第5章 文化交流及び報道・広報活動

第1節 わが国の文化交流の現状

1. 概況

80年においては,フィンランド及びアルゼンティンとの文化協定が発効し,オランダ及びギリシャとの文化協定が署名され,この結果,わが国は19カ国との間に文化協定(発効したもの)を持つこととなった。また,文化協定に基づきイラク,中国,豪州など7カ国政府との間で具体的な文化交流の計画につき協議を行った。わが国の政府レベルの文化交流の実施機関である外務省所管の特殊法人国際交流基金は,80年度において約37億円の事業費をもって各般の事業を活発に行った。そのうち新規事業として対中国日本語教育特別計画,中近東スポーツ交流特別計画が発足したことが特筆される。

また,世界各地に置かれている在外公館は現地の日本文化に対する要望にこたえて,独自のイニシアティブにより,各種の日本文化紹介事業を活発に行った。

他方,政府は開発途上国における文化,教育の振興に協力するため,文化無償協力,遺跡保存事業に対する資金拠出,東南アジア文相機構(South East Asian Ministers of Education Organization; SEAMEO)やユネスコなどの国際機関を通じる協力などの事業の充実を図った。特別事業としては,80年度から今後10年間にわたるASEAN奨学金制度に対する資金援助を開始するとともに,日墨(日本・メキシコ)友好基金に対し資金援助を行った。

なお,近年民間や地方公共団体を通じる国際文化交流も極めて活発に行われており,政府としては,これらの動きの助成,支援に努めている。

2. 諸外国との文化交流のための基盤の整備強化

わが国は,諸外国との文化交流を推進する法的な枠組みを整備するため,文化協定や交換公文などの文化交流に関する取極を締結するとともに,これら取極に基づき各国政府との協議を通じ,各国との文化交流を促進する具体的な方途につき協議している。

(1) 文化交流に関する諸取極の締結

80年4月22日,オランダとの文化協定が東京において,また81年3月4日ギリシャとの文化協定がアテネにおいてそれぞれ署名された(未発効)。

また,フィンランドとの文化協定(78年12月27日署名)は80年6月29日に,アルゼンティンとの文化協定(79年10月11日署名)は81年3月27日にそれぞれ発効した。この結果わが国は,28カ国との間に文化協定ないし文化取極を持つに至った。(未発効のオランダ及びギリシャとの文化協定は含まず。)

(2) 文化混合委員会などの開催

80年度中に開催された諸文化取極に基づく文化混合委員会や随時協議は次のとおり7件である。

(イ) 第3回目白文化混合委員会(3月10日・11日,東京)

(ロ) 第1回日本イラク文化混合委員会(5月19日~22日,東京)

(ハ) 第6回目墨文化混合委員会(6月5日・6日,メキシコ・シティー)

(ニ) 第1回日中文化交流協議(9月1日・2日,北京)

(ホ) 第3回目豪文化混合委員会(9月17日・18日,東京)

(ヘ) 第1回日本フィンランド文化協議(12月4日,ヘルシンキ)

(ト) 第6回目伊文化混合委(12月6日,ローマ)

また5月28日から30日まで第10回日米文化教育会議がワシントンにおいて日米両国政府及び民間代表の出席の下に開催された。

3. 国際交流基金による文化交流事業

国際交流基金の80年度における事業費総額は,約37億円(累計475億円の政府出資金の運用益を主とする)であった。事業費の配分を地域別に見ると,アジア・大洋州約32%,北米約16%,欧州約15%,中南米約8%,中近東約4%,アフリカ約2%となっている。また,事業別に見ると,人物交流29%,日本語普及・日本研究の助成事業38%,公演・展示等催物事業16%,出版助成や図書寄贈7%,映画フィルム・TVフィルムの購送など視聴覚事業6%となっている。

これらの事業は,わが国在外公館との緊密な協議に基づき実施されているものであり,わが国の国際文化交流事業の中心的な柱として,着実な成果を上げている。

(1) 人物交流

「文化交流は人に始まり人に終わる」と言われており,国際交流基金は広く世界各国を対象として文化人,学者,スポーツ専門家などの派遣・招へい事業を活発に行っている。

(イ) 人物派遣

80年度においては,開発途上国に柔道,空手,体操,バレーボールなどの専門家14名を派遣し現地指導にあたらせたほか,各種国際会議,セミナー,シンポジウムなどに文化人,学者87名を派遣した。また,生花,折り紙,邦楽,囲碁,柔道,卓球などの日本文化紹介巡回チームを各地域に派遣した。

