第3節 経済協力の積極的拡充
1.経済大国の責務としての経済協力拡充
(1)第2次石油危機を契機とした世界経済の低迷は依然続いており,債務累積問題等の開発途上国が直面する困難は増大している。このような情勢下で,自由世界第2位の経済力を有する我が国が果たす役割は,ますます重要なものとなっている。我が国は,「相互依存」と「人道的考慮」という基本理念の下に,政府開発援助(ODA)増大の新中期目標(81年~85年の5か年間の援助総額を214億ドル以上とすることを目標)を設定し,引き続き経済協力の量的,質的改善及びその効率化に努めている。
(2)かかる我が国経済協力の基本方針について中曽根総理大臣は,第98回国会における施政方針演説(資料編参照)において世界経済が直面している困難の根本的解決のためには世界経済の活性化と着実な拡大が必要であることを指摘しつつ,国際経済の均衡ある発展のためには,開発途上国の成長の確保が不可欠であり,「新中期目標の下で,経済,技術協力の一層の充実を図る」ことが必要である旨述べた。
(3)また,同国会の外交演説において,安倍外務大臣は,開発途上国との相互関係がとりわけ深い我が国にとって,政府開発援助の拡充は国際的な責務であり,このような世界の平和と安定に対する貢献は,我が国の長期的国益にもかなうものであると述べ,引き続き,新中期目標の下で「政府開発援助の着実な拡充」を図るとともに,「世界の平和と安定の維持にとって重要な地域に対する援助を強化」していくとの方針を示した(資料編参照)。
2.82年実績と83年度予算
(1)82年度の我が国ODA実績(支出純額ベース)は,円ベースでは7,529億円と対前年比7.7%の増加となったが,円安の影響もありドルベースでは30億2,300万ドルと対前年比4.7%の減少となった。このうち,二国間ODAは,円借款の増大などから順調な伸び(円ベース:対前年比18.3%増,ドルベース:同4.7%増)を示したものの,国際機関向けODAは,国際開発金融機関に対する出資拠出の落込みから2年連続の減少(円ベース:同18.7%減,ドルベース:同28.0%減)となった。新中期目標の下に援助の拡充に努めるとの我が国の方針は国際的に高く評価され,その成行きが注目されていることもあり,今後とも二国間ODAの順調な伸びと国際開発金融機関の増資交渉の進展が期待される。
(2)83年度予算については,厳しい財政状況下にもかかわらず,新中期目標の下に特段の配慮が払われ,一般会計分については前年度比8.9%増の4,813億円が認められた。一般歳出総額が対前年度比5億円減に抑えられた中で,援助については8.9%の増加を見たことは,援助に対する我が国の積極姿勢を示すものである。ODA事業予算全体では,対前年比2.8%増の9,678億円(対GNP比0.34%)が計上された。83年度予算における外務省所管の経済協力費は総額2,585億円,同じく外務省所管のODA一般会計分は2,324億円(対前年比10・8%増)が計上された。83年度予算においては,ODAの全般的質及び量の拡充に加え,(あ)基礎生活援助の拡充,(い)人造り援助の拡充,(う)効果的援助の実施を3本柱として援助予算の拡充に努め,国際協力事業団(JICA)を通じる技術協力の拡充及び無償資金協力の拡充を図った。82年度の外務省所管経済協力費においては,二国間資金協力のうち,経済開発等援助費990億円(対前年比7.6%増),国際協力事業団事業費770億円(同8.2%増),国際機関に対する分担金・拠出金等807億円(同6.6%増)が計上されている。
3.先進国間における対話の推進
(1)82年を通じて援助政策を含む政治,経済政策の全体を先進国間で議論する場としては,OECD閣僚理事会(5月)及びヴェルサイユ・サミット(6月)があった。我が国は,かかる国際的協議の場を通じ,我が国が厳しい財政事情にもかかわらず援助の拡充に努めていることを示すとともに,「世界の平和と安定のための援助の推進」の必要性を強調した。
ヴェルサイユ・サミットにおいて,鈴木総理大臣は,その冒頭発言で,かかる我が国の基本方針を説明したが,同サミット宣言は,「開発途上国の成長及びこれら諸国との建設的な関係の深まりは,世界全体の政治的,経済的安寧にとって枢要である」旨明記するとともに「先進国間の責任の分担」の必要性についても言及した(資料編参照)。
