(9) 新エネルギー源及び再生可能エネルギー源に関する国際連合会議における大来首席代表演説
(1981年8月11日,ナイロビ)
議長,代表各位並びに御列席の皆様
私は,まず,閣下が新エネルギー源及び再生可能なエネルギー源に関する国際連合会議の議長に満場一致で選出されたことに心から祝意を表します。私は,閣下の豊かな学識と経験に裏打ちされた卓越した指導力のもとに,この会議が実り多い成果を収めることを確信するものであります。
私は,また,今次会議の場を提供されたケニア共和国の政府及び国民に対し心から感謝の意を表明致します。
また,私は,この機会にタルト・ワルトハイム事務総長,ケネス・ダジー開発及び国際経済協力担当副事務総長及びエンリケ・イグレシアス本件国連会議事務局長が,今次会議の開催準備を含め新・再生可能エネルギーに関する国際協力の促進のため行って来られた献身的な努力に対し,改めて深い謝意を表明するものであります。
議長
今次会議においては,新・再生可能エネルギー源の開発における役割の討議を通じて,これら資源の開発と利用に関する行動計画が採択される予定であります。同計画は,世界の全般的エネルギー需要の充足を目途として,脱炭化水素経済構造への円滑な移行をはかるという全世界的な使命を有する重要な文書であります。エネルギー問題の世界経済における中心的重要性にかんがみ,この行動計画の採択は今後のエネルギー国際協力のみならず南北対話の円滑な展開に決定的影響を有するものであり・建設的な行動計画の採択は今次会議の不可欠の課題となっております。私は,同行動計画の成功裏の採択に我が国代表団が最大限の努力を惜しまない所存であることをここに表明するとともに,以下に今次会議に臨んでの新・再生可能エネルギーの役割に関する我が国の基本的立場及び同行動計画の策定に対する方針を申し述べたいと思います。
議長
我々は,第3次国連開発の10年の第一歩を踏み出しました。1970年代では,石油危機等の混乱にもかかわらず第2次国連開発戦略の下に,開発途上国全体としては,相当の開発成果を収めることができたことはそれなりに評価すべきであると思います。しかしながら,1980年の初頭における世界経済は,2度にわたるエネルギー価格の大幅な引上げもあって,エネルギー供給構造の移行期にあり,その中で安定成長を実現するためには,なお多くの問題をかかえています。先進工業諸国は,高い失業とその増大,経済活動の停滞及び根強い高インフレに直面しております。他方,開発途上国のうち非産油開発途上国は,世界的景気の後退,エネルギー輸入代金の増加と交易条件の悪化,高金利に起因する国際的借入れコストの上昇により,近時のGDPの成長率は大幅に低下しつつあり,1980年は過去10年間の最低を記録しました。加えて,国際収支の赤字も大幅に拡大しつつあります。国連事務局が最近発表した「世界経済概観」によれば,1980年~1981年の諸動向は世界経済が過去10年間における第二の主要な停滞時期に入ったことを示しており,今回の停滞は1975年のそれほどには根深いものでないにせよ,その期間及び規模において明らかに前回をまさるものになると考えられ,また,開発途上国の経済に関しては,新国際開発戦略の目標達成のための早期の進展は期待しえないとの憂慮すべき見通しが明らかにされております。このような状況からみて第一次石油危機以降先進国経済の停滞とのリンクを断ち切って堅調を示していたこれら開発途上国経済の成長は再び世界的経済停滞の影響をうけて減速しつつあると見られています。
議長
次に,私は,このような世界経済の諸困難の原因を分析するとともにこれへの対処策及び本件国連会議のなしうる貢献が何であるかにつき申し述べたいと存じます。
議長
私は,世界経済の現在の混乱をもたらした直接的かつ基本的原因が,各国の経済構造そのものに根ざした基調的なインフレ傾向と2回にわたる石油危機において顕在化した石油への過度の依存にあったということを忘れてはならないと考えます。従って,世界経済の安定化の道は,世界エネルギー情勢と見通しに対する各国の認識を深め石油の供給・価格に対する予見性を高めると共に石油に過度に依存した経済構造をよりバランスのとれた構造に移行させ,石油と経済成長とのリンクを断つという基本戦略を推進することにあります。