81年2月には,鈴木総理大臣のASEAN諸国訪問直後の機をとらえて,わが国とASEAN諸国とのスポーツ交流の促進を図るため,全日本選抜サッカー・チームをASEAN5カ圏に派遣した。

(ロ) 人物招へい

80年度においては,基金フェローシップにより160名の日本研究者をわが国に招へいしたほか,文化人短期招へい計画により世界各国で影響力のある著名文化人117名を招へいした。このほかグループ招へいとして東南アジア,大洋州,北米などの諸国から137名の中学・高校教員を招いて,わが国の教育事情の視察,関係者との懇談を実施したほか開発途上国より7名の柔道及びノミレーボールの専門家を招へいしてグループ研修を行った。

(ハ) 対中近東スポーツ交流特別計画

わが国と中近東諸国との文化交流の一環として,スポーツによる交流を促進させるため,国際交流基金は,民間資金の導入を図りつつ,80年度から5カ年にわたり,中近東諸国に対し,伝統スポーツ・ミッションの派遣,スポーツ専門家の交流,スポーツ器具の寄贈などを継続的に実施する対中近東スポーツ交流特別計画を発足させた(事業費総額約5億円)。

(2) 日本語普及

現在,世界各国における日本語学習者は約200万~300万人と言われ,その数は,増加の一途をたどっている。特に,ASEAN諸国,中国,韓国などにおける日本語学習者が激増している。

国際交流基金は,このような趨勢にこたえるため80年度には海外27カ国の大学などに対し96名の日本語教育専門家を派遣したほか222カ所の日本語教育機関に対し教材などの寄贈を行った。また,例年どおり海外日本語講師研修会及び海外日本語講座成績優秀者研修会をわが国において開催した。このほか,現地講座講師謝金助成,海外日本語弁論大会助成などの各種助成を行った。

<対中国日本語教育特別計画>

中国における日本語学習の熱意にこたえるため,79年12月に大平総理大臣訪中に際し,華首相との会談で,80年度から5カ年にわたり毎年120名,計600名の中国人日本語教師を対象とする対中国日本語教育特別計画を発足させることが合意された。80年8月北京語言学院に日本語研修センターが開設されたことにより,本計画が実施に移され,国際交流基金は同研修センターに対し,日本語の教師の派遣及び教材の寄贈を行い,外務省は,81年3月研修員120名をわが国に招へいし訪日研修会を実施した。

(3) 日本研究の振興

海外における日本研究は,これまで主として欧米先進国の大学,研究機関において限られた範囲で行われてきたが,近年わが国の国際的地位の向上に伴い,欧米諸国ばかりでなく東南アジア,大洋州諸国などにおいてもわが国に対する関心が高まり,日本研究が盛んになりつつある。国際交流基金は,このような趨勢にこたえるため,80年度には海外18カ国の大学などに対し66名の日本研究学者,専門家を派遣したほか,現地講座スタッフの拡充,日本研究プロジェクトなどについて各種の助成を行った。また,各国大学学生などの訪日研修事業に対する助成8件を行った。

(イ) シンガポール大学日本研究学科に対する協力

79年10月リー=シンガポール首相が訪日した際,大平総理大臣に対し,シンガポール大学に日本研究講座を開設することにつきわが国に対し協力要請が行われた。これに対しわが方は,国際交流基金を中心として所要の協力を行うこととし,80年度においては,81年度開設を目指し同講座の主任教授などの人選が進められた。

(ロ) UBCアジア・センターに対する協力

80年5月,大平総理大臣訪加の際,カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)アジア・センターの日本研究事業に対し,日加両国で資金協力を行うこととし,日本政府は,81年度より3年間に,政府の直接拠出及び国際交流基金事業を組み合わせて,総額50万カナダ・ドルの援助を行うことを約束した。80年度においては同センターへの派遣研究者の人選などが進められた。同センターは81年6月開所予定である。

(4) 公演・展示事業

80年度において国際交流基金は,音楽,演劇,舞踊などの分野におけるわが国の伝統及び現代芸能を海外に紹介するため,芸能団の公演4件を主催し,27件の助成を行った。また,わが国の美術,工芸,版画,写真などの海外展示会を14件主催し,6件の助成を行った。

