第4章 国連における活動とその他の国際協力

第1節 政治問題

1. 第35回国連総会

第35回国連総会は,80年9月16日から西独のフォン・ヴェヒマー常駐代表を議長として開催された。その後12月17日,いったん休会になり,81年1月に国際司法裁判所判事補欠選挙のため,また,3月にナミビア問題を審議するため再開された。しかしながら,包括的南北問題交渉及び安保理議席拡大の2議題の審議は未了である。開会冒頭の9月16日,「セントヴィンセント及びグレナディーン諸島」が加盟を認められて,8月の経済特別総会で加盟したジンバブエに次ぎ,第154番目の加盟国となった。9月22日から一般討論演説が行われ,国家元首4名,首相5名を含む149カ国の代表が演説を行った。わが国は,伊東外務大臣が,9月23日に一般討論演説を行った。今次総会では,123の議題が,本会議及び七つの委員会に分けて審議された。政治関係では,それまでアフガニスタン及びパレスチナと2回にわたり緊急特別総会が開催され,これらの問題が論じ尽くされたこと,中東問題については,イラン・イラク紛争の発生,ジョルダン・シリア関係の悪化などのため,アラブ諸国間の団結が乱れたこと,また,南部アフリカ問題については,南ローデシア問題がジンバブエの独立によって解決し,ナミビア問題も,81年1月の独立計画実施前会議の結果待ちの形となったことなどのため,総会全般としては,比較的平穏な総会となった。

2. わが国の安保理非常任理事国当選

80年10月20日,第35回国連総会において,安保理非常任理事国5カ国を選出する選挙が行われ,アジア・グループから統一候補として立候補したわが国は,有効投票147票のうち141票の最高得票で当選した。この結果,わが国は81年1月より2年間,通算5回目の安保理非常任理事国を務めることとなった。(安保理の新構成は,第3部資料編II付表を参照)

安保理は,国際の平和と安全の維持に主要な責任を有する国連機関のうちで,最も重要な機関であり,世界の主な紛争を迅速に取り上げ,その平和的解決の方法を討議・決定する場となっている。

3. 国連における主要政治問題

(1) カンボディア問題

第35回国連総会におけるカンボディア代表権問題は,80年10月13日の委任状委員会報告に関する表決において,民主カンボディア政府の代表権を否認しようとする提案が否決され,民主カンボディア政府の議席が確保されることで決着を見た。

他方,カンボディア情勢に関しては,総会は,10月22日,ASEAN,日本など30カ国が共同提案した決議案を賛成97,反対23,棄権22で採択した。右決議は,包括的政治解決を目的とした国際会議の開催を決定し,事務総長に対し,会議開催のためあらゆる適切な措置をとるよう要請した。

ヴィエトナムなど13カ国が提案した「東南アジアにおける平和,安定及び協力に関する問題」については全く決議は採択されず,審議は低調に終わった。81年に入り,ASEAN,日本などの働きかけもあり,事務総長は,3月後半から4月にかけ,エサフィ特別代表をASEAN諸国,ヴィエトナム,ラオス,日本に派遣し,国際会議開催につき協議した。

(2) アフガニスタン問題

ソ連のアフガニスタンヘの軍事介入によってもたらされたアフガニスタン情勢を審議するために,1月に召集された第6回緊急特別総会は,外国軍隊の即時,無条件,全面撤退を求める決議を14日採択したが,第35回総会もソ連軍のアフガニスタン残留を背景に,外国軍隊の即時撤退問題の政治的解決及び特別代表任命を含む事務総長の打開努力を求めるなど非同盟40カ国提出の決議案を賛成111,反対22,棄権12の圧倒的多数で採択した。

わが国は,ソ連軍の即時撤退とアフガニスタンヘの内政不干渉及びその自決権尊重の原則に基づく自らの手による国内問題の解決を主張するとともに,上記決議案を強く支持する旨発言した。

(3) イラン人質問題及びイラン・イラク紛争

(イ) 人質問題―81年1月20日に米国大使館の人質が解放されるまで,国連は問題解決のための斡旋努力を鋭意続けた。その果たした役割は各方面より高く評価された。

(ロ) イラン・イラク紛争―80年9月22日,両国間の戦火が拡大したのに伴い,安保理は急遽この問題を審議し,29日,両国に対して武力行使の停止,紛争の平和的解決を要請する決議479を満場一致で採択した。わが国は安保理メンバー国でなかったが,事態の重大性にかんがみ,安保理審議に積極的に参加して,航行の安全確保及び第三国の紛争不介入と自制を求め,安保理決議479採択を歓迎し,紛争解決のためあらゆる協力の用意がある旨発言した。

その後安保理審議が続けられる一方,11月には国連の調停努力を進めるためにパルメ元スウェーデン首相が国連事務総長特使に任命された。

同特使は11月から81年2月にかけ既に3回現地を訪問し,両当事国首脳と会談して紛争解決の方途を探求している。

(4) 中東問題

(イ) パレスチナ(第7回)緊急特別総会―80年4月30日パレスチナ問題安保理決議案が米国の拒否権によって否決されたのを受けて,7月22日に召集され,29日パレスチナ人の自決権を再確認し,イスラエルが決議に従わない場合,安保理が憲章第7章下の有効な措置を検討するために会合するように求めるなどの内容の決議を採択した。

(ロ) 第35回総会―中東関係審議は主に「中東情勢」,「パレスチナ問題」及び「UNRWA」(国連パレスチナ難民救済事業機関)の議題の下で行われ,ほぼ例年どおりの決議を採択した。これら決議はパレスチナ人の自決権承認をうたうとともにキャンプ・デービッド合意に対する間接的な非難を行ったほか,7月に開催されたパレスチナ問題に関する第7回緊急特別総会決議と同じく対イスラエル制裁措置に言及したのが注目された。

