第4節 政府直接借款
1. 概況
政府直接借款は,通常「円借款」と呼ばれ,58年に開始されたものであり,わが国の二国間政府開発援助の大宗を占め,開発途上国への重要な援助手段となっている。80年の供与実績(交換公文締結額)は,4,246億円と79年実績(3,745億円)を13.4%上回る着実な伸びを示した。この結果,80年末の供与額累計は3兆8,479億円と着実に拡大したほか,これまでに円借款を供与した相手国は59カ国に拡大した。
円借款の質については,平均供与条件が平均グラント・エレメント(以下GE)で79年の56.3%から80年には57.9%と顕著な改善を見せた。調達方式(注)についても,一般アンタイドの割合は79年に53.4%と初めて過半を超えたが,80年には65.2%と着実な改善を示した。このように80年には,供与条件,調達方式の両面から円借款の質的改善が促進された。しかしながら,借款供与条件は国際水準たるDAC諸国の借款平均GE61.02(79年)には未だ至っておらず,今後とも量的拡充とともに質的改善が課題となっている。
(注)援助の調達方式は大別して次の3種類に分けられる。
(あ)タイド(調達先をわが国に限定するもので,いわゆる“紐付き”と呼ばれるもの)
(い)LDCアンタイド(タイドから一般アンタイドに至る中間的措置として,調達先をわが国及びDACの定める開発途上国にまで拡げたもの)
(う)一般アンタイド(調達先をすべてのOECD加盟国及びDACの定める開発途上国とするもの)
援助のアンタイドとは,一般的に援助によって購入する生産物及び役務の調達先を援助供与国のみに限定しないことを意味し,一般アンタイドは,援助受取国にとっては国際競争入札により最も良質で最も安価な調達を可能とするもので,援助資金の効率的使用につながるものである。
2. 1980年供与実績の特徴
(1) 一般アンタイド化の前進
円借款の調達方式は,“LDCアンタイイングに関するDAC了解覚書”に基づき77年まではLDCアンタイドが調達方式の主流をなしていたが,77年末の対米通商交渉を契機として,一般アンタイド化を積極的に実施することに踏み切り,78年1月の牛場・シュトラウス共同声明第9項において「日本政府が資金援助を一般アンタイド化するとの基本方針を遂行する」旨の確認がなされた。こうした方針に基づき,78年4月以降の新規意図表明案件から一般アンタイドを基本方針とし,79年5月のマニラにおけるUNCTAD-V総会など主要な国際会議においてこうした方針を表明している。
こうした結果,一般アンタイド案件の割合は,図1のとおり78年に48.5%と77年(6.7%)から飛躍的に拡大,そして79年は53.4%と初めて一般アンタイド化率が過半に達し,更に80年には65.2%と着実な改善を示し
た。また,70年まですべてタイド案件であったものが,80年にはタイド案件は全くなくなった。
(2) 供与条件の改善
円借款の条件改善については,無償資金協力など贈与の比率の拡大とともに政府開発援助の質的改善の一環として,その全般的緩和に努めた結果下表のとおり平均金利が79年の3.00%から80年には2.91%まで改善したほ
表1 平均条件(交換公文締結ベース,除債務救済)
か,償還期間,据置期間とも改善され,平均GEでは79年の56.3%から80年には57.9%と改善を見せた。しかし,国際水準たるDAC諸国の借款平均条件(79年実績で金利2.6%,償還期間31.2年うち据置期間8.5年,GE61.0%)には未だ至っていない。
(3) 地域別・所得水準別供与動向
わが国は,これまで地理的,歴史的,経済的に密接な関係を有するアジア地域を重点に円借款を供与してきており,80年もそのシェアは85.3%と大宗を占めている。
また,所得水準別には,図3のとおり1980年の一人当たりGNPが580ドル以下の諸国に対する供与が借款全体の87.9%と一層拡大し,貧困国重視の国際的要請に見合ったものとなっている。
なお,国別には80年中に新たに2カ国(中国,ドミニカ共和国)に対し初めて円借款を供与し,80年末現在で,これまで円借款を供与した相手国は59カ国となった。
(4) 形態別供与動向
新規に供与する円借款は,形態上プロジェクト借款,商品借款に2分類される。前者は道路,港湾,発電所,通信施設などのプロジェクトに対して供与されるものであり,後者は国際収支の悪化及び外貨不足から,国内経済を維持するのに必要な基礎的物資すら輸入できない場合などに,その輸入資金として供与するものである。近年図4のとおり,商品借款の割合が減少しプロジェクト借款の割合が増加する傾向にあるが,80年も商品借款の供与国は79年の6カ国から4カ国へと減少し,供与額でも円借款全体に占めるシェアが79年の14.5%から80年には7.7%へと低下した。
表2 分野別供与実績
また,既往債務に対し,その債務返済が困難に陥った場合,国際的な協調の下に行う債務繰延べなど債務救済措置は,80年中はトルコに対する債務繰延べ1件であった。
(5) 分野別供与動向
プロジェクト借款について,対象分野別の供与動向を見ると,従来から運輸及び電力で約6割を占め,更に両者に通信を加えると7割程度となっている。このように,経済開発・社会開発基盤整備のためのインフラストラクチャー(具体的には,道路,港湾,鉄道,水力・火力発電,通信網など)が円借款供与対象の大宗を占めているが,80年においてもこの傾向が見られた。