第3節 経済問題

1. 新・再生可能エネルギー国連会議

新・再生可能エネルギー国連会議は,8月にケニアのナイロビで開催され(我が国からは大来政府代表が首席代表として出席した。同代表の演説は資料編参照),「ナイロビ行動計画」を採択して閉幕した。同会議は,エネルギーの全般的需要の充足,特に開発途上国の将来における総合的エネルギー需要の充足を図るべく,14種類(太陽,バイオマス,地熱,風力,潮力,波力,海洋温度差,水力,木炭,燃料薪,牽引動物,ビート,オイル・シェール,タール・サンド)の新エネルギー源及び再生可能エネルギー源の開発並びに利用促進措置についての検討を行った。

同会議で採択された「ナイロビ行動計画」は,いわゆる「エネルギー移行」のための各国,各地域及び世界レベルでの協調行動の方向づけを行ったものであり,限られた範囲ではあるが,エネルギー分野において国連として初めてまとまった指針を示したものとして高く評価し得るものである。

 

2. 後発開発途上国(LLDC: Least Developed Countries)国連会議

本件会議は,9月,パリにおいて139か国と70以上の国際機関の参加の下に開催され(我が国からは北原外務省顧問が代表として出席した。同代表の演説は資料編参照),「LLDCのための1980年代新実質行動計画」を全会一致で採択して終了した。

この新実質行動計画は,LLDC(81年末現在31か国)が現在の絶対的貧困状態を克服し,自立的成長を実現し得るよう支援することを目的とし,そのために必要な援助,貿易,一次産品,食糧,農業,エネルギー等多岐にわたる分野での国際協力の在り方を規定しており,第1章行動計画(LLDCの構造改革のための目標,優先分野,政策),第II章国際的支援措置(経済・技術協力及び援助以外の支援措置),第III章フォロー・アップ措置の3章から構成されている。

本件会議で新実質行動計画が全会一致で採択されたことは,開発の最も遅れたこれらの国々に対し,国際社会が人道上の考慮等から援助の手を差し伸べることを長期的にコミットしたものであり,南北対話を通じる開発途上国との関係の歴史において大きな前進であると評価される。

我が国は,EC,カナダ等とともに,新実質行動計画の採択のために積極的に活動し,特に援助量目標に関しては具体的提案を行い,最終的に我が国案が取り入れられた形で合意が成立した。このような我が国の積極的姿勢は,LLDC諸国のみならず,参加各国によりおしなべて高い評価を受けた。

 

3. 第36回国連総会

(1) 国連包括交渉(GN: Global Negotiations)

第36回総会における経済関係審議の最大の焦点は,GNの発足問題であった。一次産品,エネルギー,貿易,開発,通貨・金融の5分野を包括的対象とするGNは,79年の第34回総会決議により80年夏の第11回国連特別総会で発足する予定であったが,手続,議題を巡り南北間の合意が得られないままとなっていた。

第36回総会では,GNの手続及び議題については最小限の言及にとどめ,GNを発足させることを主たる内容とする簡単な決議を採択するため非公式な折衝が行われた。しかし,GN交渉そのものを発足させるのか,または,交渉の予備的な会議を開催するのかという問題,あるいは,交渉が発足した場合の交渉の中央機関たる国連会議とIMF,世銀など専門機関との権限関係を巡り合意が成立せず,この問題に関する審議は82年の総会再開会期にて継続審議されることとなった。

(2) 一次産品共通基金設立協定

今次総会においては,我が国のイニシアティヴに基づく関係国間の協議の結果,基金設立協定の早期発効を推進する決議が全会一致で採択された。その内容は,各国に協定の早期署名・批准を勧奨し,UNCTAD事務局長に,協定の発効に向けてなされつつある進捗状況を共通基金設立準備委員会に報告させ,更に,第37回国連総会までに協定が未発効である場合には,協定の発効のための進捗状況を同総会で検討するというものである。

(3)世界通信年

今次総会は,83年を世界通信年とし,国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)が中心機関として活動することを決定した。本件通信年は,通信整備の重要性を経済社会開発の不可分の一体として強調するとともに,各国に対し通信開発における政策を十分評価し,かつ,分析する機会を提供することを目的としている。

