第8節 国連専門機関
1. 概 況
中東,南部アフリカ問題などの国際政治問題に係わる尖鋭な対立を元来技術的性格の濃い国連専門機関の場に持ち込む,いわゆる専門機関の政治化傾向は,過去数年来鎮静化する方向にあつたが,1979年には,南アの追放(UPU,WIPO),また,エジプト・イスラエル平和条約締結を背景とした在エジプト地域事務所の移転(WHO,FAO)などの政治問題がとりあげられ,再燃する兆しを見せた。また,専門機関の活動を南北問題の観点からとらえ,その事業活動を途上国の利益強化のために方向づけんとする途上国の動きもますます強くなつた。
ILOでは,77年11月に米国が脱退した後,財政・機構の両面で見直しの作業が進められてきているが,ILO活動全般の正常化の動きを反映し,米国のILO復帰について前向きな動きが見られた(米国は80年2月18日に正式に復帰した)。また,79年11月には,ユネスコのムボウ事務局長が,また同年12月にはILOのブランシャール事務局長がそれぞれ外務省賓客として訪日し,天皇陛下に拝謁したほか広く政府関係者などと意見交換を行つた。
2. 各国連専門機関における活動
(1) 国際労働機関(ILO)
79年中に開催された主要会議としては,第65回総会及び第209~211回各理事会が挙げられる。
第65回総会では,r港湾労働における職業上の安全及び衛生に関する条約(第152号)」及び同勧告(第160号)並びに「路面運送における労働時間及び休息期間に関する条約(第153号)」及び同勧告(第161号)が採択されるとともに,「中高年齢労働者:労働と引退」に関し,国際文書採択のための第1次討議が行われた。
また,わが国は79年度のILO分担金として1,036万1,122ドル(分担率8.59%)を拠出するとともに,ILOの技術協力活動についても,々ルチ・バイ協力による「労働災害の防止,補償,リハビリテーションに関するアジア地域研修」開催に約5万9,000ドルを拠出した。
一方,77年にILOを脱退した米国においては,その後のILO活動の正常化の動きを反映し,79年後半からILOへの復帰に前向きの動きが見られてきていたところ,80年2月18日に正式にILOへ再加盟した。
(2) 国連教育科学文化機関(UNESCO)
79年においてはユネスコ総会決議の実施・事業計画の検討を行う執行委員会の第107及び108回会期が開催され,後者では81~83年度事業計画予算編成に当たり指針とすべき概要が決定された。教育分野では,第1回体育スポーツ政府間委員会及び第37回国際教育会議,科学分野では,第3回国際水文学事業計画政府間理事会及び第11回政府間海洋学委員会が開催された。コミュニケーション分野では,アジア・オセアニア地域コミュニケーション政策政府間会議が開催され,国連諸機関,特にユネスコに対し世界通信・新情報秩序樹立への協力などを要請した宣言及び国際的・国内的情報の流れの不均衡是正のための諸問題解決に関する51の勧告が採択された。総合情報計画(GIP)では,第2回GIP政府間理事会及び国連科学技術会議に先立ち,ユネスコの協力範囲を定めるためUNISISTHが開催された。条約関係では,第3回万国著作権条約政府間委員会で,委員会選挙に関する手続規則改正が行われた。また,衛星送信信号配給条約実施政府専門家会議では本条約実施に際する国内法令モデノレ規定が検討されたほか,著作権使用料二重課税防止条約採択会議では多数国間条約,同条約追加議定書及び2国間モデル協定が作成された。
79年度のわが国の対ユネスコ協力としては,分担金1,227万4,235ドル,アジア地域教育刷新計画に15万ドル,基礎科学地域協力事業に10万ドル,教育工学及び職業技術教育事業にそれぞれ3万2,000ドルのほか,ヌビア,ボロブドゥール,モヘンジョダロ及びスコータイ各遺跡救済事業に拠出した。
(3) 国連食糧農業機関(FAO)
