第4節 国際連合の諸活動に対する協力

1. 今日の国際連合

国際連合は,国際の平和と安全の維持及び諸国民の福祉の向上のための国際協力の促進を図る最も普遍的な国際機構である。51カ国の原加盟国で発足した国連は,設立以来30余年を経た今日,154の加盟国を擁するに至っており,この間に,当初意図されたものとはかなり異なった形で発展してきている。例えば,憲章で予想された強制的紛争解決機能に代わり,いわゆる「平和維持活動」が発達を見せ,また,経済・社会分野においては南北問題の占める比重が著しく増し,この分野で国連が果たし得る役割が高まっている。これは,国連が国際情勢の現実を端的に反映する機関であるということにほかならない。国連が世界の政治,経済,社会の現実に即応した形で何をなし得るかは,加盟国の意思と協力によるところが大きいが,近年,国連の限界を見極めた上で,可能な限り活用せんとの空気が加盟国の間に広がりつつある。

今日の国連は,その構成国数の増大及び取り扱う問題の複雑多様化などに伴い,各種専門機関を始め,多くの関連国際機関とともに,平和と安全の維持,軍縮,援助と貿易,社会,人権,文化,人口,環境,科学技術,海洋その他極めて広範な分野で,国際協力の枠組みを提供している。

2. わが国と国際連合

(1) わが国の基本的態度

わが国は,1956年の国連加盟以来一貫して国際の平和と安全の維持を始めとする国連の目的及び活動に積極的支持を与えるとともに,わが国の国際的地位の向上に伴って強まっている国際社会のわが国に対する期待にこたえるべく,諸分野における国際協力の推進を目的とする国連の諸活動により積極的に参加,協力してきており,これがわが外交の基本政策の一つとなっている。

(2) 80年におけるわが国の国連活動

80年において,わが国は,このような基本政策に基づき,活発な国連外交を展開したが,その主要なものは次のとおりである。

(イ) 国連総会は,自国の立場を国際世論に訴え,その理解を得る多数国間外交の格好の場であり,かつ,各国の外交最高責任者が一堂に会するので,ハイ・レベルでの意見交換,相互理解促進の貴重な機会である。第35回国連総会に出席した伊東外務大臣は,一般討論演説を行うとともに,ソ,中,西独を始めとする多くの国の外交責任者(米国務長官とはワシントンにて会談)及び国連事務総長らと精力的に意見交換を行った。

(ロ) わが国は,第35回国連総会の伊東外務大臣一般討論演説において,積極的に世界の平和と繁栄に貢献していくという基本的な考え方に立って,各国と相互信頼関係を築く努力を続けている旨表明し,この関連で,北方領土におけるソ連の軍備強化にも言及しつつ,日ソ両国間の最大の懸案たる北方領土問題を直接取り上げ,この問題に対するわが国の基本的立場を広く国際世論に訴えた。また,この演説において国際の平和と安定及び国際正義の視点から,カンボディア問題,アフガニスタン問題,難民問題,在イラン米国大使館占拠・人質事件,イラン・イラク紛争,朝鮮半島情勢,中東問題,南部アフリカ問題など国際社会が直面する主要な政治問題に対するわが国の基本的立場,見解を明らかにした。特にカンボディア問題については,具体的提案を行うとともに,総会では,カンボディア代表権問題,カンボディア情勢決議を巡り,ASEAN諸国との協力関係の促進に努めた。

また,わが国は,国際の平和及び安全に対し積極的に貢献するとの観点から,安保理選挙に立候補し,10月20日,有効投票147票のうち141票という最高票を得て当選を果たし,81・82年安保理非常任理事国を務めることとなった。更に,わが国は憲章再検討特別委第5会期及び総会一般討論演説において,国連の平和維持機能,特に事実調査機能強化のために具体的提案を行い,各国から高い評価を得た。

80年中,国連においては中東地域の諸問題が注目を集め,わが国はアフガニスタン,パレスチナの両緊急特別総会や安保理のイラン・イラク紛争審議に積極的に参加し,国連憲章にのっとった平和的解決を訴えた。

(ハ) 世界経済の相互依存関係が深まりつつある現在,わが国は,経済問題についても,国連を中心とする諸活動に積極的に参加している。(国連を通ずる南北問題解決への努力については,本章第2節2.のとおりである。)

(ニ) 軍縮の分野では,79年末に発生したソ連のアフガニスタン軍事侵攻問題が,軍縮の促進に不可欠な関係国間の基本的な相互信頼を阻害し80年の国連における軍縮審議は,全体として停滞した。

かかる状況の下にあって,わが国は,世界の平和と安定を図っていく上で必要な国際的努力の一環として軍縮・軍備管理の果たすべき役割の重要性は,従来にも増して高まっているとの認識の下に,具体的な軍縮措置の推進に当たっては,現実の国際情勢の中で,実現可能な措置を一つ一つ積み重ねて行くことが肝要であると考え,本総会においても包括的核実験禁止の促進に関する決議など幾つかの決議の共同提案国となった。

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