主な公演事業としては,竹田人形座の南西アジア公演,渡辺貞夫ジャズ・セックステットのASEAN諸国及び香港公演,日本伝統人形芝居の中南米公演,日本民族芸能団の中近東公演などがあり,展示事業としては,欧州における南蛮美術展及び近代日本画展,中南米における現代版画展,英国における「ジャパン・スタイル展」,東南アジア及びアフリカにおける現代ポスター展などが挙げられる。同基金は,これらわが国文化の海外紹介事業に当たっては伝統芸術と現代芸術のバランスに配慮している。

また,国際交流基金は,一般にわが国を訪れる機会の少ない開発途上国の芸能,美術をわが国に紹介するため,これら諸国からの芸能団の公演を5件,展示会を1件助成した。

主なものとしては,インド伝統舞踊,ヴェネズエラ合唱団の公演及びアジア現代美術展がある。

(5) 映画,テレビなどの視聴覚事業

国際交流基金は80年度において中南米,大洋州,アフリカの3地域において巡回日本劇映画祭を開催したほか,タイ及びフィリピンにおいて劇映画の連続テレビ放映を行った。また,同基金は,劇映画7本,文化映画43本を各国で開催される映画会の使用に供するため世界各地の在外公館所属のフィルム・ライブラリーに寄贈した。

(6) 図書寄贈,出版援助事業

80年度に,わが国は国際交流基金を通じ外国の研究,教育機関及び公共機関など122の機関に対し,わが国に関する図書16,147冊を寄贈するとともに,35件の日本紹介図書の海外における出版を助成した。

4. 在外公館による文化事業

わが国在外公館においては,独自の企画により,あるいは,現地の各種文化団体とも協力しつつ,わが国文化の紹介事業を活発に行っている。80年度においても各地の在外公館において158回の劇,文化映画会,58回の文化講演会,53回の生花実演(生花教室,講習会,展示会),43回の日本文化紹介展,39回の日本文化祭や日本文化週間,5回の茶道実演,25回の音楽会,11回の折紙講座,囲碁大会など多種多様の文化行事が行われた。

5. 開発途上国との文化・教育協力

(1) 概況

政府は,開発途上国との文化交流に当たっては,わが国文化の相手国への紹介という側面のみならず,相手国の文化的,教育的水準の向上努力に対する協力(いわゆる「文化協力」)を重視している。このためわが国は,文化・教育関係の資機材の購入資金を贈与する「文化無償協力」,開発途上国の遺跡保存事業に対する資金拠出,東南アジア文相機構(SEAMEO)やユネスコなどの国際機関を通じる協力など,事業の充実を図っている。また,わが国は,78・79年度にASEAN文化基金に50億円を拠出したのに引続き,80年度には,ASEAN青年奨学金制度を発足させたほか,日本とメキシコとの間の文化,学術交流を促進するための日墨友好基金の設立に寄与した。

(2) 文化無償協力

80年度に実施した文化無償協力プロジェクトは27件,総額約9億円となった。供与先を地域別に見れば,アジア,大洋州16件,中南米5件,中近東2件,アフリカ4件である。また供与した機材の目的別分類では教育・研究振興関係機材20件,文化財の保護,考古学関係機材5件,芸術振興関係機材2件である。

(3)ASEAN青年奨学金制度

わが国は,ASEAN諸国の有為の青年に対する教育の機会増大に寄与するため80年度からASEAN青年奨学金制度を発足させ同年度分として100万ドルの供与を行った。

(4)ASEAN地域研究振興計画

81年1月,鈴木総理大臣のASEAN諸国訪問の際,ASEAN各国における地域研究を振興するため,わが国は82年度より所要の資金協力を行う旨提唱し,ASEAN各国の賛同を得た。

(5)アジア太平洋地域外交官日本語研修計画

81年1月鈴木総理大臣のASEAN諸国訪問の際,ASEAN諸国の若手外交官をわが国に招へいし,日本語及び日本事情の研修を行う機会を与えるとの計画を提唱し,ASEAN各国の賛同を得た。この外交官日本語研修計画は81年9月から開始予定である。