 

4. 経済社会理事会

我が国は,過去1960年~65年・68年~70年,72年~80年の6期にわたり理事国であったが,81年は理事国でなかったため,同年中の本理事会へはオブザーバーとして参加した。

81年の経済社会理事会では,経済,災害救済特別援助,国連開発事業活動,人口,天然資源,食糧,人権,環境などについての諸問題を審議した。

特に,本理事会の作業の合理化を要請する趣旨の決議案がコンセンサスで採択され,77年の第32回国連総会で採択された国連機構改革の勧告の実施に向けて努力する必要性が強調された。また,第36回国連総会開会中に行われた本理事会の再開会期では,84年に「国際人口会議」を開催することを決定した。本会議は,特に人口と経済社会開発の相互関係について認識しつつ,74年にブカレストで開催された世界人口会議において採択された「世界人口行動計画」の評価及び今後の履行等について討議する予定である。

 

5. 国連における多国籍企業問題の検討

多国籍企業の行動規範を作成する作業が,引続き政府間作業部会において行われた。同作業部会は,81年度中に4回(4月,5月及び82年1月,3月)の会合を開き,議長案をベースとして,多国籍企業の定義及び行動規範の内容のうち,受入国による多国籍企業の取扱いの原則の一部,国有化・補償,裁判管轄権,政府間協力,行動規範の履行などについて草案の検討を行った。

政府間協力及び行動規範の履行については,未合意の点は若干あるが,全体としておおむね草案がまとまった。受入国による多国籍企業の取扱いの原則,国有化・補償,裁判管轄権などについては,従来より南北間で基本的に対立している問題を含んでいるため,意見の一致を見ず,草案作成に至らなかった。また,多国籍企業の定義についても草案の検討を終了し得なかった。

同作業部会は,今後更に起草作業を継続することとなっている。

 

6.国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP: United Nations Economic and Social Commission for Asia and the Pacific)

(1) 我が国は,アジア太平洋地域との協力拡充を目指し,ESCAPの総会をはじめとする諸会合に参加し,また,同委員会のほとんどすべての分野にわたる事業活動に資金拠出または専門家派遣・研修員受入れなどによる具体的協力を行った。

(2) 第37回総会は,3月にタイのバンコクにおいて開催され(我が国からは大来政府代表が出席した),同総会の主要テーマである「ESCAP地域のエネルギーに関する短期的経済政策」及び「地域経済委員会の機能拡大」等が討議された。また,「国連システム内の経済社会分野における地経委の機能強化」等9件の決議が採択された。

また,第38回総会は,82年3月から4月にかけてバンコクで開催され(我が国からは木村元外務大臣が出席した),「アジア太平洋地域における食糧供給及び分配:中期的見通し及び地域協力」及び「エスカップ優先分野の再評価」を中心に討議が行われ,「アジア太平洋地域における食糧供給及び分配」「アジア太平洋開発センターの設立」等11件の決議が採択された。

(3)81年度中に開催されたESCAPの主要会議としては,第4回統計委員会,第5回産業・技術・人間居住・環境委員会,第8回天然資源委員会,第5回海運・運輸・通信委員会及び第4回農業開発委員会の5常設委員会のほか,アド・ホック産業大臣会議がある。

なお,以上のほか,数多くの政府間会合,専門家会合,セミナー,ワークショップが開催されたが,そのうち,政府情報システム及びデータ処理に関する政府間会合並びに台風委員会TOPEX(Typhoon Operational Experiment)準備会合が我が国で開催された。

 

7. 国連工業開発機関(UNIDO: United Nations Industrial Development Organization)

(1) 事業活動

81年においては,第15回工業開発理事会並びに第15回及び第16回常設委員会が開催され,82年~83年の協議システム諸会合の開催の決定,協議システム手続規則の採択,UNIDOIVの準備についての審議などが行われた。

