4. 日本政府が関与した主要な共同コミュニケ等

(1) 鈴木総理大臣のASEAN5か国訪問に際しての共同新聞発表

(イ) 日本とフィリピン共和国との共同新聞発表(仮訳)

(1981年1月10日,マニラ)

1. 鈴木善幸日本国総理大臣は,フェルデイナンド・E・マルコス=フィリピン共和国大統領の招待により,夫人とともに1981年1月8日から10日までフィリピン共和国を公式訪問した。

総理大臣夫妻には,伊東正義外務大臣,亀岡高夫農林水産大臣,瓦力官房副長官他日本国政府高官が随行した。

マルコス大統領夫妻及びフィリピンの閣僚は,鈴木総理大臣夫妻及び総理大臣随員一行をマニラ国際空港において歓迎した。

2. 総理大臣と大統領は,1月8日会談を行い,両友好国が共通の関心を有する国際的,地域的な広範な問題及び2国間に存在する諸問題について有意義かつ建設的な意見交換を行った。この首脳会談には,日本側より伊東正義外務大臣,亀岡高夫農林水産大臣,瓦力官房副長官,フィリピン側よりマヌエル・コリアンテス臨時外務大臣代理,セザール・ヴィラタ大蔵大臣,ルイス・ヴィリャフェルテ貿易大臣,ヘラルド・シカット国家経済開発庁長官,ロベルト・オンピン工業大臣,アルトゥーロ・タンコ農業大臣,ヘロニモ・ヴェラスコ・エネルギー大臣,ホセ・レイド天然資源大臣が出席した。

3. 総理大臣と大統領は1980年7月に日比友好通商航海条約が発効して以来初めて行われた首脳会談が親密かつ友好的な雰囲気の中で行われ,両国間に互恵的かつ衡平な協力の新時代を開いたことを高く評価した。

4. 総理大臣と大統領は,今回の訪問によって日本とフィリピンとの間に存在する友誼と相互信頼との関係を改めて確認し得たことを喜ぶとともに,両国間の友好関係を更に強固な基礎の上に置くべき両国政府は,政治,経済,文化及びその他の分野で引続き緊密に協力し,人的交流を一層活発にして行く用意がある旨表明した。

5. 総理大臣と大統領は,日本とASEAN諸国との間の緊密な関係が益々強化されつつあることを歓迎し,このことがアジアの平和と安定の維持に実質的に貢献するであろうとの確信を表明した。

鈴木総理大臣は,日本国政府は,ASEAN諸国がより大きな国家的及び地域的強靱性と発展を追求することに対し,引続き協力を行う旨述べた。更に総理大臣は,ASEAN常任委員会の議長国としてフィリピンが,ASEAN諸国間の協力強化に果している積極的役割を高く評価した。

この関連で総理大臣と大統領は,ASEAN貿易・投資・観光促進センターを設立する協定が1980年12月に東京において締結されたことを喜び,この協定が日本とASEANとの経済関係の一層の発展,特にASEAN諸国からの輸出の促進,この地域における日本の投資の奨励及び観光の促進に貢献することを期待する旨述べた。

総理大臣と大統領は,フィリピンにおけるASEAN工業プロジェクトが早期に実現することにつき希望を表明した。

更に総理大臣と大統領は,日本のこの地域に対する投資を促進するために日本とASEAN諸国の民間経済部門が各種のイニシアティブを取っていることを歓迎した。

6. 総理大臣と大統領は,国連憲章の諸原則,特に国家主権及び領土保全の尊重,武力行使または武力行使による威嚇を行わないこと,並びに内政不干渉の原則に対する支持を再確認した。両国首脳は,国際社会の構成国が,これらの原則を遵守することは,政治的紛争を軍事的手段により解決しようとする今日の傾向に鑑み,より一層肝要となっていることに合意した。

7. 総理大臣と大統領は,カンボディアの現状・特にその東南アジア地域の安全に対する不安定効果についての憂慮を共有し,国連総会決議34-22及び35-6に従って,できるだけ早期にカンボディアの平和が回復されるべきであるとの共通の信念を確認した。

この関連で,総理大臣は,カンボディア問題についてASEANが採っている正当な立場に対する日本の全面的な支持を改めて表明した。

両国首脳は,東南アジアに平和と安定をもたらすために更に協力していくとの決意を新たにした。

8. 鈴木総理大臣は,日本がその国力に相応しい積極的な政治的,経済的役割を果たすことにより世界の平和と安定に積極的に貢献すべき立場にあることを認識し,日本はアジアにおける安定勢力として地域の平和と繁栄のため今後共貢献していく決意である旨表明した。

鈴木総理大臣は,日本は平和に徹し軍事大国とはならないと決意していると述べた。更に総理大臣は,そのための日本の基本的安全保障政策は,積極的な外交的役割を果たす努力を行い,現行憲法の枠の内で自衛力の着実な整備とともに,日米安保条約の一層円滑で効果的な運用を図ることに置かれている旨述べた。

9. 総理大臣と大統領は,国際経済協力のための環境の改善につき関心を有している旨を表明した。両国首脳は,南北問題の解決につき有意義な成果をもたらすべき国際的相互依存,理解及び協力に基づく建設的対話を希望した。両国首脳は,このような対話の場として,グローバル・ネゴシエーションズを開始することに関し合意が達成されることを希望した。この関連で両国首脳は,一次産品共通基金設立協定を歓迎した。マルコス大統領は,フィリピンが共通基金本部設置場所として立候補したことに対する日本の支持に感謝の意を表明した。

10. 大統領は,総理大臣に対し,エネルギー開発計画及び11大工業プロジェクトを含むフィリピンの経済開発計画について説明した。総理大臣は,マルコス大統領の卓越した指導の下にフィリピンが達成した国家開発の進展を高く称賛した。

総理大臣と大統領は,日本国政府よりフィリピンに供与された政府開発援助(ODA)の重要性に留意した。大統領は,1978年より1980年の期間にODAを倍増するという日本が公表した目標を想起しつつ,大規模工業開発プロジェクト及びエネルギー開発プロジェクト就中,高圧送電線プロジェクトに対し,緩和された条件の資金融資を含む資金協力が増加していく必要性を強調した。この関連において大統領は,一貫製鉄所についても言及した。総理大臣は,日本国政府は,フィリピンのエネルギー開発及び工業開発計画における優先プロジェクトを含め,フィリピンの経済開発促進のための努力に対し,種々の形の協力を行うことを確認した。

