第3節 経済問題

1. 第11回国連特別総会

第11回国連特別総会は,「第3次国際開発戦略」(新IDS)の採択,及び「国連包括交渉」(GN)の発足を主目的として,80年8月25日から9月15日までニューヨークの国連本部において開催された。

80年代における開発途上国の発展を促進するために,国際協力の基本的枠組みを設定する新IDSについては,南北間の主要争点であった開発途上国の目標成長率についてはこれを7%とすること,また,政府開発援助についても,目標を85年までに対GNP比0.7%とすることで合意を見たほか,GNとの関連で注目されていたエネルギー,通貨・金融の分野についても南北双方の妥協が成立し,新IDSは実質的合意を見た。

しかし,GNについては,3週間の会期を手続問題のみに費やし,GNの中央機関と専門機関との役割・権限関係を巡り前者の優位を強調する開発途上国側と後者の独立性を守りたいとする西側先進国が対立し,各種妥協案の提示にもかかわらず,米・英・西独の3カ国が最終段階においても妥協案に対し留保を行ったため手続について合意には至らず,第35回国連総会にて継続審議を行うこととなった。

このほか,経済特別総会においては,後発開発途上国(LLDC)に対する援助に関する決議,及び累積債務に悩む低所得開発途上国の救済を訴えるワルトハイム事務総長提案を第35回国連総会で検討し,適切な行動を求める旨の決議が採択された。

2. 第35回国連総会

(1) 国連包括交渉(GN)

石油価格の高騰による非産油開発途上国の経済困難を背景に,一次産品,エネルギー,貿易,開発,通貨・金融の5分野を対象とした包括的交渉を目指したGNは,4回にわたる全体委員会,更には第11回国連特別総会においても準備交渉が成功せず,第35回国連総会にて継続審議が行われた。同総会では,総会議長の主宰する議長グループにおける非公式協議の形で協議が進められたが,特に,エネルギー,通貨・金融など基本的問題に関する議題の決定につき南北間の合意が成立せず,GN発足は81年に持ち越された。今後GNの準備交渉には難航が予想されるが,80年代の南北対話の切り札として開発途上国におけるGNに対する期待も依然根強いことから,GN発足に向けて努力は継続されるものと予想される。

(2) 新・再生可能エネルギー国連会議

本件会議は,特に開発途上国の将来における総合的エネルギー需要の充足に資するために,太陽エネルギー,バイオマスなど14種を対象とする新エネルギー及び再生可能エネルギー源の開発利用促進措置の検討を目的として,81年8月に開催されるものである。第35回総会では,ケニアのナイロビにおける会議日程を正式に決定するなど,今後の準備作業の進め方につき種々の決定が行われた。

3. 経済社会理事会

わが国は,経済社会理事会の第1通常会期(4~5月),第2通常会期(7月)の両審議に参加した。

80年の経済社会理事会では,経済・災害救済特別援助,国連開発事業活動,多国籍企業,工業化,食糧,人権,社会開発などの諸問題を審議した。

特に,従来と比較し,難民及び人道援助について多くの関心が払われたこと,また,国連開発事業活動をより効率化,簡素化するための初の取組みが行われたことは注目に値する。

4. 国連における多国籍企業問題の検討

多国籍企業の行動規範を作成する作業が,79年に引続き政府間作業部会において行われた。同作業部会は5回(80年1月,3月,5月,10月及び81年1月)の会合を開き,行動規範の議長案をベースとして草案の検討を行った。行動規範の内容のうち一般原則,国際収支,移転価格,課税,雇用・労働,消費者保護,環境保全,情報公開などについて草案がまとまり,本件作業はかなり進展を見たということができる。同作業部会は,今後多国籍企業の定義,行動規範の法的性格,国有化及び補償,裁判管轄権,同行動規範の実施などについて草案作りを続行する予定である。

5.国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)

(1) わが国は,アジア太平洋地域との協力拡充を目指し,ESCAP(United Nations Economic and Social Commission for Asia and the Pacific)第36回総会を始めとする諸会合に参加し,また,ESCAPのほとんどすべての分野にわたる事業活動に,資金拠出又は専門家派遣・研修員受入れなどによる協力を行った。

