本書の構成と内容
本書は,世界の情勢と我が国が行った外交活動の概要を1981年1月から82年3月に至る期間を中心に取りまとめたものである。本書は,第1部総説,第2部各説及び第3部資料編から成り,資料編には資料,統計類及び年表を収録している。
第1部総説では,第1章において我が外交の基本的課題について述べ,第2章では1981年を中心とした世界の主要な動きを概観し,更に,第3章では同時期において我が国が行った主要な外交努力を説明している。
第2部各説では,まず世界の諸地域ないし諸国の情勢及び我が国とこれらの諸地域・諸国との関係について述べ,次に我が国の関係する重要な国際的問題について事項別に具体的に説明している。
第1章 我が外交の基本的課題
1. はじめに-今日の時代
今日,我が国を取り巻く国際環境は,第2章で概説するように依然として厳しいものがあり,世界の平和と安定は,政治,軍事,経済の各分野にわたり種々の挑戦を受けている。我々は,現在この揺れ動く国際関係をいかにして永続的な安定と発展の軌道に乗せていくかを模索する時代に生きていると言えよう。
70年代を通じ今日に至る諸情勢の変化を踏まえ,今後の国際情勢を展望するとき,我々は,以下の基本的課題に取り組まなければならないと考える。
-近年種々の要因により不安定化の様相を示している東西関係をいかにして自制と互恵に基づいた一層安定的なものとすることができるか。
-依然停滞する世界経済を保護主義の圧力に屈することなく,いかにして再活性化することができるか。
-紛争,混乱あるいは緊張の頻発する第三世界において,いかにして平和と発展に支えられた地域の安定を確保し,また,いかにして南北諸国間に,相互依存と連帯の精神に基づく建設的な関係を構築することができるか。
-先進民主主義諸国が相互の円満な関係の発展を図りつつ,これらの諸課題に対していかにして連帯と実効的な協力を確保することができるか。
これらの課題に適切に対処することができなければ,永続的な世界の平和と繁栄は望めない。したがって,我が国の平和と繁栄もあり得ないであろう。
換言すれば,国際社会が直面するこれら諸課題は,同時に我が国外交の基本的課題でもあり,今や我が国のこれらの問題に対する姿勢と具体的貢献が厳しく問われているのである。
2. 国際的責任の分担と我が国社会の国際化
(1) 世界の平和と安定のために我が国が貢献することは,単に諸外国から期待されているからそれに対応しなければならないということではなく,我が国が自分自身の問題として取り組まなければならない問題である。世界の平和と繁栄の中に我が国の存立があるとすれば,そのために国際社会の中でいかなる役割を担っていくかは,我が国自らが考え,実施していかなければならないことである。その際,短期的に見れば苦痛と犠牲を伴うこともあり得ようが,それは,長期的国益を確保していく上で当然必要な代償と考えるべきであろう。
また,相互依存が深まる現在の国際社会において,いかなる国といえどもその直面する問題に独力で対処していくことも,自国の利益のみを実現することも困難となっており,他国の協力があらゆる場合に不可欠となっている。その際,各国の協力を求め得るか否かは,それら各国との間にどれだけ信頼関係があるかによるところが極めて大きい。この意味で,我が国が平和国家に徹する国として各国から信頼を得るとともに,各国との関係において,あるいは,国連をはじめとする国際機関等の場で,その国力にふさわしい貢献・協力を行い,もって各国,更に世界全体から信頼される国となることが国際社会において生きていく必須の条件である。
もちろん,いかなる問題への対応であれ,我が国の置かれた立場ないし固有の事情や制約があることは当然であり,このことを無視することもできない。重要なことは,我が国の固有の事情や立場を諸外国に十分説明し,我が国のなし得ることを明確にすると同時に,我が国が果たすべき国際責任を回避しないことである。
(2)近年の我が国の発展,世界における相互依存関係の深まりにより,我が国と諸外国との間の交流が増大し,また,その関係も広範にわたるものとなってきた。それに応じて,国民生活のあらゆる分野において直接・間接に外国とのつながりが増え,これが他面においては対外的摩擦を生む結果となる場合も見られるようになっている。