11. 更に総理大臣は,日本国政府はASEAN諸国に対するその経済開発援助政策に沿って,ASEAN諸国の工業化及び経済・社会インフラストラクチャーの発展に向けての努力に対する協力に加え,農村・農業開発・代替エネルギー開発を含むエネルギー開発並びに人造りに対し協力する旨述べた。この目的のために総理大臣は,420億円の第9次円借款をフィリピン政府に対し供与する旨を約した。

総理大臣は,日本国政府が東南アジア文相機構の下部機関である教育革新センタ、鉱物分析センター及びフィリピン社会科学センターの施設の建設のため無償援助を供与するとの意向を表明した。

12. 総理大臣と大統領は,トウモロコシ,その他の飼料用穀物及び米穀等の食料作物の生産に関して,日本国政府がフィリピンに対して協力する旨合意した。

更に両国首脳は,日本及びフィリピン両国政府が右協力の態様について協議する旨合意した。

13. 総理大臣は,フィリピンにおける人造りに貢献するために日本国政府が技術協力を行うとの意図を表明した。これに関連し,総理大臣は,ASEAN各国にセンターを設立するとの人造りのためのASHANプロジェクトを提案した。総理大臣は,この目的のため日本国政府が1億米ドルの無償資金協力及び技術協力を行う旨述べた。更に総理大臣は,このプロジェクトに関連し,日本国政府としては,沖縄にセンターを設立する旨述べた。

マルコス大統領は,総理大臣の建設的な提案を評価し,フィリピン政府は,このプロジェクトについて他のASEAN諸国と直ちに協議する旨述べた。

14. 両国首脳は,新日比友好通商航海条約が発効したことを歓迎し,この条約を実施するための実際上の措置につき討議する旨合意した。

15. 総理大臣と大統領は,フィリピンにおける日本の民間直接投資の果す役割の重要性に注目し,投資保証協定の締結のための交渉を早期に開始することに合意した。

両国首脳は,日本の産業構造の変化により,日本における高度化されていない産業は,開発途上国に移転する必要に迫られることに留意した。大統領は,フィリピンが比較的優位を有する労働集約的な分野の日本の産業がフィリピンの新しい輸出加工区に再配置されることにつき希望を表明した。

総理大臣と大統領は,あらゆるレベルにおけるフィリピン人の経営上及び技術上の経験を実際に一層活用することによって,日本からフィリピンに対する技術移転が一層有効に行われる必要があることに意見の一致を見た。

16. 総理大臣と大統領は,日本とフィリピンとの間の貿易が拡大し,かつ多角化しつつあることは両国の利益に適うものであることに就いて意見の一致を見た。大統領はフィリピンの輸出関心産品,特にバナナ,木材及びその他の木材製品,パイナップル,ソロパパイア,並びに家具及び什器に関する市場アクセスの改善及び現行関税率を次回関税率審査において軽減するよう要請した。総理大臣はこの要請に留意し,国内果樹生産者に対し深刻な影響を与えるという事情はあるも,日本政府は輸入バナナの関税率の改正を前向きに検討する旨答えた。

17. 総理大臣と大統領は,双方が日本の資本市場へのアクセスを含む両国間の金融協力拡大の可能性を探求することに合意した。

18. 総理大臣と大統領は,両国の商業関係を見直し,日比間の航空業務に関する協定に言及した。両国首脳は両国の航空当局間で現行協定の見直しが2月に行われることを確認し,この協議の結果が双方にとり利益をもたらすものとなることを希望した。

19. 総理大臣と大統領は,両国関係をより広範な基礎のもとに置くことの重要性を認識し,各種レベルにおける活発な文化交流及び文化協力を通じ,両国民の相互理解と友好を更に促進させる意向であることを再確認した。

この関連で総理大臣はフィリピン国立博物館に対する文化無償援助に言及した上,ASEAN地域研究振興を援助するための特別計画及びアジア及び太平洋地域の若手外交官のための日本語研修計画等の特定のプロジェクトを提案した。

20. 総理大臣と大統領は,今回の鈴木総理大臣夫妻のフィリピン共和国訪問は両国間の相互理解と,既に存在する友好関係の一層の強化に大いに貢献したことに深い満足の意を表明し,この訪問において両国首脳間に成功裡に確立された個人的な信頼と尊敬の関係を更に深めていくことに意見の一致を見た。

21. 鈴木総理大臣はフィリピン滞在中,同総理大臣夫妻及び随員一行がフィリピン側から受けた温かい歓迎と厚遇に就いてフィリピン政府及び国民に対し深甚なる感謝の意を表明した。

 

() 日本とインドネシア共和国との共同新聞発表(仮訳)

(1981年1月13日,ジャカルタ)

1. 鈴木善幸日本国総理大臣とスハルト=インドネシア共和国大統領は,1981年1月10日から13日までジャカルタにおいて会見し,両国にとって共通の利益と関心のある広範な問題につき建設的意見の交換と討議を行った。

討議は,最も親密かつ友好的雰囲気の中で行われ,両国間の相互理解を深める上で大いに貢献した。総理大臣と大統領は,この会談が両首脳の問に緊密な個人的関係を確立する上で大いに貢献したことを満足の意をもって留意した。

2. 両国首脳は,ASEANが,東南アジア地域における平和,安定,進歩及び繁栄の増進に当り有意義な役割を演じているとの確信を表明した。

両国首脳は,日本とASEAN諸国との間の緊密な協力関係が益々強化されつつあることを歓迎し,このことが,この地域の平和と安定の維持に実質的に貢献するであろうとの確信を表明した。

鈴木総理大臣は,日本国政府は,ASEAN諸国が,より大きな国家的及び地域的強靱性と発展及び東南アジア平和自由中立地帯構想を追求することに対し,引き続き協力を行う旨述べた。

3. 両国首脳は,カンボディアの現状,特にその東南アジア地域の安全に対する不安定効果についての憂慮を表明した。両国首脳はカンボディアの平和ができるだけ早期に回復されるべきであり,カンボディア問題に関する正当かつ永続的解決は,関係国連決議に従ってのみ達成可能であるとの共通の信念を再確認した。