(2) 第36回総会は80年3月タイのバンコクで開催された。同総会の主要テーマは1980年代におけるESCAP地域の開発戦略を策定することであったが,域内における南北間の対立点につき種々の妥協が図られた結果,長期的な地域開発戦略がまとまった。また,ESCAPの機能強化のための合理化への努力は,過去数年来続けられてきたが,同総会においては,基本的な点について,幾つかの合意又は既に合意されていたものに対する確認が行われた。

(3) 80年中に開催されたESCAPの主要会議としては,第5回産業・技術・住宅委員会,第7回天然資源委員会,第23回貿易委員会,第4回海運・運輸通信委員会及び第3回開発計画委員会の5常設委員会のほか,第2回アジア太平洋社会福祉・社会開発大臣会議及び新・再生可能エネルギー国連会議地域準備会議などがある。

なお,以上のほか数多くのアド・ホック政府間会合,専門家会合,セミナー,ワークショップが開催されたが,そのうち本邦で開催されたものとしては,日本貿易市場情報に関するワークショップ,エネルギー・新資源開発アグロインダストリー政府間専門家会合,港湾セミナーがある。

6. 国連工業開発機関(UNIDO)

(1) 80年1月21日より2月9日までUNIDO(United Nations Industrial Development Organization)第3回総会がニューデリーで開催された。

同総会においては,政治問題や開発途上国の工業化促進のための3,000億ドルの南北基金の設立など過大な要求を盛り込んだ「ニューデリー宣言及び行動計画」案が開発途上国側から提出された。その後のグループ間交渉は決裂し,本提案は賛成83(開発途上諸国,ソ連,東欧諸国,トルコなど),反対22(トルコを除く先進国グループ),棄権1(ヴァチカン)にて採択された。

5月の第14回工業開発理事会及び10月の工業開発理事会第2回特別会期においては,第3回総会のフォローアップとして,合意可能な点について審議が行われ,81~83年度の優先事業分野の決定に伴う81年度事業計画修正案が採択された。

(2) わが国は6月3日,先進国として最初にUNIDOを専門機関にするためのUNIDO憲章について,批准書の寄託を行った。81年2月現在,批准を行った国は36カ国である(発効要件は80カ国以上の批准及び批准国間による効力発生に関する合意)。

(3) わが国から開発途上国への投資促進を図るべく,UNIDO投資促進事務所の本邦設置について,80年3月25日,政府とUNIDO事務局との間で交換公文が交わされ,その後,詳細をつめた結果81年1月,先進国で7番目の投資促進事務所が東京に開設された。

また,UNIDO事務局からの要請に応じ,80年には国際協力事業団による研修員(18名)及び海外技術者研修協会による研修員(22名)の受入れが行われた。

7. 国連貿易開発会議(UNCTAD)

80年は,前年に行われた第5回総会の諸決定のフォローアップ及び懸案事項に関する交渉がUNCTADの作業の中心となった。同年中,特恵特別委員会,開発途上国間経済協力委員会特別会期,製品委員会,貿易外融資委員会,海運委員会,一次産品委員会,技術移転委員会と,その常設委員会が開かれた。更に制限的商慣行,技術移転コード作成に関する諸国連会議,共通基金交渉会議,国連すず会議,国際複合運送条約採択国連会議など主要な条約,コードなどの採択会議が開かれ,UNCTADにとって作業密度の濃い1年であった。後述のごとく,これら諸分野のほとんどすべてにおいて,具体的成果が見られ,南北問題に関する交渉機関として改めてUNCTADの意義が認められたと言えよう。

なお,80年3月には80年代の「国連開発の10年」のための国際開発戦略のUNCTAD関係部分の策定のため,TDB(Trade and Development Board; 貿易開発理事会)特別会期が行われ,ニューヨークでの全体の戦略の策定に対し有益な材料を提供した。

わが国は,8月1日より1年間,Bグループ(西側先進国)の議長国として,グループ間の折衝に当たる重要な立場にあり,グループのコンセンサスを尊重して,各グループ間の合意の形成に努めており,これまで2回のTDB通常会期において,主要事項につき強行採決のごとき対決を見ることなく調整の効を上げ得たことは外交的成果であったと言えよう。

