(11) 「協力と開発に関する国際会議(南北サミット)」の共同議長総括(仮訳)
(1981年10月23日,カンクン)
我々共同議長は,南北関係,とりわけ国際社会の直面する深刻な経済問題に焦点をあてることを目的とした首脳会議を主催する大きな光栄を有した。国際連合事務総長は,特別賓客として出席した。
我々は,世界の中で最も影響力を有するも多様な諸国22か国の首脳がカンクンを来訪し,これらの諸問題を討議する用意があったという事実そのものが,これらの首脳がこれらの問題に付する重要性及び真剣さを明確に示すものであると強く信ずる。
南北関係は,世界平和の維持と並び,またこれと結びついたものであり,来たる十年間に直面する最も深刻な挑戦の一つとして,またすべての政府にとっての優先関心事項と把えられた。
我々が,これらの基本的な諸問題を検討した際みうけられた精神は,極めて建設的かつ積極的なものであった。我々が,世界の残りの諸国に代って決定を行うために,当地に居るわけではない-そういうことであれば当地に居ることはできなかったであろう-ことは,当初より明らかであった。我々の任務は,むしろ基本的な諸問題につき最高のレベルにおいてわれわれの声を響かせ,主要な問題を明らかにし,可能な解決策を評価し促進することにあった。この目的を念頭に置き,我々はお互いに胸襟を開いて率直に話し合い,難しい問題を回避しようとはしなかった。また,我々は他を責めたり,とがめあったりすることには陥らなかった。我々は,旧来の官僚的な繁煩さに縛られることもなく,また,わざとらしい態度や修辞にとらわれることもなかった。会議全体を通じての雰囲気は,新たな考えやアプローチを受け入れ,他方の意見を進んで聞き入れ,理解するというものであった。我々は,共に真の信用と信頼の精神を我々の間に創り上げることに成功したと信ずる。
我々の今日の課題は,この信頼と理解を踏まえて,この気運を将来へ進め,考えを行動に移し,世界経済の再活性化と開発途上国の開発の加速を目的として前進することを確保することである。各国の首脳は,このような観点より,このために存在する国際的諸制度の中で,諸問題に緊急に取組み,このプロセスに首脳自らの関心を引き続き払うことを明確に決意した。
当然のこと乍ら,意見の相違は表明された。非常に多様な22か国の間で,その利益が全く同一であること,又は取り組み方が必然的に同じであることを期待することはできない。
しかし,我々が最も強く印象付けられたのは,我々の優先事項や立場につき共通の面が多くあったということである。このように,我々が直面している問題の解決のために様々の道が示されたものの,殆んどすべての場合において,基本目的については我々のすべてが一致するところであった。
すべての参加者は,いかなる国の,またいかなる国のグループの経済的繁栄も,他の諸国において成長と安定のための条件の存在することにますます依存してきているという事実に反映されている各国経済の機能面での相互依存関係の重要性を認識した。すべての参加者は,各国が個々に抱えている経済問題の多くは,各国の共同行動によってのみ解決し得るものであり,この意味で,一層緊密な国際協力を推進することに対する各国の個々の利益の一致しているということを認識した。国際社会においては,諸国の間の経済的不均衡の問題は,すべての国の責任に係るものと考えられる要があり,したがって,協調的行動が必要であるという強い共通の認識があった。
益々統合されつつある世界経済においては,いかなる国も,また,いかなる国のグループも,その責任を回避し得ないという見解が表明された。この点に関し,ソ連がこの会議に欠席したことにつき遺憾の意が表明された。
同時に,開発途上国間の協力の実効性を強化し,向上することの重要性は,国際関係において増大しつつあると認められた。
多くの参加者は,開発目的のためにより有効に使用しうる資源が軍備に多く向けられていることを,遺憾であるとした。