この関連で,鈴木総理大臣は,カンボディア問題についてASEANがとっている正当な立場に対する日本の全面的な支持を改めて表明した。

両国首脳は,東南アジアに平和と安定をもたらすために更に協力していくとの決意をあらたにした。

4. 鈴木総理大臣は,日本がその国力にふさわしい積極的な政治的,経済的役割を果たすことにより世界の平和と安定に積極的に貢献すべき立場にあることを認識し,日本はアジアにおける安定勢力として地域の平和と繁栄のため今後共貢献していく決意である旨表明した。

鈴木総理大臣は,日本は平和に徹し軍事大国にはならないと決意している旨述べた。更に,総理大臣は,そのための日本の基本的安全保障政策は,積極的な外交的役割を果す努力を行い,現行憲法の枠の中で,自衛力の着実な整備とともに,日米安保条約の一層円かつで効果的な運用を図ることにおかれている旨述べた。

5. 両国首脳は,現下の国際情勢を検討し,湾岸地域に広がっている緊迫した状況に対する懸念を表明した。両国首脳は,全ての関係当事者に対し,外国からのいかなる介入も受けることなく,交渉による平和的解決に到達するために,最大限に自制すべきである旨呼びかけた。

アフガニスタン情勢に関し,両国首脳は,国連憲章の諸原則,特に国家主権及び領土保全の尊重,武力行使または武力行使による威嚇を行わないこと,並びに内政不干渉の原則に対する支持を再確認した。また,両国首脳は,1980年11月20日の国連決議A/RES/35/37に従って,早期に政治解決することが重要である旨強調した。

6. 総理大臣と大統領は,新国際経済秩序の樹立に向けて,種々の場において今日まで行われた交渉の進展につき検討した。両国首脳は,国際経済協力のためのより良い環境造りの促進に向けての努力を一層強化する必要性を強調した。

両国首脳は,南北対話において,有意義な成果を達成するために,積極的かつ建設的努力がなされるべきことを期待した。

両国首脳は,このような対話の場として,グローバル・ネゴシエーションを開始することに関し合意が達成されることを希望した。

7. 大統領は,第3次5ケ年計画の下において達成した満足のいく成果について説明した。総理大臣は,スハルト大統領の卓越した指導の下にインドネシア国民が払った開発努力を高く賞賛した。総理大臣は,インドネシアの国家的強靱性の強化を目指すこの様な努力に対し,経済・社会インフラストラクチャーに加え,食糧増産,農村・農業開発,エネルギー開発,及び人造りに特に重点を置きつつ,種々の形の援助と協力を行っていくとの日本政府の意向を再確認した。

両国首脳は,日本のインドネシア政府に対する580億円及び282億円の円借款に関し,1980年12月に2組の交換公文が取り交されたことに満足の意をもって留意した。

総理大臣は,日本が,インドネシア援助国会議において引続き実質的な役割を果たし,インドネシアと積極的かつ効果的な協力を継続していく旨述べた。

更に,総理大臣は,化学工業訓練開発センター及びバイオマス・エネルギー研究開発センターの建設,更に,プラムカ地域開発訓練センターに対する機材供与のため,無償援助を供与するとの日本国政府の意向を表明した。

8. 総理大臣は,インドネシアにおける人造りに貢献するために,日本国政府が引続き技術協力を行うとの意図を表明した。これに関連し,総理大臣は,ASEAN各国にセンターを設立するとの人造りのためのASEANプロジェクトを提案した。

総理大臣は,この目的のため日本国政府が1億ドルの無償資金協力及び技術協力を行なう旨述べた。更に,総理大臣は,このプロジェクトに関連し,日本国政府としては,沖縄にセンターを設立する旨述べた。

スハルト大統領は,総理大臣の提案を評価し,インドネシア政府は,この提案について他のASEAN諸国と協議する用意がある旨述べた。

9. 総理大臣は,インドネシアにおけるASEAN尿素プロジュクトに対し,日本国政府としては,189億円の追加的な資金援助を供与する用意がある旨表明した。

総理大臣と大統領は,これにより同プロジェクトの実施のために必要な全ての資金が確保され,同プロジェクトが完成に向けて進捗することとなったことに満足の意を表明した。

10. 総理大臣と大統領は,日本とASEANの対話の枠組の中における経済面での協力で今日までに達成された進展に留意し,この様な協力が一層拡大され,高められることを期待した。

両国首脳は,ASEAN貿易・投資・観光促進センターを設立する協定が1980年12月に東京において締結されたことを喜び,この協定が,日本とASEANとの経済関係の一層の発展に貢献することを期待する旨述べた。

11. 両国首脳は,平等及び相互利益の原則のもとに科学技術に関する協力を促進することは,両国の利益の促進に資するとの認識を共有し,「科学技術協力に関する日本国政府とインドネシア共和国政府との間の協定」の締結が,この様な協力の促進に大いに貢献するよう希望を表明した。

12. 総理大臣は,エネルギー資源の安定供給の為にインドネシアが行ってきた協力に謝意を表した。両国首脳は,エネルギー分野における協力を一段と促進させることに合意した。更に,両国首脳は,提案されていた日本・インドネシア・エネルギー合同委員会の下における会合が1981年年央にジャカルタにおいて,両国政府高級官吏間において行われることに満足の意を表明した。

13. 総理大臣と大統領は,日本とインドネシアとの間の貿易が拡大し,かつ多角化しつつあることは,両国の利益に適うものであることについて意見の一致を見た。スハルト大統領は,日本が,インドネシアにとって輸出関心のある半加工品及び工業製品のための市場アクセスを改善すべく引き続き努力するよう希望を表明した。両国首脳は,両国政府としても,健全な貿易関係の発展のためにできる限りの努力を払うとともに,この様な健全な貿易関係の促進のために民間企業が払う各種の努力を支持する旨表明した。

14. 両国首脳は,インドネシアの経済・社会発展のために日本の民間投資の果す役割の重要性を認識し,投資保証協定の締結のための交渉を,早期に開始することに合意した。

更に,両国首脳は,「所得に対する租税に関する二重課税防止のための日本国とインドネシア共和国との間の協定」が,両国間の経済関係強化に貢献するよう,早期に締結されることを希望する旨表明した。

