第4章 国連における活動とその
他の国際協力
第1節 政 治 問 題
1. 第34回国連総会
第34回総会は,1979年9月18日からタンザニアのサリム常駐代表を議長として開催された。その後12月20日までに安全保障理事会(以下,安保理)選挙を除く全ての議題につき審議を完了し,更に同選挙を80年1月7日に終了して閉会した。開会冒頭の9月18日,セント・ルシアが加盟を認められ,加盟国数は152となつた。9月24日から一般討論演説が行われ,国家元首8名,首相5名,外務大臣117名を含む144カ国の代表及びローマ法王が演説を行つた。わが国は,9月25日に園田外務大臣が一般討論演説を行つた。今次総会では,129の議題が本会議及び7委員会にわかれて審議されたが,政治問題については,総会直前に開催されたハバナ非同盟首脳会議において穏健派と親ソ派の分極化が強まり,非同盟グループの団結が弱まつたこともあつて,従来に比し対決色が比較的薄いものとなつた。例年総会の主要政治問題となつている中東問題及び南部アフリカ問題の審議については,それぞれ国連外で並行して進められているエジプト・イスラエル交渉及びローデシア制憲会議の推移を見守るとの空気が強かつた。また,79年には,国連においてカンボディア問題中越紛争,インドシナ難民問題をめぐりアジアの問題が久し振りに脚光を浴びることとなつたほか,在イラン米国大使館占拠・人質事件が安保理で取り上げられ,80年1月には,アフガニスタン情勢を審議するための緊急特別総会が開催されるなど国連が国際問題解決模索の場として活用される例が目立つた。
2. 国連における主要政治問題
(1) カンボディア問題
本問題は,79年1月から3月にかけて安保理で審議されたが,ソ連の拒否権行使により何ら具体的結論を得られなかつた。今次総会ではASEAN諸国の要請で議題掲上され,本会議で審議された。ASEAN諸国,わが国など30カ国より,人道的救済,敵対行為の停止,紛争の平和的解決,外国軍隊の即時撤退などを骨子とする決議案が提出され,これが賛成91,反対21,棄権29で採択された。わが国は,難民への緊急援助,国連憲章の諸原則の遵守を訴えるとともに,ASEAN諸国などと密接に協力して上記決議案の採択に積極的に努めた。ハバナ非同盟首脳会議において空席とすることで結着をみたカンボディアの代表権問題は,総会開催前から注目されていたが,9月21日の本会議で,民主カンボディア代表の委任状が賛成71(わが国を含む),反対35,棄権34で認められたことにより,同政府の国連における代表権が維持された。
(2) イラン問題
11月4日に発生した在イラン米国大使館占拠・人質事件の解決のため国連の場においても積極的な努力が行われた。総会議長,国連事務総長,安保理議長らの人質解放の呼びかけが行われたほか,安保理は本問題を審議して人質の即時解放を求める決議457及び右呼びかけを繰り返し,国連事務総長の斡旋を期限付きで求めた決議461を採択した。さらに1月13日人質解放が実現されないため安保理において米国が作成した憲章第7章下の対イラン経済制裁決議案が表決に付されたがソ連の拒否権によつて否決された。
一方,国連事務総長は斡旋努力を続け,2月下旬「イランの苦情を聴取し,イラン・米国間の危機の早期解消を目指す」国際調査委員会を現地に派遣したものの,同委員会は3月11日イラン国内の複雑な事情のため作業を中断せざるを得なくなつた。
(3) アフガニスタン問題
ソ連のアフガニスタンヘの軍事介入によつてもたらされたアフガニスタン情勢を審議するための第6回緊急特別総会は,わが国など51カ国の求めにより開催された安保理(80年1月5日~7日)がソ連の拒否権行使によりなんの結論も出し得なかつたため,1月10日急拠召集され,14日,外国軍隊の即時,無条件,全面撤退を求める決議を賛成104,反対18,棄権18で採択した。
わが国は,ソ連の行動が国際法及び国際正義に反し,また武力が行使されたことは極めて遺憾であるとの考えにたつて,安保理及び緊急特別総会で,ソ連軍の撤退とアフガニスタン国民の自決権行使を強く訴える発言を行い,決議案の表決にあたつてはこれに賛成した。
(4) 南部アフリカ問題
(イ) 南アのアパルトヘイト政策問題
第34回総会においては,昨総会より3本多い18本の決議が採択されたが,これら決議の主眼点は,憲章第7章下で南アに対し制裁を課すことにあり,武器禁輸強化,核協力停止,石油禁輸,投融資禁止,更には全面的制裁を求めることにあつた。また,制裁の国際世論喚起のため,対南ア制裁国際会議開催も決定された。わが国は,南ア情勢,対南ア制裁国際会議,対南ア核協力,対南ア石油禁輸,南ア・イスラエル関係の5本の決議に棄権したが,残りはすべて賛成した。
