(3) 北大西洋条約機構(NATO)外相理事会最終コミュニケ(仮訳)

(1981年5月5日,ローマ)

1981年5月4日,5日,ローマで開催された閣僚レベル(外相)の北大西洋理事会は,安全と国際安定に対する継続的脅威を深く懸念し,確固たる防衛及び効果的抑止並びに平和的解決を求める努力により,かかる脅威に対抗する決意を示した。外相は,かかる精神にもとづき以下のとおり合意した。

1. 同盟の強化と団結は,加盟国の安全を保証し,さらに安定的国際関係を助長するために不可欠である。かかる安定は,すべての国々が自制しかつ責任を果たすよう行動することによりもたらされる。ソ連はこのような政策を支持すると主張しているが,ソ連自身の行動はこれを裏切っている。同盟が求めるより建設的な東西関係は,ソ連が軍事力増強を放棄し,力と威嚇に訴えることをやめ,第三世界における危機と不安定の状況を生み出すことをやめる用意があるとの明白な証拠を必要とする。

2. ソ連のアフガニスタン侵攻及び占拠は,国際関係における自制と責任の原則に違反する顕著な例である。この占拠は,今や2年目に入り,多くの難民を生み,多数の人命が失われた。これは,同盟国及び国際世論に全く受け入れられないし,今後も受け入れられることはないであろう。ソ連は,自国の行動に対する国際的非難と国連・イスラム会議及び非同盟諸国のアピールを無視しつづけている。ソ連軍は,撤退しなければならず,アフガン人民が自己の独立と自治権を完全に行使しうるよう,さらに200万人の難民が帰郷しうるよう政治的解決が図られねばならない。

3. 欧州において,ヘルシンキ最終文書に基づく東西間の協力・交流関係の再建努力は,他国の国内問題への干渉のための武力の行使あるいは武力による威嚇によって,はなはだしく害されざるをえない状況にある。ポーランド問題は,ポーランド自身に委ねられるべきである。外からの干渉はいかなるものであれ,国際関係全般に最も重大な影響を与え,国際情勢を根本的に変更するものとなろう。同盟諸国としては,厳格に不干渉政策を堅持し続け,また,他のすべての諸国にもこれをよびかけるものである。

4. このような状況にあって,同盟諸国は,抑止能力を強め,そして東西関係の安定的な基盤づくりを目ざす国際社会における自制と責任をソ連に自覚させるために個別にあるいは集団的に行動するだろう。同盟諸国のすでに確立された政策を推進する過程において,とりわけ次の分野における目標を追求するだろう。

5. 同盟諸国は,安全保障・東西関係に影響を及ぼすすべての問題を北大西洋理事会で緊密に協議しつつ,団結を確保するであろう。同じ精神から,同盟諸国は,北大西洋条約第2条に従って,特に,開発途上国を援助することによって同盟諸国全体の経済的・社会的安定を強化するよう努力するだろう。

6. ワルシャワ条約軍の軍事力増大は,とりわけ欧州における東西の軍事バランスを崩す不利な傾向を生み出した。同盟諸国は,NATO諸国とワルシャワ諸国の間の包括的な軍事バランスの確保が,同盟諸国の安全と,自制の強制,平和の維持の基本であるという点で意見が一致している。

7. 真正な中立非同盟は,世界の安定にとって重要な要素である。同盟諸国は,同盟内の協議を引き続き行い,安定を増進し,第三世界とりわけ主権国家としての独立性を脅かされているようなところでの危険を削減するために他国と協力し続けるだろう。この独立,平和均衡の維持は,西側にとって重大な関心事項である。危機的状況あるいは紛争的状況に対しては,(とりわけ中東,南東,南西アジアあるいは南部アフリカのような不安定な地域に影響が及ぶ場合には)政治的解決がはかられねばならない。同盟諸国は,他の諸国と共にこの目標に向かって活動することを望んでいる。

第三世界の安定と真の非同盟中立は,また,外からの干渉なしに自国の経済・社会の発展をはかる自由に依存している。すべての国は,政治的利益のために,社会問題を利用したり,不安定化を助長したりしてはならない。同様に,すべての国は,発展途上国の経済強化及び飢餓,貧困,低開発に対する闘いに積極的に寄与せねばならない。西側諸国としては,また,これらの国々の独立及び経済的福祉にとって欠くことのできない貿易・技術を提供し,政治的主権を尊重しなければならない。