15. 両国首脳は,漁業の分野における協力につき意見を交換した。

両国首脳は,日本漁船のインドネシア群島水域内の通航問題につき早急に協議することに合意した。

鈴木総理大臣は,インドネシアの「200海里排他的経済水域」内での日本漁船の操業の維持・継続につき,インドネシア側の配慮を要望した。スハルト大統領は,インドネシア法令及び国際法に従い,日本の漁業利益を十分尊重する旨約した。

16. 総理大臣と大統領は,両国関係をより広範な基礎のもとに置くことの重要性を認識し,あらゆるレベルにおける活発な文化交流及び文化協力を通じ両国民の相互理解と友好を更に促進させる意向であることを再確認した。

この関連で,総理大臣は,技術教育教員資質向上センターに対する文化無償援助に言及した上,ASEAN地域研究振興を援助するための特別計画,及びアジア及び太平洋地域の若手外交官のための日本語研修計画等の特定のプロジェクトを提案した。

17. 両国首脳は,今回の鈴木総理大臣のインドネシア共和国訪問は,両国間の相互理解と,既に存在する友好関係の一層の強化に大いに貢献したことに深い満足の意を表明し,この訪問において両国首脳間に成功裡に確立された個人的な信頼と尊敬の関係を更に深めて行くことに意見の一致をみた。

18. 鈴木総理大臣はインドネシア滞在中,同総理大臣夫妻及び随員一行がインドネシア側から受けた温かい歓迎と厚遇についてインドネシア政府及び国民に対し,深甚なる感謝の意を表明した。

() 日本とシンガポール共和国との共同新聞発表(仮訳)

(1981年1月15日,シンガポール)

1. 鈴木善幸日本国総理大臣は,リー・クァン・シンガポール共和国首相の招待により,夫人とともに,1981年1月13日から15日までシンガポール共和国を公式訪問した。

総理大臣夫妻には,伊東正義外務大臣,亀岡高夫農林水産大臣,瓦力官房副長官及びその他の政府高官が随行した。

2. 鈴木総理大臣夫妻は,1月14日,ベンジャミン・ヘンリー・シアーズ・シンガポール共和国大統領夫妻を表敬訪問した。

3. 鈴木総理大臣とリー首相は,1月13日,共通の関心を有する国際的,地域的な広範な問題及び2国間に存在する諸問題について意見交換を行った。この会談には,日本側より伊東正義外務大臣,亀岡高夫農林水産大臣,瓦力官房副長官,シンガポール側より,テー・チャン・ワン国家開発相,ゴー・チョク・トン商工相兼保健相,ダナバラン外相兼文化相,トニー・タン・ケン・ヤム教育相,リム・チー・オン無任所相が出席した。

4. 総理大臣と首相は,この首脳会談が親密かつ友好的な雰囲気の中で行われ,両国首脳が諸問題につき極めて率直かつ有意義な意見交換を行うことができ相互の理解を深めることができたことを高く評価した。

5. 総理大臣と首相は,鈴木総理大臣の訪問によって,両国側に存在する友好と相互信頼関係が再確認できたことを喜び,両国政府は政治,経済,文化及びその他全ての分野で更に緊密に協力し,特にこの様な友好関係を一層強固な基礎の上に置くために,両国政府及び国民間の接触と交流を増進する用意がある旨述べた。

6. 鈴木総理大臣とリー首相は,日本とASEANとの間の緊密な関係が益々強化されつつあることを歓迎し,これは両国が共に民主主義的諸価値及び自由市場経済を守るとの立場に基づき,政治分野はもとより,経済分野を含むあらゆる分野において,緊密な協力関係を増進するとの希望と必要性を反映しており,このことが,アジアの平和と安定の維持に実質的に貢献するであろうとの確信を表明した。

鈴木総理大臣は,日本政府は,ASEAN諸国がより大きな地域協力と発展を追求することに対し,引き続き協力を行う旨述べた。

7. 両国首脳は,国連憲章の諸原則,特に国家主権及び領土保全の尊重,武力行使または武力行使による威嚇を行わないこと,ならびに内政不干渉の原則に対する支持を再確認した。両国首脳は,国際社会の構成国が,これらの原則を遵守することは,政治的紛争を軍事的手段により解決しようとする今日の傾向に鑑み,より一層肝要となっていることに合意した。

8. 総理大臣と首相は,カンボディアの現状,特にその東南アジア地域の安全に対する不安定効果について憂慮を共有し,カンボディアにおける永続的な平和を回復する唯一の方法は,すべての外国軍隊が,カンボディアの領土から撤退することにより,カンボディア人民が,国連総会決議34/22及び35/6に従って,外国からのいかなる介入及び強制を受けることなく,自らの政治的将来を決定するととであるとの共通の確信を再確認した。

この関連で,鈴木総理大臣は,カンボディア問題についてASEANがとっている正当な立場に対する全面的な支持を改めて表明した。

両国首脳は,東南アジアに平和と安定をもたらすために,更に協力していくとの決意をあらたにした。

9. 鈴木総理大臣は,日本がその国力に相応しい積極的な政治的,経済的役割を果すことにより世界の平和と安定に積極的に貢献すべき立場にあることを認識し,日本はアジアにおける安定勢力としてこの地域の平和と繁栄のため,今後共貢献していく決意である旨表明した。

鈴木総理大臣は,日本は平和に徹し,軍事大国とはならないと決意していると述べた。更に,総理大臣は,そのための日本の基本的安全保障政策は,積極的な外交的役割を果す努力を行い,現行憲法の枠内で自衛力の着実な整備とともに,日米安保条約の一層円かつで効果的な運用を図ることにおかれている旨述べた。

10. 総理大臣と首相は,国際経済協力のための環境の改善に引き続き関心を有する旨表明した。

両国首脳は,グローバル・ネゴシエーションズ等の場において,南北問題について相互の理解と協調の下に,現実的かつ建設的な対話が行われ,有意義な成果が得られることを希望した。

11. 鈴木総理大臣は,日本とシンガポールとの間の貿易の安定的な拡大が,両国各々の利益に適うものであることを認識し,日本国政府としてシンガポールとの互恵的な貿易関係の発展のためにできる限りの努力を払うとともに,この目的のための企業側における各種の努力を支持する旨表明した。

