第8節 国連専門機関

1. 概況

国連専門機関は,労働,教育・科学・文化,農業,保健等の極めて幅広い分野にわたり,専門的,技術的観点から各分野における多国間の協力関係を促進することを目的とした事業を実施している。

81年においては,専門機関に国際政治問題が持ち込まれて大きな政治的対立の場となるようなことはほとんどなかった。しかしながら,他方で,南北問題の深刻化の中で,各専門機関の事業活動を拡大し,開発途上国に対する援助の強化を志向する開発途上国の動きが目立ち,国内経済の低迷,財政状況の悪化を抱える先進国との間で,予算等を巡り激しい議論が行われる場面が見られた。

我が国は,万国郵便連合を除くすべての専門機関において理事会メンバーを務め,その事業活動の運営に積極的に貢献するとともに,財政面においても,分担金のほか多くの任意拠出金を拠出した。

 

2. 各国連専門機関における活動

(1) 国際労働機関(ILO: International Labour Organization)

81年1月~82年3月までの間においては,第67回総会及び第215回~219回各理事会が開かれた。

第67回総会においては,国際文書として,「団体交渉の促進に関する条約(第154号)及び同勧告(第163号)」,「男女労働者,特に家族的責任を有する労働者の機会均等及び均等待遇に関する条約(第155号)及び同勧告(第164号)」並びに「職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約(第156号)及び同勧告(第165号)」が採択され,また,「使用者の発意による雇用の終了」及び「移民労働者の社会保障の権利の保全」に関して国際文書採択のための第一次討議が行われた。

更に,同総会においては,アパルトヘイト政策に対する新たな宣言及び82年~83年予算(総額約2億3,000万ドル)が採択された。

その他では,特に理事会の結社の自由委員会において,米国の航空管制官スト問題(第218回理事会)及びポーランドの労組活動問題(第219回理事会)について報告が採択されている。

我が国は,81年度においてはILOに対して,分担金912万6,051ドル(分担率9.51%)を支払い,アジア地域におけるマルチ・バイ方式による技術協力活動(セミナー,スタディ・ツアー等)への任意拠出金約1,900万円を拠出している。

(2) 国際連合教育科学文化機関(UNESCO: United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)

(イ) 81年にユネスコにおいて開催された主要会議としては,第112回及び第113回執行委員会のほか,教育分野で第2回体育スポーツ政府間委員会及び第38回国際教育会議,自然科学分野で政府間海洋学委員会第14回理事会,「人間と生物圏計画」第7回国際調整理事会及び「総合情報開発計画」第3回理事会,また,コミュニケーション分野で「国際情報開発計画」(IPDC: International Programme for the Development of Communication)第1回政府間理事会がある。第113回執行委員会では,84年~89年中期計画の作成準備につき審議が行われ,同中期計画の備えるべき性格,作成に当たってのガイドライン及び留意すべき基本方針を盛り込んだ決議が採択された。また,IPDC第1回政府間理事会では,対象プロジェクト選定に当たっての優先分野,採択基準の設定につき審議が行われ,IPDCの取進め方に関し一応の方向づけが定められた。

(ロ) 82年1月には,IPDC第2回政府間理事会が開かれ,具体的対象プロジェクトが採択されたほか,82年度特別会計予算が決定された。また,同年3月には,第2回アジア太平洋地域科学技術経済企画担当大臣会議が開催され,同地域の科学技術発展のレビュー及び80年代における域内各国の科学技術政策課題が議論されるとともに,今後の域内協力の在り方に関し審議が行われた。

(ハ) 81年度の我が国の対ユネスコ協力としては,分担金1,924万9,000ドル,アジア地域教育刷新計画に15万ドル,基礎科学地域協力事業に10万ドル,西太平洋海域共同調査事業に3万ドル,教育分野の5事業に各各32,000ドルのほか,ヌビア,ボロブドゥール,モヘンジョダロ及びスコータイ各遺跡救済事業に計31万ドルを拠出した。

(3)国連食糧農業機関(FAO: Food and Agriculture Organization of the United Nations)

81年は,FAOにとって2年に1度の総会開催年であり,FAOの次期(82年~83年)事業計画及び予算が主要事項として討議された。まず,第79回理事会(6月)及び第80回理事会(11月)において素案が検討された後,第21回総会においてFAOの次期事業計画予算が決定され,その総額は,実質プログラム増5.8%で36億6,800万ドルとすることが決定された。また,次期事業計画において,FAOは更に開発途上国に対し技術協力活動を強化していくことが決定された。総会においては,このほか5か国の新規加盟が承認された(加盟国は152か国となった)ほか,農村開発と森林の役割,植物遺伝資源の保存,世界土壌宣言,食糧生産と農業開発資金など合計21件の決議が採択され,世界の食糧・農業問題の解決に向けて国際社会が努力すべき方向づけを行った。このほか,FAOは,81年に第6回農業委員会,第6回世界食糧安全保障委員会,第14回水産委員会,第53回商品問題委員会を開催し,それぞれの分野における国際協力の強化について検討した。

我が国は,FAOに対し,81年度において分担金として1,590万2,000ドル余りを拠出したほか,FAOのフィールド・プロジェクトに72万ドルを拠出した。また,FAOと国連の共同計画として開発途上国への多数国間食糧援助を行う世界食糧計画(WFP: World Food Programme)に対し,81年度には,通常のWFP活動分として575万ドルを拠出するとともに,国際緊急食糧リザーブ(IEFR: Intemational Emergency Food Reserve)分として125万ドルを拠出した。

(4) 世界保健機関(WHO: World Health Organization)

