(17) レーガン米大統領の米州機構(OAS)理事会における演説(要旨)
(1982年2月25日,ワシントン)
1. 米州諸国は,約4百年から祖国の建設にゆるみない努力を払い,独立と自由を勝ちとって来たという点で,単なる地理学的意味以上の共通性を有する。その過程の中では,必ずしも理想に合致しない経済的混乱,武力紛争,社会的不正等があり,米国自身近隣諸国に対し,尊大なまたは不寛容な立場で臨んだこともある。しかし,今や米州は6億の人口を有し,食糧その他の原材料に恵まれ,その市場を通じて,世界における先進国及び開発途上国の中で,各々最も高い水準の生活を享受するに至った。我々の示している発展の実態は,敵の意志を挫くばかりでなく,世界における発展への目標を与えるものである。
2. 2年前の自分が大統領選に立候補した時,北米大陸における隣国との協調を図りたいとの抱負を述べた。米と加,墨両国との間には,長く友好関係が存在するが,更に関係緊密化の可能性があると考えたからである。かつての米国の政権は,相互の利益に叶うとの自負の下に進められたが,あるいは米国の巨大さの故か,温情主義の実行の如く見られた。しかし,現在は,両国首脳と頻繁に会合し,良き友人としてお互いに考えていることを教示し合っており,かつてない良好な関係が樹立されていると考える。
3. 本日は,カリブ及び中米諸国の問題を取り上げたい。同地域は,米国にとって疎遠なものではなく,例えば,エル・サルヴァドルはテキサスから見てマサチューセッツよりも近く,また米国の貿易量の半分,米国の輸入する石油の3分の2,戦略的鉱物資源の半分以上は,パナマ運河及びメキシコ湾を経由している。従って,同地域の発展と安全保障は,我々の最も重大な関心事である。幸い加,墨,ヴェネズエラは,各々の方法で,同地域の開発に協力している。墨・ヴェネズエラはオイル・ファシリティによって関係国のエネルギー経費の負担を軽減している他,カナダは援助を倍増している。
4. しかしながら,同地域は経済的に極めて大きな困難に直面しており,移民の問題の他,民主主義の危機,共産主義の浸透を惹起せしめている。米国は,関係諸国と緊密に協議し,カンクン・サミットにおいて,米国が明らかにした考え方,すなわち,市場経済の強化と,これを補完する経済援助を通ずる発展を同地域において実現したいと考える。具体的には,以下の点につき,議会の承認を求める考えである。
(1) カリブ地域からの輸入の関税を12年間撤廃する。同地域からの輸入87%は,既に無関税であるが,同措置により,企業は投資コストを回収する間,無関税の恩典に浴する結果,同地域の輸出可能品目が増大しよう。繊維及び衣類は,他の国際協定において規制されていることから,同措置から除外されるが,より大幅なクォータが許されることになろう。
(2) カリブ地域に対する投資を促進するための税制上の優遇措置及び二国間投資協定の締結を促進する。
(3) 82年度予算の補正を行い,主として民間部門に対する3.5億ドルの追加的経済援助を行う。
(4) 投資促進,輸出マーケティング,技術移転を中心とする技術援助を行う。
(5) 墨,加,ヴェネズエラの他,コロンビアを含め,国際的協力を強化すると共に,欧州諸国,日本及びその他のアジアの友好国,国際機関の協力を求める。
(6) プエルトリコ及びバージン諸島が上記措置から受益するよう必要な措置を講ずる。
5. 経済社会的な危機以外よりの危機,いわば新しい形の植民地主義の脅威が存在する。欧米諸国の3分の2は民主主義的政権を有しているが,キューバ,グレナダ及びニカラグァにおいては,左翼的全体的主義政権が存在する。キューバ及びソ連は,カリブ地域にキューバ型のマルクス・レーニン主義独裁国を作ろうとしており,キューバは昨年6・6万トンの武器供与をソ連から受けた。ニカラグァは,エル・サルヴァドル,グァテマラ等の近隣諸国における軍事行動の基地となっている。ニカラグァでは8,500人のミスキト・インデアンを強制移住さ世,村落をやき払い,婦女子を殺害している。1979年ニカラグァは,OASにおいて人権を尊重する旨保障したが,今や選挙を85年まで延期し,労働組合,マスコミ,政党等を弾圧している。
一方,エル・サルヴァドルにおいては,2年前農地改革に着手し,選挙の実施を目前にひかえて民主化の道を歩んでいるが,左翼は武力をもってこれに応えている。欧州・米国等におけるプロパガンダにより,エル・サルヴァドルの実態は誤解されているが,ゲリラの望むところがマルクス・レーニン主義独裁政権を打ち立てることにあるのは明らかである。
6. これ等の状況をふまえ,自由を守るための迅速かつ決定的な行動を起さない限り,新しいキューバ,ソ連と軍事的関係を緊密にする国々が出現することは明らかであり,従って,自分は議会に対し同地域に対する安全保障援助の増大を要請するつもりである。
ただし,米国としては,同地域の安定を軍事的な手段のみで解決するつもりはない。
今回の措置を含めて,経済援助は軍事援助の5倍にのぼる。カリブ地域開発計画においては,いずれの国もその対象として除外されない。しかし,いくつかの国は米州の友好国から離れ,自らの伝統に反する行動を示している。
我々としては,これ等諸国が再び西半球の共通の価値観及び伝統にもどることを願い,またその際は歓迎するものである。
米国内では,何故カリブ地域の問題に煩わされなければならないのかと問う者があるが,自由が共通の理念である以上,隣国の窮状を見捨てることは出来ず,また米国の自由を守るためにも,これ等諸国を援助する必要があると考える。かつての善隣外交だけでは充分でなく,真の友好国,兄弟国の関係になることが,全ての国の平和と安全保障の達成につながると考える。