第5章 文化交流及び報道・広報活動
第1節 我が国の文化交流の現状
1. 概況
81年度においては,新たにオランダとの文化協定が発効し,また,西独,英国,フランスなど5か国の政府との間で文化協定に基づいた協議が行われた。
文化交流事業としては,81年度にアジア・太平洋地域外交官日本語研修計画を発足させたほか,在外公館における各種の日本文化紹介事業を一層活発に行った。また,特別事業として,対中国日本語教育特別計画を引続き国際交流基金とともに実施したほか,5月の鈴木総理大臣訪米に際し,米国において日米友好基金が行う日本に関する広報文化活動に200万ドルの資金協力を行った。ニューヨーク日本協会が創立75周年等を記念して行う各種日本文化紹介事業及びYFU(Youth For Understanding)が行う日米青少年交流特別計画に基づく米国高校生日本派遣事業に対しても,それぞれ50万ドル及び25万ドルの資金援助を行うことを約した。
また,カナダのブリティッシュ・コロンビア大学アジア・センターにおいて行われる日本研究事業に対して,資金援助を行った(国際交流基金も資金援助を実施)。更に,開発途上国における文化,教育の振興に協力するため,文化無償協力,遺跡保存事業に対する資金拠出,東南アジア文相機構(SEAMEO: Southeast Asian Ministers of Education Organization)やユネスコなどの国際機関を通じる協力など種々の協力が行われた。
他方,外務省所管の特殊法人である国際交流基金は,外務省との密接な協力の下に,81年度において約40億円の事業費をもって各般の文化交流事業を活発に行ったが,中でもロンドンにおいて英国ロイヤル・アカデミーと共催した江戸大美術展が好評を博したことが特筆される。
なお,近年民間や地方公共団体を通じる国際文化交流も極めて活発に行われており,政府としては,これらの動きの助成,支援に努めている。
2. 諸外国との文化交流のための基盤の整備強化
我が国は,諸外国との文化交流を推進する法的な枠組みを整備するため,文化協定や交換公文などの文化交流に関する取極を締結するとともに,これら取極に基づき各国政府との協議を通じ,各国との文化交流を促進する具体的な方途につき協議している。
(1) 文化交流に関する諸取極の締結
(イ) オランダとの文化協定(80年4月署名)は7月に発効し,この結果,我が国は20か国との間に文化協定を有することとなった。
(ロ) 82年2月,バングラデシュとの文化協定がダッカにおいて,また,82年3月,スペインとの文化協定がマドリッドにおいてそれぞれ署名された。
(ハ) また,我が国は中国,ソ連,東欧諸国の9か国との間で文化取極を締結している。
(2) 文化混合委員会などの開催
81年度中に開催された文化混合委員会や随時協議は次の5件である。
(イ) 第3回日印文化混合委員会(6月4日・5日,ニューデリー)
(ロ) 第2回日加文化協議(6月18日,オタワ)
(ハ) 第7回日独文化混合委員会(12月3日,東京)
(ニ) 第10回日英文化混合委員会(82年1月28日・29日,ロンドン)
(ホ) 第10回日仏文化混合委員会(82年2月1日・2日,パリ)
また,6月16日,日米文化教育協力合同委員会(通称「カルコン」)の運営委員会がホノルルにおいて日米両国政府及び民間代表の出席の下に開催された。
3. 国際交流基金による文化交流事業
国際交流基金の81年度における事業費総額は,約40億円(累計約484億円の政府出資金の運用益を主とする)であった。事業費の配分を地域別に見ると,アジア・大洋州約37.5%,北米約15.1%,欧州約19.4%,中南米約7.6%,中近東約6.6%,アフリカ約1.5%となっている。また,事業別に見ると,人物交流28.5%,日本語普及・日本研究の助成事業36.7%,公演・展示等催物事業19.6%,出版助成や図書寄贈6.6%,映画フィルム・TVフィルムの購送など視聴覚事業6.0%となっている。
これらの事業は,外務省及び我が国在外公館と緊密に協議しつつ実施されているものであり,我が国の国際文化交流事業の中心的な柱として,着実な成果を挙げている。
(1) 人物交流
国際交流基金は,広く世界各国を対象として,文化人,学者,スポーツ専門家などの派遣・招へい事業を行っている。