81年には,第34回世界保健総会,第67回・第68回執行理事会及び地域委員会が開催された。第34回総会においては,西暦2000年健康世界戦略の策定,母乳代替品の企業活動に関する国際コードの採択等が行われた。

我が国は,81年においてWHOに対し分担金2,037万2,000ドル余,任意拠出金65万9,800ドルを拠出し,また,WHOの附属機関である国際がん研究機関(IARC: International Agency for Research on Cancer)に対し分担金89万1,000ドル余の拠出を行ったほか,WHO研修生の受入れなどを行った。

(5) 国際民間航空機関(ICAO: International Civil Aviation Organization)

ICAOは,国際民間航空の安全かつ秩序ある発展,国際航空運送業務の機会均等の原則に基づいた健全かつ経済的運営を目的としている。

81年1月から82年3月までの間においては,第102回~第105回理事会が開催され,次期ICAO事務局長としてラムバート現事務局長が再選された(任期は82年8月から3年間)ほか,11月にセイシェルで起きたインド航空機ハイジャック事件が取り上げられ,また,第2回アジア・太平洋地域航空会議が83年1月にシンガポールで開催されることが決定された。

なお,我が国は,82年分担金として,181万6,800ドル余(分担率は8.14%で第3位)を支払った。

(6)万国郵便連合(UPU: Union Postale Universelle)81年には,執行理事会(5月)及び郵便研究諮問理事会(10月)が,共にベルンで開催された。

執行理事会では,UPUの82年度予算案,通常郵便,技術協力にかかわる事項などが審議されたほか,国際事務局次長補が選任された(我が国はオブザーバー参加)。

また,郵便研究諮問理事会では,電子郵便その他の情報伝達の新サービス,郵便市場調査などが審議され,我が国は第3委員会の議長国として会議の取りまとめに貢献した。

なお,我が国は,82年度予算の分担金としてUPU予算の4.72%に当たる87万5,000スイス・フランを拠出した。

(7) 国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)

81年には,第36回管理理事会(6月)及び国際無線通信諮問委員会の各種専門家会合が,いずれもジュネーヴで開催された。

管理理事会では,ITUの82年度予算案,人事,技術協力,将来の会議・会合計画のほか,次期全権委員会議(82年9月~11月,ナイロビ)の会期延長問題が審議された。

また,81年秋の国連総会において83年を「世界通信年」とすることが決議されたが,ITUにおいても国連の電気通信分野における専門機関として本件行事の実施に積極的に参加することとしている。

なお,我が国は,82年度予算の分担金としてITU予算の4.67%に当たる323万6・000スイス・フランを支払った。

(8) 世界気象機関(WMO: World Meteorological Organization)

80年~83年のWMOの事業は,79年に開催された総会で決定されているが,主要事業としては,「世界気象監視(WWW: World Weather Watch)」がある。これは,全球的に観測した気象データを処理し,解析して最終利用者に提供することを目的としており,組織としては,全球観測,全球資料処理,全球通信の各組織から成っている。

また,我が国は,台風の共同観測を行い,気象予報技術を向上するとともに,台風被害を軽減することを目的とするWMO/ESCAP台風委員会の「台風業務実験計画(TOPEX: Typhoon Operational Experiment)」の推進に中心的役割を果たしており,82年及び83年に本格実験を行うこととなっている。

(9) 国際海事機関(IMO: International Maritime Organization)

IMOは,海上の安全と航行の能率及び海洋汚染防止を確保するため,条約及び勧告の作成などを行っている。

81年には,第12回総会などが開催され,海上人命安全条約の第一次改正が採択されたほか,同条約の第二次改正作業,海洋汚染防止条約実施上の諸問題の検討,有害危険物質の海上輸送にかかわる責任と補償に関する新条約の作成作業等が進められた。

なお,82年5月から,この機関の名称が従来の政府間海事協議機関(IMCO: Inter Governmental Maritime Consultative Organization)から国際海事機関(IMO)に変更となった。

我が国が81年に拠出した分担金は,IMO全予算の約10%にあたる142万1,684ドルである。

(10) 世界知的所有権機関(WIPO: World Intellectual Property Organization)

WIPOは,工業所有権及び著作権の保護を世界的に促進することを目的としている。

81年には,第7回特許協力条約同盟総会,工業所有権の保護に関するパリ条約改正外交会議第2会期及びWIPO一般総会等諸会議などが開催された。このうち,外交会議第2会期では,特許の南北問題である特許の不実施に対する制裁措置について一応の合意に達したが,その他の問題については,82年秋にジュネーヴで開催される外交会議第3会期に再度持ち越されている。

我が国は,WIPO一般総会等諸会議においてパリ同盟執行委員会のメンバー国に立候補し,再選(5選)を果たした。

(11) 国際農業開発基金(IFAD: International Fund for Agricultural Development)

77年11月に発足したIFADは,西側先進国(カテゴリーI)20か国,産油国(カテゴリーII)12か国及び非産油開発途上国(カテゴリーIII)104か国の計136か国の加盟国を数えるに至り,既承認プロジェクトも総件数90件,融資承諾額では12億ドル以上に及んでいる(82年1月現在)。

82年1月に開催された第5回総務会では,カテゴリーI,カテゴリーIIが各々6億2,000万ドル,4億5,000万ドルを拠出誓約することにより,基金の最大の懸案であった第一次増資問題に決着を見た。我が国は,6,021万ドルの拠出誓約を行うことにより,米国,サウディ・アラビアに次ぐ第3位の拠出国となった。また,右総務会においては,従来仮本部であったローマを基金の恒久本部とすることが決定された。

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