(5) 第7回IEA閣僚理事会コミュニケ(仮訳)

(1981年6月15日,パリ)

国際エネルギー機関(IEA)閣僚レベル理事会は,1981年6月15日パリにおいて,J・L・キャリック豪州国家開発エネルギー大臣の議長の下で開催された。

1. 閣僚は,最近の石油市場の動向及び将来の市場撹乱への対応策を含む短期的な石油市場の諸問題並びに中長期的な構造変化達成の問題をとりあげた。

閣僚は,この双方の問題について好ましい進展が見られることに留意するとともに,一層の政策強化を要する分野を指摘した。

短期石油市場

2. 閣僚は,石油市場の状況が依然として脆弱であり,その安定性の持続が気のゆるみの回避及び幾つかの主要産油国による相当水準の供給の維持にかかっていることを認識した。

しかしながら閣僚は,石油消費が引き続き低減していること(一部は省エネルギーの効果による)及び安定した供給が石油市場の状況を改善したことに留意するとともに,これまでに採択された諸施設が1980年後半及び1981年において深刻な市場撹乱を回避するのに寄与したことに満足の意を表明した。

3. 閣僚は,今夏の季節的積増しが緩やかなものとなることを考慮に入れても,現在の備蓄水準で来たる冬を迎えるにあたって十分と思われることを認めた。しかし閣僚,第四半期における消費者備蓄の変化及び本年後半において経済成長が上向く可能性にも鑑み,状況を注視していく必要性を強調した。

4. 国際石油市場に固有の不安定要素と危険性に鑑み,閣僚はIEA及びその加盟国が石油供給撹乱により再び価格急騰及び深刻な経済的打撃が惹起されることを防止する用意を整えておくべきであるとの決意を表明した。石油消費国における市場メカニズムの完全な実施と強化はこの目的のために大きな貢献をなす。市場メカニズムが供給撹乱による悪影響に十分対応できない分野,特に国際市場分野においては,市場メカニズムを補完するための政府の行動が必要となろう。そのような行動が必要な場合には,かかる行動は,当面するそれぞれの状況に対応しうる柔軟なものでなければならず,また同時に,迅速かつ効果的に実施されなければならない。

5. 閣僚は,供給撹乱に対するIEA諸国の対応ぶりに関して行われてきた議論の一般的なラインに留意した。その主要点は,以下の諸点を含む。

-石油供給,需要及び備蓄に関する継続的モニタリング及びそれに必要なデータ・システム

-これまで使用されかつ今後検討され得るような諸施策,就中,備蓄,需要抑制,域内生産,燃料転換,好ましからざる購入及び異常なほどのスポット市場依存の抑制,並びに供給不均衡対策

-緊急備蓄必要量

-供給撹乱における原油価格の決定

-サブ・クライシスヘの対処に不可欠な要素である政府と石油企業との間の効果的かつ信頼できる協力関係をもたらす政府・企業関係

閣僚は最終的な結果を得るために上記一般的なラインに沿って作業を継続すべきであることに合意した。そのため,まずIEA加盟国政府と石油企業との間で集中的な国際協議を行い,1981年後半に事務レベル理事会で決定を行い得るようにすることを目指す。

中期構造変化達成

6. 閣僚は,たとえ(構造変化について)著しい前進がみられ,また,石油市場が一時的に軟化しているようにみえるとしても,IEA加盟国に於けるエネルギー経済の構造変化達成に向けての前進が従来同様に緊急のものであることにつき全会一致で合意した。閣僚は,これまでに採択した現在の政策原則を再確認するとともに,それらを引き続き実施することの必要性を強調した。

これらの政策の目的,すなわち,石油依存型のエネルギー経済を,石油,石炭,原子力及び天然ガスという主要な利用可能エネルギー源がより均等な割合で寄与し,かつ,エネルギー効率が最大限増大する,よりバランスのとれた構造へ転換するという目的は,不変である。

閣僚は,適切な政策が実施されればIEAの石油純輸入量を1990年に19~21百万B/Dに,また,今世紀末までには,さらに低い水準に抑制しうる可能性があることを事務局が指摘したことに留意した。