(イ) 人物派遣
81年度においては,開発途上国に柔道,空手,体操,バレーボールなどの専門家18名を派遣したほか,各種国際会議,セミナー,シンポジウムなどに文化人,学者60名を派遣した。また,生花,民俗芸能,囲碁,柔道,体操など従来行ってきた分野に加え,日本料理,外国人による日本文化講演などの分野の日本文化紹介巡回チームを派遣した。
更に,82年3月中旬から4月上旬にかけて,日本学生選抜バスケットボール・チームを東南アジア諸国に派遣した。
(ロ) 人物招へい
81年度においては,基金フェローシップにより175名の日本研究者を我が国に招へいしたほか,文化人短期招へい計画により世界各国で影響力のある著名文化人147名を招へいした。このほか,グループ招へいとして東南アジア,大洋州,北米,欧州の9諸国から139名の中学・高校教員を招いて,我が国の教育事情の視察,関係者との懇談を実施したほか,開発途上国から10名の柔道及びバレーボールの専門家を招へいしてグループ研修を行った。
また,5月には,フランス国立行政学院(ENA: Ecole Nationale d' Administration)の日本研修セミナー参加者一行18名を招へいした。
(ハ) 中近東スポーツ交流促進特別事業
我が国と中近東諸国との文化交流の一環として,スポーツによる交流を促進させるため,国際交流基金は,民間資金の導入を図りつつ,81年度から5か年にわたり,スポーツ・ミッションの派遣,スポーツ専門家の交流,スポーツ器具の寄贈などを継続的に実施する中近東スポーツ交流促進特別事業を発足させた(事業費総額約5億円)。
81年度においては,柔道,剣道,空手及び合気道から成る日本伝統スポーツ使節団を派遣したほか,柔道,空手の専門家の長期招へい等を行った。
(2) 日本語普及
現在,世界各国における日本語学習者は約200万~300万人と言われ,その数は,増加の一途をたどっている。特に,ASEAN諸国,中国,韓国などにおける日本語学習者が急増している。
国際交流基金は,このような趨勢にこたえるため,81年度には海外29か国の大学などに対し111名の日本語教育専門家を派遣したほか,199か所の日本語教育機関に対し教材などの寄贈を行った。また,例年どおり,海外日本語講師研修会及び海外日本語講座成績優秀者研修会を我が国において開催した。このほか,現地講座講師謝金助成,海外日本語弁論大会助成などの各種助成を行った。
79年12月の大平総理大臣訪中の際の華国鋒総理との合意に基づき,対中国日本語教育特別計画が発足した。本計画は,80年度から5か年にわたり毎年120名,計600名の中国人日本語教師を対象に,北京の日本語研修センターにおいて日本語教育法に関する再教育を行うものである。81年度は第2年目として,引続き国際交流基金から同研修センターに対する日本語教師の派遣及び教材の寄贈を行い,また120名の研修員の我が国招へい(82年3月)を実施した。
(3) 日本研究の振興
これまで海外における日本研究は,主に欧米先進国の大学・研究機関において,限られた範囲で行われてきたが,近年我が国の国際的地位の向上に伴い,欧米諸国のみならず東南アジア,大洋州諸国などにおいても日本研究が盛んになりつつある。国際交流基金は,このような趨勢にこたえるため,81年度には海外20か国の大学などに80名の日本研究学者,専門家を派遣したほか,現地講座スタッフの拡充,日本研究プロジェクトなどについて各種の助成を行った。また,各国大学学生などの訪日研修事業に対しても12件の助成を行った。
80年5月,大平総理大臣のカナダ訪問の際,ブリティッシュ・コロンビア大学アジア・センターの日本研究事業に対し,日加両国で資金援助を行うこととし,日本政府は,81年度から3年間に,政府の直接拠出及び国際交流基金事業を組み合わせて,総額50万カナダ・ドルの援助を行うことを約束した。これに基づき,81年度には日本政府から86,000カナダ・ドル相当額を同センターに拠出し,また,国際交流基金からは日本人客員教授の派遣,会議費助成等81,000カナダ・ドル相当額の援助を行った。
(4) 公演・展示事業
