第6節 食糧・漁業問題

1. 食糧問題

(1) 世界食糧需給動向

80年の穀物生産は,国連食糧農業機関(FAO)事務局の推定によれば,小麦及び米については前年の生産を若干上回ったものの,粗粒穀物が大生産国における異常気象の発生により大きく減産したこともあって,穀物生産全体としては,ほぼ前年並みの水準に止まり,14億4,000万トンになったものと見込まれている。

開発途上国を中心として,穀物消費需要が年々増加していることに対し,開発途上国も含め,穀物生産の伸びが停滞したため,穀物の貿易量は増大傾向にあるが,80年産(80年7月~81年6月)の穀物の貿易量は,史上最高を記録した前半を更に4%上回り2億400万トンに達するものと見込まれている。

なお,FAOの在庫見通しによれば,80年度末持越在庫は,これらの動向を反映し,大幅に減少することとなり,前年に比べ4,000万トン減の2億1,000万トン程度と見込まれ,これは,世界の穀物消費量の14%に当たる量と見込まれている。

(2) 主要穀物の安定確保

わが国は基本的に,国内と海外からの適当な組合わせにより,安定的な食糧の確保を要し,そのため国内的に主要品目の自給力の強化を図り,対外的には主要供給国との友好関係を維持発展させるとともに,併せて,アジア諸国を中心とする開発途上国の食糧増産のため,資本,技術の面での協力を推進している。同時に次のような国際諸機関に積極的に参加し,問題の解決に努力している。

(イ) 国際小麦理事会は78年2月以来,経済条項のない現行の国際小麦協定(71年成立)に代えて,現実の小麦市況を踏まえた価格安定メカニズムの導入と食糧の安全保障の観点から小麦の備蓄制度の創設をねらいとする新国際小麦協定の採択を検討しているが,わが国は小麦の大輸入国として,この理事会の活動に積極的に参加している。

(ロ) FAO及び世界食糧理事会

第5回世界食糧安全保障委員会(80年4月,ローマ)では,世界の食糧安全保障状況等が検討されたところ,緊急かつ大規模な食糧不足に対処するための特別行動の必要性が認められ,今後アドホック作業部会を通じ検討が進められるべきことが合意された。また,第6回世界食糧理事会(80年6月,タンザニア)では,世界的な食糧危機に対応するための枠組みとして,食糧予備備蓄の設立,食糧危機管理の強化などが検討されたところ,かかる問題についての検討を進めている国際小麦理事会及びFAO世界食糧安全保障委員会の作業の促進が要請された。

 

2. 漁業問題

1976年以降,200海里漁業水域を設定する国が相次いで現れ,漁業に関する新たな海洋秩序が形成されてきたことに伴い,わが国はこのような状況に対処し,わが国遠洋漁業の操業を確保するために,二国間漁業協定の締結及び多数国間漁業条約の改定などのための数多くの交渉を行ってきた。80年においても,多くの沿岸国との間でわが国漁船の200海里内における漁獲量,入漁料その他の入漁条件などに関する交渉を行うとともに,国際的漁業規制及び資源保存のための国際協力のための多数国間の交渉に積極的に参加した。

(1) 二国間漁業交渉

80年においては,ソ連との間で,同年のわが国の海上におけるさけ・ます漁業の操業条件を規定した議定書,及び77年に締結され毎年延長されている「日ソ」及び「ソ日」漁業暫定協定を81年まで延長する議定書をそれぞれ締結した。また,豪州との間では79年に締結した漁業協定に基づき,80年11月からのわが国まぐろ漁業に関する補足取極を締結した。更に,81年3月,近く独立が予定されているマーシャル諸島との間で新たに漁業協定を締結した。

他方,米国,ニュー・ジーランド,ソロモン,仏,ポルトガルなどの国との間では,既存の協定に基づきわが国の漁獲量などを定める交渉を行った。

これら交渉において,沿岸国は,入漁料の増額を要求し,わが国漁船の入漁問題を水産物などの貿易問題とリンクさせ,更には自国漁業の発展のため外国漁船の入漁条件を厳しくしょうとする傾向を強めている。

(2) 多数国間漁業交渉

わが国は,多数国間漁業条約に基づき設置されている「北太平洋漁業国際委員会」,「北西大西洋漁業機関」,「大西洋まぐろ類保存国際委員会」などの多くの国際漁業機関の会合に積極的に参加した。また,オキアミを中心とする南極の海洋生物資源の保存(合理的利用を含む。)を目的とした条約の作成交渉が行われ,80年5月,「南極の海洋生物資源の保存に関する条約」が作成され,わが国は9月に署名した。更に有効期限が80年10月13日までの「北太平洋のおっとせいの保存に関する暫定条約」を改正する80年の議定書が作成され署名が行われた。

(3) 捕鯨問題・いるか問題

海産哺乳動物の捕獲反対運動は依然欧米諸国を中心に根強い動きを見せているが,80年7月の国際捕鯨委員会第32回年次会議においては,数多くの捕鯨禁止提案が議論され,全面禁止は回避したが,わが国の捕獲頭数は削減され,わが国捕鯨業にとって厳しい状況が続いている。

他方,わが国におけるいるか捕獲に対する諸外国からの抗議運動は続いており,これに対しわが国のいるか捕獲の事情を理解させるよう努力を続けている。また,米国200海里内で操業するわが国さけ・ます漁船のいるか混獲問題の解決のため,北太平洋漁業国際委員会及び日米間で話合いが続けられている。

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