特に,この関連で,最近,我が国独自の社会的,経済的その他の諸制度や慣行が国際的交流の一層の発展を妨げている一因であるとの声も聞かれる。
我が国の諸制度,慣行等の多くは,その固有の事情や伝統に基づいて出来たものであり,これらが諸外国のものと異なるのは当然のことである。
かかる事情は,他の国々においても多かれ少なかれ同様であり,単に諸外国のものと異なることを取り上げての批判は適切なものとは言えないであろう。
しかし,国際社会の緊密化が著しい今日,いかなる国も独り自らの制度,慣行等を墨守するのみでは世界の平和と繁栄に貢献することはできない。我が国においても,時の経過,社会の変遷とともに,本来有していた機能や役割の必然性,妥当性が失われた諸制度や慣行等が惰性として存続されていたり,また,逆に難民の受入れに見られるように新しい状況に容易に対応し得ない例もあることは事実である。
例えば,経済面においては,本年既に2度にわたる市場開放策を講じる等の努力が進められてきているが,あらゆる分野において本来の機能と役割,在るべき姿を常に問いつつ,そもそもの原点に立ち戻って諸制度,慣行等を見直し,改善していく必要がある。このようにして,国民生活の中におけるいわゆる「国際化」の進行を助長することによって,自由で開かれた社会制度,慣行の確立に一層努力しなければならない。
更に一歩進んで,我が国としては,新たな国際的要請あるいは国際環境の変化等に迅速に対応して国際協力を推進し得るようにするため国内体制の整備・拡充を図っていくことがますます重要となっている。また,このような国際間の接触が頻繁な時代においては,相互尊重の立場に立脚したより広範かつ深みのある相互理解の推進が併せ不可欠である。
3. 国際社会の直面する課題と対応
(1) 東西関係-不安定化の様相と対話・交渉の努力
戦後の国際関係の最も基本的な枠組みを形成してきた米ソを中心とする東西関係においては,60年代末から70年代の前半にかけて緊張緩和への動きが高まったが,このような動きの中においてもソ連は一貫して軍備増強を続けるとともに,これを背景として第三世界へ進出した。特に,79年末のアフガニスタンヘのソ連軍の直接の軍事介入を契機として,東西関係は不安定化の様相を呈し,さらに,過去1年余の間におけるポーランド情勢の緊迫化により,この傾向は一層強まるに至っている。
しかし,同時に,米ソ両国は,81年秋以降中距離核戦力及び戦略兵器削減交渉を順次開始したことに見られるように,東西間の決定的な関係の悪化を避け,対話・交渉による関係改善の努力も続けている。
このように,東西関係は,不安定ながらも他方でこれに歯止めをかける努力が行われつつあるが,このような状況の下で,より安定的な東西関係を構築していくため,我々はいかに対応していくべきであろうか。
東西関係の核心である米ソ間の軍事バランスは,70年代の趨勢が仮にこのまま続けば,やがてソ連が優位に立つと見られるため,米国は,核戦力の近代化をはじめとする国防力の強化に努めており,また,同時に,我が国を含む西側諸国に対し防衛努力の強化を期待している。世界の平和と安定が力の均衡によって維持されているのが現実である限り,まずこの均衡を維持するための努力が肝要であり,これなくして安定した東側との関係はあり得ない。
しかし,東側の軍備増強に対応するこのような西側の均衡維持のための努力は,この均衡の水準を中長期的観点に立って全体としてできる限り低い水準に下げるための軍備管理・軍縮努力が伴わなければ,限りない軍備拡張競争をもたらすことになりかねない。したがって,防衛努力と軍備管理・軍縮努力の双方がバランスのとれた形で行われる必要があり,両者相まって国際社会の平和と安定に寄与することとなるのである。81年のオタワ・サミットでも確認された防衛と対話・交渉という西側のいわゆる二面路線の政策は,正にこのような両者のバランスの上に成り立っているものである。米国が,国防努力とともに,中距離核戦力や戦略兵器に関する削減交渉開始への積極的なイニシアティヴを取ったことは高く評価され,ソ連との間で開始されたこれらの交渉が,かかる観点から実質的成果を生むことが期待される。軍縮を促進するに当たっては,最も巨大な軍事力を有する米ソ両国の努力が決定的に重要であり,我が国としては,引続き米ソ両国に対し軍縮の実現に向け真剣に努力するよう強く求めていく必要がある。
