第1節 外交体制の整備充実
以上述べられてきたような多角的な外交活動を支えているのは,本省及び164の在外公館(大使館,政府代表部,総領事館,領事館)に働く3,480人(昭和55年度定員)の外務省職員である。
外務省は,今日の複雑かつ多様化する国際情勢の中で,外交を総合的かつ機動的に進めるため,本省及び在外公館を通じ,その機構の強化,定員の増強,職員の訓練・研修の強化,能率の向上など,各側面において外交実施体制の整備充実に努めてきている。
具体的には昭和55年度において,次のような措置を講じた。
1. 機構・定員
(1) 機構については,昭和56年度予算において本省関係では,官房外務参事官(中南米局担当)1名を官房審議官に名称変更し,アジア局調査官を振り替えて官房外務参事官(アジア局担当)1名を増置することとした。また,課については,欧亜局東欧第一課を「ソヴィエト連邦課」に,同局東欧第二課を「東欧課」にそれぞれ課名を変更することとした。
在外公館関係では実館として在ジンバブエ大使館を新設し,在マナオス領事館を総領事館に昇格させることとしたほか,ドバイ(アラブ首長国連邦)及びアレキサンドリア(エジプト)に出張駐在官事務所をそれぞれ新設することとした。このほか,兼轄公館として在ヴァヌアツ大使館を新設することとした。
この結果,昭和56年度末におけるわが国在外公館(実館)数は,大使館103,総領事館54,領事館3及び政府代表部5の合計165館となる。
(2) 定員関係については,総合安全保障を図っていく重要な一環として外交実施体制の整備強化が急務であり,そのために外務省の定員増強が不可欠であるとの認識に立って,定員拡充に最大限の努力を払った。また,昭和60年度までに外務省の定員を5,000人程度に拡充することを目的とする「定員拡充6カ年計画」の第2年度に当たり,特に情報収集機能の強化及び小規模公館の体制充実などを重点事項として掲げた。これらの努力の結果,昭和56年度は本省6名,在外109名,合計115名(定員削減分35名を差し引き純増ベース80名)の増員が得られ,外務省の定員は3,560人となった(本省1,558人,在外2,002人)。
2. 職員研修の実施状況
(1) 外務省研修所における研修
昭和54年度外務公務員上級及び専門職員採用試験合格者計69名,初級職員36名の新規採用者に対する初任研修のほか,在外公館に配置される他省庁出身職員など97名,及び国際機関出向職員,在外公館勤務予定者夫人に対する赴任前研修をそれぞれ実施した。また,在外公館に赴任する外務本省職員に対する赴任前研修及び一部職員に対する現地語習得のための語学研修を実施した。今後は前記諸研修のほか,特に外務本省職員に対する赴任前研修の一層の強化,初級職員に対する語学研修を含む採用時の総合研修の充実を図るとともに,現地語習得のための研修にも力を入れることとしている。
(2) 在外における研修
(イ) 新規入省者の在外研修
昭和51~53年度の外務公務員上級及び専門職試験に合格の職員125名について,語学別に2年ないし3年の外国大学などにおける在外研修を実施した。
(ロ) 中間研修
ハーヴァード大学国際問題研究所,英国王立国際問題研究所などの外国の有力研究機関のほか国内での各省庁や民間団体主催の専門的研修などに対し,職員を派遣した。
3. 在外公館査察の実施
外交の第一線に立つ在外公館の活動が適正かつ効率的に行われることは,わが国外交活動の基本である。このための一手段として外務公務員法第16条に基づき,毎年本省から在外公館に査察使が派遣されており,在外公館の活動・運営・経理状況,館員の勤務条件などにつき査察を行い,併せて本省との間の有機的な連携の維持・強化に努めている。昭和55年度においては,中南米地域,西アジア・中近東・アフリカ地域,中国・香港・モンゴル・ソ連地域,北米地域,ニューヨークの国連代表部にそれぞれ査察使が派遣された。
第2節 外交問題に関する記録の整理・刊行及び閲覧
外務省は,発足以来鋭意外交記録の整理・編さん・保存に努めてきたが,更に,外交知識普及のため,昭和46年東京都港区麻布台に外交史料館を設立した。
同史料館には太平洋戦争終結までの「外務省記録」約48,000冊,徳川幕府と諸外国との交渉史料を収録した「通信全覧」・「続通信全覧」2,103巻及び条約書約600件,国書・親書約1,100通などの史料が所蔵されて一般の閲覧に供されており,昭和55年の外交記録閲覧者数は2,236名に達した。
また,同館展示室には幕末からサン・フランシスコ平和会議までの代表的な親書・国書・条約原本・往復文書及び外交関係の写真など貴重な史料が展示されて一般の見学者に公開されており,昭和55年の見学者数は1,299名に達した。
外務省は,昭和初期から,明治元年以降の外交記録の中から逐次外交上の主要文書を選択・整理・編さんして「日本外交文書」刊行に着手し,昭和11年に「日本外交文書」第1巻(明治元年)を刊行した。以来その刊行事業は現在も続行されており,明治期は既に完成した。目下外交史料館では大正末期及び昭和初期の編さんを並行して進めており,昭和55年度には,「大正13年第2冊」,「満州事変第2巻第2冊」及び「満州事変別冊」の3冊を公刊した。この結果,「日本外交文書」の総数は,各年次別本巻のほか「日露戦争」,「ワシントン会議」,「条約改正関係」,「日本外交年表並主要文書」,「小村外交史」などの別巻を加えて149冊に達した。
なお,外務省は,昭和51年以来原則として30年経過した外交記録を順次公開してきており,昭和55年10月30日に第6回目の公開を行った。この結果,新たに対外政策調査関係,国連専門機関などへのわが国の加入関係(平和条約発効まで)及び引揚関係などの外交記録が外交史料館において希望者の閲覧に供されることとなった。