第4節 社会・人権・文化問題
1. 社会問題
(1) 婦人問題
国連は,76年から85年を「国連婦人の10年」と定め,婦人に対する施策を進めている。
第36回国連総会では,各国に対し,「国連婦人の10年1980年世界会議」で採択された「国連婦人の10年後半期行動プログラム」の実施を促進するための措置をとるよう,また,婦人の地位委員会において,85年開催予定の世界会議の準備につき審議を行うよう要請する決議を採択した。
これを受け,82年2月から3月まで開催された同委員会は,社会開発人道問題センターを世界会議の事務局とするよう総会に勧告すること,世界会議での審議に備え,西暦2000年までの婦人に関する積極的展望に関する草案を準備すること,世界会議の準備のため各国に対し国内委員会の設置を奨励すること等を経済社会理事会に勧告することを決議した。
また,第34回国連総会で採択された「婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」は,9月3日発効した。82年3月2日現在,本条約の署名国数(批准国数を含む)は90,締約国数は38(批准36,加入2)に上っており,我が国も,本条約批准を国内行動計画後半期の重点課題として取り上げ,条件整備に努めている。
(2)国際障害者年
国際障害者年(第31回国連総会は,81年を国際障害者年として指定した)は,国連,各専門機関,非政府団体,各国政府等を主体として,第34回国連総会の採択した行動計画に基づき実施された。
我が国は,国内委員会及び障害者年推進本部を中心として同行動計画を実施したほか,障害問題研究のための各種の国際会議,セミナーへの参加,開発途上国に対する障害の発生予防,リハビリテーションのための技術協力・医療協力などを推進するとともに,国際障害者年信託基金に対し,合計20万米ドルの拠出を行うなど国際協力に努めた。
国際障害者年第3回諮問委員会(8月)では,83年以降の「障害者に関する世界行動計画」草案を採択した。
第36回国連総会では,各国代表が国際障害者年間に実施した諸活動の成果を報告したほか,同年の成果を踏まえて各国の措置を評価し,長期の国内行動計画の策定及び上述の「障害者に関する世界行動計画」の完成を諮問委員会に勧奨する決議を採択した。
(3) 国際青年年・高齢者問題世界会議
(イ) 第34回国連総会において,85年を国際青年年(テーマ「参加,発展,平和」)とすること及び同年の準備のための諮問委員会を設立することが決定された。これを受けて,第1回諮問委(我が国を含む24か国により構成)が3月~4月に開催され,国の発展及び世界平和のために青年の広範な参加を奨励することを目的として,85年及びそれに先立つ期間に実施すべき措置・活動に関する特別プログラムが策定された。このプログラムは,第36回総会により原則として承認された。
(ロ) 第33回国連総会決議に基づき,高齢者問題世界会議が82年7月から8月にかけてウィーンで開催される。会議の主目的は,高齢者の経済的,社会的安定を保障するとともに,高齢者に社会の発展に貢献する機会を与えることを目指す国際行動計画を策定することである。この計画案は,既に同会議のための諮問委員会(我が国を含む22か国から構成)の2回にわたる会合(8月と82年2月)で審議されており,第3回会合(82年5月)を経た後,世界会議に提出の上採択される予定である。
(4) 国連児童基金(UNICEF:United Nations Children's Fund)
5月の執行理事会においては,保健政策に関するUNICEF/WHO合同委員会報告(免疫,らい病,児童障害,下痢,住血吸虫症等),児童養育,飲料水と衛生の10年,都市における基礎的社会サービス,緊急援助政策などの問題及びこれらにおける本基金の役割につき審議が行われ,81年コミットメント・ベース(承認後,一般財源により実施が保証される)のプロジェクト3億700万ドル及び81年ノーティッド・プロジェクト(承認後,一般財源以外の財源の目途が立ち次第実施される)1億5,600万ドルを含む81年~84年約13億ドルの中期事業計画が承認された。
また,本基金は,アフリカの飢餓等による緊急事態にかんがみ,1月に執行理事会特別会期を招集し,9か国に対する総額約1億ドルの緊急援助を行うことを決定した。