同盟諸国の多くは,侵略を抑止する能力及び安全と独立を脅かされ救いを求めてくる国に対し手を差しのべることのできる能力を既に有しているか又は有する決意を固めている。

8. 同盟としては,ソ連の行動いかんによってはソ連との対話を続ける意志もあり,また,真のデタント及び東西関係発展に協力する意向である。ヘルシンキ最終文書の原則及び規定は,全署名国が遵奉すべき行動律である。CSCEマドリッド会議において,同盟は,これら原則・規定がより有効に履行されることとなるような実質的なバランスの取れた成果,即ち人権尊重,人的交流・情報交換の改善,安全・協力の拡大強化を求めるものである。これは,CSCE過程の今後の価値を明らかにするものである。

同盟は,大西洋からウラルにいたる全欧州大陸に適用される軍事的に意義があり拘束力を有し,検証可能な信頼醸成措置についての合意を先ず最初の段階として達成すべきことを目的とした欧州における軍縮会議開催を提案した仏側案を支持することを再確認するものである。CSCE過程の重要な部門として開催されることとなるこの会議の重要性を強調するとともに,同盟は,会議の第一段階終了までに達成される進展振りに照らし,かつ,その他の交渉をも考慮に入れて,安全保障及び軍縮に対する同盟の努力をいかに継続していくかについては将来のCSCEフォロー・アップ会議で検討されることとなるものと考える。これまでに達成された進展を歓迎する一方,同盟は,バランスの取れた成果の一部として,マドリッド会議で上記の規準を織り込んだ明確なマンデートに関する合意が達成されるよう希望を表明する。

9. 軍備管理及び軍縮は,抑止と防衛と共に,同盟の安全保障政策の重要な部分である。同盟は,ソ連の軍事力を実質的に制限し,安全を増大させるための交渉を支持するものである。この政策の目的は,出来得れば軍備を削減したレベルでの安定的軍事バランスである。同盟は,米ソの戦略兵器制限を通して安定的,公平な,かつ検証可能な軍備管理の重要性を強調している。同盟は,軍備管理交渉こそが国際的信頼関係上好ましい結果を生み出すものであると認識している。

10. ウィーンMBRF交渉に参加している同盟は,合意したデータに基づき共通集団上限(Common Conective Ceiling)という形で兵員数について真の均衡を達成する決意を継続している。同盟諸国は,特に東側参加国がデータ問題の解明につき必要な努力を一切していないため,交渉が実質的進展をしていないということを遺憾に思う。

11. 加盟諸国は,ベルリン内外の平穏な状況が今後共維持されることを重視している。

1971年9月3日のべルリン4カ国協定の厳格な遵守及び完全な履行が欧州の安全保障,東西関係及び国際情勢のすべてにわたって極めて重要である。同盟は,東独及び東ベルリンへの旅行者と訪問者数に悪影響を及ぼした東独による通貨強制交換額引上げ措置の撤回のため西独によって行われている努力を今後も支持するものである。

12. 1979年12月のLRTNF近代化及び軍備管理に関する決定に参加した加盟諸国は,本決定に対する彼らのコミットメントを再確認した。SS-20のように,ソ連のLRTNFの配備は,NATOによって計画されたLRTNFの配備数を既に超えている点に照らして,NATOのLRTNFの近代化は特に不可欠であり,かつ,そのことが並行的TNF軍備管理(交渉)のため現実的基盤を提供することとなる。1979年12月の決定以来,ソ連の脅威と同盟諸国を分断させようとする試みは,抑止力を維持し,LRTNF分野の不均衡を回復し,さらに安全を保証するため,必要な手段をとるとの同盟諸国の決意をより強固にするものにすぎなかった。最近のLRTNF配備に関するソ連のモラトリアム提案は,関係同盟諸国にとって全く受け容れられない。それはNATOの近代化計画を阻止することにより,同盟国を不利な状態のまま固定させることとなるからである。さらに,本提案は,ウラルの東方から同盟諸国の領域への攻撃が可能なシステムを制限しないことからNATOの脅威が増大することをソ連に認めることとなる。

これらの同盟国は,今年末までにSALTの枠組においてTNF軍備管理に関するソ連との交渉を開始するとの米国の意図を歓迎した。米国国務長官は9月,国連においてグロムイコ外相とかかる交渉のための時期と手順を話し合う意図である。

これらの交渉は,新たな同盟の危機評価と緊急優先問題として特別協議グループ及びハイ・レベル・グループの枠組において検討されるNATO,TNFの運用要求の研究に基づくこととなろう。

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