シンガポール及び他のASEAN諸国を含む開発途上国に対する日本の一般特恵関税制度に言及しつつ,鈴木総理大臣は,日本政府は,この様な制度を更に10年間延長し,このための所要の国内手続きを進めるとの方針を決定した旨述べた。総理大臣は,日本の一般特恵関税制度が,シンガポールにおいて生産された産品の日本市場へのアクセスの増大に寄与することを期待する旨表明した。

12. 総理大臣と首相は,シンガポールの経済発展のために日本の民間直接投資の果す貢献に注目し,シンガポールに対する日本の投資の流れをより一層拡大することを奨励するために,投資保証協定締結のための交渉を早期に開始すべきであることに合意した。

13. 両国首脳は,「日本国政府とシンガポール共和国政府との間の租税条約改正議定書」が伊東正義外務大臣とダナバラン外務大臣の間で署名されたことに満足の意を表明するとともに,同議定書が両国間の経済関係の強化に貢献するよう期待する旨表明した。

14. 総理大臣と首相は,ASEAN貿易・投資・観光促進センターを設立する協定が1980年12月に東京において締結されたことに満足の意をもって留意し,このセンターが日本とASEANとの経済関係の一層の進展,特にASEAN諸国からの輸出の促進,この地域における日本の投資の奨励,及び,観光の促進に貢献することを期待する旨述べた。

15. リー首相は,鈴木総理大臣に対し,シンガポールにおける経済・社会開発と同国の新産業政策について説明を行った。

鈴木総理大臣は,日本政府としては,シンガポールの経済開発のために引続き協力して行くと共に日本の技術協力の枠組の中において,シンガポールにおける教育及び経営管理技術等の分野で協力を行なって行く用意がある旨表明した。

16. この関連において,鈴木総理大臣とリー首相は,シンガポール大学工学部増強計画及び日本・シンガポール・ソフトウェア技術研修センターの設立等の分野における日本の技術協力が順調に進展しつつあることに満足の意をもって留意した。

17. 鈴木総理大臣は,シンガポール及びその他のASEAN諸国における人造りに貢献するために,ASEAN各国にセンターを設立するとの人造りのためのASEANプロジェクトを提案した。

総理大臣は,この目的のため,日本国政府が1億米ドルの無償資金協力及び技術協力を行なう旨述べた。更に鈴木総理大臣は,このプロジェクトに関連し,日本国政府は,沖縄にセンターを設立する旨述べた。

リー首相は,鈴木総理大臣の提案を歓迎すると共に,シンガポール政府は,このプロジェクトについて他のASEAN諸国と協議する用意がある旨述べた。

18. 総理大臣と首相は,両国関係をより広範な基礎のもとに置くことの重要性を認識し,あらゆるレベルにおける活発な文化交流及び文化協力を通じ,両国民の相互理解と友好を更に促進させる意向であることを再確認した。

この関連において,両国首脳は,国立シンガポール大学日本研究講座を1981年8月開講するための準備が順調に進展しつつあることに満足の意を表明した。

鈴木総理大臣は,更に,1月14日シンガポールにおいて,伊東正義外務大臣とダナバラン外務大臣との間で交換公文が署名された国立シンガポール大学に対する文化無償援助,及び東南アジア文相機構の地域語学センターに対する日本の貢献に言及した。

鈴木総理大臣は,ASEAN地域研究の振興を援助するための特別計画,及びアジア及び太平洋地域の若手外交官のための日本語研修計画等の特定のプロジェクトを提案した。

19. 両国首脳は,今回の鈴木総理大臣夫妻のシンガポール共和国訪問は,両国間の相互理解と,既に存在する友好関係の一層の強化に大いに貢献したことに深い満足の意を表明し,この訪問において両国首脳の間に成功裡に確立された個人的な信頼と尊敬の関係を更に深めて行くことに意見の一致をみた。

20. 鈴木総理大臣は,シンガポール滞在中,同総理大臣夫妻及び随員一行がシンガポール側から受けた温かい歓迎と厚遇について,シンガポール政府及び国民に対し深甚なる感謝の意を表明した

() 日本とマレイシアとの共同新聞発表(仮訳)

(1981年1月17日,クアラ・ルンプール)

1. 鈴木善幸日本国総理大臣は,フセイン・オン=マレイシア首相の招待により,夫人とともに1981年1月15日から1月17日までマレイシアを公式訪問した。

総理大臣夫妻には,伊東正義外務大臣,亀岡高夫農林水産大臣,瓦力官房副長官他政府高官が随行した。

2. 鈴木総理大臣夫妻は,1月17日マレイシア国王・王妃両陛下に拝謁を賜わった。

3. 鈴木総理大臣とフセイン・オン首相は,1月15日会談を行い,両国関係の様々な側面につき討議し,また双方が共通の関心を有する国際的,地域的な広範な諸問題について意見交換を行った。

この会談には,日本側より,伊東外務大臣,亀岡農林水産大臣,瓦官房副長官,マレイシア側より,マハディール副首相,ガザリ・シャフィ内務大臣,リタウディン外務大臣及びラザレー大蔵大臣が出席した。

4. 総理大臣と首相は,この首脳会談が親密かつ友好的な雰囲気の中で行われ,両首脳が諸問題につき極めて誠意に満ちかつ有意義な意見交換を行うことができたことを高く評価した。

5. 総理大臣と首相は,今回の訪問によって,日本とマレイシアとの間に存在する友誼と相互信頼との関係を改めて確認したことを喜ぶとともに,両国政府は,政治・経済・文化及び技術の分野で更に緊密に協力し,特に人的交流を一層活発にすることを通じ,両国間の友好関係を更に強固な基礎の下に置く用意がある旨表明した。

6. 鈴木総理大臣とフセイン・オン首相は,日本とASEAN諸国との間の緊密な関係が,益々強化されつつあることを歓迎し,日本とASEANとの間のより緊密な協力が,アジアの平和と安定の促進に実質的に貢献するであろうとの確信を表明した。

鈴木総理大臣は,日本国政府はASEANがより大きな地域的強じん性と発展を追求することに対し,引き続き援助を行う旨述べた。更に総理大臣は,ASEANの創設以来マレイシアがASEAN諸国間の協力強化のために指導的役割を果してきた点を高く評価した。

総理大臣と首相は,ASEANの協力,連帯及び統一を具体的に明示するものとしてのASEAN工業プロジェクトの重要性を認識した。この関連において,鈴木総理大臣は,同プロジェクトに対し日本が引き続き関心を有する旨再度表明した。