閣僚は,1980年国別審査の結果,現在までに得られた成果が好ましいものであり,かつ変化の過程が始まったことを明らかに示すものであることに留意した。

閣僚は,これからの主要な課題が構造変化のためのこれらの政策を引き続き実施することにより,モメンタムを維持することであることを認識した。

7. 閣僚は,IEA諸国のエネルギー効率を向上させるため,これまでにも既に成果があがってはいるものの,更に強力な努力が必要であることに意見の一致をみた。

かかる努力を続けることによってエネルギー・コスト全般を大幅に削減し得るし,また代替エネルギー源開発に至るまでの猶予期間を伸ばすことができる。

8. 閣僚は,石炭が提供する新たな機会に対し産業が前向きな反応を示していることに留意し,経済ペースにのった石炭の生産・利用拡大のあらゆる可能性を実現させるためにより強力な行動をとる必要性を強調した。閣僚は,石炭産業諮問委員会(CIAB)が現在進めている作業を了承し,企業と協力しつつ,各国における石炭の生産・貿易及び利用の可能性及び制約条件を明確にするため一層の努力を払うことに同意した。

閣僚は,CIABからの協力を得つつ,1981年に加盟国の石炭政策及び計画の全面的なレビューを行うことを要請した。

9. すべてのIEA加盟国が合意した必要な構造変化を達成するためには,原子力が多くの国において主要かつ増大する役割を果たさなければならないであろう。このことは,時宜を得た原子力の発展のためにより良い条件を整備することによって容易になるであろう。従ってIEA加盟国は改良型原子炉技術を含め原子力に対する国民の認容と信頼を促進するために,原子炉の安全性に関する国民の理解を増大させ,廃棄物管理・処理計画を実施に移し,リード・タイムを短縮するため許認可手続を引き続き安全性に重点を置きつつ整備し,規制の実施が不必要に投資を制約しないよう確保し,かつ,適切なセーフガードの下での核燃料及び技術に関する国際貿易の信頼性と予見性を高めるよう国内的及び国際的に迅速な行動をとるべきである。工業国は,また,原子力その他技術的に複雑なエネルギー源の利用を含め,その技術能力をより良く活用することにより,より良好な世界のエネルギー・バランスのために貢献できる。

10. 閣僚は,消費者に対する経済的なエネルギー価格の設定についての提案を討議した。閣僚は,本問題の重要性及びエネルギー価格政策に関するこれまでのIEAの決定を推定していく必要性について意見の一致をみた。閣僚は,また,省エネルギー,高水準の国内生産及び石油からの燃料転換を阻害するような,消費者価格に対する補助金やその他の介入措置は避けるべきであるとの見解をとった。閣僚は,事務レベル理事会に対しいくつかの主要な要素を中心に,この問題を優先的にとりあげるよう,また将来の国別審査にそれを反映させるよう要請した。

11. 閣僚は,加盟国の構造調整を促進するために必要なエネルギー・プロジェクトに関連する投資問題を取り扱うための,一貫したかつ包括的なアプローチを策定する上で進展がみられたことに留意するとともに同作業を継続すべきことに合意した。

12. 閣僚は,長期的により確実なエネルギー供給を確保する上でエネルギー研究開発が重要な貢献をなしうることを強調した。この点に関し,閣僚は適正なバランス,時宜を得た完成,費用一効果及び技術的見通しを確保するため,IEAの共同研究・開発プロジェクト計画の包括的なレビューを要請した。閣僚は,エネルギー技術商業化ハイ・レベル・グループの報告書及び勧告を了承し,各国の必要性に応じた適切な措置をとることにより1990年までに必要な技術について民間が商業規模

プラントの設計,建設,稼動に乗り出す姿勢を示すような状況をつくり上げる意図を表明した。

閣僚は,研究・開発及び実証プログラムの1980年国別審査の成果に留意した。

13. 閣僚は,発展途上国が石油依存からの脱却を図る過程で,自己のエネルギー需要を満たすのに特別の困難を抱えていることを認識した。閣僚は国際石油市場に対する圧力を減少させようとする先進工業国の努力がこれら諸国の困難を軽減する上で大きく貢献するものである旨確信している。しかしながら開発途上国はまた国内のエネルギー資源の開発への支援を必要としており,閣僚はこの問題が早急に適当なフォーラムで検討されるべきであると信じている。閣僚は,また,新・再生可能エネルギー国連会議が内容及び方法の両面でこのための良い出発点であると考え,同会議の作業及び類似の努力に対して貢献していく考えである。

閣僚は,石油輸出国が同様の精神でこれらの問題に対処することを期待している。

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