(13) レーガン米大統領の平和と安全保障問題に関する演説(概要)

(1981年11月18日,ワシントン)

1. NATOの意義

(1) 最近若い世代を中心としてNATOそのものを疑問視する動きがあるが,NATOは,次の理由により欧州の平和に資するものであり,今後ともこの点は変らない。

(イ) 米国及び同盟国が,一国に対する攻撃はすべての国に対する攻撃とみなすという強い決意をもって一致団結していること。

(ロ) 米国及び同盟国が,攻撃する者に対し得るものよりも失うものが多いことを理解させるに足る軍事力を有し,攻撃を抑止して来ていること。

(ハ) 米国及び同盟国が,ソ連との間で相互抑制及び兵力制限に関する対話を行って来ている。

(2) NATOは攻撃に対抗する場合を除きいかなる兵器も使用しないが,それと同時に米国は同盟国が攻撃を受けた場合の米国のコミットメントを再確認するものである。

2. ソ連の脅威

(1) ソ連は,継続的に軍事力の増強を図っており,通常兵器及び核兵器の双方につき西側の対ソ均衡が脅かされている。

(2) 過去10年間のソ連の軍事力の増強は,次のとおり。

(イ) 米国が兵力と軍事支出を削減したのに対し,ソ連は兵力を米国の2倍に,軍事支出を従来の1・1/3倍に増加させた。

(ロ) 戦車については,西側の11,000両に対して,ソ連は50,000両保有するに至った。

(ハ) ソ連が海軍を沿岸防衛から太平洋艦隊に成長させたのに対し,米国の艦隊は半減した。

(ニ) NATOは,新たなIRBMの配備を行わず,1,000の核弾頭を撤去したのに対し,ソ連は,750の核弾頭を装填したSS-20ミサイルを配備した。

(3) 上記に加え,ソ連がSS-20,SS-4,SS-5を保有していることは,西ヨーロッパに対する大きな脅威になっている。

(4) このような脅威に対抗するためには,これに匹敵しうる手段を保有する必要があるので,NATOは,1979年に地上発射巡航ミサイル及びパーシングIIミサイルの配備を決定した次第である。

3. 4項目の提案

レーガン大統領は,先般ブレジネフ書記長に対しメッセージを送り,通常兵器,中距離核兵器,戦略兵器の相互削減につき次の4項目の提案を行った。

(1) 戦域核制限交渉

(イ) 1979年のNATOの二重決定に基づき,11月30日からジュネーヴで行われる地上発射中距離ミサイルに関する交渉は,軍備管理交渉の中で最も重要なものである。

(ロ) 米国は,同交渉においてソ連がSS-20,SS-4,及びSS-5ミサイルを撤廃するならば,米国もパーシングII及び地上発射巡航ミサイルの配備を撤回する用意がある旨提案する予定であり,この点は既にソ連側に通報済みである。

(ハ) 本提案の背景としては,上記2(2)(ニ)の事情があげられる。

(ニ)(i)他方,ソ連は中距離核戦力は均衡している旨主張しているが,実際には約6対1の比率でソ連が圧倒的優位に立っている。

(ii) また,ソ連は,SS-20をウラル以東に移動することを提案したが,この場合でもSS-20は西欧のほぼ全域を射程内に収め,しかも容易に移動させ得る。

(2) 戦略兵器に関する交渉

(イ) 米国は,戦略兵器に関する交渉を来年できるだけ早く開始することをソ連に提案済みである。既に,ヘイグ長官に対し交渉開始のタイミングにつきソ連側と協議するよう指示した。

(ロ) 米国は,大幅な削減を提案しうるが,そのためには十分時間をかけて準備する必要がある。

(ハ) また,米国は,検証可能であることを重視している。

(ニ) 更に,交渉の目標については,過去10年の交渉の成果を生かした上で,これ以上のものを目指す考えである。

(ホ) 本件交渉は,制限ではなく削減を目指す交渉なので,戦略兵器削減交渉(START)と呼びたい。

(3) 通常兵器制限交渉

米国は,ソ連に対し,欧州における通常兵器に関し,より低いレベルで均衡を図ることを提案した。本件は,奇襲攻撃による侵略の潜在的可能性を減少させるものである。

(4) 欧州軍縮会議

(イ) 米国は,ソ連に対し,奇襲攻撃の危険性及び不確実性ないし誤算による戦争勃発の可能性を減少させる必要を指摘した。

(ロ) 他方,現在開催中の欧州安全保障協力会議においては,西側が提案した欧州軍縮会議の基礎固めができつつある。

(ハ) 右欧州軍縮会議では,上記(イ)の危険の防止措置につき検討が行われる見込みなので,ソ連にも参加を要請するものである。

(5) なお,上記諸提案は,いずれも(イ)実質的な削減,(ロ)平等なシーリング,(ハ)適切な検討措置という原則に基づいている。

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