81年には,協議システム会合として第2回石油化学会合,第1回資本財会合及び第1回食品加工会合が開催され,各分野の専門家による意見交換が行われた。

(2) 専門機関への移行

UNIDOを専門機関にするためのUNIDO憲章は,80か国以上の国が批准し,批准国間で効力発生について合意することをその発効要件としているが,82年5月現在,同憲章を批准した国の数は75か国に達している。

(3) 我が国の協力

81年の具体的協力としては,国際協力事業団による研修員(20名)の受入れ,国連工業開発基金への拠出に基づく研修事業として,工業開発エコノミスト養成コース(10名)及び工業製品・品質改良コース企業内集団研修(12名)を実施したほか,国連工業開発基金へ75万ドルの任意拠出を行った。

 

8. 国連貿易開発会議(UNCTAD: United Nations Conference on Trade and Development)

81年は,第5回UNCTAD以来の懸案であった保護主義・構造調整をレヴューするための機構設立に合意を見,また,開発途上国から現在の国際貿易制度を見直そうとする動きが出るなど,世界貿易の拡大及びその枠組みの改善に取り組もうとするUNCTAD加盟国の意欲が改めて感じられた。

また,この年UNCTAD事務局は,世界貿易の分析及び世界経済の見通しに関する年次報告書「貿易・開発レポート81年」を初めて提出し,相互依存の議題の下における討議を実のあるものとした。

我が国は,80年8月から81年7月末まで1年間UNCTADにおけるBグループ(西側先進国グループ)の議長国として活躍した。この間,債務救済のための作業指針,保護主議・構造調整のレヴューのための機構設立につき合意を見る等,第5回UNCTADで提起された諸問題のフォロー・アップに多くの進展を見せた。

(1) 相互依存問題

本問題は,第5回UNCTADにおいて討議されたが,OPECがエネルギー問題を対象とすることに反対し,また,その目的につき意見の一致が見られなかったため結論を得なかった。その後,貿易開発理事会(TDB: Trade and Development Board)の場では,情報交換と意見交換に重点を置く方向に推移し,UNCTAD事務局は,81年秋のTDBにおいて,本件に関する討議をより有意義なものにするため,最初の年次貿易・開発報告(「貿易・開発レポート81年」)を提出した。同TDB及び82年春のTDBでは,同報告を基に本件に関し意見交換が行われた。

(2) 国際貿易

(イ) 保護主義・構造調整

第5回UNCTADにおいて,(a)世界の貿易及び生産パターンの年次レヴューを行うこと,(b)保護主義に関する勧告の策定を目途に貿易制限措置のレヴューを行うことが決議された。3月のTDBにおいて,今後毎年春・秋の2回行われるTDBの春会期ごとに,年次レヴューを行うことにつき合意が成立した。

82年3月のTDBにおいて,保護主義・構造調整問題の第1回年次レヴューが行われ,審議の結果,今後の作業の方向づけとして,(a)農業及びサービス分野の検討,(b)非関税障壁に関する調査,(c)国際貿易の透明度を改善するための国際的措置の検討等が合意された。

我が国は,開放的市場経済体制を維持し,保護主義の台頭を防圧すべきであり・構造調整については,年次レヴューを通じて全加盟国の相互の立場への理解を深め,かつ,調整過程での摩擦とコストをできるだけ少なくすることを目指すべきであるとの方針で臨んでいる。

(ロ) 多角的貿易交渉(MTN)

81年秋のTDBにおいて,開発途上国よりMTN諸協定の履行から生ずる結果及び現在の国際貿易制度をTDBで見直すこととするとの提案がなされた。右提案は,82年春のTDBにおける審議を経て,82年秋のTDBにおいて継続審議される予定である。

(3) 一次産品

(イ) 76年の第4回UNCTAD総会で採択された一次産品総合計画に基づき,80年6月に採択された一次産品共通基金設立協定は,当初の発効目標日であった82年3月31日までに発効要件を満たすに至らず(本協定発効のためには,90以上の国による締約等の要件が必要であるが,3月31日現在,締約国数は我が国を含め25か国であった),82年5月開催予定の本協定締約国会議において次期発効目標日が決定される予定である。我が国は,UNCTADの諸会議,国連総会等の場において共通基金の早期発効を強調しており,第36回国連総会においては我が国のイニシアティヴにより批准促進決議が採択された。

