第4節 社会・人権・文化問題
1. 社会問題
(1) 婦人問題
「国連婦人の10年」の中間年に当たり,前半期の見直しと後半期のための行動計画策定を目的とする「国連婦人の10年1980年世界会議」が,80年7月14日から30日まで,コペンハーゲン(デンマーク)で開催され,「国連婦人の10年後半期行動プログラム」と48件の決議を採択した。
また,この世界会議の際,第34回国連総会で採択された「婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の署名式が,7月17日と29日の2度にわたり行われ,わが国を含め60近い国が参加した。81年3月現在,本条約の署名国数(批准国数を含む)は83,締約国数は16(批准15,加入1)に上っており,わが国も,批准に向けての条件整備が重点課題となっている。
第35回国連総会は,80年世界会議のフォローアップを審議し,85年に「国連婦人の10年」締めくくりの世界会議を開催することなどを決定した。
(2) 国際障害者年
81年を国際障害者年とするとの第31回国連総会決議に基づき,その準備のため79年,80年の2回開催された諮問委員会において80~81年の行動計画案が策定され,第34回国連総会にて採択された。
同行動計画は障害者の完全参加と平等をテーマとし,国際,地域,各国レベルの活動ガイドラインを示しているが,なかんずく,各国レベルの障害問題施策の改善を強調している。わが国はこれに基づき,国内委員会を設置し,記念事業を含む広範な障害問題施策を実施しており,また国連国際障害者年基金に10万ドルの拠出を行った。
第35回国連総会では,同行動計画実施の強化,障害発生予防のための国際協力の推進,専門家シンポジウム(アルゼンティンにおいて)の開催などを決定した。
なお,82年以降の長期世界行動計画が,第37回国連総会にて採択される予定であり,目下その内容につき国際障害者年事務局を中心に検討が続けられている。
(3) 国際青年年・老人世界会議
85年を国際青年年(テーマ「参加,発展,平和」)とすること,及び同年の準備のための諮問委員会を設置することが,第34回国連総会にて決定された。
第35回国連総会では,国際青年年行動計画を策定するための第1回諮問委員会の早期開催が決定され,これに基づき81年3月~4月,ウィーンにて同委員会会合が開催された。
この会合では,国の発展及び世界平和のために青年の広範な参加を奨励することを目的とした国際青年年行動計画草案が採択され,第36回国連総会に提出されることとなった。
また,82年後半に開催予定の世界老人会議の準備のための諮問委員会の開催は,アジア,アフリカ両グループの議席が決定しないため延期されている。
第35回国連総会では,老人世界会議のための基金の設置を決定したほか,各国に対し,同基金への任意拠出,国内委員会の設置,老人世界会議キャンペーンの開始などを呼びかける決議を採択した。
(4)国連児童基金(United Nations Children's Fund; UNICEF)
80年1月より本基金新事務局長としてジェームズ・グラントが就任した。
5月の執行理事会においては国際児童年のフォローアップ,児童障害,婦人・児童と開発,教育などの問題と,これらにおける本基金の役割につき審議が行われ,80年コミットメント・ベース(承認後,一般財源により実施が保証される)のプロジェクト2億4,400万ドル及び80年ノーテッド・プロジェクト(承認後,財源の目途(一般財源以外)がたち次第実施される)1億3,000万ドルを含む80~83年約13億ドルの中期計画が承認された。
カンボディア緊急援助に関して本基金は中心機関として活動してきており,この活動は81年末まで継続されることになっている。
80年本基金の顧問に就任したサウディ・アラビアのタラール殿下は,国連の社会的・人道的側面に対する援助を目的とする「アラブ湾岸諸国財団」の設立を目指して活動している。
(5) 国連犯罪防止会議
犯罪防止及び犯罪者処遇の分野に関し,5年ごとに開かれている国連犯罪防止会議の第6回会合が,80年8月,カラカス(ヴェネズエラ)において開催され,犯罪情勢及び犯罪防止対策,少年司法,犯罪と権限の濫用などにつき審議が行われた。第35回国連総会においては同会議の報告が行われるとともに,死刑廃止などの問題が審議され,犯罪防止の議題の下に合計4件の決議と1件の決定が採択された。
2. 人権問題
過去数年来,国連における人権侵害問題審議は,南部アフリカ,イスラエル占領地及びチリの人権問題に絞って行われるという傾向にあったが,80年は,ボリヴィア,エルサルヴァドルの人権問題が審議され,また,従来チリの人権侵害被害者のみを対象とした人権信託基金を世界各地の人権侵害被害者のための基金とする可能性を研究する旨決議されるなど審議対象の一般化の動きが注目された。
その他,大量難民の発生ともからみ,人権侵害問題における事務総長の役割強化について審議されたが,決議採択には至らなかった。また,地域レベルの人権の保護促進に関連し,81年スリ・ランカにおいてアジア地域のセミナーを開催する旨決議された。