79年に開催された会議の主なものとしては,第4回世界食糧安全保障委員会,世界農地改革・農村開発会議,第20回FAO総会がある。第4回世界食糧安全保障委員会においては,食糧安全保障の観点から,(イ)食糧穀物在庫政策の採用,(ロ)国家在庫の管理及び放出のためのクライテリフ,(ハ)低所得食糧不足国の穀物輸入必要量と緊急の必要を満たすための特別援助措置,(ニ)食糧安全保障のための特別アレンジメント,(ホ)LDCの集団的自助の5項目からなる「世界食糧安全保障のための行動計画」が採択された。
世界農地改革し農村開発会議においては,農地改革・農村開発に関する国内政策及び国際政策よりなる「原則宣言・行動計画」が採択された。更に,第20回FAO総会においては,1980~81年度予算レベルを278,74百万ドルとする旨決議が採択(わが方をはじめ米,西独,英,加及びメキシコが棄権)されたほか,世界食糧日の制定,世界食糧安全保障及び排他的経済水域における漁業開発管理援助計画などに関する総計21本の決議が採択された。
わが国はFAOに対し,79年度において分担金として951万8713ドル拠出した。また,FAOと国連の共同計画として開発途上国への多数国間食糧援助を行う世界食糧計画(WFP)に対し,拠出誓約会議(78年2月,ニューヨーク)で誓約した1,000万ドル(79~80年度)のうち,79年度において460万ドル拠出した。このほか国際緊急食糧リザーヴ(IEFR)分としてWFPに80万ドルの拠出を行つた。更に,80年2月ニューヨークで開催された拠出誓約会議において,81~82年度分拠出額として1,250万ドルを誓約した。
(4) 世界保健機関(WHO)
79年には第32回世界保健総会,第63及び64回執行理事会並びに6地域委員会が開催された。第32回総会においては,第30回総会(77年)で採択された「紀元2000年までに全ての人に健康を」と題する決議を受けてプライマリー・ヘルス・ケアの推進を主軸に,資源,情報の効果的利用,WHOの機構改革などを通じ,各国,各地域及び世界の各レベルで体系的・具体的戦略を確定していくことが決議された。
79年度のわが国のWHOに対する協力としては,米国,ソ連に次ぐ分担金1,562万3,000ドルを拠出したほか,WHOの付属機関である国際がん研究機関(IARC)へ66万5,000ドルの分担金を拠出し,またJICAを通じてWHO研修生の受入れなどを行つた。
(5) 国際民間航空機関(ICAO)
ICAOでは,引き続き,ハイジャックなど民間航空に対する不法妨害行為の防止のための検討が行われたほか,国際複合運送問題に関する第24回法律委員会及び航空運送の経済的側面に関する第2回航空運送会議(SATC)が開催された。
まず,不法行為防止問題は77年秋の日航機及びルフトハンザ機のハイジャック事件以降,航空の安全強化のため,引き続きICAO条約第17付属書の強化拡充を図つている。国際複合運送問題は,国際複合運送人の責任を規定した国際複合運送条約案がUNCTAD政府間準備会議において作成されたところ,第24回法律委員会(5月)において同条約案に関するICAOの見解がまとめられた。また,ICAOは航空運送の法律問題,技術問題ばかりでなく経済問題にも積極的に取り組んでおり,80年2月に開催された第2回航空運送会議においては,国際民間航空の輸送力規制及び運賃問題について討議を行い,新たに32の勧告を採択した。なお,わが国は79年度分担金として133万1,792ドル(7.52%,第3位)を支払つた。
(6) 万国郵便連合(UPU)
79年には,執行理事会(2~3月)がベルンで,また第18回万国郵便大会議(9~10月)がリオ・デ・ジャネイロで開催された。大会議では外国郵便に関する重要問題が審議され,UPU一般規則,条約,諸約定が全面的に改正されたほか,執行理事会,郵便研究諮問理事会の理事国選挙及び国際事務局長,次長の選挙が行われた。わが国は,郵便研究諮問理事国に選出された。なお,同大会議では国連専門機関としては初めて南ア追放決議が採択された。なお,わが国は79年度にUPU予算の4.63%にあたる59万8,500スイスフランを分担金として支払つた。