(2)また,82年においても,OECDの開発援助委員会(DAC)は,各加盟国(日本,米国等の先進17か国及びEC委員会)が援助理念,政策を討議する場として重要な役割を果たした。具体的には,混合借款,ノンプロジェクト援助及び低所得国における輸出振興の在り方,あるいは,人造り援助,援助における環境保護の重要性といった種々の援助政策に係る討議が活発に行われた。我が国としては,これらの討議を通じて明らかにされた国際的な動向を踏まえつつ,援助の質的充実を図るべく努めている。
(3)以上のような主要先進国が一堂に会する多国間の会議に加え,我が国と先進援助供与国との二国間において,より緊密な意見交換を行うことは,援助資金の効果的使用,また,有効な援助政策の実施のための調整という観点から重要である。米国との間では,78年以来,日米援助政策協議を開催しており,2月には,国際開発庁(AID)長官の出席を得て,第3回協議を東京で開催した。同協議においては,援助政策全般及びトンガの学校教育,タイの農業協力等の「共同プロジェクト」などが論議・検討された。
またECとの間においては年2回開催される日・ECハイレベル協議の機会をとらえて援助政策につき個別のセッションで協議を行い,特に「共同プロジェクト」の具体化につき検討を進めた。
このほか,7月に英海外開発庁(ODA)ハレル次官補の出席を得て,第1回日英援助政策協議を,また,10月には第2回協議をロンドンにおいてそれぞれ開催した。オーストラリアとの間では,7月東京において,豪開発援助庁(ADAB)キャンベル次官補の出席の下に,第1回目豪援助政策協議を開催した。また,10月の日加外務大臣定期協議において,日加援助政策協議の開催が,両国外務大臣の間で合意された。
(4)このように先進諸国との緊密な意見交換を通じ調和を図りつつ援助の拡充及び効率化に努めるという我が国の積極的援助政策は,我が国が,その経済力にふさわしいグローバルな責任分担に応じようとしている証左として,また,先進諸国間の協力関係を一層幅広く豊かにするものとして,米国をはじめとする先進諸国の積極的評価を得た。
4.平和と安定のための援助の推進
我が国は,開発途上国の経済社会開発,民生の安定,福祉の向上を目的として経済協力を実施することにより,これら開発途上国の政治的,経済的,社会的強靱性の強化を支援し,世界の平和と安定に貢献することとしている。
かかる認識を踏まえ,我が国は,81年5月の日米共同声明で「世界の平和と安定の維持のため重要な地域」に対する援助を強化する旨表明したが,爾来我が国は,我が援助の基本理念を踏まえ,かつ自主的な判断によりASEAN諸国,紛争周辺国(タイ,パキスタン,トルコ),エジプト,スーダン,ソマリア,ジャマイカ等に対する援助の強化に努めている。
5.開発途上国の信頼にこたえる援助の実施
(1)開発途上国の経済社会開発を支援し,民生の安定,福祉の向上に貢献することを目的とする我が国の政府開発援助は,開発途上国側の高い評価を得ており,近年の厳しい世界経済情勢の下で,我が国援助に寄せられている信頼,期待には極めて高いものがある。
82年には,ケニアのモイ大統領来日(4月),中国の趙総理来日(6月),マレイシアのマハディール首相の来日(83年1月),さらには鈴木前総理大臣のペルー及びブラジル訪問(6月)及び中曽根総理大臣の韓国訪問(83年1月)など開発途上国との首脳レベルの外交が活発に行われた。これらの機会を通じて,開発途上国側から,我が国経済協力に対する高い評価及びその継続,拡大についての期待が表明され,共同声明等において言及された(資料編参照)。
(2)限られた援助資金を真に開発途上国のニーズに合致させ有効に用い,また,我が国の厳しい財政状況下にあって,開発途上国の信頼にこたえて援助を拡充するためには,援助の効率的かつ効果的な実施を確保することが不可欠である。このため,援助案件の選定に当たっては,在外公館による調査あるいは調査団の派遣を通じて当該案件についての十分な事前調査を行うとともに,援助の実施後においては,その評価調査を行い,改善すべき点は今後の援助の実施に役立てていくことが重要である。この観点から,外務省は,従来の種々の評価活動を統轄すべく81年1月に設置した経済協力評価委員会の活動を引き続き強化,充実した。また,開発途上国との年次協議や援助国会議等の場において,「政策対話」の要素を重視し,これら諸国が自国において適切な経済政策をとっていくよう勧奨するとともに,かかる「対話」を通じて得られた成果を我が国援助政策に反映するよう努めている。