現在,国際石油情勢は緩和気味で推移しておりますが,かかる情勢は一時的とみるべきであります。むしろ,こうした時期にこそ,石油消費の合理化及び脱石油の努力,特に,代替エネルギーの開発,新エネルギーの研究開発の努力を強化し,石油情勢の変化に対する経済の基盤を強固なものとする必要があります。
しかしながら,このような脱石油化に向けての構造変革の努力は容易なものではありません。確かに,先進諸国における第一次石油危機以降の石油の節約努力は著しいものがあります。先進諸国全体で原油輸入量は1973年の日量2,490万バーレルから1979年には2,660万バーレルに微増したにとどまりました。
特に我が国の場合,産業部門での省エネルギー,省石油の成功により,石油の原油輸入量を1973年の日量493万バーレルから1980年には432万バーレルにまで滅らす一方で経済は順調な伸びを示して参りました。
さらに昨年においては,1990年までに我が国のエネルギー需要の50%を代替エネルギーによって供給することを目標とするとともに「石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律」の制定,新エネルギー総合開発機構の設立等を行い石油代替エネルギー対策の抜本的拡充を図りました。しかしながら,エネルギー消費構造全体で見た場合,先進諸国のエネルギー需要の対石油依存度ほいぜんとして高く,他方,開発途上国においては,人口の増加と都市化及び工業化の進行によりエネルギー需要の対石油依存度は先進国を上まわっており,基幹的な産業セクターを支える商業エネルギーの供給に占める石油の割合は今後とも上昇の傾向にあります。
開発途上国全体の2000年までのエネルギー需要は現在の3倍になると推定されていますが,このような高いエネルギー需要ののびの下において,開発途上国は,森林の崩壊による土壌の流出と砂漠化をともなう薪の深刻な不足に直面しています。いわば,開発途上国は石油危機による商業的エネルギーの不足と森林資源の崩壊による非商業エネルギーの不足という二重のエネルギー危機にみまわれているわけであり,果して,これら諸国が自力で危機を克服しうるかどうかは大いに懸念されるところであります。
議長
十分かつ安定的なエネルギー供給が開発途上国のみならず,すべての国の経済発展と福祉にとって肝要であること,及びすべての国は非在来型及び在来型のあらゆる形態のエネルギーの開発と供給に努力すべきであることには何人も異議を唱えないでしょう。とくに,多くの国がエネルギー供給の主要な部分を依存する炭化水素資源の低廉かつ豊富な供給がもはや望みえない状況において,いかにして新・再生可能エネルギーを含む石油代替エネルギーの開発利用を炭化水素の安定的供給と節約とともにすすめるかは各国及び世界経済の安定的成長にとって看過しえない大問題であります。この点に関して私は次の二つのことを今後の国際協力の方向として強調いたしたいと存じます。
まず第一は,各国のエネルギー政策の企画立案能力の強化の重要性であります。このため私は,各国が,先進国,開発途上国を問わず,自国に賦存するすべてのエネルギー源の夫々について,どれだけの潜在的利用可能性があるかを調整し,確定し,これらをどのように開発し利用するかにつき自らの政策を企画立案する能力を養うための自助努力を行う必要があると思います。かかる能力を養うため,各国はその国内諸制度の充実,情報の入手,分析,研究開発及び技術移転をすすめる必要があると考えます。我が国は,かかる能力を強化する支援策には積極的な寄与を行う用意があることをここに確認申し上げます。