マレイシアにおけるASEAN尿素プロジェクトに関して,総理大臣と首相は,日本から供与される資金融資によって,同プロジェクトが,その早期履行に向け前進が可能となることに満足の意を表明した。

総理大臣と首相は,ASEANと日本がASEAN産品の市場アクセスの改善,ならびにこれら相互間の貿易の拡大及び発展に向けて努力する必要性を認識した。

この関連において,両国首脳は,ASEAN貿易・投資・観光促進センターを設立する協定が,東京において締結されたことに満足の意をもって留意した。両国首脳は,このセンターが日本とASEANとの間の経済関係の発展に貢献することを期待する旨述べた。

7. 総理大臣と首相は,カンボディアの現状,特にその東南アジア地域の安全に対する不安定効果について憂慮を共有するとともに,国連総会決議34/22及び35/6に従って,カンボディアの全ての外国軍隊の撤退を基礎としたカンボディア紛争の早急な政治的解決を図ること及びカンボディア国民が外国からのいかなる介入及び強制をも受けることなく自らの政治的将来を決定することが必要であるとの共通の信念を再確認した。この関連において,鈴木総理大臣は,カンボディア問題に関してASEANがとっている正当な立場に対する日本の全面的な支持をあらためて表明した。

総理大臣と首相は,東南アジアに平和と安定をもたらすために更に協力していくとの決意を新たにした。

8. 鈴木総理大臣は,日本がその国力にふさわしい積極的な政治的,経済的役割を果たすことにより,世界の平和と安定に積極的に貢献すべき立場にあることを認識し,日本は,アジアにおける安定勢力として地域の平和と繁栄のため,今後共貢献していく決意である旨表明した。

鈴木総理大臣は,日本は平和に徹し,軍事大国とならないと誓っている日本の基本的立場を説明した。更に,総理大臣は,そのための日本の基本的安全保障政策は,積極的な外交的役割を果たす努力を行い,現行憲法の枠の内で,自衛力の着実な整備とともに,日米安保条約の一層円かつで効果的な運用を図ることにおかれている旨述べた。

9. 総理大臣と首相は,国際経済協力のための環境の改善に引き続き関心を有する旨表明した。この関連で,両国首脳は,現実的かつ建設的な対話が行われグローバル・ネゴシエーションズ等の場において南北問題について相互の理解と協調の下に,有意義な成果が得られることを希望した。

10. 鈴木総理大臣は,マレイシアが,特に天然ゴム及びスズ等重要一次産品の安定的供給のために積極的役割を果してきた点を評価した。フセイン・オン首相は,日本が共通基金の設立及びその第2の窓への拠出,1979年の国際天然ゴム協定の締結をはじめとする一次産品問題解決のために,重要消費国の立場から建設的役割を行ってきたことを評価した。

フセイン・オン首相は,マレイシアの一次産品のための重要市場としての日本の役割を十分評価しつつも,日本とマレイシア間の貿易は拡大し,かつ多角化することを希望した。フセイン・オン首相は,マレイシアの工業開発の促進に貢献する,同国の輸出関心品目である半加工品及び工業製品の市場アクセス改善のために,日本が引き続き努力することを希望した。

11. フセイン・オン首相は,第3次マレイシア計画の成果について鈴木総理大臣に対し説明すると共に,マレイシアの経済開発に対する日本の協力に深甚なる謝意を表明した。この関連で,両国首脳は,1月16日クアラ・ルンプールにおいて,第7次円借款の交換公文が伊東正義外務大臣とリタウディン外相との間で取り交されたことに満足の意をもって留意した。

12. フセイン・オン首相は,今年開始される第4次マレイシア計画の概要について説明すると共に,日本が同計画に対し,資金援助を含む協力を行うことを要請した。

鈴木総理大臣は,第4次マレイシア計画の下における農村・農業及びインフラストラクチャーの開発プロジェクトに対し,これまで通り年次ベースで円借款の供与を行うことを含め,日本は引き続き種々の形の協力と援助を行っていく旨表明した。

更に,鈴木総理大臣は,マレイシアの着実な経済発展に伴い,日本の経済協力は民間ペース主体に移行していく旨及び日本は,経済・社会開発に向けてのマレイシアの努力に対し,特に農村・農業開発,代替エネルギー開発を含むエネルギー開発及び人造りの分野,更には,工業化及び経済・社会インフラストラクチャーの分野において,引続き協力と援助を行う用意がある旨述べた。

13. 鈴木総理大臣は,人造りに貢献するために,日本国政府がマレイシアに対し,引き続き技術協力を行うとの意図を表明した。これに関連して,総理大臣は,ASEAN各国にセンターを設立するとの,人造りのためのASEANプロジェクトを提案すると共に,この目的のため,日本国政府は,ASEAN諸国に対し,1億米ドルの無償資金協力及び技術協力を行う旨表明した。更に,総理大臣は,このプロジェクトに関連し,日本国政府としては沖縄にセンターを設立する旨述べた。

フセイン・オン首相は,この提案を歓迎し,同提案を他のASEAN諸国と協議する旨述べた。

14. 総理大臣と首相は,マレイシアの経済・社会の発展のために民間直接投資の果たして来た役割の重要性を認識し,投資保証協定の締結のための交渉を,早期に開始することに同意した。

15. 総理大臣と首相は,両国関係をより広範な基礎のもとに置くことの重要性を認識し,あらゆるレベルにおける活発な文化交流及び文化協力を通じ,両国民の相互理解と友好を更に促進さ迂る意向であることを再確認した。

この関連において,鈴木総理大臣は,マレイシアの教育省及び文化・青年・スポーツ省に対する文化無償援助に言及した上,ASEAN地域研究振興を援助するための特別計画及びアジア及び太平洋地域の若手外交官のための日本語研修計画等の特定のプロジェクトを提案した。

16. 両国首脳は,今回の鈴木総理大臣のマレイシア訪問が,両国間の相互理解と既に存在する友好関係の一層の強化に大いに寄与したことに深い満足の意を表明した。

両国首脳は,この訪問を通じ成功裡に確立された個人的信頼と尊敬の関係を更に深めることに合意した。

17. 鈴木総理大臣は,マレイシア滞在中,同総理大臣夫妻及び随員一行がマレイシア政府及び国民より受けた温かい歓迎と厚遇について,深甚なる感謝の意を表明した。

() 日本とタイ国との共同新聞発表(仮訳)