81年度において,国際交流基金は,音楽,演劇,舞踊などの分野における我が国の伝統及び現代芸能を海外に紹介するため,芸能団の公演3件を主催し,30件につき助成した。また,我が国の美術,工芸,版画,写真などの海外展示会を12件主催し,3件助成した。
主な公演事業としては,歌舞伎,日本音楽集団等の欧州公演,沖縄古典舞踊の北米・欧州公演,影絵劇団の中近東公演,劇団「風の子」の東南アジア公演などがあり,展示事業としては,英国における「江戸大美術展」,韓国における現代美術展,「和紙展」の北欧巡回などが挙げられる。同基金は,これら我が国文化の海外紹介事業に当たっては,伝統芸術と現代芸術のバランスに配慮をしている。
また,国際交流基金は,一般に我が国において公演・展示される機会の少ない開発途上国の芸能,美術を我が国に紹介するため,これら諸国からの芸能団の公演を1件主催し,4件助成した。また,展示会を2件主催し,1件助成した。
主なものとしては,「第3回アジア伝統芸能交流」(インド,ネパールの伝統舞踊の招へい),バングラデシュ国立歌舞団の公演及びアジアの仮面展等がある。
(5) 映画,テレビなどの視聴覚事業
国際交流基金は,81年度において南米北部,アフリカ仏語圏及び東南アジアの3地域において巡回日本劇映画祭,映画評論家による講演会を開催したほか,米国41大学において日本名作映画の巡回上映会を開催した。
また,同基金は劇映画53本,文化映画85本を各国で開催される映画会の使用に供するため,世界各地の在外公館所属のフィルム・ライブラリーに寄贈した。更に,米国に対しては,全米諸大学の中から選んだ6大学の各(6)図書寄贈,出版援助事業81年度において,我が国は国際交流基金を通じて外国の研究,教育機関及び公共機関など148の機関に対し,図書17,429冊,マイクロフィルム374リール及び8カセットを寄贈するとともに,33件の日本紹介図書の海外における出版を助成した。
4. 在外公館による文化事業
我が国在外公館においては,独自の企画により,あるいは,現地の各種文化団体とも協力しつつ,我が国文化の紹介事業を活発に行っている。81年度においても,各地の在外公館において,劇,文化映画会,文化講演会,生花実演(生花教室,講習会,展示会),日本文化紹介展,日本文化祭,日本文化週間,音楽会,折紙講座,茶道実演,囲碁大会など多種多様の文化行事が行われた。
5. 開発途上国との文化・教育協力
(1) 概況
開発途上国との文化交流に当たっては,我が国文化の相手国への紹介という側面のみならず,相手国の文化的,教育的水準の向上努力に対する協力(いわゆる「文化協力」)が重要である。このため,我が国は,文化・教育関係の資機材の購入資金を贈与する「文化無償協力」,ユネスコなどの国際機関を通ずる開発途上国の遺跡保存事業に対する資金拠出,東南アジア文相機構(SEAMEO)に対する協力など幅広い協力を実施してきている。
(2) 文化無償協力
81年度に署名した文化無償協力交換公文は33件,総額約11億円である。供与先を地域別に見れば,アジア・大洋州19件,中南米4件,中近東・アフリカ10件である。また,供与した機材の目的別分類では,教育・研究関係25件,芸術振興関係6件,文化財保存関係2件であった。
我が国は,ASEAN諸国の有為の青年に対する教育の機会増大に寄与するため,80年度からASEAN青年奨学金をASEANに拠出しているが,81年度においては第2年度分として100万ドルを拠出した。
(4) 日墨友好基金
日墨間の相互理解・文化交流を一層促進するため,日本政府が拠出した100万ドルを原資として,8月にメキシコで「日墨友好基金」が創設された。
(5) アジア・太平洋地域外交官日本語研修計画
1月の鈴木総理大臣のASEAN諸国訪問の成果として,ASEAN諸国を中心とするアジア・太平洋地域諸国の若手外交官に対し,我が国で日本語及び日本事情を研修する機会を与えるアジア・太平洋地域外交官日本語研修計画が発足し,81年度には6か国から8名を受け入れた。
(6)東南アジア文相機構(SEAMEO: Southeast Asian Ministers of Education Organization)への協力
東南アジア諸国の教育,科学,文化面での協力を推進する東南アジア文相機構の事業に関連し,我が国は,81年度において,同機構の教育開発特別基金及び視聴覚機材購入計画に対し総額約158,000ドルの資金協力を行うとともに,専門家の派遣(長期・短期計17名)及び研修生の受入れ(1名)を行った。