同時に,唯一の被爆国であり,平和憲法の下に非核三原則を堅持している我が国としては,国連,軍縮委員会等の場を通じて,核軍縮をはじめとする具体的かつ実効的な軍縮の実現に向けて着実な努力を積み重ねていく必要がある。82年の第2回国連軍縮特別総会において,鈴木総理大臣は,国家間の相互信頼を促進することにより,核軍縮を中心とする軍縮を実現すること,軍縮の結果生じた余力を相互援助の精神に立脚して世界経済の発展と平和の促進に振り向けること及び国連の平和維持機能を強化することの緊急性を訴えたが,今後,この「軍縮を通じる平和の三原則」の具体化に努力していくことが重要である。
先にも述べたとおり,70年代末期から最近に至る東西関係の悪化は,ソ連のアフガニスタン軍事介入及びポーランド問題を直接の要因としているが,これらは,いずれも東西関係の基本的な枠組みにかかわる問題として,西側諸国の連帯と協調が試された事件である。これらを通じて,我が国は,米国及び西欧諸国との政策調整や我が国自身の役割分担について真剣な検討を行い,改めて西側の一員という国際政治上の立場を明確にしたということができよう。
アフガニスタンヘの軍事介入について,ソ連は,国際世論の度重なる糾弾にもかかわらず,自らの行動を正当化しつつその介入を長期化し,今日に至るまでその有効な政治的解決の目途は立っていない。我が国としては,これを既成事実として受け入れることなく,他の西側諸国をはじめとする関係諸国と協調しつつ,引続きソ連軍の全面完全撤退を求めていく必要があり,かかる対応が将来のソ連の行動に対する抑止力となることを忘れてはならない。
また,ポーランドの事態については,我が国としても他の西側諸国との協調を図りつつ,西側としての共通の政治意志を明らかにしていくことにより,ソ連の自制を求めていくべきであろう。
更に,東西関係の重要な一側面として,東西間の経済関係が大きな問題としてとらえられるようになった。オタワ,ヴェルサイユの両サミットの結論に見られるように,東西経済問題に対処するに当たっては西側の政治・安全保障上の利益との整合性が重要であることについて西側諸国の間には意見の一致があると言えよう。しかし,その具体的な対応ぶりについては,各国の歴史的,地政学的条件や政治・経済事情を背景に必ずしも全面的な意見の一致がないことも事実である。この問題は,引続き西側諸国間の政策調整上の大きな課題として検討していく必要がある。
我が国としては,全体的な東西関係の枠内で,隣国ソ連との間に真の相互理解に基づく安定的な関係を築いていくことが我が国の安全保障上不可欠である。このためには,未解決の北方領土問題を解決して平和条約を締結するとともに,ソ連との経済交流については,政経不可分の原則の下で,いたずらに対決を求めることなく,真の友好善隣関係の確立を目指してこれにふさわしい形で対応していくことが重要である。
(2)世界経済の再活性化
70年代の2度にわたる石油危機を背景として,インフレ,低成長,失業,国際収支の不均衡等先進国経済を中心とする世界経済の混迷は,未だ克服されるに至っていない。特に,米国における高金利の長期化は,他の国々の政策選択の幅を狭めていることは否めない。
以上のような経済的困難を背景として,欧米諸国において保護主義の高まりが見られ,欧州の一部に見られる管理貿易的考え方や米国におけるいわゆる相互主義法案,国産化比率(ローカル・コンテント)法案等保護主義的な動きは,自由貿易の維持に対する大きな脅威となっている。世界が,もしこのような目先の国内考慮を優先した安易な対応に走ることになれば,自由貿易,市場経済体制が脅かされ,自由と民主主義という西側社会の基本的価値さえ揺るがされかねない。