問題の多くは,根深くかつ複雑であり,早急なまたは単純な解決はないことが認識された。長くかつ困難な時期を先に控えて,首脳は,全ての国が平等の機会の下に,自己の可能性を実現でき,かつ,特に開発途上国が自己の価値観に従って成長し,発展できるような国際経済秩序を建設すべく力をあわせていくことを約束した。
各国首脳は,相互に合意される基礎に立ち,意義ある進展が見込まれる状況の下で,包括交渉(GN)を開始するとの全会一致の決定が得られることを,緊急性を認識して国連において支持することが望ましいことを確認した。
いくつかの国は,専門機関の権限は影響を受けるべきでないと主張した。
実質事項については,我々は,食糧安全保障,農業開発,一次産品,貿易及び工業化,エネルギー,並びに通貨金融問題の項目の下で我々が世界経済の直面する主要な問題及び挑戦と考えることにつき,焦点を当てた。会議を通じて,討議は,広範な取り組み方及びしばしば具体的な詳細の両方に触れる実際的かつ直裁なものであった。
これらの討議は,前進し,行動しようとのカンクンの全参加国の政治的意志を明らかにした。
食糧安全保障及び農業開発
この項目に関する討議は,次の主要な問題についてのいくつかの面における一般的理解ないし共通の観点を示すものであった。
飢餓が執拗にはびこっていることは,世界経済の達成した発展のレベル,特に現存の食糧生産能力と全く相容れないものである。可及的に短い期間内に,飢餓は撲滅されなければならない。この目的は明らかに国際社会の義務であり,国家のレベル及び国際協力の分野の双方に於て第一の優先事項となるものである。
-食糧生産において自給度向上のための開発途上国側の持続的かつ長期的国内努力は,飢餓の問題に対する真の答を得るにあたって基本的要素である。しかしながら,この努力は,国内政策及び戦略との調整の下に,時機を得て十分な国際的技術及び資金支援を必要とする。
-第一に,開発途上国は,十分かつ実行的な国際的支援を得て食糧を生産しながら飢餓に最も苦しむという逆説的状況にある食糧生産者の所得増大を通じて,農村開発のための効果的行動を含む,食糧の生産,生産性,流通及び消費といったすべてのサイクルを対象とする国家食糧戦略を策定し,実施すべきである。
-食糧援助は,緊急時における一時的手段と考えるべきである。このような状況は,不幸にも恐らく今後何年にもわたり一層大きな規模で存在するかもしれない。
しかし,食糧援助は,開発途上国自体において要求される食糧生産のために必要な開発の恒常的代替たるべきものではない。
-いくつかの国における人口増加率は満たすことが困難な食糧需要の増加に繋がっている。いくつかの国の経験は,人口政策の推進が食糧問題の最も深刻ないくつかの面の解決に資することを示している。
-国連の枠内における農業・食糧関係の国際機関の活動は,その重複を回避し,利用可能な資源を一層効果的に用い,また,その全体的効率を高めるため,見直す必要がある。
その他数多くの点が討議の過程において言及された。その内,重要性の高いものの中には以下の諸点がある。
-2000年までに飢餓の撲滅をめざす長期計画が作成されるべきであり,これには国内努力及び国際協力の要素が含まれる。
-食糧安全保障メカニズムの有効性を改善するために数多くの措置がとられることが可能である。この中には,新国際穀物協定交渉,各国国内食糧備蓄の調整,国際緊急食糧備蓄の拡大,これに対する拠出の予見性及び継続性の拡大,開発途上国,特に後発開発途上国の食糧安全保障ニーズを充足するに十分な備蓄の創設があげられる。
-農業計画を策定及び実施し生産性の高い農業技術を効果的に普及させることにつき開発途上国を支援するために,先進国から開発途上国にタスクフォースを派遣することができよう。
-国際貿易条件もまた開発途上国の農業・食糧状況にかなりの影響を及ぼしている。農産品に対して・設けられた貿易障壁は農業活動の成長及び食糧安全保障の目的達成の妨げとなる。