(6)日墨友好基金への拠出

80年5月の大平総理大臣のメキシコ訪問の際のメキシコ側との合意に基づき日墨両国民間の文化・学術交流の促進のための白墨友好基金がメキシコにおいて設立され,同基金に対しわが国は100万ドルを拠出した。

(7)東南アジア文相機構(SEAMEO)への協力

東南アジア諸国の教育,科学,文化面での協力を推進する東南アジア文相本機構の事業に対し,わが国は80年度に同機構の教育開発特別基金,視聴覚機材購入計画及び「アジア教材開発専門家会議」開催などに対し総額約14万ドルの資金協力を行うとともに,専門家の派遣(長期・短期計11名)及び研修生の受入れ(5名)を行った。

(8)遺跡保存のための協力

わが国はユネスコが行っている遺跡保存のための国際的事業に協力し,80年度においても引続きパキスタンのモヘンジョダロ遺跡保護開発事業に10万ドル,インドネシアのボロブドール遺跡復興事業に15万ドルの拠出を行うとともに,新規の協力事業としてタイのスコータイ遺跡復興事業に25,000ドルを拠出した。

(9)ASPAC文化社会センター

80年度にわが国はASPAC文化社会センターに対し,7万ドルの分担金を拠出し,同センターのフェローシップ交換事業などに参加した。

6.その他の文化交流事業

(1) 教育交流

(イ) 留学生交流

外務省は,文部省と協力しつつ在外公館を通じて国費留学生の募集,選考を行い,80年度においては733名(対前年比159名増)が採用された。このほか,在外公館においては,国費留学生ばかりではなく,私費留学生に対してもわが国留学に関する指導,助言を行った。

更に,留学生アフターケア対策として,第7回「東南アジア日本留学者の集い」を開催し,元日本留学者を日本に招へいした。また,「元日本留学者ASEAN評議会」(ASCOJA)ほか,ASEAN各国における元日本留学者団体を中心に各種助成(集会施設提供,集会経費援助など)を行った。

(ロ)英国人英語教師の招へい

日英両国間の相互理解の増進を図るため,外務省は文部省と協力しつつ,78年10月から英国人英語教師招へい計画を実施している。80年度においては38名が来日し,大学,高校,民間企業などにおいて英語教育に携わりつつ受入校学生,企業従業員などとの交流を行った。

(ハ)日米教育交流

日米教育交流については,58年以来経費全額米側負担で大学院生,研究生,教授などの交流を主たる内容とする日米教育交流計画(いわゆる「フルブライト計画」)が実施されてきたが,79年本計画を日米共同事業として経費折半方式により一層発展させるため,日米両国政府間で協定が締結された。80年に,わが国は協定に基づき設置された日米教育委員会に2億円の拠出を行ったほか,外務省は文部省と協力しつつ同委員会の活動の指導,援助を行った。

(2) 学術交流

文部省,日本学術振興会は,欧米主要国,中国,東南アジア諸国などとの学術交流を活発に行っており,外務省は,これらの事業に対し側面協力を行っている。

また,日ソ間の学術協力について,外務省は日本学術振興会及び科学技術庁の協力を得て65年以来ソ連高等教育省と,また73年以来ソ連科学アカデミーとの間でそれぞれ学者,研究者の交流を行っており,80年には19人を派遣し20人を受け入れた。

そのほか,文部省の補助金を得て実施されるわが国大学,研究機関による海外学術調査については,調査隊の派遣先国に所在する在外公館が,その円滑な調査実施のための所要の側面協力を行った。

(3) 青少年・スポーツ交流

青少年交流については,総理府,地方自治体などが「青年の船」,「東南アジア青年の船」,青少年の派遣・受入れなどの青少年国際交流事業を行っており,外務省はこれらの事業に側面協力を行っている。スポーツ交流の分野においては,各種国際スポーツ大会へのわが国代表団の派遣,各種スポーツ団体による選手の派遣・受入れ,登山隊の派遣などについて側面協力を行っている。

(4)民間・地方レベルの文化交流(姉妹都市提携など)

近年民間団体や地方公共団体を通じる文化交流が活発に行われており,政府としては,かかる分野での交流の発展にできる限り支援,協力を行っている。

特に,わが国地方公共団体と外国相手先との間のいわゆる「姉妹都市」提携関係(80年末までに総件数は362件に達している。)の動きは極めて活発化しており,これに関連して多種多彩な交流事業が行われている。

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