第6節 法律問題
国際法委員会における国家財産,国家文書及び国家債務に関する国家承継条約草案の採択
(1) 国際法の漸進的発展と法典化を目的として1947年に国連総会の決議により設立された国際法委員会(ILC: International Law Commission)は,49年の第1会期において法典化に適すると考えられる14項目を採択した。本件もその一つであったが,ILCは,外交・領事関係,条約法等の検討を優先したため,62年まで本件を取り上げることができなかった。
その後,ILCは,まず74年に条約に関する国家承継条約草案を採択し,同案は,78年,ウィーンでの全権会議において条約として採択された。
右とほぼ並行して条約以外の国家承継草案の作成を行っていたILCは,81年の第33会期において草案の名称を「国家財産,国家文書及び国家債務に関する国家承継」に変更した上で本草案を採択し,国連総会の審議に委ねた。右総会は,本草案を条約又は適当とされる文書の形にするため,83年初めに全権国際会議を開催することを決議した。
(2) 本草案は,計39か条から成り,条約以外の事項のうち,国家財産,国家文書,国家債務を取り扱い,新興独立国の成立,領域の一部移転,国家の結合及び分離の場合におけるそれらの承継問題の原則を規定するものである。主な規定は,(i)新国家独立の場合,当該独立領域が国家財産の形成に貢献していた場合,当該国家財産はその貢献の割合に応じて独立国に引き渡される(第14条),(ii)国家分離の場合,被承継国の債務も国家財産と同様に衡平な割合で,承継国に移転する(第16,38条),(iii)領土の一部移転の場合,特段の合意がない限り,被承継国の国家債務も衡平な割合で承継国に転移する(第35条)等である。