第5章 情報文化活動

第1節 わが国の主要な文化交流の現状

1. わが国り文化交流の概況

1972年に設立された外務省所管の特殊法人国際交流基金は,jわが国の政府レベルの国際文化交流の実施機関であるが,78年度の同基金の事業費総額ほ出資金400億円の運用益に当たる約31億円であつた。この事業費の配分を世界の地域別に見ると,アジア・大洋州35.9%,北米19.8%,欧州17.9%,中南米9.0%,中近東・アフリカZ9%となつている。また,基金の78年度事業費を事業別に見ると,人物の招へい及び派遣事業32.15%,日本語教育,日本研究の助成事業31.51%,公演・展示などの催物の実施及び助成事業21.41%,出版助成や図書の寄贈6.59%,映画フィルムやTVフォルムの購送などの視聴覚事業5.48%となつている6

基金を通じた事業のほか世界各地におかれている在外公館も毎年独自のイニシアチブに基づき、所在地における日本文化に対する要望にこたえて,きめ細かい外交的配慮のもとに文化事業を実施している。

このような日本文化の海外への紹介の事業とあわせて,政府は開発途上国に対する「物心両面にバランスのとれた」援助を行うため,これら諸国における文化・教育の振興に寄与することを目的として文化無償協力をはじめとしてASEAN文化基金や開発途上国の遺跡保存事業に対する資金拠出,東南アジア文相機構(SEAMEO)やユネスコなどの国際機関を通ずる協力を行つている。

2. 文化交流に関する諸取極の締結

79年10月11日ヴィデラアルゼンティン大統領の来日の機会にわが国とアルゼンティン共和国との間の文化協定が東京においてわが方園田外務大臣とアルゼソティン側バストウール外務宗務大臣との間で署名された(未発効)。

79年12月6日大平総理大臣の訪中の機会に両国間の文化交流の促進のための協定(行政取極)が署名され,同日発効した。

3. 文化混合委員会などの開催

79年中に開催された文化協定に基づく文化混合委員会は次のとおりである。

第1回日加文化随時協議(4月4日・5日,東京),第9回日仏文化混合委

員会(6月5日・6日,東京),第18回日英文化混合委員会(10月8日・9日)。

また79年6月19日から21日まで日米文化教育協力に関する合同委員会がハワイにおいて日米両国政府民間代表の出席のもとに開催された。

4. 開発途上国との文化・教育協力

(1) 概 況

開発途上国との文化面での交流に当たつては,わが国文化の相手国への紹介という側面のみならず,相手国の文化的・教育的水準の向上のための基盤の整備に寄与するための協力(いわゆる「文化協力」と呼ばれる新しいジャンルの協力)が重要性を増している。わが国もかかる観点から開発途上国による文化財及び文化遺跡の保存活用,文化関係の公演・展示などの開催並びに教育及び研究の振興のために使用する資機材の購入資金を贈与する「文化無償協力」をはじめ,ユネスコやSEAMEOなどの国際機関を通ずる協力などを行つている。また78年12月にASEAN域内の文化交流を促進するため設立されたASEAN文化基金に対し,わが国政府は50億円の拠出を行つたほか,ASEAN諸国の有為の青年に対し高等教育の機会をより多く与える目的で80年度よりASEAN青年のための奨学金制度を発足させ,毎年100万ドルの奨学金を供与することとしている。

(2) 文化無償協力

79年に実施した文化無償協力プロジェクトは次の16件である。

(イ) バングラデシュ

ダッカ博物館に対する視聴覚・研究機材(4,500万円)

(ロ) 韓国

清州大学に対する日本語LLシステム(1,500万円)

(ハ) インドネシア

北スマトラ大学に対する実験機材(3,000万円)

(ニ) ブラジル

連邦区教育財団に対する視聴覚教育機材(3,600万円)

(ホ) ペルー

体育庁体育大学に対する体操スポーツ機材(4,000万円)

(ヘ) タ イ

スコータイ遺跡の修復保存機材(5,000万円)

(ト) スリランカ

古代仏教遺跡の修復保存材(5,000万円)