(1981年1月20日,バンコク)

1. 鈴木善幸総理大臣はプレム・テインスラノン=タイ国首相の招待により夫人とともに1981年1月17日から20日までタイ国を公式訪問した。鈴木総理大臣夫妻には,伊東正義外務大臣,亀岡高夫農林水産大臣,瓦力内閣官房副長官及びその他の日本国政府高官が随行した。

2. 1月17日,鈴木総理大臣夫妻は,チュンマイのプーピン・パレスにおいてタイ国国王,王妃両陛下に拝謁を賜わった。

3. 鈴木総理大臣とプレム首相は1月19日共通の関心を有する国際的,地域的広範囲な問題及び2国間の諸問題について意見交換を行った。この会談には,日本側より伊東正義外務大臣,亀岡高夫農林水産大臣,瓦力内閣官房副長官,小木曾本雄駐タイ大使,タイ側よりサーム・ナ・ナコーン副首相,ブンチュー・ローチャナサテイアン副首相,シティ・サウエートシラー外務大臣,チャチャイ・チュンハワン工業大臣,アムヌイ・ウイーラワン大蔵大臣,タムチャイ・カムパトー商務大臣,パンハーン・シラバアーチャー農業・協同組合大臣,ソムサック・チュートー総理府付大臣,アルン・パーヌボン外務副大臣,ウイチアン・ワタナクン駐日大使がそれぞれ出席した。

4. 総理大臣と首相は,この会談が親密かつ友好的な雰囲気の中で行われ,両国間の互恵的かつ公平な協力のための更なる前進を築いたことに深い満足の意を表明した。

5. 総理大臣と首相は,東南アジアの平和,安全及び安定に脅威を与えているカンボディア内の武力紛争の継続及び外国軍隊によるカンボディア支配の継続に対し,深い憂慮を表明した。

両国首脳は,カンボディアからのすべての外国軍隊の完全撤退,カンボディアの内政不干渉及びカンボディアの主権,領土保全及びカンボディア人民の自決権の尊重を求めた国連総会決議34/22及び35/6を基礎とした政治解決によってカンボディア紛争の永続的解決を探究することの緊急的必要性を再確認した。

この関連で,鈴木総理大臣は,日本がカンボディアに関する国際会議を開催するという国連総会決定の早期実施に向けて引続きASEANと緊密に協力し,この地域の平和と安定の回復のためのASEANの一層の努力に対し全面的な支持を与える旨改めて述べた。

鈴木総理大臣は,東南アジアの平和と安定の維持のために,タイ国の主権と領土保全が完全に尊重されなければならない旨強調した。

総理大臣と首相は,東南アジアの平和と安定の推進と擁護のために相互に,また志を同じくするその他の諸国と協力する共通の決意を再確認した。

6. 鈴木総理大臣は,日本がその国力にふさわしい積極的な政治的,経済的な役割を果すことにより,世界の平和と安定に積極的に貢献すべき立場にあることを認識し,日本は,アジアの安定勢力として,この地域の平和と繁栄のために,今後とも貢献していく決意である旨表明した。

鈴木総理大臣は,日本は平和に徹し,軍事大国とはならないと決意している旨述べた。更に,総理大臣はそのための日本の基本的安全保障政策は,積極的な外交的役割を果す努力を行い,現在憲法の枠内で自衛力の着実な整備とともに,日米安保条約の一層円滑で効果的な運用を図ることにおかれている旨述べた。

7. 総理大臣と首相はカンボディア人民,就中既にタイの収容所及びタイ・カンボディア国境にいる者の苦難に対する重大な憂慮の念を表明した。両国首脳は,母国に安全に帰還するのはカンボディア人の固有の権利であるとの強い信念を再確認した。

両国首脳は,またカンボディア紛争の正当かつ永続的政治解決なしには,この人道上の問題の効果的解決は達成し得ないことを強調した。

鈴木総理大臣は,深刻な経済困難,社会的及び治安上の問題にもかかわらず,生活の基盤を失ったこれらの人々に対し人道的配慮から一時的な避難の場を提供するとのタイの決定を深く感謝した。プレム首相はカンボディア流民を含むインドシナ難民定住のために第三国側における努力の強化が必要である旨強調した。同首相は,また,この面における日本国政府の継続的努力に謝意を表明した。

この関連において,鈴木総理大臣は,日本国政府が1980年度にはタイ国政府,国際連合難民高等弁務官及びその他の国際機関を通じて総額約1億ドルをインドシナ難民のために拠出し,日本国政府はタイ被災民救済計画の重要性を認識し,新村建設計画等の各種計画に使用するために27億円を供与することにした旨述べた。

鈴木総理大臣は,更に,一時的にタイに避難したカンボディア人及び国境地域のタイ被災民向けのタイ国政府及び関係国際機関の救済計画に対し,日本は引続き協力していくこと,また日本国政府は将来の協力のあり方を調査するための調査団を派遣する用意がある旨述べた。

プレム首相は,難民問題に取組む上でタイが負った負担の軽減のためにこれまで支援を行なって来た日本の積極的な貢献に対し,深甚なる感謝の念を表明した。

総理大臣と首相は,カンボディア人民に対する人道的援助には定期的見直しが行われ,また,より効果的な監視機能が導入されるべきであること,またこの様な援助はこれを必要とするカンボディア人に対し供与されるべきであり,特にすでにタイ領内及びカンボディア国境にいるカンボディア人に対し供与されるべきである旨強調した。

8. 総理大臣と首相は,日本とASEAN諸国との間に緊密な関係が発展していることを歓迎し,これがアジアの平和と安定の維持に実質的に貢献するであろうとの確信を表明した。

鈴木総理大臣は,ASEAN諸国間の協力強化にタイが果している建設的な役割,及びASEANが東南アジア地域情勢における積極的な安定要因となっている事実を高く評価した。

鈴木総理大臣は,日本国政府は,ASEANがより大きな国家的及び地域的強靱性と発展及び東南アジア平和・自由・中立地帯構想を追求することに対し,引き続き協力を行う旨述べた。

