(4) 第18回OECD閣僚理事会におげる安川代表発言
(1979年6月13日,パリ)
―相互依存の世界における開発途上国との関係―
―1974年5月30日の宣言一貿易プレッジーの更新―
議長
今日の世界を大きく特徴づけているのは先進国,開発途上国の如何を問わず,各国経済が世界経済全体の枠内で相互依存関係を一段と深めている事実であります。従つて南北問題に取り組むに当つては南北間の調和のとれた発展なくしては,世界の政治的安定もなく,先進国の繁栄もあり得ないということを念頭におき,開発途上国の経済発展の促進に協力すべきであります。そのためには,世界経済の安定的成長が必要であり,我々としては,積極的調整政策の推進,保護主義の抑制に努め,世界経済の拡大に努力するとともにあらゆる機会に開発途上国に対しても世界経済の拡大は自らにとつて利益であるとの認識を深めることを呼びかけ,責任ある協力を求めるべきと考えます。
南北問題については,このような認識に立つて南北双方が着実な努力を重ねて行くことが肝要と考えます。先般の第5回UNCTAD総会ではいくつかの分野で合意が成立したことは評価すべきものと考えられますが,発展段階の違いを反映した南側の多様化現象が南北対話に複雑な様相をもたらしていることにも留意する必要があると考えます。われわれとしてはUNCTADVを今後とも継続する南北対話の一場面として位置づけ,南北対話の潮流が一層建設的且つ現実的な方向に向かうよう南北双方が努力を続ける必要を強調したいと思います。
大平総理自らマニラ総会に出席されたことからも伺えるとおり,わが国は従来にも増して,南北問題に積極的に取り組んでおります。わが国としては,一次産品共通基金の早期設立に引き続き積極的役割を果たす所存であること,一般特恵関税制度の改善に関しては特にLLDCに対する特別措置の導入を検討する用意があること,ODAの3年間倍増を確実に達成する所存であること,今後とも積極的姿勢を維持し,ODAの量を拡大してGNP比の改善に一層努力すること,グランド.エレメントの向上,資金協力の一般アンタイ化方針の遂行等,ODAの質の改善に1もたゆまず努力すること,今後は開発途上国の需要,要望を尊重し,「人造り」のための協力を一層重視し,開発途上国の人的資源の開発に貢献すること等の点を,ここで改めて強調したいと思います。
議長
ここで私は冒頭に申し述べた基本的な考え方に基づき,今後われわれの直面する若干の問題につき考えてみたいと思います。
第1は,より開発が進んだ途上国の問題であります。
これら諸国,特にNICsとして言及されるような国々は,世界経済の発展のダイナミズムに寄与するものであり,先進国としては,これら諸国との貿易において保護主義的措置をとることなく,積極的調整政策の趣旨に沿つた経済運営を図つていくことが肝要であります。
他方,これら諸国も世界経済の中で,より大きな役割と責任を果していくことが期待されます。これら諸国は,しばしばわれわれの開発協力の成功例であり,われわれの開発協力が整合的であるためには,これらの諸国に積極的に対応することが必要と考えます。そのため今後これら諸国と意思疎通を更に深めていく必要性を強調いたします。
かかる認識に立つて,OECD加盟国と非加盟中進国とがOECDの場を通じて,共に関心を有する分野において,相互利益を追求する見地から,より緊密な協力関係を設定,発展させていくことが望ましい方向であると考えます。
その具体的方途を検討していくことは,当面の課題であり,例えば専門家レベルの会合を,アドホックに開催することは,建設的な第一歩と考えます。
なお,このような協力関係を構築していくに際しては,先進国間の協力のフォーラムとしてユニークかつ有用なOECDの機能を損うことなく,OECDの活動から一層のメリットを引き出すように配慮する必要もありましよう。
第2は,貧困が著しい諸国の問題であります。これら諸国に対しては一層手厚い援助が必要であり,特に食糧不足に悩む開発途上国に対してこれら諸国自身の食糧の増産と自給を促進するため先進国は一層の努力を行うべきものと考えます。併せて,われわれは、これらの貧困国においてより多くの人々が受益できるよう教育,医療,衛生などへの援助を重視することが必要であります。
第3は,開発途上国におけるエネルギー資源開発の問題です。途上国は,そのニーズに適合する新・再生可能エネルギーの開発を積極的に進めていく必要があり,この要請を受けわれわれとしても資金,技術の面において,必要に応じ協力していくことが重要と考えます。
議長
80年代の入口に立つ我々としては,21世紀の世界のあるべき姿を展望しつつ,南北問題の解決に向けて,息の長い努力を続けなければなりません。従つて中・長期の問題として私は次の2点を指摘したいと思います。
第1に,新IDSは,国際社会が共同で達成すべき共通の努力目標を定めるものとして重要な意味を有しており,先進国としては,この策定作業に積極的に取り組む決意を新たにする必要があります。
第2に,このたび完成を見たインターフユーチャーズ報告書は中・長期のヴイジョンを提供するものと評価され,その成果をOECDの活動に反映させるとともに,今後,南北問題の検討に際しても参考とすることが望ましいと考えます。
議長
次に世界経済拡大の主要原動力の1つたる貿易について一言述べたいと思います。
我々は,開放貿易体制の維持・強化を標擁し,1973年以来今世紀最大のMTN交渉を行つてまいりました。東京ラウンドは,関税の一層の引下げのみならず,80年代,更にはそれ以上にわたり世界貿易を律するルールを提供します。本年4月に東京ラウンドが実質妥結を見たことは,誠に喜ばしく,開発途上国も含め出来る限り多くの国が,この交渉成果を受け入れ,これに参加することが重要であると考えます。今後は各国が国内手続を早期にとつて,MTNの成果を誠実かつ確実に実施していくことが,何にもまして肝要でありましよう。因に,わが国は自主的措置として東駅ラウンドで合意された関税引下げの早期実施,同交渉で作成されたコードに沿つた開放化措置の推進及び検査手続の簡素化等に努めることとしております。
また,この他,わが国は,市場開放努力の一環として,為替管理についても,原則自由の法体系に改めるとともに,一層の自由化を進めることとしております。
議長
世界経済の現状を眺めますと,緩慢な経済回復の中にあつて,失業は依然高い水準にあり,また国際収支困難についても各国の努力により相当改善傾向がみられるとはいえ,なお問題は残つております。かかる背景の下で,一部のセクターを中心に保護主義的圧力が高まつていることが懸念されます。従つて,我々は,MTNの実質妥結に気をゆるめ,保護主義防遏の努力を怠つてはならないのであり,かかる観点から「貿易プレッジ」を本年も更新し,保護主義回避への決意を新たにすることが肝要であると考えます。
更に,中・長期的には,保護主義的措置の漸次縮小撤廃へ向けて,一層努力すべきであることを強調したいと思います。
議長
最後に強調致したいのは,南北問題にせよ,開放貿易体制の維持・強化にせよ,結局は我々加盟国の政治的意思にかかつているということであります。従つて我々先進国としては,この困難な時代にあつても,人類全体の将来における繁栄を確保するため,これらの分野における我々の責務を果たす必要があります。私としてはこの点に関し,わが国の政治的意思を確認し,他の加盟国に対し同様の意思の表明を呼びかけつつ所見と致します。