第二は,今後とも予想される石油供給の低減及び不安定化時代において,世界経済,就中,開発途上国経済の基盤を強固にし,それらの健全な持続的成長に一層好ましい条件を創出しうる世界的エネルギー政策が必要なことです。このような世界的エネルギー政策は前述の自助努力への種々の国際社会による支援措置を含むほか,あらゆるタイプのエネルギー源を対象とした,より多様なエネルギー消費構造への移行を促す措置を明確にするものであり,特に,かかる移行過程に直面する開発途上国の資金的,技術的及び経営的脆弱性の軽減を謳うものでなければなりません。また,既に極めて困難な状況にある後発開発途上国については,国際社会として早急に支援措置を強化することが最も重要であります。
議長
このような努力を国際的レベルで一致して進める試みとして,累次の国連経済特別総会,国際経済協力会議(CIEC)等の場を通じ,エネルギーの開発と供給のための国際協力の指針とメカニズムを形成することが検討されてきました。より具体的には,南北包括交渉の発足の提案はそのような指針とメカニズムの形成をめざすものであり,我が国はその政治的重要性を認識して,その実現に向けて今後とも引続き努力を惜しまない所存であります。また,これと並行してエネルギー分野では種々の現実的な国際協力がすすめられるべきであり,我が国としては本件国連会議がエネルギーの開発と供給のための国際協力の指針とメカニズムの形成にむけて,地道であるが具体的な第一歩を新・再生可能エネルギーの分野でここナイロビの地においてすすめ重要な貢献を行うことを願ってやみません。
議長
最後に,行動計画の履行と評価について我が国の立場を申し上げたいと存じます。
議長
先月私は本件会議事務局の主催で国連大学のホストのもとに東京で開催されたエネルギー政策に関する地域協議会合に出席し,束アジア及び太平洋地域のエネルギー関係の閣僚と共に行動計画,特にそのフオローアップ措置の必要につき詳細に議論する機会を得たことに対しここに謝意を表明いたします。同会合は,「一旦,ナイロビで行動計画が合意されれば,その履行のための各国の取り組みと国際的支援を推進するのは各国政府の課題である。」という点で意見の一致がありました。とのコンセンサスにある通り行動計画は単にその採択だけでなくそこに盛られた世界的な新・再生可能エネルギー分野の国際協力への合意を効果的に履行する機構と資金が見出されるべきであると存じます。適当な機構と資金が見出しうるかどうかは,前述のように南北問題における中心的重要性をもつエネルギー協力にとって肝要であり,ひいては今後の南北協力にとっても決定的であると考えられます。かかる認識を踏まえ,機構及び資金問題に関し,我が国は既存国際機関の人的及び財政的資源の効率的な活用を旨として,次の立場で検討に臨む所存です。
第一に,我が国は,国際社会全体がエネルギー輸入開発途上国の窮状を認識し,これら諸国に対し先進国のみならず,産油開発途上国が一層の金融的支援を提供するとともに,社会主義国が西側工業先進諸国の努力に見合う貢献を行うよう強く要請するものであります。とくに我が国は,開発途上国の自助努力を支援し,促進するかたちでの先進諸国からの公的及び民間資金の移転,とりわけODAをこれら諸国が引き続き必要としていることを十分認識し,その拡充に努力しております。
このため,我が国は,政府開発援助を3年間で倍増するとの中期目標を,最終年にあたる昨年にかなりの余裕をもって達成し,1980年におけるODA実績は33億ドル,対GNP比は1979年の0.26%から0.32%となりました。我が国は,その後においてもODAを積極的に拡充し,引き続き対GNP比の改善を図り,1981年から5カ年間のODAの総計を1980年までの5年間の総計,即ち約107億ドルの2倍以上とするよう努め,このために,今後5年間におけるODAに関する予算の総額をこれまでの5年間の倍以上とすることを目指す等の措置を講じることを内容とする新中期目標を設定いたしました。