また,人権の効果的保障のための民族自決権の重要性に関連し,カンボディア及びアフガニスタン情勢が外国軍隊による民族自決権の侵害であるとして討議された。
3. 難民問題
第35回国連総会では近年インドシナ難民問題に国際社会の関心が集中したことに対する反動として,アフリカ難民問題がクローズアップされ,同問題に対する決議は6件にも達した。その中のアフリカ難民援助国際会議決議に基づき,国連事務総長がUNHCR,OAUと協力して81年4月に閣僚レベルの国際会議を開催することとなった。また同総会特政委においては,従来国連がとってきた難民発生後の救済措置から一歩踏み出し,難民問題の発生原因について手を打つことを狙った西独提案の「新たな難民の流出を回避するための国際協力」に関する決議案につき審議されたが,わが国も同提案の趣旨に賛成し積極的に支援を行った。
わが国は,難民問題に対し,特にインドシナからのボート・ピープルの大量流出以後強い関心とかかわりを持ち,79,80両年度にはUNHCRに対する世界第2位の大口拠出国となるなど,難民問題解決のため積極的に貢献している。
4. 人口問題
(1) 人口委員会
人口委員会は,国連における人口活動の政策的側面及び人口統計,人口分析,人口推計,人口動態などの専門的側面などについて意見交換・審議を行う場であり,わが国は,60年以来21年間本委員会のメンバーとして積極的な貢献を行ってきている。81年1月に開催された第21回人口委員会においては,84年に第4回世界人口会議を開催する旨の勧告が採択された。
(2) 国連人口活動基金
(イ) 80年6月,国連開発計画(UNDP)管理理事会は国連人口活動基金について審議し,中国(4カ年計画,5,000万ドル),インド(5カ年計画,1億ドル)を含む25カ国総額約3億2,000万ドルの大規模な人口活動プロジェクトを承認した。また,中期計画として,既承認分を合わせ,81年約1億4,700万ドル,82年約1億1,100万ドル,83年約7,300万ドルの事業計画を承認した。
(ロ) 80年9月,ローマにおいて本基金主催の「人口及び都市の将来に関する国際会議」が開催された。同会議には,西暦2000年までに人口500万以上に達すると予想される世界の巨大都市60の市長及びプランナー,更にそのような都市を有する30カ国の中央政府の関係者が参加し,わが国からも東京都,大阪市及び政府関係者が参加した。
(ハ) 81年2月,同年10月に北京で開催予定の「人口と開発」アジア国会議員会議の第1回運営委員会が東京で開催され,会議の取り進めぶりの大綱が決定された。
5. 環境問題
(1) 国連環境計画(United Nations Environment Programme; UNEP)
UNEPは,73年以降ナイロビに事務局本部を置いて,世界的,地域的レベルの環境問題を解決するために,国際機関間の調整機能及び資金援助を通じた触媒機能を生かしつつ広範な活動を行っている。わが国は,UNEPの活動を支える環境基金に対し73年から80年までの8年間に約2,000万ドルの拠出を行ったほか,81年には400万ドルの拠出を行う予定である。
80年4月には第8回UNEP管理理事会がナイロビで開催され,世界保全戦略,クロロフロロカーボンの規制,環境法,熱帯林減少,砂漠化防止,管理理事会特別会合開催(82年)などに関する決議が行われた。
(2) 国連人間居住委員会(United Nations Commission on Human Settlement; UNCHS)
国連人間居住委員会は,事務局である人間居住センター(HABITAT)をナイロビに置き,78年以降人間居住分野における国際協力を促進している。わが国は,76年にヴァンクーヴァーで開催された国連人間居住会議の準備段階から,人間居住問題の審議に参加してきており,78年から継続して委員国を務めている。
80年5月第3回委員会会合が,メキシコ・シティーで開催され,人間居住センターの事業計画が審議されたほか,新国際開発戦略における人間居住の役割が強調された。これを受け第35回国連総会は,人間居住をその枠組みの中に位置付けた新国際開発戦略を採択した。
6. 国連大学
東京に本部のある国連大学は,三つの優先研究領域(世界の飢餓問題人間と社会の開発,天然資源の管理,利用及び配分)において,28の提携機関などを中心に研究活動を本格化しているが,80年9月には,ヘスター初代学長の任期満了に伴い,スジャトモコ博士が学長に就任,これまでの国連大学の活動について再検討を進めるとともに,大学理事会などに自らの構想を諮問するなど,国連大学の新たな発展のために努力している。
国連大学に対しては,81年4月6日現在,わが国(9,100万ドル)を始め,英国,ヴェネズエラなど32カ国から約1億1,100万ドルの拠出が行われている(既拠出額を含め,誓約額合計は約1億4,400万ドル)。