第4節 国際連合の諸活動に対する協力
1.今日の国際連合
国際連合は,国際の平和と安全の維持及び諸国民の経済的及び社会的発達を促進するために設立された最も普遍的な国際機構である。国連も創設以来30余年たち,加盟国も60年代に独立を達成した数多くのアジア・アフリカ諸国を加え,現在158か国と創設時に比し3倍以上に膨らんでいる。加えて,東西関係,大国間関係の推移,先進工業国相互の関係の変化,石油産出国の台頭,中進国の伸長等々,この間に起こった国際政治経済情勢の変化に伴い,国連の機能も当初意図されたものとはかなり異なった形で発展してきている。
例えば国連の主要機関たる信託統治理事会のごとく,実質的にはほとんどその使命を全うした機関がある一方,経済社会分野においては新国際経済秩序や新情報通信秩序といった新たな秩序形成を目指す第三世界の諸国の声が高まり,国連は南北問題を最重点事項の一つとして取り組んでいる。さらに,国際の平和と安全の維持という国連の主要目的達成のため当初憲章で予想された強制的紛争解決機能に代わり,いわゆる「平和維持活動」が発達を見せた。国連の紛争防止あるいは解決の能力自体は必ずしも十分に発揮されていないと国連事務総長自らが認めたごとく,最近かかる分野における国連の限界が意識され始め,そのための機能の強化が叫ばれている。
これら国連の問題点は,国連が,つまるところ国際政治の現実を端的に反映する機関であることの投影にほかならない。国連が世界の政治,経済,社会の現実に即応した形で何をなし得るかは,まず加盟国特に安保理常任理事国の意思と協力によるところが大である。
いずれにせよ,国際政治を議論する唯一の普遍的枠組みであり,かつ,環境,人口,食糧,科学技術,援助と貿易,海洋等広範な分野の問題を取り扱う国連の存在意義は,将来においてこれまで以上に大きいものと言えよう。
2.我が国と国際連合
(1)我が国の基本的態度
我が国は,1956年の国連加盟以来,国連の目的及び活動に対し積極的な支持を与えてきているが,近年我が国の国際的地位の向上に伴い,その国際的責任も増大しており,そのため広範囲にわたる国連の諸活動に一層積極的に参加し,協力し,支援してきている。例えば81/82年には5回目の安全保障理事会非常任理事国(ブラジルと並び最多数選出)として活躍したほか,我が国の国連分担金も米国,ソ連に次ぎ第3位,任意拠出金を入れると米国に次ぐ多額の拠出国になっている。
我が国が国連を通じて国際社会にかかる積極的支援を行うに当たっては,我が国民の幅広い層にわたり,国連の目的及び諸活動に対する強い期待と支持があることを忘れてはならない。国民的基盤に支えられた国連協力を進めていくことが我が外交の基本政策の重要な柱の一つであると言えよう。
(2)82年における我が国の国連活動
このような基本政策に基づき,我が国は国連において活発な外交活動を展開したが,その主要なものは次のとおりである。
(イ)我が国は,82年においても81年に引き続き安保理非常任理事国として(任期は82年末まで),フォークランド(マルビーナス)諸島問題,レバノン情勢,イラン・イラク紛争,南アフリカ政治犯問題等の諸問題の審議を通じ,世界の平和及び安全の維持に第一義的な責任を有する安全保障理事会の活動に積極的に貢献した。特に9月には我が国は安全保障理事会の議長を務め,レバノン情勢に関する諸決議の採択に寄与した。
(ロ)第37回国連総会においては櫻内外務大臣が,10月1日に一般討論演説(資料編参照)を行い,相互不信と緊張が継続している今日の国際社会において,国家間の相互信頼関係を構築するために,国連の機能を強化すべきであるとの観点から,国連の平和維持機能の強化,軍縮分野における国連の機能の充実,経済・社会分野における国連の役割の増強の3点を強調し幾つかの提言を行った。
さらに同大臣は,現在の国際情勢を見るに,国際紛争の解決を武力に求め軍事介入により自国の意思を他に強要する傾向があると警告した後,カンボディア,アフガニスタン,朝鮮半島,中東,ポーランド情勢等につき見解を述べた。なお同大臣は総会出席中,米国,ソ連をはじめとする多くの国の外交責任者とも精力的に意見交換を行った。
このほか,我が国は,同総会において,国連の平和維持機能強化,フォークランド(マルビーナス)諸島,カンボディア,アフガニスタン,中東,南部アフリカ問題等の主要政治議題に関する活発な審議に積極的に参加した。
(ハ)82年の軍縮分野における最大の出来事は,6月の第2回国連軍縮特別総会の開催であり,鈴木総理大臣をはじめ各国首脳が出席し各国の軍縮に対する真剣な姿勢が明らかにされたことの政治的意義は大きいと考えられる。また我が国や欧米諸国を中心とする多数の非政府団体がこの特別総会に参加し発言を行った。
同特総において我が国は,鈴木総理大臣が「軍縮を通じる平和の三原則」を訴えるとともに(資料編参照),(i)国連軍縮フェローシップ計画参加者の広島・長崎訪問,(ii)検証分野における国連の役割強化,(iii)我が国の原爆資料の国連への備付け,(iv)軍縮促進のための国連平和維持機能の強化・拡充に関する四つの作業文書を提出した。
また,第37回国連総会において我が国は,核実験の全面禁止,化学兵器禁止,兵器用核分裂性物質の生産停止等に関する七つの決議案を共同提案し,いずれも採択された。
他方,軍縮委員会において核実験全面禁止の「検証と遵守」を検討する作業部会が設置されたこと,化学兵器禁止作業部会のマンデートが改訂され,条約文言につき具体的交渉を行い得るようになったこと及び宇宙における軍備競争防止が議題に加えられたことは,従来の我が国の主張に沿うものであり,評価すべきことであった。さらに,我が国は,原子力施設攻撃禁止選択的議定書案を提出するなど軍縮委員会の活動に積極的に貢献した。
(ニ)我が国は,経済問題についても,国連を中心とする下記の諸活動に積極的に参加した。国連加盟国の大半を開発途上国が占めていることもあり,国連で扱われる経済問題は,ほぼ南北問題と呼ばれる分野に属するものであるところ,国連総会,国連貿易開発会議(UNCTAD),国連開発計画(UNDP),国連工業開発機関(UNIDO),国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)等の場においては,引き続き南北問題の解決への努力が払われた。
開発途上国のエネルギー問題に対処するため81年8月の新・再生可能エネルギー国連会議で採択された「ナイロビ行動計画」をフォロー・アップするものとして,第37回国連総会で,政府間委員会とそれを補佐する事務局の設立が決定された。
このような個別の分野における南北対話と並行して,第37回国連総会では,南北問題の最大の争点の一つである国連包括交渉(GN)の発足に向けて,6月のヴェルサイユ・サミットでの合意をベースとした先進国側とG77側との間で,引き続き精力的な交渉が行われた。
(我が国の南北問題解決に向けての努力の詳細については本章第2節2.及び第2部第4章第3節に記述のとおりである)