(チ) モルディヴ

教育省に対する教育放送受信機材(1,500万円)

(リ) インドネシア

インドネシア芸術学院に対する音楽機材(5,000万円)

(ヌ) エジプト

カイロ大学に対する視聴覚教育機材(3,000万円)

(ル) シンガポール

教育省に対する日本語LLシステム機材(1,700万円)

(オ) メキシコ

国立自治大学に対する日本語LLシステム機材(1,000万円)

(ワ) セネガル

国民教育省に対する視聴覚教育機材(4,000万円)

(カ) ソロモン

教育省に対する教材印刷機など教育機材(3,000万円)

(ヨ) フィリピン

教育文化省に対するコンピューター(5,000万円)

(タ)ラオス

教員養成学校に対する体育教育機材(3,000万円)

(3) 東南アジア文相機構(SEAMEO)への協力

79年にわが国は,SEAMEOの教育開発特別基金(SEDF)に対し6万ドルの拠出を行い,熱帯生物学センター(BI0TROP)の研究訓練施設第2次建設事業協力のために15万ドルの拠出を行うとともに,8名の専門家を派遣した。

(4) 遺跡保存のための協力

ユネスコが行つている遺跡保存のための国際キャンぺーンに協力して,わが国は79年にパキスタン・モヘンジョダロ遺跡保護開発事業のため,及びインドネシア・ボロブドール遺跡復興のため,それぞれ10万ドルの拠出を行つた。

(5) ASPAC文化社会センター

79年にわが国は,7万ドルの分担金を拠出,フェローシップ交換事業などに参加した。

5. 海外におけるわが国文化の紹介

(1) 概 況

海外にわが国の文化を紹介し,諸国民のわが国に対する理解を増進するために,わが国は国際交流基金を通じた公演・展示などの催物の実施,映画・TVフィルムなど視聴覚メディアによる紹介,日本関係図書の寄贈などの活動を行つている。また,各在外公館はそれぞれ管轄地域の特殊事情などを勘案してきめ細かな日本文化の紹介活動を行つている。

(2) 在外公館文化事業

79年には,各地域を通じて文化講演会32回,生花実演(生花教室,講習会,展示会)37回,日本文化紹介展25回,日本祭,日本週間29回,茶道実演4回,邦人音楽会23回,折紙講座,囲碁大会その他各種の文化行事を行うとともに,各種文化団体など主催の催しに参加した。

(3) 日本紹介のための公演

音楽,演劇,舞踊などわが国の伝統芸能,現代芸能の海外への紹介及び外国の芸能の日本への紹介は,重要な文化交流事業であり,国際交流基金の主催事業又は民間団体に対する援助事業という形で実施している。

79年に実施した主な公演事業としては,歌舞伎の中国及び米国公演,中国京劇の本邦招へい,NHK交響楽団のASEAN諸国公演,劇団「風の子」中近東公演などがある。

(4) 日本紹介のための展示会

わが国の美術,工芸,版画,写真などの海外への紹介及び海外美術の日本への紹介のための各種展示会を国際交流基金の主催ないし援助事業として実施している。

79年の主要な展示事業としては,米国における日本文化紹介行事JA・PANTODAYに対する陶芸展,写真展「日本の“間”」展の参加のほか欧州における日本ポスター展,豪州及びニュー・ジーランドにおける「包む」展,サンパウロビエンナーレヘの参加などがある。

(5) 図書などの寄贈による日本紹介

79年わが国は,国際交流基金を通じ外国研究機関及び公共機関など119機関に対し,わが国に関する図書14,850冊を寄贈した(総額輸送料を含め69,700万円)。

また,日本語教材4,570万円(送料を含む)を諸外国の日本語教育機関に寄贈した。

(6) 映画及びテレビによる日本紹介

79年には在外公館主催による劇・文化映画会を118回開催した。これら映画会で使用するため,国際交流基金より劇映画5種26本,文化映画10種15本,テレビ用フィルム4種22本の寄贈を受け,各地在外公館フィルムライブラリーへ送付した。