しかし,同時に,単に自由貿易の重要性を訴えるだけでは保護主義を十分防圧することはできない。世界は,各国が相互に自国の責任を自覚し,適切なマクロ経済政策及び構造調整政策を通じてそれぞれの経済ひいては世界経済全体の再活性化を行い,新たな拡大均衡を求めていかなければならず,そのための英知と具体的な行動が今日要請されている。
特に,自由世界第2の経済力を有し,相対的に良好な経済状況にある我が国は,従来のような「追いつき追い越せ」の時代に培われてきた行動様式から脱却し,自ら率先して世界における自由貿易を発展させていかなければならない。
ヴェルサイユ・サミットにおいては,中長期的な視点に立って世界経済の再活性化に重要な役割を果たす科学技術の研究開発の分野で国際協力を強化するとともに,金融・通貨を含む経済運営に各国が一層協力していくこと等が合意された。これらについて,会議の席で積極的イニシアティヴを取った我が国としても,各国と協力してこのために積極的な役割を果たしていかなければならない。
また,アジア・太平洋地域は,世界の中でも最も活力とダイナミズムにあふれる地域であり,その可能性を最大限に引き出し,この地域を一層たくましく発展させることは,単にこの地域の繁栄のみならず,世界経済全体の再活性化に資することになる。我が国としては,鈴木総理大臣がそのホノルル演説で述べたように,このような視点に立って,太平洋協力を今後とも積極的に推進していく考えである。
(3)第三世界の紛争・混乱と南北問題
第三世界の各地域において生じた紛争や混乱が,早期に,かつ,平和的に解決されるとともに,これらの諸国がその政治的,経済的,社会的安定を維持しつつ着実な発展の道をたどることが,東西関係と並んで世界全体の平和と安定のために不可欠である。
各地で見られる混乱や紛争の原因は,一様ではない。中東におけるアラブ・イスラエル対立,イラン・イラク紛争,レバノンでの騒乱,更には,南部アフリカ,アフガニスタン,カンボディアや中米における紛争や混乱は,歴史的,民族的,宗教的,領土的対立に起因したり,あるいは,独立若しくは国内体制の動揺の過程に対する外部勢力の直接・間接の武力介入が原因であったりして,複雑な要因が絡み合っている。また,第三世界の諸国は,政治体制,経済発展,地理的・歴史的条件等種々国情を異にしている。したがって,これらの問題に対する単一の解決策はなく,個別の場合に応じたきめの細かい対応が必要である。
我が国としては,西側先進国をはじめとする関係諸国と緊密な連絡・協調を図り,世界の各地における紛争の平和的解決及び対立・緊張の緩和の方途を探究していく共同作業に積極的に関与し,場合によっては,レバノン問題に関する国連安全保障理事会決議案の提出に見られるような積極的なイニシアティヴを取っていくことが重要である。
もちろん,問題の究極的解決は,第一義的には当事国自身の努力によるところが大きく,我が国の果たし得る役割や力にも限界があり,また,我が国の関与の仕方も問題によりおのずと濃淡があることは当然である。例えば,我が国は,国連の平和維持活動であっても,武力の行使を任務や目的とするものには参加し得ないし,また,我が国が歴史的・地政的に関係の深いアジア・太平洋地域や東西の要衝であり,石油の大生産地たる中東地域により大きな外交上の関心を有することは当然であろう。
より具体的には,我が国が位置するアジア・太平洋地域においては,我が国としては,引続き,朝鮮半島における当事者間の緊張緩和への努力への支持,カンボディア問題の包括的政治解決の探求とそのためのASEANの努力の支援及びヴィエトナム等に対する外交的働きかげ,紛争周辺国たるタイ,パキスタン等の支援,太平洋島嶼国の国造りへの支援,中国の近代化への協力等この地域の平和と安定の維持・強化に努力していかなければならない。また,中東地域においては,中東和平における穏健派諸国の活動を積極的に支援していく必要がある。その他,アフリカ地域においては,ナミビアの独立のための西側コンタクト・グループや国連の活動,中米・カリブ地域においては,「中米・カリブ開発構想」への協力等世界的視野に立った外交を展開していくことが肝要である。
