第7節 第3次国連海洋法会議

1. 概況

第3次国連海洋法会議は,包括的な新しい海の秩序を形成する目的で73年から開催されており,第1委員会(深海底開発),第2委員会(領海,公海,国際海峡,経済水域,大陸棚など深海底以外の海域の問題),第3委員会(海洋汚染防止,科学調査,技術移転)及び本会議(紛争解決,最終条項など)の項目別に交渉が続けられてきた。150カ国余りの主権国家の間で重要な国家利益にかかわる海洋法の諸問題について,原則として全会一致方式で利害調整を図らんとするこの野心的な試みは,困難を極めているが,80年の春及び夏に開催された第9会期の審議を踏まえ,「海洋法条約草案(非公式草案)」が作成されるに至った。

第10会期は81年の春ニューヨークで開催され,同年中の条約採択に向けて実質審議のつめが行われることとされていたが,米国がレーガン政権による条約草案のレヴューが完了していないことを理由に,同会期に実質審議を終了させないとの立場をとったこともあり,同会期においては審議の大きな進展は見られなかった。海洋法会議の今後の帰趨については,米国がレヴュー政策を打ち出したため予断を許さない状況にあるが,わが国としては,公正かつ包括的な条約の早期妥結に向け,今後とも一層の努力を継続する所存である。

2. 第9会期(春及び夏)の審議状況

(1) 概況

第9会期春会期は80年2月27日から4月4日までニューヨークで,また,第9会期夏会期は同年7月28日から8月29日までジュネーヴで開催された。春会期後には非公式統合交渉草案の第2次改訂版が作成された。夏会期においては,数会期来の懸案事項であった国際海底機関(オーソリティ)の理事会の表決方式についておおむね妥協が成立し,また,最終条項の条文案も整備され,交渉のための草案というステータスは,これまでの草案同様維持されてはいるものの,「海洋法条約草案(非公式草案)」という新たな名称の条約草案が作成されるに至った。

(2) 交渉の概要

(イ) 深海底開発問題

「人類の共同財産」とされる深海底の鉱物資源の開発制度については,74年のカラカス会期から7カ年にわたる審議の結果,開発活動を行うための国際機関(「エンタープライズ」)と並んで国及び私企業にも開発への参加を認めるとの考え方が広く受け入れられてきており,主要な争点として生産制限,技術移転,オーソリティ理事会の意思決定方式などの問題が残されてきた。

第9会期を通じ上記の争点につき審議が行われた結果,生産制限については,深海底生産によって陸上生産国が被る経済的悪影響を少なくするため深海底生産枠にシーリング(上限)を設けるとの従来の考え方に加え,需要の伸びが低い場合に深海底生産の保護にも考慮を払うため一定以下には生産枠は下げないとのフロアー(下限)をも設ける考え方が草案に追加された。

技術移転については,探査・開発者以外の第三者の所有する技術の移転義務,開発途上国への移転義務などに関する規定ぶりには,基本的な修正はなされなかったが,技術移転義務はエンタープライズによる商業生産開始後10年間に限定されるとの規定が新たに加えられた。

オーソリティ理事会の意思決定方式については,夏会期においてオーソリティ規則の仮採択などの最重要事項についてはコンセンサスで,その他の実質事項は問題の重要性に応じ4分の3の多数決ないし3分の2の多数決によって,更に手続事項については過半数によって決定するとの意思決定方式が草案に盛り込まれた。

条約発効後直ちにオーソリティが活動を開始し得るよう所要の準備を行うことを任務とする準備委員会,及び,条約発効前に行われる深海底資源探査などのため企業による投資を条約の下でいかに保護するかという暫定投資保護の二つの経過措置に関する問題については,十分審議が行われておらず,今後の交渉の焦点となろう。

(ロ) 深海底以外の海域の問題

第9会期を通じ大陸棚の定義,隣接国間及び相対国間の排他的経済水域及び大陸棚の境界画定につき重点的に討議が行われた。

大陸棚外縁の定義については,大陸棚は堆積層の厚さなどを基準に画定すべしとの考え方が草案に反映されていたが,第9会期春会期においては,大陸棚の外縁の決定に際しての海嶺の取扱いについて集中的に論議された。その結果,海洋海嶺については陸地の自然延長とは見なさないこと,その他の海嶺については陸地の自然延長の一部と見なし得るが,距岸350海里までを限界とするとの趣旨が草案にとり入れられた。

隣接国間及び相対国間の排他的経済水域及び大陸棚の境界画定の基準の問題については,第9会期春会期における議論を踏まえ,「境界画定は,国際法に従って合意により行われる。この合意は,衡平の原則に従うものとする。ただし,適当な場合には中間線又は等距離線を用い,かつ,関係区域に存在するすべての状況を考慮に入れる。」との趣旨の妥協案が作成され草案にとり入れられた。

(ハ) その他の問題

第9会期春会期において,前文,200海里を超える大陸棚上の科学調査の制度などにつき,また,夏会期には,紛争解決,一般条項,最終条項について審議が行われ,条文案が整備された。

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