-国際通貨基金の補償融資スキームの中に食糧ファシリティーが最近設けられたことは,重要な一歩である。しかし,将来においては,配分される資金量及びこれらの資金へのアクセスの条件が食糧輸入開発途上国のニーズにより即したものとする要があろう。
-国際農業開発基金(IFAD)はその機能を中断することなく継続することができるようその資金の早急な投資を必要としている。
一次産品,貿易及び工業化
参加者は,本事項の下で広範な問題を扱った。
UNCTAD一次産品総合計画の実施,特に新たな商品協定の交渉の進捗がはかばかしくないことに留意し,参加者は,共通基金を発足させるための手続を完結させることが必要であるとの点で合意した。一次産品の輸出収入が開発途上国の経済成長と安定にとって基本的に重要であるため,一次産品価格安定化のための効果的国際約束の交渉に一層精力的な努力を払うこと及び開発途上国の一次産品輸出所得安定化のためのその他の措置をとることを含め,多岐にわたるあり得るべき方途が,示唆された。
-開発途上国のための一般特恵制度を改革する必要及び各国政府が保護主義を防圧するため引き続き努力する必要も認識された。
-何人かの参加者は,1982年開催予定のGATT閣僚会議が,農業貿易に対する障害,開発途上国の一次産品輸出の加工度向上に対する障害を含め,開発途上国の貿易問題を扱う上で貢献しうることに留意した。
-多くの参加者は,開発途上国における工業化の重要性及び貿易の増加がこの目的に果たし得る貢献につき言及した。先進国産業の再編成がこの目的につながるものとして認められ,多角的な繊維取極めの再交渉の積極的成果も同様な意味をもつこととなろう。
-開発途上国が,輸送,貯蔵施設を含む自国のインフラストラクチャーを整備することを助ける必要性についても指摘があり,このため資源を動員するという提案が行われた。
エネルギ一
-エネルギーが1980年代において真剣かつ緊急に取り組むべき主要な問題の一つであることが認識された。この問題は,純粋な南北問題というよりも世界的なものとして性格づけられた。
一炭化水素の時代から多様なエネルギー源への秩序ある移行を確保するため,世界エネルギー計画の提案,この複雑な過程を対象とする全般的な取組み方を提案する枠組として想起され,これに関心が示された。
-地域的エネルギー協力制度の潜在的な貢献が,また討議において指摘された。
-また,エネルギー節約が,主要な石油消費国において遂行されなければならないことが認識された。新・再生可能エネルギー源の開発も,最近のナイロビ会議で合意されたように強調されるべきである。
-討議においては,開発途上国が多額のエネルギー輸入代金の支払いにつき,深刻な問題に直面しており,同代金は多くの国々の限られた外貨収入のかなりの部分に相当することが強調された。
-開発途上国における民間及び政府資金によるエネルギー投資の増額の必要性が強調された。多くの参加者により,世界銀行のエネルギー融資の拡大に支持が表明され,この関連でエネルギー・アフィリエイトの設立が主張された。
-何人かの参加者は,長期のエネルギー計画を促進するためエネルギー生産国及び消費国の間の情報交換改善の必要性を示唆した。
通貨・金融問題
-参加者は,国際収支赤字,債務返済の負担及び開発資金ニーズに関して開発途上国が経験している金融上の困難を検討した。
-参加者は開発途上国が直面している現在の経済,金融問題に照らし,開発途上国の種々の資金源へのアクセスの条件及び関連多数国際機関,とくにIMF及び世界銀行の役割について討議した。
-討議において何人かの参加者によって提起された問題点には,高金利による打撃,流動性の創出及び配分,主たる準備資産としての及び開発への資金供与におけるSDRの役割,IMFのコンディショナリティ,国際金融機関における意思決定過程,資本市場へのアクセス,開発金融における民間及び公的外国資金それぞれの役割が含まれていた。
-国際金融協力の改善のためのいくつかの示唆が留意された。