束するものではないことを確認する旨記録にとどめた。

4.ILCが原案を作成して国連主催の条約採択全権会議で採択された一連の条約中,西側諸国が一致して棄権若しくは反対投票を行ったのは今回が初めてであり,今後の法典化作業全般に与える影響が注目される。

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