(7) 参議院外務委員会における大来外務大臣所信表明
昭和55年3月4日
私は,今国会再開の冒頭の外交演説において,私の外交に対する所信を表明致しましたが,本日,この外務委員会の席において,再び私の考えを述べる機会を得ましたので,最近の国際情勢の動きを踏まえつつ,所感を手短かにお話してみたいと存じます。
80年代は,アフガニスタンに対するソ連の軍事介入の勃発の中であわただしく幕をあけ・早や2カ月を経過致しましたが,その間にあつて,80年代の国際情勢の厳しさとこれに対応するわが国外交の責任の重さを改めて痛感する次第であります。
戦後30余年にわたるわが国外交を振り返つてみると,日米安全保障体制の下で自らの安全が直接脅かされるような危険にさらされることもなく,また,国際貿易に関するガット体制,及び国際通貨金融面におけるIMF体制という経済面での枠組に支えられ,わが国は,主としてその国力を経済建設に向け,今日の経済発展を享受することができました。しかしながら,今や,内外の諸条件は大きく変化致しました。
例えばわが国のGNPは,共産圏を含めた世界全体の中に占める割合は,1955年には3、5%に過ぎなかつたものが,1977年には8.7%と大きくその比重を高めております。このようにわが国の国際的比重の高まりとともに,わが国の動きは諸外国の大きな注目を集めるようになり,わが国が経済面のみならず,政治外交面においても,その国際的地位にふさわしい責任と役割を果たすことに対する国際社会の期待はますます高まりつつあり,この傾向は80年代を通じて一層強まることが予想されます。わが国としては,かかる国際環境を十分認識しつつ,平和国家としての基本的立場に立つて,米国との友好協力関係を基軸として,自由主義諸国との連帯を強化し,これを基盤として世界の国々と友好協調関係の輪を押し拡げていくとの外交を一層強力に推進する考えであります。
とりわけ,平和に徹する国家として,対立・紛争をかかえる世界の諸地域からの不安定要因の除去のため,これまで以上に積極的に貢献し,世界平和が一歩でも前進するような国際環境づくりに参加していくことが必要であります。
またインフレーション,エネルギー情勢等が厳しさを増す中で,わが国としては,世界経済の主要な担い手としての自覚と責任を持つて,関係国と協調しつつ,世界経済の運営に積極的に参画していかなければなりません。さらに,わが国の経済力と技術力を世界の発展,特に,経済困難に悩む開発途上国の発展のために,従来にもまして建設的に役立てていくことが重要であります。
次に,最近の主要な外交上の動きにつき,簡潔に御説明申しあげたいと思います。
わが国と米国との関係につきましては,両国関係の一層の発展が世界の平和と安定のためにも重要であることは,すでに外交演説でも申し上げました。
私は,世界的視野に立つた信頼あるパートナーとしての協力関係を一層促進するため,国会の御了承が得られれば,近く訪米の機会を持ち,米国指導者層と幅広く意見を交換してまいりたいと考えております。巨大な経済力を持つ両国間で,貿易経済上の若干の問題がその時々で生ずるのはむしろ当然とも言えることであり,重要なことは,かかる問題が深刻化する前に両国間の緊密な話し合いによつて解決へ導き,ひいては世界経済の安定的な発展に貢献していくことであります。そのためには常に米国と緊密なコンタクトを維持・強化していくことが肝要であります。
アフガニスタンについては,ソ連軍の駐留が続くまま緊迫した情勢が続いておりますが,国連緊急特別総会,更には先般のイスラム外相会議にも見られるように,ソ連の軍事介入は国家の主権,領土保全,政治的独立を侵犯するものとして,国際世論の厳しい批判を受けております。わが国としても,内政不干渉,民族自決の原則が尊重され,アフガニスタン国民が自らの手で国内問題の解決を図るよう切望するとともに,引き続きソ連に強く反省を求め,ソ連軍の速やかな撤退を要求してまいる方針であります。
イランにおける米国大使館占拠事件も今なお解決を見ておりまぜんが,先般,国際調査委員会が設置されたことは,事態解決のための第一歩として歓迎すべきことと考えており,バニサドル新大統領の選出等イラン国内の新たな要因と合わせ,事態の推移を注意深く見守つてまいりたいと思います。
今般,園田前外務大臣が総理特使として中近東諸国及びインド,パキスタンに派遣されましたが,これはソ連軍のアフガニスタン軍事介入後の中東・南西アジア情勢をふまえ,中東和平問題を含めこれら地域の平和と安定に貢献するためにわが国のなしうる方策を探求することを目指すものであり,今次訪問の成果を心より期待致しております。
以上,申し述べました以外にも,わが国は解決すべきさまざまな外交課題をかかえておりますが,これに対しても積極的にとりくんでいく所存であります。
外交の目的が,国民の生活と安全を守ることにあることは繰り返して申しあげておりまずが,政治,経済,文化等各般にわたる平和的手段で国の活路を切り開いていかなければならないわが国にとり外交の持つ重要性が80年代において一層強まることは申しあげるまでもありません。今後とも,皆様とともに,日本の国際社会におけるあり方を考え,最善の努力を尽す所存でございますので,従来に増して御理解と御支援を賜わりますよう重ねてお願い申しあげます。