また国際交流基金提供劇映画により,インドほか3カ国において巡回上映会を開催した。

6. 人物交流

(1) 国際交流基金による人物交流

人物交流は文化交流の最も基本的な分野であり,外務省は国際交流基金を通じ,学者,芸術家,スポーツ専門家などを海外に派遣する一方,外国の日本研究関係者,著名な文化人,中学・高校教員グループなどの招へいを行っており,79年度における実績は次のとおりであった。

(イ) 派 遣

長期(平均6ヵ月)39名

短期(約1ヵ月)174名

計213名

(ロ) 招へい

日本研究関係者長期招へい(14ヵ月以内)155名

文化人短期招へい(2~3週間)120名

特定地域専門家招へい(4ヵ月)6名

中学・高校教員グループ招へい(2~3週間)138名

計419名

(2) その他の人物交流

外務省は,総理府,地方自治体などの青少年国際交流事業に対し,側面的協力を行つた。その他,海外に派遣される学術調査隊,スポーツ団体などに所要の便宜供与を行い,国際スポーツ大会のわが国における開催に協力している。

7. 日本研究助成および日本語普及

(1) 概 況

諸外国の日本研究,日本語教育に対する関心の増大に応え,外務省は国際交流基金を通じ,種々の援助を行つている。

(2) 日本研究助成

アジアの主要8大学に,日本研究講座を寄贈しているほか,諸外国の日本研究に対し,79年度において次のとおり客員教授などの派遣,資金援助,研究用図書の寄贈などを行つた。

教授など派遣数64名

講師・助手招へい数9名

日本研究機関に対する資金援助など43件16,370万円

研究用図書など寄贈37件793万円

(3) 日本語普及

諸外国の日本語教育機関に対し,79年度において次のとおり講師派遣,教材寄贈などの援助を行つた。

講師派遣数79名

講師研修会招へい44名

成績優秀者招へい51名

日本語教育機関に対する資金援助など147件10,703万円

教材寄贈119件6,600万円

(4) 中国における日本語研修特別計画

79年12月大平総理大臣が訪中された際,中国における日本語学習の熱意

にかんがみ,このような日本語学習の一層の振興のため,日本政府が80年度以降具体的な計画をもつて協力することが発表された。

その結果,現在約600人を数える中国人の日本語教師に対して,80年度より5年間にわたり,毎年120人ずつを対象に,日本語教授法,現代日本語文法などの研修を実施することとなつた。具体的には,わが国より日本語専門家を中国に派遣して指導に従事せしめるほか必要な機材,教材を提供し,さらには,受講中国人教師をわが国に短期間招へいして実地研修を行わしめることとなつた。

8. 教育・学術交流事業

(1) 外国人留学生

(イ) 79年5月現在5,933名の外国人留学生がわが国で勉学しており,うち,文部省奨学金留学生が1,183名,その他は私費留学生である。79年度の文部省奨学金留学生採用数は574名である。

(ロ) 外務省は大学進学前の私費留学生のための日本語学校の運営,宿舎提供などについて,(財)国際学友会に補助金を交付してきたが,79年4月より同会の所管を文部省へ移管した。

(ハ) 留学生アフターケア対策として,第6回「東南アジア日本留学者の集い」を開催したほか,東南アジアの元日本留学者団体に対する各種助成(集会施設の借料の援助,集会に要する経費の援助など)を行つた。

(2) 日ソ学者・研究者の交流

わが国は,ソ連との間に,65年以来ソ連高等教育省と,また73年以来ソ連科学アカデミーとの間にそれぞれ学者,研究者の交換を行つており,79年には20人を派遣し,22人を受け入れた。

(3) 英国人英語教師の招へい

日本人の英語教育強化及び日英相互理解増進の見地から,外務省は文部省の協力を得て,78年10月より英国人英語教師招へい計画を開始しているが,79年度は39名が来日した。

(4) その他外国人学者・研究者の招へい

文部省の学者・専門家招致計画,科学技術庁の外国人研究者招へい計画などにより79年に33人が来日したが,外務省はこれに諸般の便宜供与を行つた。

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