(7) カンボディア国際会議における園田外務大臣演説

(1981年7月13日,ニューヨーク)

議長

私は,パール・オーストリア外務大臣閣下が,カンボディア問題国際会議議長に選出されたことに対し,心からの祝意を表明いたします。国際政治に対する卓越した見識と,豊富な体験を有する閣下の采配の下,この国際会議が実り多きものとなるよう強く希望いたします。

カンボディア問題に関する関係国による国際会議開催を提唱した者の一人として私は,今般国際会議が開催の運びとなったことは欣快にたえません。会議の実現のために多大の尽力を払われたワルトハイム事務総長及びエサフイ特別代表に対し心から敬意を表したいと思います。

また,国際会議開催を呼びかける二つの国連総会決議の作成をはじめ,会議開催のために一貫して主導的役割を果してきたASEAN諸国に対しても心からなる敬意を表したいと思います。

議長

カンボディア問題発生以来相当の時間が経過したにもかかわらず問題は未解決のままであり,カンボディア国民の受難は続いております。更に周辺諸国もカンボディア問題により大きな影響を蒙っております。東南アジア全域にわたる平和と繁栄の構築のためにすみやかにこの問題の正当かつ永続的解決をはかるべきであります。

また,この問題は,紛争の平和的解決と民族自決の確保という国際社会の基本原則にかかわるものであります。カンボディア以外にもアフガニスタン問題を始めとしてかかる基本原則にかかわる憂慮すべき事態が諸々の地域に見られる現在,こうした問題を一つ一つ解きほぐす平和のための努力が国際社会には求められております。この意味で今般国際会議が国連の主権の下に世界の各地域より約80か国の参加を得て開催されたことはまことに時宜に適したことであります。

カンボディア問題についての我が国の基本的立場は,簡単かつ明瞭であります。それは,理由の如何を問わず,一国が他国に対して武力介入を行いその国における民族自決を妨げることは容認し得ないということであります。

かかる立場に立って,我が国としてはカンボディア問題の解決は,国連総会決議35/6に則って行われるべきであると考えており,先般の日・ASEAN外相会議においても同決議を敷桁した形での我が国なりの考え方を提示した経緯があります。しかし,ヴィエトナム軍の撤退,自由選挙の実施及びその結果の国際的保障という3点が確保される限り,その実施の態様については十分柔軟であってよいと考えております。なお,この間,難民の帰還促進を含む難民問題への国際的取組みが必要であり,また,平和到来の暁にはヴィエトナム及びカンボディアに対する国際的復興援助が必要であることも指摘しておきたいと思います。

更に,こうした過程で,国連が重要な役割を果たすことが期待されており,我が国としても,かような国連の貢献に対してできる限り協力する所存であります。

今次会議には残念ながらヴィエトナムは参加しておりませんが,この会議は国際世論の良識を反映し,かつヴィエトナムにとって真剣に検討するに値する解決案をかため,これを国際社会の声としてヴィエトナムに提示すべきであります。我が国は,こうした解決案の作成及びヴィエトナムに対する国際的な働きかけにあたって,ASEANが主導的役割を果たす姿勢を示していることを高く評価しており,こうしたASEANの努力を全面的に支持し,支援する考えであります。そして解決案の一層の検討とヴィエトナムヘの働きかけを重ねた上で,しかるべき時期に次回会合を開催することが重要と思います。

議長

1975年にインドシナ戦争が終結した時,誰もが今こそ東南アジア全域における平和と繁栄の時代が到来したと期待しました。東南アジアの発展の潜在的可能性は無限に大きいものがあります。現に東南アジアの一半たるASEAN諸国はこと数年世界経済の停滞の中で年平均約7パーセントという高い経済成長率を記録する目覚ましい発展を示しております。こうした力強い発展の輪を拡げ,東南アジア全域が将来にわたって平和と繁栄を共有できるようにするためには,ASEAN諸国とインドシナ及び中国との関係が安定的に推移することが不可欠であります。この意味で中国とASEANの関係が平和共存の諸原則に基づいて近年緊密化の方向に向いつつあることを歓迎したいと思います。

他面,ASEANとインドシナとの関係がカンボディア問題のために停滞を見ていることは残念であります。カンボディア問題の正当かつ永続的な解決をはかることの究極的な目標は,ASEANとインドシナの間に平和と共存の体制を築くことであると私は考えます。そこにおいては,域内諸国が相互に意思を押付けず,あくまでも相互の利益を尊重し合うとと,域外国が域内諸国の自主性を尊重し,かかる平和共存を危うくするような干渉はいっさい差控えることの2点を確保することが肝要であります。

議長

我が国は,ヴィエトナムに対し次のとおり呼びかけたいと思います。ヴィエトナムが依然カンボディア問題の武力による解決を追求し,東南アジア全域にわたる平和と繁栄が達成される可能性を拒否していることは極めて残念であります。我が国は,ヴィエトナムが会議の結論を真剣に検討し,カンボディア問題解決のための交渉に参加するよう強く訴えるものであります。

我が国としても,カンボディア問題解決にあたってはヴィエトナムの安全保障上の利害を無視すべきではないと考えております。他方,ヴィエトナムとしても他の諸国の正当な利害を配慮すべきであります。ヴィエトナムは民族の独立と自由ほど尊いものはない。これは国是であると言っております。そうであるならば,ヴィエトナムはカンボディアについても独立・自由が確保されることを望むべきであります。

ヴィエトナム及びカンボディア両国民はこれまで十分すぎる程辛酸をなめてきた筈であります。カンボディア問題の包括的政治解決を一日も早く達成することにより,インドシナに平和と安定を回復し,ヴィエトナムが繁栄する東南アジアの有力な一員となり,カンボディア国民の顔にクメールの微笑が甦える日の来ることを心から願うものであります。

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