(3) 第2次戦略兵器制限条約(SALTII条約)骨子
(1979年6月18日,米ソ両国首脳署名,ウィーン)
SALTII条約は,本条約ほか,議定書,合意声明及び共通了解事項,SALTIIIに関する共同声明,戦略攻撃兵器の基算データの設定に関する了解事項覚書,及びソ連のバックファイアに関する声、明の諸文書から成るが,以下は骨子である。
1. 第2次戦略兵器制限条約(SALTH条約)
前文
対等の安全保障の原則,核拡散防止条約の目的の履行,戦略的安定の強化,戦略兵器の一層の制限と削減等の共通の目標につき言及。
第1条(全般的義務)
(1) 戦略攻撃兵器の量的・質的制限。
(2) 新型戦略攻撃兵器の開発抑制。
第2条(定義)
(1) ICBM発射基:射程5,500km以上の弾道ミサイル地上発射基。
(2) SLBM発射基:原子力潜水艦搭載弾道ミサイル発射基,もしくは潜水艦搭載新型弾道ミサイル発射基。
(3) 重爆撃機:米国(B-52,B-1),ソ連(TU-95「ベア」,M-4「バイソン」),射程600km以上(長距離)巡航ミサイル搭載爆撃機,ASBM搭載爆撃機。
(4) ASBM:射程600km以上の航空機搭載弾道ミサイル。
(5) MIRV化ICBM・SLBM発射基:MIRV化ICBM・SLBMの発射。
(6) 重ICBM:最大の軽ICBM(ソ連のSS-19)よりも大きな発射重量もしくは投射重量をもつICBM。
第3条(戦略核運搬手段の総数規制)
(1) 戦略核運搬手段(ICBM・SLBM発射基,重爆撃機,ASBM)の総数の上限を当初2,400とし,1981年1月1日から2,250へ削減を開始。
(2) 条約の規制内での兵器選択の自由。
第4条(ICBM等に関する規制)
(1) ICBM固定発射基の追加建造禁止。
(2) ICBM固定発射基の再配置禁止。
(3) 軽ICBM発射基又は,1964年以前の旧型ICBM発射基の重ICBM発射基への改造禁止。
(4) ICBM発射基の近代化・代替においては,その容積を当初のものより32%以上増加禁止。
(5) (イ)ICBM配備地域に対する通常の必要(1発射基当り1ミサイル)を越えたICBMの配置,ICBM貯蔵施設の設置,ICBM貯蔵の禁止。
(ロ) ICBM発射基急速再装顛システムの開発,実験,配備の禁止。
(6) 通常の建造計画を越える戦略攻撃兵器の建造禁止。
(7) 現存の最重量ICBM(ソ連のSS-18)よりも大きい発射重量又は投射重量を持つICBMの開発,実験,配備の禁止。
(8) ICBM以外の弾道弾用地上発射基のICBM用発射基への改造又はそのための発射実験の禁止。
(9) 1種類の新型軽ICBMを例外とし,新型ICBMの飛行実験,配備の禁止。
(10) 既存のICBM弾頭数は,既に実験された数を越えないこと。新型軽ICBM,SLBM,ASBMについては,夫々10,14,10個の弾頭数を越えるものの飛行実験,配備の禁止。また,重爆撃機搭載の長距離巡航ミサイル数は平均28を越えないこと(なお合意声明において既存の重爆撃機(ベア,バイソン,B-52,B-1)については夫々20を越えないこととされた)。
第5条 (MIRV化ミサイルの発射基数等の内枠規制)
(1) MIRV化ICBM・SLBM発射基,MIRV化ASBM,長距離巡航ミサイル搭載重爆撃機の数(総数の内枠)を1,320とする。
(2) 更にその内,MIRV化1CBM・SLBM発射基,MIRV化ASBM数を1,200とし,MIRV化ICBM発射基数のみについては820とする。
第6条(算入規則)
(1) 規制対象として算入する兵器の態様(運用中,貯蔵中,修理中等)につき規定。
(2)算入等の手続きに関しては,常設協議委員会で合意。
第7条(実験・訓練用,宇宙船用発射基の取扱い)
(1) かかる発射基は規制総数に算入しない。
(2) 実験,訓練用発射基数の15%以上の増加禁止。また,実験場のICBM発射基の建造,改造は,実験,訓練目的に限定。
(3) かかる発射基のICBM発射基への改造禁止。
第8条(巡航ミサイル搭載航空機の規制)
(1) 爆撃機以外の航空機による長距離巡航ミサイル,ASBMの飛行実験禁止。
(2) 同航空機の長距離巡航ミサイル,ASBM搭載航空機への改造禁止。
第9条(新兵器の開発,実験,配備の禁止)
次の兵器の開発,実験,配備の禁止。
(1)潜水艦以外の水上艦艇に搭載する射程600km以上の弾道弾。
(2)海底,内水底に設置する弾道弾,巡航ミサイルの固定発射基,移動発射基。
(3)地球軌道に乗せる核兵器等の大量破壊兵器(部分軌道ミサイルを含む)。
(4)重ICBMの移動発射基。
(5)重SLBM,その発射基,重ASBM。
(6)空中発射MIRV化長距離巡航ミサイルの飛行実験,配備の禁止。
第10条(兵器の近代化)
この条約の規定に従い,戦略攻撃兵器の近代化,代替を行うことができる。
第11条(兵器の削減手続)
(1) 規制総数を上回り,あるいは本条約により禁止される戦略攻撃兵器の撤去,破壊手続は,常設協議委員会で合意される。
(2) 規制総数2,400を越える分の撤去,破壊については,条約発効後,ICBMは4ヵ月以内,SLBMは6ヵ月以内,重爆撃機は3ヵ月以内に完了。