なお,カンボディア緊急援助の中心機関としての本基金の役割は81年末で終了した。
2. 人権問題
第36回総会においては,人権侵害問題として,従来の南アフリカ共和国,エル・サルヴァドル,チリのほか,新たにグァテマラの人権侵害問題が審議された。他方,長年の懸案であった「あらゆる形態の宗教的不寛容撤廃に関する宣言」の第36回総会による採択は,注目すべき出来事であった。
また,人権侵害に対し,人道的・社会的援助を与えるための「新国際人道秩序」樹立の必要性につき各国の注意を喚起し,各加盟国に対して事務総長に各々の見解を提出するよう要請する旨の決議が採択された。
我が国は,82年から初めて国連人権委員会のメンバー国(任期3年)となった。82年2月から3月にかけてジュネーヴにおいて開催された国連人権委員会においては,81年末のポーランド国内における戒厳令の施行に関連して,同国の人権状況の審議が焦点の一つとなり,同国の人権侵害についての報告に懸念を表明する旨の決議(資料編参照)が賛成19,反対13,棄権10,投票不参加1で採択された。
3. 難民問題
(1) 近年,500万人に上ると言われるアフリカ難民の悲惨な生活状況が国際社会の注目を集めるようになり,4月には,ジュネーヴにおいて第35回国連総会決議に基づきアフリカ難民援助国際会議が開催された。同会議には85か国が参加し,アフリカ難民問題に対し世界の関心を向けるとともに,当初の予想を上回る5億6,000万ドルの拠出誓約が得られ,成功を収めた。我が国も同会議に愛知政務次官を代表とする代表団を送り,国連難民高等弁務官(UNHCR: United Nations High Commissioner for Refugees)に対する500万ドルの拠出,世界食糧計画(WFP: World Food Programme)を通ずる食糧援助1,500万ドル,合計2,000万ドルの拠出誓約を行った(愛知首席代表の演説は資料編参照)。これは,米国,西独,サウディ・アラビアに次ぐ世界第4位の額であり,アフリカ諸国等から高い評価を得た。
第36回国連総会特別政治委員会においては,80年に引き続き,難民問題の発生原因を除去することをねらいとした「新大量難民流出防止のための国際協力」の議題に関する審議が行われ,結局,大量難民の新たな流出を防止するための国際協力を進展させ,難民流出問題の詳細な検討を行うため17名から成る政府専門家グループの設置が決定された。
我が国は,79年以降,UNHCRに対する世界第2位の大拠出国となっているのをはじめ,国連パレスチナ難民事業機関(UNRWA: United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East),WFP,赤十字国際委員会(ICRC: International Committee of the Red Cross)等の国際機関を通じ多額の難民援助を行っており,世界の難民問題解決のため積極的に貢献してきている。
(2) 我が国の「難民の地位に関する条約」(略称「難民条約」)及び「難民の地位に関する議定書」への加入は,6月5日に国会で承認され,政府はこれらへの加入書を国連事務総長に寄託した結果,82年1月1日,同条約及び議定書は我が国について発効した。この条約は,「難民」の定義を掲げるとともに,それに該当する者に対し,自由権,社会権等について各条項により最恵国待遇,内国民待遇などを与えること,難民旅行証明書を発給すること,難民を迫害のおそれのある領域へ追放・送還することを原則的に禁止すること等を規定している。議定書は,条約の難民の定義から時間的制限(条約は,1951年1月1日前に生じた事件の結果として生じた難民のみを対象としている)を取り除き,対象の範囲を拡大している。
我が国は,難民問題について,これまでも相当規模の資金協力,我が国への定住受入れ等を行ってきたが,この条約及び議定書を締結し,難民の保護・救済の一層の改善を図ることは,難民問題の解決のための我が国の積極的な国際協力の姿勢を示すものとして重要な意義を有している。
4. 人口問題
(1) 人口委員会・経済社会理事会
