(7)リー・クァン・ユー・シンガポール首相訪日に際しての共同声明(仮訳)
(1979年10月23日,東京)
1. リー・クァン・ユー・シンガポール首相は,夫人を伴い,日本国政府の招待により1979年10月21日から24日まで日本を公式訪問した。
2. リー首相夫妻は,滞日中,10月22日,宮中において天皇・皇后両陛下に拝謁を賜つた。
3. リー首相及び大平総理大臣は,10月22日及び23日2回にわたり,両国が共通の関心を有する広範囲の事項につき建設的かつ有益な意見交換を行つた。会談は極めて親密かつ友好的な雰囲気の中で行われ,共通の関心を有する多くの問題につき見解の一致がみられた。両首相は,これらの会談が両首脳間の親密な関係を増進する上で貢献したことに満足の意を表明した。
4. 両首相は,ASEANが東南アジアにおける平和,安定,発展及び繁栄を促進する上で重要な役割を果たしてきていることに意見の一致をみた。両首相は,日本とASEANとの間の協力関係が広範な分野において一層強化され,堅固なものとなつてきていることに満足の意を表明した。これに関連して,両首相は,近い将来東京で開かれる予定の日本・ASEAN経済閣僚会議が日本とASEANの双方にとり有意義なものとなるよう希望を表明した。
5. 両首相は,現下の東南アジア情勢につき意見交換を行つた。
両首相は,カンボディアに永続的な平和を回復する唯一の途は,カンボディアからすべての外国勢力が撤退し,カンボディア国民が外部からのいかなる干渉も受けずに自らの政治的将来を選択しうるようにすることであるとの共通の信念を確認した。大平総理大臣は,インドシナ半島における平和の回復を目指したASEAN諸国のイニシアティヴを高く評価し,これを全面的に支持した。
これに関連して大平総理大臣は,日本はASEAN諸国との密接な協議の下に東南アジアの平和と安定のため引き続き積極的な役割をはたす旨述べた。リー首相はこれを歓迎した。
6. 両首相は,両国間の経済技術協力,貿易及び投資が着実に進展していることに満足している旨述べるとともに,引き続きこれらの面における協力を促進してゆくことを再確認した。両首相は,また,文化交流及び広い分野にわたる人物交流を拡充することにより日本とシンガポールの相互理解を一層促進していくことにつき意見の一致をみた。
7. 両首相は,両国の健全な協力関係の象徴であるシンガポール石油化学プロジェクト及び日本・シンガポール技術訓練センターが着実な進展をみていることに満足の意をもつて留意した。
8. リー首相は,日本・シンガポール情報技術訓練所は技術の開発を通じシンガポール経済に重要な役割をはたす旨強調した。両首相は,訓練所設立に関する協力の可能性につき討議した。大平総理大臣は,日本政府はプロジェクトの重要性にかんがみ,その実行可能性を検討すべく調査を行う旨述べた。
9. 両首相は,シンガポール大学の工学分野及びシンガポール大学日本学科の設立の分野における日本の援助の可能性につき討議した。大平総理大臣は,日本政府はこれらの問題に真剣な考慮を払う旨述べた。
10. リー首相は,大平総理大臣に対し,双方にとつて都合の良い時期にシンガポール共和国を訪問するよう招待した。大平総理大臣は,この招待を感謝の念をもつて受諾した。
11. リー首相は,日本国政府及び日本国民より,同首相夫妻及びその一行に対して示された心からの歓迎と暖かいもてなしに対して謝意を表明した。