(ロ) 基金の当面の業務対象の一次産品としては,開発途上国の関心の深いバナナ,ボーキサイト,ココア,コーヒ、硬質繊維,銅,綿花,鉄鉱石,ジュート,マンガン,食肉,りん鉱石,ゴム,砂糖,茶,熱帯木材,すず,植物油の18品目が考慮されており,そのうち,すず,コーヒー,砂糖,天然ゴム及びココアについては既に商品協定が存在する(ただし,コーヒーについては緩衝在庫を有しない)。また,ジュートに関しては,研究・開発,市場開拓などの「その他の措置」に関する活動を中心に行う最初の商品協定として1月から交渉会議が行われており,その有力財源の一つとして本基金の第二勘定からの資金が考慮されている。その他の産品では,熱帯木材について,早ければ82年秋に協定作成のための交渉会議が開始される予定であり,硬質繊維,銅,茶,綿花などについてUNCTADの予備協議の場で検討が進んでいる。

(4) 特恵

我が国は,4月から更に10年間特恵制度の延長を決定し,これを踏まえ,5月の第10回UNCTAD特恵特別委員会に臨んだ。同委員会においては,ECも既に延長を決定した旨を明らかにし,また,米国を除く他の供与国も第9回委員会(80年)の合意に基づき延長の意向を表明し,受益国側もこれを歓迎した。

しかしながら,受益国側は,各国の制度は本来の目的に照らしまだ不十分であること,更に,MTN合意に基づく関税の段階的引下げにより,特恵マージンが縮小していること等を指摘し,これらについての改善を要求した。

(5)海運

5月から6月にかけて海運委員会第3回特別会期がジュネーヴにおいて開催された。本件会期では,便宜置籍船問題が取り扱われ,我が国を含む西側先進国の大勢の反対を押し切って,(1)便宜置籍船は船舶の登録要件を強化することによりなくしていくこと,(2)船舶の登録要件に関する政府間準備会合を開催すること等が決議された。

このほか,バルクカーゴ輸送分野で開発途上国が直面している問題の検討を目的として,3月の第1回会合に引き続き11月から12月にかけて第2回専門家会合が開催された。

 

9.国連開発計画(UNDP: United Nations Development Programme)

UNDPは,66年の発足以来,国連システムにおける技術協力面の中心機関として,開発途上国の経済的,社会的開発促進のための技術援助を行っている。UNDPは,72年以来,各国の国別開発計画を踏まえた5年をサイクルとする援助方式を採用しており,第1次サイクル(72年~76年)においては総額16億7,290万ドルに上る事業活動を行い,また,第2次サイクル(77年~81年)においては総額27億3,030万ドルの事業活動を行った。

第2次サイクルの事業活動を賄うための主要財源として,同期間中に34億220万ドルに上る自発的拠出総額の目標が設定され,各国はその拠出額を毎年14%以上増額するとの目標が定められたが,80年の拠出額は前年比3.2%の伸びしか示さず,また,81年の拠出額は前年比6.6%減となったので,同期間の総拠出額は32億963万ドルにとどまり,目標額を下回る結果となった。また,第3次サイクル(82年~86年)においては,第2次サイクルと同様に,各国の拠出額が毎年14%増となることを想定して事業活動が計画されているが,各国からの拠出は目標をかなり下回る見通しであり,財源の確保が最大の問題となっている。

我が国は,77年2,100万ドル,78年2,500万ドル,79年3,500万ドル,80年4,100万ドル,81年4,590万ドルを拠出し,82年には5,140.8万ドルを拠出する予定であり,その拠出額を着実に増大している。

 

10.世界食糧理事会(WFCL: United Nations World Food Council)

5月にノヴィ・サド(ユーゴースラヴィア)において第7回世界食糧理事会が開催され,食糧増産,栄養改善,食糧安全保障,食糧援助及び国際貿易など,食糧・農業問題の解決に当たって国際社会が努力すべき事項を盛り込んだ「結論及び勧告」が採択された。

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