更に,我が国としては,平和国家としての立場を踏まえた国連の平和維持機能の強化に一層の積極的貢献を行っていく必要がある。国連の平和維持活動について言えば,従来の財政面における協力はもとより,人的貢献についても,武力行使を任務・目的としない平和維持活動への要員の参加において我が国としてなし得る協力を積極的に検討すべき時期に差し掛かっていると言えよう。かかる努力を一歩一歩積み重ねて行くことにより,平和国家として生存したいという我が国国民の願いと決意を国際社会に示すとともに,その信頼を勝ち得ていくことができるのである。
更に,第三世界諸地域の平和と安定のための我が国の外交努力は,自由世界第2の経済力を有する我が国の強力な経済協力に裏付けられるときにより効果的なものとなる。
いかなる国といえども,民生の安定がその政治的,社会的安定の基盤であるとも言えるが,第三世界の諸国においてはとりわけこの要素が強く,経済協力を通じてこれら諸国の経済的,社会的,政治的強靱性の強化に貢献することは,中長期的に見て,これら諸国の国内的混乱やこれを契機とする種々の紛争あるいは外部からの介入を抑止していくことにもつながるのである。この意味で,経済協力,なかんずく,その中核たる政府開発援助は,我が国の国際社会に対する責任であるのみならず,我が国の総合安全保障政策の重要な一環を成すものである。
我が国は,こうした認識の下に,相互依存と人道的考慮を基本的理念として政府開発援助の拡充に努めてきている。厳しい財政状況下ではあるが,国際公約となっている新中期目標の下で,今後ともその拡充を着実に図っていくことが重要である。
南北問題が,国際社会の直面する大きな問題として取り上げられて以来,多くの歳月が経過した。もちろん,この問題は,直ちに解決できる性格のものではないが,全体としてこれまでの南北関係改善の歩みは遅々としたものであることを認めないわけにはいかない。
にもかかわらず,81年の南北サミットにおいて確認されたように,南北双方は,相互依存の関係を深めているのであり,双方が連帯と協調の精神の下に互いに妥協点を求めて協力していくことの重要性は増大している。
南北が経済面の交流をはじめとして国連等における南北対話を通じて建設的な関係を構築していくことは,先に述べたような世界経済の再活性化のみならず,開発途上国の安定的発展への貢献を通じて世界の平和と安定にも寄与すると言える。
この意味で,南北サミットやヴェルサイユ・サミットでの合意を踏まえて,国連包括交渉(グローバル・ネゴシエーション)の開始に向けて新たな動きが見られることは評価されよう。我が国としては,この交渉の前進のために引続き積極的に寄与していく考えである。
(4)先進民主主義諸国間の関係-連帯と協調
これまでに述べてきた世界の諸問題への対応において,日米欧諸国をはじめとする先進民主主義諸国は,多国間あるいは二国間の場を通じて相互に協義・連絡を行いつつ,全体としてその連帯と協調を維持してきている。もちろん,これら諸国は,各々国力・国情に応じた独自の立場を有しており,すべての個別の問題について同一の政策をとるということは,現実的でもなければ有益でもない。しかし,基本的な政治・経済上の価値観を共有するこれらの諸国は,東西関係や第三世界の諸問題,南北問題や世界経済上の諸問題等世界の直面する諸問題に対して,基本的に共通の利害関係を有しており,相互に協力,補完しつつ,全体としての基本戦略の一致を図ることが肝要である。このために,我が国としても適切な国際的責任分担を行っていく必要のあることは,既に強調したところである。
我が国が政治,経済,安全保障等の広範な分野における国際責任を分担していく際の最も重要なパートナーは,米国であり,我が国は,日米友好協力関係を外交の基軸として一層強化・発展させていかなければならない。
とりわけ,米国との深い信頼関係に基づき,日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を確保することは,我が国の着実な防衛力整備良好な国際環境を築く外交努力とともに,我が国の安全保障を確保する柱である。
西欧民主主義諸国との政治,経済両面にわたる協力の強化も大きな課題であり,日米,米欧間の連帯と並んで,日欧間の連帯を強靱なものとしていく努力が西側全体の団結を強固なものとしていくゆえんであると言えよう。