わが国はそれぞれの議題の下で行った発言で,中東問題に関するわが国の立場を明らかにした。

(ハ) 安保理審議とジェルサレム問題―80年中に安保理はアラブ被占領地情勢に関する決議5件,更に,国連兵力引離し監視軍及び国連レバノン暫定軍などの「国連平和維持活動」(PKO;Peace Keeping Operations)の任務延長に関する決議4件,ジェルサレム問題及び南レバノン情勢に関する決議各2件をそれぞれ採択したが,パレスチナ人の自決権承認を求めるパレスチナ問題決議案は,米国の拒否権によって否決された。アラブ被占領地情勢決議は,イスラエルの占領政策を遺憾とするとともに,西岸市長暗殺未遂事件に関し被占領地への1949年のジュネーヴ第4条約の適用の再確認,またヘブロンのユダヤ人入植者襲撃事件により追放された西岸市長などの職務復帰などを求め,ジェルサレム問題の決議478は,イスラエル議会によるジェルサレム基本法制定を強く非難し,かかる行為が中東における包括的,公正かつ永続的な和平達成にとって重大な障害となっているとした。

(5) 南部アフリカ問題

(イ) 南アのアパルトヘイト政策問題

南ア国内情勢の悪化に関連し,安保理は,6月13日,南ア政権の反アパルトヘイト運動弾圧措置を強く非難し,対南ア武器禁輸委員会に対し,武器禁輸の拡大・強化措置を勧告するよう要請する決議473を採択した。同委は12月に勧告を安保理に提出したが,本格的検討は,まだ行われていない。

第35回総会では,18件の決議が採択され,従来同様,安保理に対し憲章第7章に基づく対南ア制裁を課すよう要請するとの趣旨が強調された。

18件の決議のうち3件は無投票で採択され,残る15件のうち,わが国は6件に賛成し,南ア情勢,軍事・核協力,包括的制裁,石油禁輸,多国籍企業の役割,イスラエル・南ア関係,対南ア制裁国際会議,アパルトヘイト下の婦人・児童,国連諸決議の履行の9件については棄権した。

(ロ) ナミビア問題

非武装地帯(DMZ)設置構想に関する国連と南アの交渉が続けられ,5月に至り南ア側も,条件付きではあるがDMZの概念を受諾した。国連側は,UNTAG(United Nations Transition Assistance Group;国連ナミビア独立支援グループ)実施時期の設定につき南ア側の同意を得るべく努力したが,南アは,国連のSWAPO(South West Africa People's Organization;南西アフリカ人民組織)に対する態度をとらえて,国連の公平性に疑問を呈し,時期の設定に難色を示した。このため81年1月,ジュネーヴにおいて国連主催の下で,SWAPO,南ア(ナミビア内諸政党を含む)の代表が参加する実施前会議が開催されたが,南アが時期設定は尚早との態度をとったため,81年中に独立を達成するとの国連の構想は実現が不可能となった。これを受けて,アフリカ非同盟諸国は,安保理による憲章第7章に基づく対南ア包括的制裁要求を強め,3月上旬再開された第35回総会は,安保理に対しこの制裁を要請し,安保理が具体的措置をとらない場合は,総会が緊急に必要な行動を検討するとの決議を採択した。上記決議を含め10件の決議が採択されたが,わが国は7件に賛成し,残り3件に棄権した。

(ハ) 南ローデシア問題

80年4月に南ローデシアがジンバブエとして独立したため,国連における本件審議も終了した。

(6) 平和維持活動の包括的検討問題

第35回総会において採択された平和維持活動の包括的検討問題に関する決議は,国連平和維持活動(PKO)特別委員会に対して,PKOの合意ガイドラインの完成に努力し,PKO実施に伴う諸問題に注意を払うよう要請した。

わが国は,特別政治委員会において,PKO特別委は所期の成果を上げていないが,その困難な課題にもかんがみ,十分時間をかけて忍耐をもって作業を続けるべきこと,及び財政問題に関しては,加盟国がその経費を負担すべきことを強調した。

(7) 国連憲章再検討問題

(イ) この問題に関する特別委員会の第5会期(80年2月)は,わが国が提出した国連の事実調査機能強化の具体策を含む国際の平和と安全の維持に関する各国の提案を審議し,その結果を第35回総会に報告した。同総会はこれを踏まえて,従来の各国の諸提案をリストアップする作業に加えて,新たに勧告作成の権限を特別委員会に付与すること,及び,国際の平和と安全の維持に関する諸提案につき作業を優先的に行うよう命ずる決議を採択した。わが国は,上記決議の共同提案国となり,その採択に努めた。

(ロ) この第35回総会決議に基づき,特別委員会第6会期(81年2月~3月)は,国際の平和と安全の維持の分野に関する提案の検討に着手した。この分野では,拒否権制度の再検討問題など,憲章改正をも含む国連の平和維持機能強化に関する広範な提案が出されており,今後の特別委員会の審議が注目される。

(8) 人質行為についての国際条約の署名

わが国は,人質行為の容疑者の所在する国に対して容疑者を引き渡すか,あるいは訴追する義務を課す「人質行為についての国際条約」が,人質行為の防止及び犯人の処罰についての国際協力増進の面で有意義であるとの観点から,80年12月22日ニューヨークの国連本部でこの条約に署名した。

80年12月31日までの署名期間中に,わが国を含む40カ国がこの条約に署名を行った。

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