8. 国連貿易開発会議(UNCTAD)

79年1年間のUNCTADの活動は,79年5月7日より6月3日までマニラで開催された第5回UNCTAD総会及びその後のフォローアップを中心に行われた。

第5回UNCTAD総会は,70年代の南北対話をレヴューし,80年代の南北関係の展望を示す機会として重要な意義を有する会議であつた。

わが国は今次会議のこのような重要性を認識するとともに,わが国と緊密な関係を有するASEANの一国たるフィリピンで会議が開催されることにかんがみ,この会議を重視し,大平総理大臣自らが出席し,5月10日の本会議で一般演説を行つた。UNCTADへの大平総理大臣の出席は,わが国首相として初めてのケースであり,このことは,わが国の南北問題に対する積極的取組みぶりを会議参加者に強く印象づけた。

今次総会は,これまでの総会と異なり,一つの議題について集約的に討議する形にはならなかつた。G77側は,前回のナイロビ総会において共通基金交渉の開始を含む「一次産品総合計画」の発足にすべての交渉力を投入し突破口を開くという一点重点主義をとつたのとは対照的に,今次総会にあたつては,G77は「集団的自立のためのアルーシア計画及び諸交渉のための枠組み」(79年2月6日より2月16日までタンザニアの避暑地アルーシアで開催されたG77の閣僚準備会議で採択)にみられるように,一次産品分野の政策を一層推進するとともに,世界経済情勢のレヴューと相互依存の認識にたつた世界経済の運営への開発途上国の参加,MTN,保護主義と構造調整,通貨改革,大規模資源移転構想,技術,海運,後発開発途上国のための特別行動計画,開発途上国間経済協力といつたあらゆる分野にわたつて,より詳細な政策提案を示した。開発途上国が今次総会で意図したことは,多様化した開発途上国の個々の要求にそれぞれ応じ得る政策措置をあらゆる分野にわたつて先進国からかち取ることであり,かつ,かかる政策措置の策定のための個別の枠組みを総合する全体としての世界経済の構造変革のための交渉の基礎を据えることであつたと考えられるが,かかるアプローチは総花的にすぎ,会議の終盤に至るまで先進国側との実質交渉の糸口が見出し難く,審議は難航した。

今次総会は,最終的には,保護主義(構造調整を含む),一次産品総合計画,資源移転技術能力強化,定期船同盟コード,LLDC,開発途上国間経済協力,UNCTAD機構など,多くの重要問題についてコンセンサス決議が採択され,これらについては基本的な諸点に関するかぎり将来の交渉の枠組みと計画が決定をみ,限定的にせよ着実な成果を挙げたと言える。しかしながら,同総会の中心的案件とみられていた構造変革全般に関する「相互依存」問題につき合意が得られなかつたこと,さらにMTN,補足融資,国際通貨改革,債務などの問題につき実質的進展がみられなかつたことなどが開発途上国側に不満を残すことになつたのは否めない。

(1) 相互依存問題

本件は,マニラ総会において世界の貿易及び経済状況の評価,世界経済の構造変化,貿易,開発,通貨及び金融4分野間の相互関係,NIEOの樹立,国際経済関係ルールの進展及び新国際開発戦略の策定をテーマとする総合的,中心的議題であり,世界経済に関するグローバル・コンサルテーションの仕組みの設立をめざすものであつたが,これについて合意が得られず,総会の成果を著しく損なうことになつた。このことがG77をして会議直後,総会そのものが失敗であつたとの評価をいだかしめ,G77の一部急進派が国連においてグローバル・ネゴシエーションを推進する一つの素地をつくつた。本件は,79年10月の第19回TDBでも再度検討されたが合意をみていない。

(2) 保護主義・構造調整

第5回UNCTAD総会において,G77は,短期及び長期双方の観点より保護主義の防圧措置と開発途上国の輸出拡大のための予測先行的構造調整の必要を主張したが,最終的には次のラインが合意された。

(あ)TDBで世界の貿易及び生産のパターンの年次レヴューを行い,産業調整上の問題点の識別を行う。(い)各国政府は,構造調整に関する政策履行にあたり,かかるレヴューから生ずる一般的勧告を考慮する。(う)TDB及びその下部機関は保護主義に関する一般的勧告の策定を目途に貿易制限措置をレヴューする。(え)保護主義の個別ケースの検討はGATTにおいて行う。

わが国は,本件につき開放的市場経済体制の維持発展を宗として,保護主義の台頭を積極的に防圧するとともに,市場メカニズムに沿つて積極的調整政策をすすめるとの立場で臨んだ。