総理大臣と首相は,ASEAN貿易・投資・観光促進センターを設立する協定が1980年12月に東京において締結されたことに満足の意をもって留意し,このセンターが日本とASEANとの経済関係の一層の発展・特にASEAN諸国からの輸出の促進,この地域における日本の投資の奨励及び観光の促進に貢献することを期待する旨述べた。

この点に関連し,鈴木総理大臣はASEAN各国にセンターを設立するとの人造りのためのASEANプロジェクトを提案した。鈴木総理大臣は日本国政府がこの目的のために1億米ドルにのぼる無償資金協力及び技術協力を行う旨述べた。更に鈴木総理大臣は,このプロジェクトに関連し,日本国政府は,沖縄にセンターを設立する旨述べた。

プレム首相はこの鈴木総理大臣の建設的な提案を評価し,タイ国政府はこのプロジェクトについて他のASEAN諸国と直ちに協議する旨述べた。

鈴木総理大臣は,更に,ASEAN地域研究の振興を援助する為の特別計画及びアジア・太平洋地域の若手外交官のための日本語研修等の特定のプロジェクトを提案した。

9. 総理大臣と首相は,両国間で増進されつつある緊密かつ友好的な関係に満足を以って留意し,両国間の関係をより堅固な基礎の上に置くため,両国政府が政治,経済,技術,文化及びその他の分野において,更に緊密に協力する用意がある旨表明した。

10. プレム首相は,鈴木総理大臣に対しタイ国の経済開発計画を説明し,タイ国の経済,社会開発における日本の積極的な貢献に対し,深甚なる謝意を表明した。

鈴木総理大臣は,プレム首相の卓抜した指導の下にタイ国政府が達成した経済及び社会開発の進展を称賛し,この様な努力に対し今後とも種々の形の協力を行なうとの日本国政府の意向を改めて明らかにした。更に日本国総理大臣は,タイ国の工業化及び経済及び社会インフラストラクチャーの一層の改善の為のタイ国の努力に対し今後とも協力を続けると共に,農村及び農業開発,代替エネルギー資源開発を含むエネルギー開発ならびに人造りに特に重点を置くことにしたい旨述べた。

この目的の為に,鈴木総理大臣は,日本国政府はタイ国政府に対し総額550億円までの第8次円借款を供与するであろうと述べた。

プレム首相は鈴木総理大臣の声明を歓迎し,協同組合を含む農村及び農業開発ならびに天然資源の開発の重要性を強調した。両国首脳は,このような開発目標達成の為の相互協力を促進する為に,合同の長期的計画の遂行を目的として一層の協議が事務レベルで行われることに合意した。

鈴木総理大臣は,更に,日本国政府はマハサラカム看護学校,マハラート病院(第2期)及びバンセンのシーナカリンウイロート大学海洋科学センターの建設の為に,無償資金協力を行なうであろうと述べ,更に日本国政府はタイ国政府に対し,今後とも各種技術援助を行なう意向である旨明らかにした。

プレム首相は,この日本国総理大臣の発言に改めて感謝の意を表した。両国首脳は,人造り及び青少年の接触を通じての両国間の理解増進が双方の利益であることを認識し,タイ国に対する青年海外協力隊派遣に関する取決めが合意されたことを深いよろこびを以って歓迎した。

11. 総理大臣と首相は,両国間の貿易が着実に拡大し,かつ多角化することは,相互の利益に適うものであると認識し,両国間に存在する貿易不均衡を縮小する為により一層努力を払う必要があることに意見の一致をみた。

これに関連し,鈴木総理大臣は,日本国政府は1981年3月末に終了する予定の一般特恵関税制度を更に10年間延長することを決定した旨説明した。

プレム首相は,タイの輸出関心産品,特にパイナップル缶詰,タピオカ澱粉,ヒマシ油及び鶏肉に関する市場アクセスの改善,及び非関税障壁除去,関税率の軽減を要請した。

プレム首相は,また,タイ国政府が関心を有するタイ農産品の日本への輸入を促進することの重要性を強調した。この点に関し,またこの目的の為に,総理大臣と首相は,タイ国における植物検疫制度の確立の為に,日本国政府の援助を通じて協力が継続されるべきであるとの点に意見の一致をみた。

総理大臣と首相は,双方が日本の資本市場へのアクセスを含む両国間の金融協力の拡大の可能性を探究することに同意した。

12. 総理大臣と首相は,タイ国の国家開発努力に対する日本の民間部門からの投資の重要性に留意しつつ,両国政府は,この様な投資を円滑にする為に引続き最善の努力を払うべきことに合意した。

この関連で,総理大臣と首相は,両国間の投資保証協定早期締結の為に,速やかに交渉を開始すべきことに合意した。

総理大臣と首相は,日本の産業構造の変化により,日本における高度化されていない産業は,開発途上国に移転する必要に迫られることに留意した。

プレム首相は,タイ国が比較優位を有する労働集約的な日本の産業は,タイ国に移転することを希望表明した。

総理大臣と首相は,あらゆるレベルにおけるタイ人の経営上及び技術上の経験を実際に一層活用することにより,日本からタイ国に対する技術移転が一層有効に行なわれる必要があることに意見の一致をみた。

13. 総理大臣と首相は,両国関係をより広範な基礎の上に置くことの重要性を認識し,あらゆるレベルにおける文化交流及び文化協力を通じ,両国民の相互理解と友好を更に増進させる意向であることを再確認した。

14. 総理大臣と首相は,新国際経済秩序の樹立に向けて,種々の場において,今日まで行なわれた交渉の進展を検討した。両国首脳は,国際経済協力の為のより良い環境造りの促進に向けての努力を一層強化する必要性を強調した。

両国首脳は,南北対話において,有意義な成果を達成する為に,積極的かつ建設的努力がなされるべきことを期待した。両国首脳は,この様な対話の場としてのグローバル・ネゴシエーションズを開始することについて合意が成立することを希望した。

15. 総理大臣と首相は,鈴木総理大臣の訪問は日本とタイ両国間の相互理解及び既に存在する友好関係の一層の増進に大いに貢献したことに深い満足の意を表明した。

16. 鈴木総理大臣は,双方にとって都合の良い時期にプレム首相が日本を公式に訪問するよう招請し,この招請はプレム首相より深い感謝の意を以って受諾された。

17. 鈴木総理大臣は,同総理夫妻及び随員一行がタイ国政府及び国民から受けた温かい歓迎と厚遇に対し深甚なる感謝の意を表明した。

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