このようなODA資金全体の伸びの中で,我が国は,新・再生可能エネルギー源の開発と利用を促進することを我が国の国際協力及び開発援助の優先分野の一つとして,エネルギー関係の活動を行っている既存の国際機関の資金基盤の拡充及びエネルギー分野における二国間援助の増加に積極的に取組む所存であります。
第二に,マルチ分野の資金協力については,以下の方針で行動計画の政策措置の実施をはかることといたします。
(1) 天然資源探査回転基金等既存機関の活動の拡充のため,他の国の応分の拠出を前提として我が国は応分の拠出を図る所存であります。
(2) UNDP,UNIDO,FAO,UNESCO,UNU,世銀等の国連システム内の諸機関の事業活動及び資金運用の調整と効率化をはかり,またこれとIEA等の国連外の諸機関の活動との調和も検討するべきであります。このために国連システム内に情報の交換,収集等横の協力促進のための事務局の協力メカニズムの形成が必要でありましょう。
(3) 我が国は,主としてバイオマスの開発及び利用の促進のため,情報の収集と分析,研究開発,教育及び訓練,関連機関のネットワークづくりを推進する地域センターを本年3月の第37回ESCAP総会の合意に従い設立する用意があります。このセンターは国連大学等の関連機関との密接な連繋をもって作業することを我が方として期待致します。
(4) 我が国は,今後とも国連技術協力開発局が小規模水力の潜在量調査の如くエネルギー政策の企画に関する訓練と諮問業務及び国連国際経済社会問題局によるエネルギーの需給見通しに関する研究と技術援助に対して引き続き信託拠出及び専門家の派遣を通じ貢献を行う所存であります。
第三に,新・再生可能エネルギー分野の開発事業活動の調整と拡充を図るため,援助供与諸国及び援助供与機関間において互いの援助情報の提供と意見交換及び援助プロジェクトの重複の除去と優良プロジェクトの識別などを目的とする協議を促進するためのメカニズムの形成をはかる必要があります。我が国は既に,いくつかのアジア諸国に対し,バイオマスの研究開発,地熱資源の開発調査のための援助を行っており,目的と志を同じくする他の援助供与国及び援助供与機関とも国連諸機関の協力を得つつかかる協議を行うことは有益であると考えます。
第四に,特に個別プロジェクトの識別と実施につきましては,資源別,政策分野別,およびエネルギー利用分野別に地域又は国のニーズに適合した研究開発を含む協力を推進すべく国及び関心機関あるいは関心研究機関からなるアドホックなタスクフォースの設立も有益であると考えます。また,これらのタスクフォースを通じ,関係国間で同一の地歩にたった研究開発協力を進めることが考えられますが,開発途上国側の資金及び研究能力面の制約を克服する実際的な研究協力のメカニズムが既存の先進国間の種々の協力メカニズムを参考に今後検討される必要があると思われます。
第五に,ナイロビ行動計画の履行と評価を行うため,同計画の歴史的重要性にみあった世界的な政府間フォーラムが必要であります。
現在,国連システムにおいて最も必要とされているのは,多機関にわたるこまぎれ的な作業計画の調整と拡大ではなく,これら機関の活動を全般的にモニターし,その政策に幅広い指針を与えるとともに,世界的規模で各国,各国機関に対し行動計画に従って新・再生可能エネルギーの利用と開発の方向を普遍的かつ共通の利益の増進の観点にたって,さし示す権威と能力を備えた真に世界的なフォーラムであります。
議長
最後に私は,本件会議が,対象エネルギー源は限定されていますが,エネルギー問題をハイ・レベルで討議する国連会議としては初めての機会であることを強調したいと思います。既に申し上げたとおり,その成否は今後の南北対話の進展に極めて重要な影響を及ぼすものであり,国連が,対話と協調を通じて,国際の平和と安全に多大のインプリケーションをはらむ重要な経済問題を有効に処理しうるかどうかの試金石であるといっても過言ではありません。このような緊迫感をもって,メンバー国代表各位が本件会議の成功に向けて協力されることを期待し私の発言を終了いたします。
ありがとうございました。