(ロ) ナミビア問題
UNTAG設立交渉の行き詰まりを打開するため,アンゴラの故ネトー大統領が発案した非武装地帯(DMZ)設置構想に関し,南ア側は総会の本件審議直前に条件付で受諾する旨回答したが,多くの国は例によつて南アの遅延戦術であるとしてこれを非難した。第34回総会においては7本の決議が採択されたが,わが国は,ナミビア情勢決議を除きすべての決議に賛成した。
(ハ) 南ローデシア問題
79年中最重要問題として取り上げられ,安保理は内部解決派の4月選挙を前後2度にわたり非難し,この結果を承認しないとの決議を採択した。その後,12月21日ランカスターハウス交渉により,全当事者の合意が成立したため,安保理は66年以来南ローデシアに課してきた憲章第7章下の強制的制裁を解除した。わが国は,安保理決議成立を待つて,制裁解除のための所要の措置をとつた。今次総会の本件決議については,交渉の成果を十分反映していない内容であつたため,わが国は反対せざるを得なかつた。
(5) 中東問題
(イ) 第34回国連総会
中東関係審議は,エジプト・イスラエル平和条約成立に伴う中東の新しい情勢を背景にキャンプ・デービッド合意の流れが包括的中東和平につながるかどうかをめぐつて活発な論議が行われた。
審議の結果,従来の決議とほぼ同じ内容に加えて,議題「UNRWA」,「パレスチナ問題」及び「中東情勢」のもとでキャンプ・デービッド合意を直接ないし間接的に非難する内容を盛りこんだ決議が採択されたが,これは今次総会の大きな特色の一つといえよう。
(ロ) パレスチナ人民の自決権
パレスチナ委員会報告書をめぐる安保理審議が6月から8月にかけて行われた。同審議において安保理決議242及び338など関連決議を明示的に引用して,これを再確認し,あわせて独立国家樹立の権利を含むパレスチナ人民の民族自決権の承認を盛りこんだセネガル決議案が注目をあびたが,結局ヤング米国国連常駐代表の辞任劇との関係もあり表決に付されず問題を次の機会に持ちこした。
(ハ) アラブ占領地情勢
安保理は,2月から3月にかけて会合し,イスラエルの占領地での入植地建設を違法と宣言し,調査委員会を設立するなどを骨子とする決議446を採択,7月には右調査委員会の現地調査結果を審議して,委員会の勧告を受諾し,イスラエルに対しジエルサレムを含むアラブ占領地における入植地建設及び同計画を停止するよう求め,79年11月1日までに本決議の実施状況を調査して安保理に報告するなどを骨子とする決議452を採択した。
(ニ) 国連平和維持軍
安保理は,5月及び11月に会合し,国連兵力引離し監視軍(UNDOF)及び国連レバノン暫定軍(UNIPIL)の任期延長を決議した。
(6) 反覇権問題
本問題は,ソ連の提案に基づき今次総会で審議され,ソ連,中国及び非同盟諸国から決議案が提出された。審議の過程でソ連,中国が自国案を撤回したため,非同盟案のみが表決に付され,これが賛成101,反対4,棄権26で採択された。わが国は従来より覇権を求めず,覇権の確立を図る試みには反対するとの態度をとつているが,非同盟案には新国際経済秩序の確立など覇権と直接関係のない要素が含まれていたため棄権した。
(7) 平和維持活動の包括的検討問題
第34回総会において採択された本件決議は,国連憲章にのつとつた国連の平和維持活動(PKO)に関するガイドラインの具体的作成のための作業を促進するよう特別委員会に要請した。わが国も特別委は国際の平和と安全の維持に有効な手段であるPKOのガイドライン造りに最大限の努力を行うべきことを強調した。
(8) 国連憲章再検討問題
(イ) 第34回総会は,本問題に関する特別委員会が紛争の平和的解決に関する諸提案のリストアップ作業を完了したことを評価し,同様の作業を国際の平和と安全の維持などの分野でも行うべき旨決議した。わが国は,上記決議の共同提案国になるとともに,特別委員会第5会期(80年2月~3月)で,国連の事実調査機能強化の具体策を提示した。
(ロ) 今次総会では更にリビアが,拒否権制度を特別委に再検討せしめるとの決議案を提出したが表決に付されなかつた。しかし同提案は,時を同じくしてインド,わが国などから別議題として提案され,第35回総会での審議が決定された安保理非常任理事国を4カ国増加するとの決議案とともに,憲章改正に係わる問題であり,今後の動きが注目される。
(9) 人質行為防止国際条約
第34回総会は,本条約起草のためのアド・ホック委員会第3会期(79年1月~2月)の作業を踏まえ,条約案の逐条審議を行い,本条約をコンセンサスで採択した(本条約の内容などについては,第6節法律問題の項参照)。