(1) 相互依存問題

本件は,第5回UNCTADにおいて,世界の貿易及び経済状況の評価,世界経済の構造変化並びに貿易,開発,通貨及び金融の4分野の相互関係など,世界経済の運営に関するグローバル・コンサルテーションの仕組みの設立を目指すものとして討議されたが,エネルギー問題をその対象とすることにOPEC諸国が反対し,また,その目的につき意見の一致が見られなかったため結論を得なかった。その後,TDBの場では,情報交換と意見交換に重点を置く方向にあり,UNCTAD事務局は81年秋のTDB以降,世界経済情勢に関する意見交換を促すため,年次貿易開発報告を用意することとしている。

(2) 国際貿易

(イ) 第5回UNCTADにおいて,(a)世界の貿易及び生産のパターンの年次レヴューを行うこと,並びに(b)保護主義に関する勧告の策定を目途に貿易制限措置のレヴューを行うことを主たる内容とする決議が採択された。しかし,その後TDB段階において,これらのレヴューをいかなる場で行うか,何を具体的に検討するか,及び,どのような成果を目指すべきか,につき議論が継続され,結局,81年3月のTDBにおいておおむね次のラインで合意が成立した。(a)毎年TDBの春会期ごとに別個の会期内委員会を設立する。(b)構造調整の年次レヴューについては,すべての国の輸出入と生産のパターンの研究を通じ長期的趨勢を分析する。(c)保護的措置については,事務局の作成する非関税障壁の目録を始めとするデータを基に保護主義の一般問題のレヴューを通じて適当な勧告を策定する。

わが国は,本件につき,開放的市場経済体制の維持発展を宗とし,保護主義の台頭を積極的に防圧するとともに,構造調整については,年次レヴューを通じ全加盟国の相互の立場への理解を深め,調整過程での摩擦とコストをできるだけ少なくするなど,相互利益の増進を目指す態度をとっている。

(ロ) MTN(Multilateral Trade Negotiations; 多角的貿易交渉)については,今後UNCTADとしては関連諸機関においてMTNの履行から生じる国際貿易における諸動向,特にその開発途上国への影響を検討していくことになった。

(ハ) 制限的商慣行(RBP)規制のための国際的措置の必要性は古くITO(国際貿易機構)憲章起草の際に認識され,また,第7回国連特別総会(1974年)の決議においても強調されてきたが,その後第4回UNCTADを経て本格的に開始されたコード作成作業は,80年4月の第2回交渉会議において,「原則とルール」につき合意を見,第35回国連総会でこれが承認された。各コードは国際商取引自由化の促進のための南北対話の具体的成果であり,関係国にひとしく利益をもたらすことが期待される。

(3) 一次産品

一次産品共通基金は,76年の第4回ナイロビ総会で採択された一次産品総合計画の中心機関として,その設立につき困難な交渉が行われてきたが,80年6月の第4回交渉会議において同基金設立協定がコンセンサスにより採択された。同基金は一次産品の価格安定を図り,もって開発途上国の輸出所得の維持を目的とする新機関であり,具体的には,一次産品の緩衝在庫を有する国際商品機関に,基金の第1勘定(資金規模4億ドル)を通じて,緩衝在庫のための必要資金を貸し付けるとともに,基金の第2勘定(資金規模3億54万ドル)を通じて,一次産品関連の研究・開発,生産性向上,市場開拓などのプロジェクトに対し貸付け,ないし贈与を行うこととされている。わが国は,従来より本基金の早期設立のために積極的に努力してきており,基金に対し3,367万ドルの出資を行うほか,前述の第4回交渉会議において,第2勘定の任意拠出として1カ国として最大の2,700万ドルの拠出表明を行っている。

基金の当面の業務対象の一次産品としては,開発途上国の関心の深いバナナ,ボーキサイト,ココア,コーヒー,硬質繊維,銅,綿花,鉄鉱石,ジュート,マンガン,食肉,りん鉱石,ゴム,砂糖,茶,熱帯木材,すず,植物油の18品目が考慮されており,そのうち,すず,コーヒー,砂糖及びゴムについては既に商品協定が存在する(ただし,コーヒーについては緩衝在庫を有しない。)。また,ジュートに関しては,研究・開発,市場開拓などの「その他の措置」に関する活動を中心に行う最初の商品協定として81年1月より交渉会議が行われており,その有力財源の一つとして本基金の第2勘定からの資金が考慮されている。その他の産品では,熱帯木材,硬質繊維,銅,茶,綿花などについてUNCTADの予備協議の場で検討が進んでいる。