人口委員会は,国連における人口活動の政策的側面及び人口統計,人口分析,人口推計,人口動態などの専門的側面などについて意見交換・審議を行う場であり,我が国は,58年以来21年間本委員会のメンバーとして積極的な貢献を行ってきている。
1月に開催された第21回人口委員会においては,84年に第4回世界人口会議を開催する旨の勧告が採択された。経済社会理事会は,第2通常会期及び再開会期を通じ,同会議の経済的運営を目指すことに合意し,84年後半に「国際人口会議」の名称の下にこれを開催することを決定した。
(2) 国連人口活動基金(UNFPA: United Nations Fund for Population Activities)
(イ) 6月,国連開発計画(UNDP)管理理事会は,国連人口活動基金について審議し,パキスタン(5か年計画,3,000万ドル),スリ・ランカ(4か年計画,540万ドル)を含む15か国,総額約1億3,300万ドルの大規模な人口活動プロジェクトを承認した。また,中期計画として,既承認分を合わせ,82年約1億4,400万ドル,83年約1億800万ドル,84年約7,200万ドルの事業計画を承認した。
(ロ) 同理事会は,今後の方針としてUNFPAの援助分野のうち,家族計画及び人口に関する教育,コミュニケーションと情報についての援助を強化することを決定した。
(ハ) なお,10月には,北京で,「人口と開発」アジア国会議員会議がUNFPA後援の下に19か国の代表,12名の専門家,21の国連・民間機関の参加を得て開催され,「人口と開発に関する北京宣言」が採択された。
5. 環境問題
(1) 国連環境計画(UNEP: United Nations Environment Programme)
5月にナイロビにおいて開催された第9回管理理事会は,82年~83年環境基金計画予算,84年~89年システムワイド中期環境計画,環境展望文書,成層圏オゾン層の保護等について審議し,27件の決議を採択した。
10月にモンテビデオで開催された環境法政府高官特別会合は,環境法分野における主要な優先領域及び各種施策の定期的見直し,機構等についての決議を採択した。
12月,第36回国連総会は,第9回UNEP管理理事会報告書を審議し,システムワイド中期環境計画及び環境展望文書の重要性を強調するとともに,世界自然憲章案,資源・環境・人間・開発の相互関係,砂漠化防止等に関する決議を採択した。また,同総会は,UNEP管理理事会特別会合を82年5月にナイロビで開催することを決定し,世界各国の参加(なかんずく,環境担当大臣の出席)を呼び掛けた。
我が国は,UNEP活動を支える環境基金に対し,81年に400万ドル(米国に次ぎ第2位)を拠出する等,UNEP理事国として積極的な協力を行っている。
(2)国連人間居住委員会(UNCHS: United Nations Commission on Human Settlement)
4月にマニラで開催された第4回委員会は,84年~89年中期計画,82年~83年事業計画,人間居住のための国際年等について審議し,マニラ・コミュニケを含む23の決議を採択した。
12月,第36回国連総会は,第4回委員会報告書を審議し,関連決議を採択するとともに,原則として87年を「家のない人々のための国際住宅(シェルター)年」とすることを決定した。
我が国は,これまで人間居住委員会委員国として積極的な協力を行ってきている。
6.国連大学
東京に本部のある国連大学は,現在60か国以上にまたがる28の提携機関及び112の研究・研修ユニットを通じ,全人類が直面する緊急かつ世界的問題に関する研究・研修を行っている。
11月に開かれた第18回大学理事会では,今後の同大学の活動の枠組みとなる中期展望(82年~87年)が策定された。今後の同大学の活動は,この展望に基づき,(1)平和,安全,紛争の解決及び世界の変容,(2)世界経済,(3)飢餓,貧困,資源及び環境,(4)人間と社会の発展及び異なる民族,文化,社会体制の共存,(5)科学・技術とその文化的・倫理的諸問題の五つのテーマに沿って行われることとなった。
国連大学に対しては,82年4月7日現在,我が国(9,200万ドル)をはじめ,英国,ヴェネズエラなど34か国から約1億1,900万ドルの拠出が行われている(既拠出額を含め誓約額合計は約1億4,500万ドルとなっている)。