(3) 2,250への撤去,破壊は,遅くとも1981年1月1日に開始し,同年末以前に完了。
(4) 条約で禁止される兵器の撤去,破壊は,条約発効後6ヵ月以内に完了。
第12条(脱法行為の禁止)
第三国を通じ,その他の方法による脱法行為の禁止。
第13条(既存の条約,新しく結ぶ条約との関係)
この条約に抵触する国際的義務を負わないことを約束。
第14条(次期交渉の開始)
(1) 条約発効後,可及的速やかに次期交渉を開始する。
(2) この条約に代るべき協定を1985年以前に締結することを目標とする。
第15条(検証)
(1) 条約の履行を確保するため,両国は一般に認められた国際法の諸原則に従つて,自国の技術的手段による検証を行う。
(2) 相手国が行う検証手段の妨害禁止,故意の秘匿措置の禁止。
第16条(ICBM実験の事前通告)
自国内で行われる単弾頭ICBMの発射を除き,ICBM発射計画の事前通告義務。
同通告手続は,常設協議委員会で合意。
第17条(常設協議委員会の機能)
常設協議委員会(SCC)は,次の活動を行う。
(1) 条約の履行,不明瞭な事態を検討。
(2) 自国の技術的手段による検証の意図せざる妨害につき検討。
(3) 対象兵器の代替,更新,撤去,破壊の手順についての合意,戦略攻撃兵器制限のための改正,一層の措置の検討。
(4) 条約署名時の了解事項覚書に基づく戦略攻撃兵器類のカテゴリー別データの維持。
第18条(条約の改正)
条約の改正を提案できる。改正は,本条約の発効手続により効力を生ずる。
第19条(発効,有効期限,廃棄)
(1) 本条約は批准書交換の日に発効。有効期間は,新条約により代替されない限り,1985年12月31日まで有効。国連への登録。
(2) 至高の利益(supremeinterests)が害されたと判断される場合,6ヵ月の事前通告により条約を廃棄し得る。
2. 議定書
前文(追加的制限の合意)
第1条(ICBM移動発射基の禁止)
ICBM移動発射基の配備禁止,この種の発射基からの飛行実験禁止。
第2条(巡航ミサイルの規制)
(1) 射程600km以上の地上,海上発射巡航ミサイルの配備禁止。
(2) 射程600km以上のMIRV化巡航ミサイルの飛行実験禁止。
(3) 巡航ミサイルとは,空気力学上の揚力を利用する,無人,自力推進,誘導式の兵器運搬手段。
第3条(ASBMの禁止)
ASBMの飛行実験,配備の禁止。
第4条(有効期間)
議定書は条約と不可分の一体をなし,条約発効の日から効力を有し,1981年末まで有効。
3. 合意声明及び共通了解事項条約,議定書に係わる条文の解釈,補足,規制対象の明示等(略)
4. SALTIIIに関する共同声明
前文
(1) 戦略的安定を強化するとの目標の再確認。
(2) 戦略兵器の一層の制限と削減は国際の平和と安全を強化し,核戦争の危険を減少させる。
第1項(交渉の継続)
(1) 一層の量的・質的制限を行うため対等の安全保障の原則に基づく,交渉の継続。
(2) 戦略的安定の強化措置の継続的追求。
2項(検証の強化)
(1) 自国の技術手段による十分な検証の必要性,協力措置の役割。
(2) 条約義務遵守の保証の促進のため,検証の強化,常設協議委員会の活動の強化。
3項(次期交渉の目的)
(1) 戦略攻撃兵器の大幅かつ実質的な削減。
(2) 新型兵器の開発,実験,配備,既存兵器の近代化の規制を含む質的制限。
(3) 議定書に含まれた問題の解決。
4項(その他の措置の検討)
(1) 戦略的安定,対等の安全保障の確保,共同声明の原則と目的を実施するためのその他の措置の検討。
(2) 国際の平和と安全を強化し,核戦争勃発の危険を減らすための一層の共同措置の検討。
5. 「戦略攻撃兵器数の基算データの設定に関する米ソ間の了解事項覚書」に基づくデータ(1979.6.18現在)
米 国 | ソ 連 | |||
ICBM発射基 | 1,054 | 1,398 | ||
ICBM固定発射基 | 1,054 | 1,398 | ||
MIRV化ICBM発射基 | 550 | 608 | ||
SLBM発射基 | 656 | 950 | ||
MIRV化SLBM発射基 | 496 | 144 | ||
重爆撃機 | 573 | 156 | ||
巡航ミサイル搭載重爆撃機 | 30 | 30 | ||
ASBM搭載重爆撃機 | 0 | 0 | ||
ASBM | 0 | 0 | ||
MIRV化ASBM | 0 | 0 |
6. ソ連のバックファイア声明
1979年6月16日,ブレジネフ書記長はカーター大統領に対し要旨次の書面による声明を手交。
(1) ソ連は,中距離爆撃機であるバックファイア(TU-22M)に対して,大陸間距離の作戦能力を付与する意図を有しない。
(2) ソ連は,バックファイアに対して米国領土内の目標を攻撃し得るような行動半径の増大,空中給油能力を付与する意図を有しない。
(3) ソ連は,この航空機の生産率を現在以上に増加しない。
なお,ブレジネフ書記長は,同機の生産率が30機/年を越えないことを確認。カーター大統領は,米国は,ソ連の本誓約の実施が条約の下における義務に不可欠であると考える旨述べた。