(7) 国際電気通信連合(ITU)
79年には,主要会合として,第34回管理理事会(6月)のほか20年ぶりに無線通信規則及び追加無線通信規則の全般的改正のための世界無線通信主管庁会議(WARC-G)(9~12月)がいずれもジュネーヴで開催された。管理理事会では80年度予算,会議・会合計画,ITU技術協力などが審議された。またWARC-Gでは国際的な電波利用事情の変化に対処するため,有限な周波数資源の有効利用を図る方策が審議,決定された。なお,わが国は79年度にITU予算の4.69%にあたる252.8万スイスフランを分担金として支払つた。
(8) 世界気象機関(WMO)
WMOの総会である世界気象会議は通常4年に1度開催されているところ,79年4~5月にはその第8回会議が開催された。同会議では次期総会の開催が予定される83年までの向こう4年間をカバーする事業計画、予算案審議のほか事務局及び役員・執行委員選挙,WMO条約改正問題及び気象改良実験計画などにつき審議が行われた。
他方,WMOの事業面では同じく79年の2月に開催されたr世界気候会議」で採択された「世界気候計画」が総会でエソドースされ,WMOの事業に一つの大きな指針を与えることとなつた。
なお,わが国は79年度においてWMOに対し39万6,198ドルの分担金を拠出した。
(9) 政府間海事協議機関(IMCO)
政府間海事協議機関は,海上の安全と航行の能率及び海洋汚染防止を確立するための条約及び勧告の作成などを行つているところ,世界の海運及び造船の分野でわが国が占める地位にかんがみ,IMCOにおける活動はわが国にとり極めて重要である。
79年には,海上における遭難者の捜索救難活動を強化することを目的として,「1979年の海上捜索救難に関する国際条約」が採択された。
なお,わが国は79年度においてIMCO全予算の約10%にあたる61万9,025ドルの分担金を拠出した。
(10) 世界知的所有権機関(WIPO)
世界知的所有権機関は,工業所有権及び著作権の保護を世界的に促進することを目的としているところ,本分野においてわが国は従来より積極的に貢献してきている。
79年には,第4回WIPO一般総会,第3及び第4回特許協力条約同盟総会が,また80年2~3月には工業所有権の保護に関するパリ条約改正外交会議が開催された。このうち同外交会議では,先進国と開発途上国が最重要項目の一つである「議決方法」をめぐつて激しく対立したため,結局議決方法と若干の個別問題につき合意をみたほかは,多くの問題についてほとんど実質的審議は行われなかつた。
残された問題は,継続して開催することが決定された次期の外交会議において審議されることになつている。
WIPO一般総会では,南アフリカの追放という政治問題の審議に大方の時間が費やされたが,その提案は否決され,従来どおりの地位が維持されることとなつた。
また,わが国は,79年10月に,植物新品種の保護に関する国際条約に署名した。
(11) 国際農業開発基金(IFAD)
77年11月に発足した本基金は,79年末には西側先進国20カ国,産油国12カ国及び非産油途上国93カ国の計125カ国(更に1980年1~2月には中国ほか5カ国が加盟)の加盟国を数えるに至り,既承認プロジェクトも総件数33件,融資承諾額では5億ドル近くに及んでいる。
80年1月に開催された第3回総務会では,同年の事業計画案(総額4億ドル)及び管理予算案(約1,285万ドル)が採択された。
なお,わが国は79年末に当初拠出金5,500万ドルの第3回払込み(3年間均等年賦の最終分1,833万ドル)を行い,拠出金払込みを完済した。