(4) 特恵

71年以降実施されている各国の特恵スキームは,その有効期限が到来し始めるため,同延長問題に関し,6月の第9回特恵委において「1990年に総合的レヴューを行う」との表現にて,供与国側は延長期限を具体的にコミットすることなく,また,G-77(開発途上国)が間接的に10年延長を期待し得る形で妥協が図られたが,その他の問題は合意に至らなかった。

なお,ECは81年1月,わが国は同年4月より更に10年延長した。

(5) 通貨,金融

第21回TDBにおいて,従来からの懸案であった債務救済のための作業指針が合意され,また,債務問題に直面したと考える開発途上国が自国経済の分析を国際機関に依頼し得ることなどが合意された。今後,こうした依頼にこたえるための手続をIMF/世銀がUNCTADと協議して行うことになっている。

また,国際通貨制度問題については,先進国側が本件を検討する専門家会合の設立に反対,または同会合への出席を拒否したため,具体的進展は見られていない。

(6) 海運

第9回海運委員会(80年9月)において,バルク・カーゴ輸送分野で開発途上国が直面している問題の検討を目的とする専門家会合を設立すること,80年5月~6月に特別海運委を開催して,便宜置籍船問題を検討することなどが決定された。また,上記決定に基づき,81年3月にバルク・カーゴ専門家会合第1会期が開催された。このほか海運関係では,コンテナ化などの技術発展に伴い,近年新たに発達してきた国際複合運送に対処するため,その運送責任制度を定めた条約が80年5月の同条約採択国連会議(再開会期)において採択された。

(7) 後発開発途上国(LLDC)問題

LLDCは,開発途上国の中でも特に開発の遅れた国々であり,他の開発途上国に比べてその経済的苦境が更に深刻である国が多く,国際的支援が求められている。

このため,第5回UNCTAD総会においては,これら諸国の80年代の開発を促進するとの観点から「1980年代の新実質行動計画」が採択され,併せて右計画を最終的に確定し,支援し,採択するためのLLDC国連会議の開催が提議された。

この提議を受け,第35回国連総会で,LLDC国連会議を81年に開催することが決定された。

81年9月パリで開催される本件国連会議では,人道的な見地からも,これら諸国支援のための具体的な援助拡大要請が行われると見られ,わが国としては積極的な姿勢でその準備に臨んでいる。

8. 国連開発計画(UNDP)

(1)UNDPは,66年発足以来国連システムにおける技術協力面の中心機関として,開発途上国の経済的,社会的開発促進のための技術援助を進めている。UNDPは,72年以来各国別開発計画を踏まえた5年をサイクルとする援助方式を採用しており,第1次サイクル(72~76年)においては,総額16億7,250万ドルに上る事業活動が行われ,第2次サイクル(77~81年)においては総額24億8,390万ドルを予定している。

(2) 現行の第2次サイクルの事業活動を賄う上での主要財源として,同期間中に34億220万ドルに上る自発的拠出総額の目標が設定され,各国は,その拠出総額を毎年14%以上増額するとの目標が定められた。この目標額の達成については,80年分の拠出誓約額が前年度比4%の伸びしか示さなかったことなどもあり懸念が表明されたが,最近に至りアラブ諸国により設立されたガルフ基金から相当額の拠出が行われることになり,同期間中の総拠出目標額は辛うじて達成される見通しを得るに至った。

(3) わが国は,77年2,100万ドル,78年2,500万ドル,79年3,500万ドル,80年4,100万ドルを拠出し,81年には4,590万ドルを拠出する予定であり,その拠出額を着実に増大してきている。

9. 世界食糧理事会(WFCL)

80年6月アルーシャ(タンザニア)において第6回世界食糧理事会が開催された。同理事会においては,食糧増産,栄養改善,食糧安全保障,食糧援助及び国際貿易など食糧農業問題全般にわたる勧告を盛り込んだ「結論及び勧告」が採択された。なお,同理事会では,「食糧戦略」の重要性が強調されるとともに80年代の食糧事情を悲観的にとらえ,かかる事情に対する国際的な措置などについて議論された。

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