第6節 法 律 問 題

人質行為防止国際条約

(1) 本条約の起草作業は,第31回国連総会(1976年)における西独の提唱によつて開始された。以来,同総会決議によつて設置されたアド・ホック委員会が3回会合し,西独が提出した条約草案を基礎に,起草作業を行つた。第34回国連総会は,アド・ホック委員会が作成した条約案の逐条審議を行い,12月17日,条約文を付属した決議をコンセンサスで採択した。

わが国は,西独のイニシアティヴを支持し,アド・ホック委員会及び国連総会で本条約審議に積極的に参加した。

(2) 本条約は,締約国に人質行為の重大性を考慮した刑罰を科すことを義務付けるとともに,容疑者が所在する国が,容疑者を引き渡すか,あるいは訴追することを義務付けるというハイジャック防止に関するハーグ,モントリオール両条約,及び外交官等保護条約と同様の基本的な枠組みを採用している。更に裁判権の設定義務を犯罪発生国,犯人の国籍国,要求対象国,容疑者を引き渡さない容疑者所在国に課すとともに,人質の国籍国も任意に裁判権を設定することができることを規定している。

(3) 本条約は,上記のとおり,基本的にハーグ条約,モントリオール条約,外交官等保護条約などの枠組みを採用しているが,これらの条約と異なる点は,(イ)一定の場合の容疑者の不引渡し義務,(ロ)戦争犠牲者の保護に関するジュネーヴ諸条約及びその追加議定書が適用される場合の本条約の不適用,(ハ)領土保全と政治的独立の尊重の規定が新たに設けられていることである。特に上記(ロ)の点は,本条約作成にあたつての最大の問題であつた民族解放運動の取扱いとの関連で規定されたものであり,国際的武力紛争に適用されるジュネーヴ諸条約が人質行為を禁止していることに着目して,79年のアド・ホック委員会でこの合意がなされた。

国際的な人質行為が多発している最近の状況のもとで,人質行為の防止及び犯人の処罰における国際協力の促進に果たす本条約の意義は高く評価される。

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