(7) 遺跡保存のための協力
我が国は,ユネスコが行っている遺跡保存のための国際的事業に協力しており,81年度においてはパキスタンのモヘンジョダロ遺跡保護開発事業に10万ドル,インドネシアのボロブドール遺跡復興事業に15万ドルの拠出を行うとともに,タイのスコータイ遺跡復興事業に5万ドルを拠出した。
(8) ASPAC(Asian and Pacific Council)文化社会センター
我が国は,81年度において,ASPAC文化社会センターに対し7万ドルの分担金を拠出し,同センターのフェローシップ交換事業などに参加した。
6. その他の文化交流事業
(1) 教育交流
(イ) 留学生交流
外務省は,文部省に協力しつつ,本省及び在外公館を通じて国費留学生の募集,選考を行っている。81年度には,773名の外国人国費留学生が採用された。このほか,在外公館においては,国費留学生ばかりではなく,私費留学生に対しても我が国留学に関する指導,助言を行った。
更に,留学生アフターケア対策として,第8回「東南アジア日本留学者の集い」を開催し,元日本留学者を日本に招へいした。また,ASEAN各国における元日本留学者団体を中心に各種助成(集会施設提供,集会経費援助など)を行った。
(ロ)英国人英語教師の招へい
外務省は,文部省と協力しつつ,78年10月から英国人英語教師招へい計画を実施している。81年度は41名が招へいされ,大学,高校,民間企業などにおいて英語教育に携わりつつ,受入校学生,企業従業員などとの交流を行った。
(ハ) 日米教育交流
日米教育交流については,58年以来,経費全額米側負担で大学院生,研究生,教授などの交流を主たる内容とする日米教育交流計画(いわゆる「フルブライト計画」)が実施されてきた。79年,同計画を経費折半方式による日米共同事業として一層発展させるため,日米両国政府間で協定が締結された。81年において,我が国は,協定に基づき設置された日米教育委員会に約2億3,000万円の拠出を行ったほか,外務省と文部省が協力しつつ,同委員会の活動の指導,援助を行った。
(2) 学術交流
文部省,日本学術振興会は,欧米主要国,中国,東南アジア諸国などとの学術交流を行っており,外務省は,これらの事業に対し側面協力を行っている。
また,日ソ間の学術交流について,外務省は,日本学術振興会及び科学技術庁と協力して,65年以来ソ連高等教育省,また,73年以来ソ連科学アカデミーとの間でそれぞれ学者,研究者の交流を行っており,81年度には17人を派遣し20人を受け入れた。
そのほか,文部省の補助金を得て我が国大学,研究機関が実施する海外学術調査については,在外公館が,調査の円滑な実施のため側面協力を行った。
(3) 青少年・スポーツ交流
次代を担う青年層を対象とした諸外国との交流も文化交流事業の重要な一環である。外務省は,81年度において,欧州,アジア,中南米諸国から188名の青年を招へいした。また,米国の国際青少年団体であるYFU(Youth for Understanding)が実施する100名の米国高校生の日本派遣特別計画に対し,25万ドルの資金協力を行った。このほか,外務省は,総理府・地方自治体などが行っている「青年の船」,「東南アジア青年の船」,青少年の派遣・受入れなどの青少年国際交流事業に対する協力を行っている。
スポーツ交流の分野においては,各種国際スポーツ大会への我が国代表団の派遣,各種スポーツ団体による選手の派遣・受入れ,登山隊の派遣などについて側面協力を行っている。
(4) 民間・地方レベルの文化交流(姉妹都市提携など)
近年,民間団体や地方公共団体を通じる文化交流が活発に行われており,政府としては,かかる分野での交流の発展にできる限り支援,協力を行っている。
特に,我が国地方公共団体と外国相手先との間のいわゆる「姉妹都市」提携関係(81年末までに,総件数は406件に達している)の動きは極めて活発化しており,これに関連して多種多彩な交流事業が行われている。事業の内容としては,従来行われてきた相互親善訪問,青少年交流,児童生徒の作品・動植物の交換等に加え,近年は技術研修,共同研究,交換留学生の派遣,受入れなども増えている。