第2節 軍 縮 問 題
1. 軍縮委員会及び国連における軍縮討議
(1) 軍縮委員会(CD)
(イ) 1978年の国連軍縮特別総会における審議の結果,従来のジュネーヴ軍縮委員会(CCD)が拡大,改組され,79年1月より装いを新たにした軍縮委員会(CD)が発足した。構成国は米,英,ソ,仏,中のすべての核兵器国を含む40カ国となつた(わが国は従来より構成国)。新たに構成国となつた非核兵器国は,アルジェリア,オーストラリア,ベルギー,キューバ,インドネシア,ケニア,スリ・ランカ及びヴェネズエラの8カ国である。
また,核兵器国については,従来軍縮委に議席を有していたものの実際上出席していなかつたフランスが79年1月より,また中国が80年2月よりそれぞれ参加した結果,すべての核兵器国が初めてジュネーヴの軍縮交渉の場に会することとなつた。なお,従来の米ソ共同議長制が廃止され,すべての構成国が月毎の輪番制で議長を務めることとなつた。
(ロ) 軍縮委(CD)発足後第1年目の79年においては,前半会期に主として手続事項を審議,採択した後,後半会期に核実験禁止,核軍縮,非核兵器国の安全保障,化学兵器禁止,新型大量破壊兵器及び放射性兵器禁止の主要議題について一般的な審議がなされた。
なお,包括的核実験禁止(CTB)の検証措置に関する地震専門家グループの第2次報告,化学兵器禁止に関する米ソ間交渉の経過報告及び放射性兵器禁止条約に関する米ソ共同提案がそれぞれ提出された。
(2) 第34回国連総会
第34回国連総会の軍縮討議においては,軍縮特別総会を契機とする各国の関心が持続され,約40の決議が採択されたが,注目すべき新たな軍縮関係提案はなく,全体として落ち着いた審議状況であつた。
なお,わが国は,軍縮委員会に対して包括的核実験禁止条約に関する交渉を最優先事項として開始するよう求める決議,及び同委員会に対して化学兵器の禁止に関する協定のための交渉に着手することを求める決議など六つの決議の共同提案国となつた。
(3) 国連軍縮委員会(UNDC)
軍縮特別総会において全国連加盟国で構成される審議機関として復活,設置された国連軍縮委員会は,第33回国連総会決議に基づき79年5月に開催された。同年の会合においては,軍縮特別総会で採択された最終文書の内容に沿つた「包括的軍縮プログラム(CPD)の要素」が審議,採択された。
2. 主要軍縮問題
(1) 包括的核実験禁止問題
77年10月開始された包括的核実験禁止に関する米・英・ソ3国間交渉は・79年においても見るべき進展はなかつた。英国は,同年7月31日,軍縮委員会において米・英・ソ3国間交渉に関する経過報告を行つたが,条約の遵守を確保するうえで重要な検証措置の主要な要素について大筋の合意があつたと述べたものの,細部の取極についてなお交渉中であり,3国は条約案をできるだけ速やかに作成するよう努力する旨表明するにとどまつた。
このように核軍縮への重要な第一歩である包括的核実験禁止に顕著な進展が見られなかつたことを受け,79年の第34回国連総会において,わが国,オーストラリア,カナダなどが共同提案国となつて,軍縮委員会において条約作成交渉を早期に開始できるよう,米・英・ソ3カ国に対し交渉を速やかに妥結することを要請する趣旨の決議案を提出し,採択された。
他方,76年に軍縮委員会(CCD)のもとに設置されたわが国を含む各国の地震専門家からなるアド・ホック・グループは,地下核実験禁止義務の遵守を客観的に検証するための手段としての地震事象の探知及び識別に関する国際的協力方法について技術的な検討を行つてきたが,79年には,同アド・ホック・グループの第2次報告が提出され,わが国などがイニシアティヴをとつた世界気象機関(WMO)のネットワークを利用する国際地震データ交換システムの技術的詳細が明らかにされた。また,国際データ交換の実験的実施及びデータ交換のための科学的・技術的条件について引き続き検討するため,同アド・ホック・グループの存続が決定された。
(2) 核不拡散問題
(イ) わが国は,核兵器不拡散条約(NPT)が,核兵器拡散防止と原子力平和利用とを両立させるための重要な国際的・法的枠組みであるとの立場から,79年においてもNPTの普遍的加盟達成のため軍縮委員会,国連総会,あるいは2国間協議の場において未加盟国の条約加盟促進を訴えた。79年にはインドネシア,スリ・ランカ,バングラデシュなど7カ国が新たにNPTに加盟し,同年末現在の締約国数は112カ国に達した。
(ロ) 80年には第2回NPT再検討会議が開催される。79年には2回の準備委員会が開催され(わが国は準備委構成国),本会議に勧告すべき手続規則,仮議題,経費分担などについて検討した。
(3) 化学兵器禁止問題
79年の軍縮委員会においては,この問題の実質的討議には至らず,主として今後軍縮委員会がいかなる作業を行うことが適当であるかとの手続面に議論が集中し,ワーキング・グループまたは非公式コンタクト・グループ設置などが提案されたが具体的結論は得られなかつた。
(4) 特定通常兵器の使用の禁止または制限問題
(イ) 77年の第32回国連総会決議に基づき,2回の準備会議を経て79年9月,不必要な苦痛を与え,または無差別の効果を及ぼすと思われる通常兵器(X線で探知されない破片兵器,地雷及びブービートラップ,焼夷兵器など)の使用の禁止又は制限に関する第1回国連会議が開催された。
(ロ) この会議において「地雷及びブービートラップ」については敷設地雷の記録提供の問題を除き合意に達したが,「焼夷兵器」は基本的な対立が解けず合意が成立しなかつた。また「X線で探知されない破片兵器」は既に準備会議で基本的な合意に達している。80年9月に第2回国連会議が開催される予定である。
(5) 放射性兵器禁止問題
放射性物質を軍事目的のために利用することを未然に防止するため,かかる兵器の開発,生産,貯蔵,及び使用を禁止することについては,77年3月のヴァンス米国務長官訪ソの際の合意に基づき同年5月より数次にわたる米・ソ間交渉が行われた結果,79年7月,放射性兵器禁止条約の主な要素に関する米ソ共同提案が軍縮委員会に提出された。また,同年の第34回国連総会においては軍縮委員会に対し,米ソ共同提案を基礎として放射性兵器禁止条約を作成するための交渉を速やかに行うよう要請する趣旨の決議が採択された。