なお,MTNについては,第5回UNCTADの決定に従い,第19回TDB(79年10月)においてMTNの全般的評価が始まつたが,最終的評価は翌年に持ち越した。

(3) 製品・半製品

79年5~6月にマニラで開かれた第5回UNCTADにおいて採択された決議により,79年第4四半期に制限的商慣行(RBP)国連会議を開催することが決定され,同年11~12月に第1回RBP国連会議がジュネーヴで開かれた。同会議では,RBPのr原則とルール」についてはBグループとG77との間に一応の合意が得られたものの,Dグループの強硬な反対により全体の合意が得られず,80年に次回会合を開催することが了承された。

(4) 一次産品

76年のナイロビ総会の決定に従い続けられてきた共通基金交渉は79年3月漸く基金の基本的要素につき合意に達し,79年9月以降交渉会議のもとに基金協定の起案のために設立された暫定委員会で引き続き交渉が行われている。合意された基本的要素の概要は,次のとおり。(あ)緩衝在庫融資のための第1の窓4億ドル及び緩衝在庫以外の措置のための第2の窓3.5億ドルは任意拠出目標額である。第2の窓はR/D,生産性向上,マーケティング,加工度向上などのための生産国及び消費国双方にとり利益となりうる共同融資,技術援助を対象とする。(い)商品協定からの預託は最大資金需要量の1/3とする。

なお,79年10月末までに第2の窓に対し1億3,400万米ドルによる任意拠出の意図表明が行われている。わが国は,第5回UNCTAD総会において大平総理大臣が任意拠出につき応分の協力を行う旨表明した。

他方,一次産品総合計画下の個別産品協議においてもいくつかの重要な進展がみられた。すなわち,79年10月緩衝在庫を唯一の価格安定メカニズムとし価格帯に自動的調整要素を加味した天然ゴムに関する国際商品協定が成立したほか,ジュート,硬質繊維などについては研究,開発,消費推興などのいわゆる「その他の措置」の検討と,その具体化にむけての産消間の協力が進んできている。

(5) 通貨,金融及び援助

第5回UNCTAD総会においては,開発途上国側が実物資源の自動的移転を伴うような制度を含む新しい国際通貨制度を作ることを主張して,国際通貨制度問題を検討する政府間高級専門家会議の設立などを中心とする国際通貨改革に関する決議案を提出し,先進国の強い反対を押し切つて

強行採決した。

他方,同総会では,実物資源移転に関して援助供与国に対しGNPO.7%目標に向け政府開発援助の増大をはかり,中期援助計画を表明するよう要請する旨の決議及び後発開発途上国に対する援助の強化と80年代における包括的開発計画についての決議が,南北双方の合意により成立した。なお,債務問題については,債務救済の制度的枠組み及び救済の対象国の範囲につき合意が得られなかつたので,今後ともUNCTAD内で継続審議することになつた。

(6) 海 運

第5回UNCTAD総会においては,定期船同盟憲章条約の発効の促進に関する決議(コンセンサス),開発途上国の国際海運への参加及び自国商船隊の開発に関する決議(Bグループ反対)及び船舶取得融資,技術援助に関する決議(Bグループはその内容につき実質的には賛成であつたが,票決に際しては棄権した)が採択された。このほか海運関係では,コンテナ化などの技術発展に伴い,近年新たに発達してきた国際複合運送に関する条約を採択するため,国連総会決議33/160に基づき国連会議が開催(79年11月)されたが,結論を得るに至らず,80年5月の再開会期にその検討が持ち越されている。

(7) 技術移転

第5回UNCTAD総会が決定した日程に従い,79年10~11月に行われた「行動規範のための国連会議」においては,「国際技術移転行動規範」の法的性格につき開発途上国側がある程度の譲歩を示すなどr行動規範」の合意に向け交渉の進捗が見られたが,親子会社関係の取扱い,RBPの範囲などについては進展がみられず,最終的合意に向けて80年4月に第3回会期を開催することを決定して閉会した。

(8) 開発途上国間経済協カ

従来,UNCTADにおける本件分野の協力策の検討は,開発途上国が自分達の間で実質的協力策を十分に検討するグローバルな場がなく,先進国からの提供を必要とする支援策を明確化し得なかつたために,殆んど進展をみなかつた。しかるに第5回UNCTAD総会では,それまで西側諸国が開発途上国の代表のみの会合は国連の普遍性に反するとした問題点を克服しうる一定の会合開催手続が合意された。これにより一般貿易特恵,国営貿易機構間協力及び多国籍販売企業の設立の3優先分野について準備作業が行われることになつた。

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